2027年問題とは?対応策や今すべきことを解説
2023/8/29公開
日本国内だけではなく世界中の企業が利用しているSAP社のERP。近年、そのSAP製品ユーザーを悩ませているのが、2027年末に差し迫った「SAP ERP 6.0」の保守サポート終了です。この保守サポート終了によって起こりうる問題を「2027年問題」と呼びます。
2027年問題に対処できなければ、業務に支障をきたす可能性もあるため、SAPユーザーは企業としてどのように対応していくのか検討する必要があるのです。
この記事では、SAPユーザーにとって火急の課題である「2027年問題」について詳しく解説します。2027年問題への対応策や、保守サポート終了に向けて今からすべきことについても解説しますので、ご参考にしてください。
目次
2027年問題とは
2027年問題とは、SAP社が提供しているERP「SAP ERP 6.0」の保守サポート期間が2027年末までとなっていることで起こりうる問題のことです。
サポート期間が過ぎてしまうと、新機能の追加がされないことはもちろん、修正プログラムの提供やシステム品質の改善などのサポートも受けられなくなります。システムを最新の状態に保つことができないため、セキュリティリスクが増大したり、トラブルが起きた際も対応できなかったり、業務に支障をきたす可能性があります。このようなリスクを避けるため、サポート期間内に新しいシステムへ移行するなどの対策が求められているのです。
しかし、システム移行は一朝一夕で簡単にできるものではありません。手間・時間がかかる移行作業を通常業務と並行して行わなければいけないため、企業の負担が大きく、なかなか移行に着手できていない企業も多いのが実態です。
保守期限の延長
もともと「SAP ERP 6.0」の保守サポート期限は2025年末でした。そのため、「2025年問題」と呼ばれていましたが、その後保守サポート期限が2027年に伸びたことで「2027年問題」となりました。
期限が延長になったのは、対応が間に合わない企業を考慮した結果だと言えるでしょう。対応方法やシステム選定、システムの移行作業は、全社が関わる大規模な課題です。そのため、SAP社によってユーザーが対応するための猶予が設けられたと考えられます。
2027年問題への対応策
それでは、2027年問題に対してSAPユーザーはどのような対応を行えば良いのでしょうか。主な対応策は以下の3つです。
SAPの推奨システムへ移行
一つ目が、SAP社の提供する最新のERP「SAP S/4HANA」に移行する方法です。同じSAP製品のため、運用にある程度のノウハウを活かすこともできるでしょう。
SAP S/4HANAは、高速な処理をおこなえるインメモリデータベースを採用しており、最新版の優れた機能を使えること、高速処理による業務効率化が期待できることが特徴です。
SAP S/4HANAへ移行する主な方法は「GreenField(リビルド)」「Brown Field(コンバージョン)」の2つがあります。リビルドの場合、SAP S/4HANAへ新しいシステムを構築する形になるため、費用や移行時間は大きくなります。コンバージョンの場合、既存のシステム要件を引き継ぐ形であるため、リビルドよりもコスト・時間を抑えられます。
他社ERPへ移行
二つ目が、SAP製品以外のERPへ移行する方法です。
他社のERPへ移行する場合、自社の課題や必要な機能を踏まえ、自社に適したシステムに移行できるのがメリットです。最近では、様々な業種に特化したシステムや企業規模に合わせたシステムが多く提供されています。もしも、現行システムにおいて使っていない機能が多くあったり、業界特有の商習慣に合わせてカスタマイズを繰り返したりしている場合、自社に適したシステムへ移行することで、運用コストを抑えることができるでしょう。ただし、導入時には初期費用が発生することを認識しておく必要があります。
継続使用の選択肢も
また、SAP ERP 6.0を継続して活用するのも一つの手です。現在の保守基準料金に2%を追加することで、保守サポート期限を2030年末まで延長できる措置が取られています。
継続して試用する場合、これまでと同様にシステムを使えるため、業務面で混乱が起きないというメリットがあります。ただし、機能が拡張されることもないため、競合他社との競争に後れを取る可能性があります。また、あくまで期限が延長されるだけであり、2030年に向けて対策の必要があることは変わりません。
2027年問題に向けてすべきこと
システムの移行内容や方法によっても変わりますが、システム移行には通常、数カ月の準備期間が必要になります。そのため、2027年に向けて今から動き出すことが重要です。
具体的には、現行システムの整理と業務の標準化の2点から取り組むのがおすすめです。
現行システムの整理
まずは、現行システムの整理から行いましょう。現行システムはどのような設計になっているのか、どのような業務にシステムを利用しているかを洗い出し、整理していきます。
また、システムを使用する中でどのような課題があるかも現場社員にヒアリングしましょう。課題を把握することによって、必要な機能や要件が明確になり、システム選定の判断基準になります。
業務の標準化
併せて、業務の標準化も進めておきましょう。業務標準化とは、設定したルールに沿って、誰もが同じように業務を行えるように各業務の手順を整理することです。従業員の業務フローが統一化され、業務の属人化を防ぐだけでなく、組織全体の業務品質が安定します。また、業務のムダを省くことによって、作業時間の削減や生産性向上などの効果も期待できるでしょう。
業務標準化の具体的な進め方については、以下の記事で詳しく解説しています。
業務標準化は、システム導入の際にも重視すべき項目です。実際に、新しいシステムへの移行はもちろん、SAPシステムへの移行の際には「Fit to Standard(標準化の推進)」が推奨されています。Fit to Standardとは、業務にシステムを合わせるのではなく、業務をシステムに合わせていくという考え方のことです。たとえば、自社の業界に必要な機能がそろったパッケージシステムに自社の業務を合わせることで業務が標準化され、業務フローの改善が可能になります。
業務標準化の準備をしておくことで、新しいシステムへの移行プロジェクトの際にも、スムーズにプロジェクトを進めることができるでしょう。
2027年に危惧されるIT人材不足
2027年に向けて危惧されているのは、SAPの保守サポート期限の終了だけではありません。同時に、IT人材の不足も大きな課題となっています。
IT人材不足への対応が課題
経済産業省のDXレポート(*1)によると、2025年にIT人材不足が約43万人まで拡大されるとされており、2030年では最大79万人不足すると言われています。IT人材の不足はIT技術の停滞につながり、企業が時代の変化に対応できなくなってしまう恐れがあります。
前述したように、SAPユーザーは、2027年までにシステム移行等の対応を行わなければなりません。そのため、企業がシステムを移行するタイミングがこの数年の間に重なることになり、システム移行の際に重要な役割を担うITコンサルティング人材やエンジニアが不足するといった事態が予測できます。
今後、IT人材の不足がさらに深刻化する可能性もあるため、システム移行や準備等は早めに進めておくことが重要です。
システムの選び方も変化
IT人材不足が続く近年、システムの選び方にも変化が見られます。過去には自社内でサーバーや通信回線などの環境を整えてシステムを運用する「オンプレミス」が主流でした。しかし、昨今では自社でサーバーを保有しない「クラウド」が主流になっています。
クラウドシステムのメリットとして、定期的なバージョンアップやサポートが得られることが挙げられます。システムを最新の状態に保てたり、社内に担当者がいなくてもベンダーによるフォローがあったりと、自社の負担を抑えつつ、長く使い続けられることが注目を集めている理由です。
新システム選定で重視したいポイント
新システムへの移行は企業にとって大きなプロジェクトとなるため、慎重にシステム選定を行う必要があります。選定の際には、以下の点を重視しましょう。
- 自社に適したシステムであるか
- 長期的なコスト比較
- サポート体制の充実度
それぞれ詳しく解説していきます。
自社に適したシステムであるか
新システム導入の際は、自社が抱える課題の他、社員数や予算等を考慮した上での選定が肝要です。
まずは、システムを導入する目的やどのような成果を得たいのかを明確にすることから始めましょう。目的が明確になれば、自ずと必要な機能が見えてきます。既存システムと連携させている別システムがある場合、新システムとの連携が可能かどうかもあわせて確認しておきましょう。
また、実際に使用するイメージができるかどうかも重要です。導入候補となるシステムにおいて、自社の業界や規模と同様の企業の導入事例があるか参考にするといいでしょう。
長期的なコスト比較
新システムを選定する際には、導入費用だけでなく、長期的にどれだけコストが掛かるのかも把握する必要があります。
たとえば、自社に不要な機能を多く含んでいたり、逆に必要な機能をカスタマイズする必要があったりすると、運用し続ける中でコストが大きくかさんでしまいます。そのため、導入コストだけではなく、長期的な視点でコスト比較を行うことが重要です。
サポート体制の充実度
新たなシステムに移行する場合、スムーズに移行できなかったり、使い方に慣れなかったりするケースも考えられます。スムーズに導入・運用を進めるためにも、きちんとサポートしてくれる体制があるかどうかは重要なポイントの一つです。サポート範囲や対応時間、対応方法(電話やチャットなど)などを把握しておきましょう。
システム移行で注意すべきことや、具体的なシステム移行の流れはこちらをご覧ください。
2027年問題が業務フロー改善の契機に
2027年問題によってSAPユーザーは、新たなシステムへ移行するか、現行システムの保守期限を延長して使い続けるか、決断する必要があります。
システムの移行には時間がかかるため、システム移行を考えている場合は今から準備を始めることが重要です。自社がシステムによってどのように業務を行っていきたいか、どのようなシステムが必要なのかを改めて見直すことから始めていきましょう。2027年問題に際してへの対策としてシステムの見直しを行うことは、自社の業務の無駄をなくし、よりスムーズな業務フロー構築のきっかけにもなります。
また、IT人材の不足が危惧される中、システムの運用を社内のみで行っていくことが難しいケースもあります。新システムを選定する際には、ベンダーのサポートやアップデートの充実度なども重視するようにしましょう。
たとえば、本ブログを運営する株式会社オロが提供するクラウドERP「ZAC」は、広告業やコンサルティング業、システム開発業など、プロジェクトごとに業務を行う業種に適したパッケージシステムとなっています。自社の業界に特化したシステムに業務を合わせることで、スムーズな業務改善が期待できるでしょう。さらに、新機能の追加や不具合の修正といった定期的なバージョンアップの提供がある点もメリットです。
2027年問題を機に、システムや業務の見直しをしてみてはいかがでしょうか。
参考
①SAPの推奨システムである「SAP S/4HANA」に移行する
②他社ERPへ移行する
③保守基準料金を2%追加し、保守サポート期限を2030年末まで延長する
詳しくは2027年問題への対応策をご覧ください。