働き方改革からもうすぐ1年。いつまで続ける? 「残業するほどエライ」昭和の働き方
2020/2/12公開
2019年4月より働き方改革関連法案が施行されましたが、現代の日本企業にとって「働き方」の改革は大きな経営課題のひとつです。「コンビニ24時間営業問題」で顕著に表れたように、時代に合わない働き方の歪みが日本社会のあらゆる所に表面化してきたように思えます。それでも「働いたら働いただけ良い」という考え方のままで、働き方を変えられずにいる会社はいまだ多くあります。 2020年4月からは中小企業も働き方改革関連法案の対象になるので、どのように「新たな働き方」を作っていけばよいのか、今一度考え直してみましょう。
目次
残業している人は本当にエライのか
残業は本当に必要?
働き方改革関連法では新たに、時間外労働の上限規制が設けられました。原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければ上限を超えた時間外労働はできない、というものです。従わない場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則も課されることになりました。
働き方改革関連法による 主な改正点 |
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働きすぎ・働かせすぎを防ぎ、長時間労働の是正を期待する取り組みの裏には、そもそも「残業は減らされるべきもの」という考えがあります。なぜなら残業に多くのデメリットがあるからです。
デメリットその1:生活リズムの変調
日常的に続く残業により、睡眠不足や疲労が蓄積され、精神的にストレスがかかってしまったり体調を崩したりする危険性が高まります。長時間労働による過労死は問題になって久しく、そうでなくとも疲れの取れないまま仕事をこなしても、頭が回らず仕事のミスにつながる可能性も高いでしょう。生産性も低下してしまいます。
デメリットその2:人件費の高騰
時間外労働が行われれば割増賃金、いわゆる残業代が発生します。労働者の残業時間が多ければ多いほど人件費の支出は増えていきます。
デメリットその3:人材が定着しづらい
時間外労働の多い企業は離職率が高く、優秀な人材が定着しにくい傾向があります。また、残業が多い企業というマイナスイメージが広がると採用にも不利に働いてしまいます。長時間労働が人材不足を生み、人材不足がさらなる長時間労働を生むという悪循環に陥ってしまうのです。
残業するのはエライのか?
本来、仕事は与えられ決められた時間内にやりきることが理想であり、かつ通常のスタイルであるはずです。突然舞い込んだ予定外の仕事をこなすため、まれに労働時間が長引いてしまうことはあったとしても、残業は日常的に行われることではありません。しかし日本企業の多くで残業が習慣化しています。それは本来の役割である「増えた仕事のための時間」ではなく「残業するのは当たり前」という企業風土や職場環境によることが多々あります。定時で退社しづらい空気や風潮が消えないのは「残業をしている人は頑張っている」というある種の思い込みが蔓延しているためだと考えられます。
では、本当に残業をしているひとは頑張っているのでしょうか。効率の良い働き方をして成果をあげていると言えるでしょうか。よく見ると、同僚との無駄話や集中が切れてぼーっしている時間が多いかもしれません。
ひとの「頑張り」は傍目にはわかりにくいものですが、目に見えて分かりやすい「時間」だけで「頑張り」を判断していませんか? 時間だけで頑張りを評価していると、ただ時間がかかっているだけで非効率な仕事をしている人を意図せず高く評価してしまう可能性があります。これを避けるためには、短い時間でより大きな成果を生み出す「生産性の高い人」を評価する制度や風潮をつくることが必要です。
誤解されがちなワークライフバランスとは?
仕事よりも私生活を優先させていいの?
働き方改革が議論されるなかで浸透した概念のひとつに「ワークライフバランス」があります。ただ、ワークライフバランスがどういう考え方なのか、一般に正しい理解が進んでいるかは疑問が残るところです。たとえば「国が推進する残業時間の減少やプレミアムフライデーなどと合わせ、仕事はほどほどにして私生活を充実させること」と理解しているひともいれば、「バランスというのだから、仕事と生活の比率を5:5にすることだ」と考えているひともいるかもしれません。現状ではワークライフバランスという言葉ばかりが先走り、このように表面的な理解をされることも少なくないようです。本来、仕事と生活のどちらかを犠牲にすることはワークライフバランスの意味するところではありません。
ワークライフバランスとは仕事と私生活の相乗効果
政府は、ワークライフバランスを「仕事と生活の調和」と定義しています。仕事と生活の釣り合いがとれ、それがうまく合わさっていること。つまり「仕事の責任を果たしつつプライベートも充実させること」「仕事と私生活が互いに相乗効果をもたらす"正のサイクル"を作り出すこと」が本来の目的です。
もちろん、ひとによってバランスがとれている状態は異なります。子育てや介護といった家庭の事情があるひとと、起業したばかりで仕事を充実させたいひとでは、仕事と私生活の優先順位が変わるからです。全員がそれぞれ自分にあったバランスを保ち、仕事と生活を共存させることを目指すのがワークライフバランスという概念です。
働き方改革の理想と現実
働き方改革における実情と課題
働き方改革が推進される理由を、ごくシンプルにまとめます。
1)生産性の向上
単なる時短ではなく「生産性向上」で経済成長を実現する。無駄を減らし、個人の頑張りが正当に評価されることで個人の能力向上、それに伴った組織全体での生産性向上が期待できること。
2)私生活充実による経済活性
ワークライフバランスを整えることで、より仕事も私生活も活発になり、結果として経済発展が実現すること。
「改革」と名が付いている通り、働き方を変えるには企業トップのコミットメントなど強い覚悟が必要です。たとえば「残業手当が減って手取りが少なくなってしまう」「業務量が減らないのに残業するなと言われる」など不満の声をあげる社員を根気強く説得する必要があります。
■働き方改革に関して、現場社員からよく出る不満の声
- 残業代が大幅に減少し、従業員の私生活に影響が出る。
- 残業時間は短くなったが、業務量が減らないため仕事が終わらない。
- 仕事が終わらず結局、家での無給作業が増える。
- 自動で社内の電気が消えても、つけ直して仕事を再開するのが部署の日課になっている。
令和の働き方とは?2019年新卒3人にインタビュー
働き方改革関連法が施行された2019年4月以前と以後で、働き手の意識に差はあるのでしょうか。2019年卒の若手3人に集まってもらい、働き方改革や残業、業務効率化についてお話を聞きました。
電通の事件があったので色々な企業がやる気を出している印象です。ただ、トップダウンで行っても現場まで浸透するのには時間がかかるものだと思います。
存在は知ってます。国がすすめてもどうせうまくいかないんじゃないかなと思っています。結局は自分と、自分のいる会社次第なので。
私は聞いたことあるなぁ程度です。入社した時には既に始まっていたので、以前との差がわからないです。そもそも仕事の量が変わらないのに残業を減らすのは無理なので、結局事件が起こってしまうんだと思います。
ありがとうございます。みんなちゃんと自分の考えを持っていてえらい...。私は2012卒で、新卒で入った会社の社風もあるとは思うのですが、同僚には「残業カッコいい」みたいな考えを持ってる人も多かったです。
2019卒のみなさんは残業についてどう思います?
残業...イケてはないと思います。してる人に対しては、頑張ってるなとは思うし、悪いこととも思ってはいないです。自分が情熱をかけてやりたいならやってもいいと思う。
なるほど。宮崎さんはめちゃくちゃ残業時間が少ないと聞いていますが...
学生時代のインターンで午前2時まで働いたり、休日にバグ対応に追われたりするのが続いて蕁麻疹が出たことがあるので、オロに入ってからはなるべく残業しないようにしています。
つまらないことで残業するのはイケてないと思います。ゴールが見えてて後ちょっと!みたいなシーンならいいかな。悪いこととは思わないです。
周りが残業してると、みんな忙しいのかな?と心配になってしまいます。私はどちらかというと残業はしたくないので、残業しないように働き方を工夫したりしています。
そうですね。国や会社のトップダウンで改革するのも必要ですが、一人ひとりが残業しない工夫をするのもとても大事だと思います。
働き方改革に関連して、「ワークライフバランス」についてはどんなイメージを持っていますか?
仕事とプライベートのバランスを自由に選べることじゃないですか?これまでは選べなかったので、「選べる」ということが重要なんじゃないかと思います。
私のイメージは、仕事の日は8:2の、2がライフで、休みの日はライフの割合が増える、みたいな...?
一生懸命になりすぎず、ストレスを溜めすぎないで働けるのがいい、ということだと思います。仕事から帰ったら自分のやりたい勉強ができていて、今はワークライフバランスがいいな、と感じてます。
そうですね。政府は「仕事と生活の調和が取れていること」と定義しています。
経済産業省は「ダイバーシティ経営」を推進しています。ざっくりいうと、多様な人材が活躍できる会社にしましょう、というものです。
例えば、親の介護や子育てってワークライフバランスでいうとライフに入ると思うのですが、当事者になってみて初めて見えてくる問題点とか、ニーズとか、色々あると思うんです。そういった視点を仕事にも活かせると、会社や社会にとってすごく価値のあるものになりますよね。ワークライフバランスって、そういう各個人の事情に合わせてバランスを選べて、それが仕事に不利にはたらかない、なんなら強みにもなるという考え方だと私は思っています。
最後の質問です。みなさんが普段心がけている「生産性を上げるための工夫」、何かありますか?
予定の管理をすべてZACで一元化しています。そうすると出退勤時刻や休憩時間などを勤怠管理に引用できるので、入力が楽です。あとは、勤務時間に関する工夫で、残業しないために朝早く出社するようにしています。朝は集中して作業できるので、なんとなくやれずにいた作業とかを朝やるようにしています。
作業効率に関する工夫で、通知が来ると作業が中断されて効率が悪いので、メールやSlack(※注:アメリカ発祥のビジネス向けチャットツール) を開きすぎないということを心がけています。あとは、次に同じ作業を行う人のためにドキュメントの整理をするようにしています。
未来の後輩から神と崇められるやつですね...
時間の有効活用をしています。メールの返信、Slackのチェック、ZACで日報を登録するなど、スマホでできることは移動時間にスマホで終わらせています。
なるほど。みなさん時間を味方につけて効率的に働いていたんですね!私も参考にさせていただきます。今日はありがとうございました!
本当の「頑張り」で評価される世の中に
「仕事ごとの負荷」と「従業員の生産性」を可視化する方法
働き方改革がうまくいかないのは、生産性向上が伴っていないこと、つまり業務内容や作業工程の見直しが間に合っていないことに原因があります。労働時間だけを減らされた現場は業務負荷が高まり混乱してしまうでしょう。
生産性向上によって新たな働き方モデルに移行していくためには、個人の「頑張り」を誰もが納得のいく形で正しく評価しなければなりません。残業で頑張る社員ではなく、短い時間でより多くの成果を生み出す社員を高く評価する仕組みに変えることが必要です。
また、一気に時間外労働を禁止するなど「業務改善を伴わない働き方改革」を行ってしまうと、かえって持ち帰り残業やサービス残業が増えてしまいます。業務改善によって残業時間と業務量を同時に減らしていくためには、一つひとつの仕事にかかる労力を正確に把握し、負担の大きい工程の効率化やボトルネックの解消に取り組むことが不可欠です。
以上のような問題を解決するには「工数管理」が有効です。一つひとつの作業工程にかかる作業時間・原価を知ること、また誰がどの仕事にどのくらい時間をかけているのかを把握することで、改善すべき業務が浮かび上がってきます。また個別案件でのマネジメントにおいても、事前に見積もった工数と実際にかかった工数を比較すれば「これ以上稼働が膨らむと赤字になる」など、努力の投入量が成果に見合っているかを正しく把握できるようになるのです。
ERPの導入は1つの方法
工数管理と言われても何から着手してよいかわからない、という方にとっては、工数管理が行えるERPの導入がひとつの手段になります。Excelや工数管理に特化したツールの利用でも工数管理は行えますが、働き方改革の観点から言えば、生産性を正しく計測しやすいERPに分があります。
ERPで工数管理を行うと、誰がどのプロジェクトのどの作業に何時間稼働したのかが把握できるだけでなく、プロジェクトごとに事前に見積もっていた工数との予実対比を一目で確認可能になります。またプロジェクトに工数が紐づくことで「稼働が膨らむと案件の損益が悪化する」ことが見える化するため、現場社員がコストや損益に対して高い意識を持てるようになります。
つまりERPで工数管理を行うと、データに基づく業務プロセスの効率化はもちろん、効率よく成果を生み出すことを現場が意識できるようになるため、生産性向上を実現しやすくなります。
こうしたシステムやツールをうまく活用することで、ただやみくもに残業をすることを称賛する風潮から脱却し、生産性を上げながら残業時間を減らしていきましょう。
参考:厚生労働省『時間外労働の上限規制|働き方改革支援のご案内』
※厚生労働省のページが開きます。
参考:内閣府『「仕事と生活の調和」推進サイト』
※内閣府のページが開きます。
今日はお時間ありがとうございます。さっそくなのですが、「働き方改革」にはどんな印象を持っていますか?