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「ユーザーIT力:強 × ITベンダーIT力:強」 の関係性考察

「ユーザーIT力:強 × ITベンダーIT力:強」 の関係性考察
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2013/1/30公開

前回コラムでは、IT力を「ITに関する知識の深さ、経験値の高さなどのテクニカルスキルだけではなく、各担当者・メンバーなど個人レベルの交渉力やリーダーシップなどの、いわゆるヒューマンスキルも含めた総合的なITに関する能力の概念」と定義しました。

各象限の考察に入る前に、より具体的なイメージを持っていただけるよう、IT力を3つの要素にブレイクダウンしてみたいと思います。

目次

    ITベンダーに求められるIT力、ユーザーに求められるIT力

    表1:システム導入プロジェクトにおけるIT力の3要素
    表1:システム導入プロジェクトにおけるIT力の3要素

    上表にあるとおり、システム導入プロジェクトにおけるIT力は「テクニカルスキル」「プロジェクトマネジメントスキル」「社内調整力」の3つの要素に分けることができます。当然、各要素において、ITベンダーとして必要となるスキルと、ユーザーとして必要となるスキルはそれぞれ異なります。

    テクニカルスキル

    ITベンダーは、ITのプロフェッショナルとして高いレベルのスキルを求められます。一方、ユーザーは、システム導入プロジェクトを進めるにあたり、ITベンダーと問題なく意思疎通ができるレベルでITに関する知識が求められます。

    ITベンダーに求められるITプロフェッショナルとしての高いスキルレベルというのは、システム導入プロジェクトで構成されたプロジェクトチーム全体、またはそのバックボーンであるITベンダーの会社全体としてのスキルレベルが高いというだけではなく、それらの高いスキルを、実際のプロジェクトに効果的に適用できて初めて、ユーザーにとっては価値を持つものとなります。ITベンダーの会社全体としての高いスキルを、実際のプロジェクトに効果的に適用することは、ITベンダーに求められる社内調整力とも密接に関連してきます。

    一般的に、ユーザーにはITベンダーと同程度のテクニカルスキルは必ずしも求められませんが、少なくともITベンダーが説明する内容を正しく理解し、そこに潜むプロジェクトに関するリスクやその兆候を正しく識別できる能力が求められます。

    プロジェクトマネジメントスキル

    ITベンダーは、実際にシステム導入プロジェクトを計画通り推進するために、プロジェクトマネジメントにおける各分野のスキルが求められます。これは、例えばPMBOKなどで定義されている内容とお考えいただければイメージしやすいと思います。また、ITベンダー独自のシステム導入の方法論や、パッケージシステムのベンダーによるパッケージシステム導入手法などが確立されている場合がありますので、ITベンダーには、このような方法論や導入手法を実際のプロジェクトに効果的に適用するためのスキルも必要となってきます。

    テクニカルスキルの場合と同様に、一般的に、ユーザーにはここまでの高いレベルのプロジェクトマネジメントスキルは必ずしも求められませんが、少なくともITベンダー側が進めようとしている各タスクや一連の流れが、プロジェクトの中でどのような意味を持っているのかを理解し、それを社内に説明し、自社側のプロジェクトメンバー間で共有する、という面でのプロジェクトマネジメントスキルは必要になります。

    ITベンダーが提供するプロジェクトマネジメントに関する支援の範囲は、契約形態などによりプロジェクトごとに異なるため、ユーザー側で必要となるプロジェクトマネジメントスキルもそれに応じて変動する場合がありますが、これに関する考慮事項は各象限の説明の中で適宜言及します。

    社内調整力

    ユーザーの社内調整力は、システム導入プロジェクトにおいては特に重要です。プロジェクトが失敗する原因として、「(トップダウンでの意思決定が必要な場面で)経営層のバックアップが十分ではなかった」や、「社内ユーザー部門のキーパーソンの協力を得ることができなかった(ためになかなか要件がまとまらなかった)」などの点が挙げられることからも、それは明らかです。組織が大きくなればなるほど、より高度な社内調整力が求められます。

    ITベンダーに求められる社内調整力は、ユーザーに求められるものとは異なります。「プロジェクトマネジメントスキル」の項でも言及しましたが、ITベンダーが独自のシステム導入の方法論を持っている場合、システム導入プロジェクトではその方法論に従ってプロジェクトを進めていくことになります。また、特定のパッケージシステムの導入を数多く手掛けているITベンダーでは、パッケージベンダーが推奨する、そのパッケージシステムに最適化された導入手法を熟知しています。このような方法論や導入手法を活用してITベンダーが実施した過去のプロジェクトはナレッジの宝庫です。ITベンダーには、これらのナレッジを必要に応じて参照し、担当しているプロジェクトに適用する能力が求められますが、これはプロジェクトメンバー(特にプロジェクトマネージャー)のITベンダー社内情報の活用力に大きく依存します。

    例えば、ある課題への対応を行う場合、自社内に伝手を持っていない(「社内調整力」が低い)メンバーがプロジェクトにアサインされてしまうと、本来はITベンダー内に、そのプロジェクトに適用することが有益である事例があるにもかかわらず、プロジェクトにアサインされているITベンダー側のメンバーがその情報を見つけられなかった、という理由で、ITベンダーからユーザーには「参照可能な事例はありませんでした。よって、ゼロからの対応となり追加工数が発生します」などの回答をしてしまうケースも想定されます。このような事態を回避するために必要となる「社内情報を活用する力」や、「必要なスキル条件に合致したリソースを準備するITベンダー内での調整力」などが、ITベンダーに求められる社内調整力となります。

    関係1(ユーザーIT力:強、ITベンダーIT力:強)の考察

    ここから、各象限の考察に入ります。

    まず最初に、下図右上の象限「関係1(ユーザーIT力:強、ITベンダーIT力:強)」の場合です。

    図:ユーザーとITベンダーのIT力の四象限
    image21-02.gif

    ITベンダーのIT力が強く、かつ、ユーザーのIT力も強い場合、というケースとして、皆様はどのような事例を想定されますか?

    おそらく「テレビ・雑誌・ネットで取り上げられるような、先進的なIT活用を行っている大企業と大手ITベンダーの関係」を思い浮かべた方も多かったのではないかと思います。

    例えば、「XXXという最新手法を駆使して、先進的で複雑性の高いシステムが稼働した」という内容を、ユーザーとITベンダーが連名でニュースリリースするような事例は、この関係1で想定しているIT力の関係性の中で、プロジェクトが進んでいたと考えられます。おそらくユーザーには、最新手法を自社内で適用することに対応するために、十分なIT要員が在籍しており、ITベンダーとの高いレベルでの協業が可能な体制が整っていることでしょう。結果として、ITベンダーとユーザーとの間には、Win-Winの関係が成立しており、ITベンダーとユーザーの関係は、究極の関係である、ということができます。

    ユーザーとITベンダーの「究極の関係」は「理想の関係」といえるのか?

    果たしてこれは、ユーザーとITベンダーの理想の関係といえるでしょうか?

    現時点でこのレベルに達している、もしくはこのレベルに手が届く位置にいるのであれば、究極の関係=理想の関係、として、そのレベルを目指していくべきであると思います。しかし、大多数のユーザーは、予算確保や人材確保をはじめとした様々な要因により、このようなレベルを目指すことは、現実的には非常に難しい状況です。

    では、大多数のユーザーは、ITベンダーとの理想の関係を構築することはできないのか、といえば、決してそのようなことはありません。

    ユーザーは、ハードウェアやソフトウェアをはじめとしたITに関するリソースを、自社だけでは準備することができません。ユーザーは、自社のビジネス目標を達成するにあたり、不足しているITリソースを補うために、ITベンダーから製品やサービスの提供を受けます。構築しようとするシステムの複雑性にかかわらず、ユーザーがITベンダーに仕事を依頼する理由は、最終的にはこの点に集約されます。

    このことからユーザーとITベンダーの理想の関係とは、「ITベンダーが持っているスキルやナレッジを、自社のビジネス目標達成のために最大限活用しているユーザーとITベンダーの関係である」と定義することができます。

    ユーザーとITベンダーの関係というのは、決して前述した究極の関係だけが理想の関係ではない、ということがおわかりいただけると思います。すなわち、自社のビジネス目標達成のために、ITベンダーの持っているスキルやナレッジをうまく引き出し、それを最大限活用することが、ユーザーに求められるIT力であり、それが実現できているようなユーザーとITベンダーの関係をもって、理想の関係である、ということができるのです。IT力の3要素で、ユーザーに求められるものとITベンダーに求められるものでは、その内容が異なっているのも、ユーザーの立場で必要十分なIT力が備わっていれば、ITベンダーとの理想の関係を築くことが可能であることを意味しています。

    理想の関係を目指すにはどうすればよいか?

    では、ユーザーとして、ITベンダーとの理想の関係を目指すには、一体どうすればよいのでしょうか?

    まず、第一に行うべきことは、自社のIT力を正しく把握することです。自社のIT力の現状を把握した上で、不足しているIT力が何であるかを特定することで、理想の関係を目指すために取り組むべき事項が明確になります。例えば、自社のIT部門は、テクニカルスキルは強いが、他部門との関係が必ずしも強くない、ということがわかれば、それに応じた対応をとることができます。

    次に行うべきことは、自社のIT力の現状を踏まえて、ITベンダーにどのようなIT力を求めるのか、という点の検討です。システム導入プロジェクトを行うにあたっては、RFPを複数のITベンダーに提示し、各ITベンダーから提出された提案書の内容を精査した上で、発注するITベンダーを決定するという過程を踏むことが多いと思います。その際に、価格や機能要件については比較的手厚い検討を行っていますが、プロジェクトマネジメント面での検討に関しては十分な検討を行っているとはいえないケースも散見される、というのが現状ではないでしょうか?

    プロジェクトマネジメント面の検討を実施している場合でも、ITベンダーのプロジェクトマネージャー候補者にプレゼンテーションを行ってもらい、その際の印象を検討の一要素にする、ということで対応しているケースが多いと思われます。しかし自社のIT力の特性を踏まえIT力の3要素に着目して提案内容を検討した場合は、特に自社が弱い点をどのように補ってくれるのか、という観点でITベンダーを選定することが可能になります。

    関係1(ユーザーIT力:強、ITベンダーIT力:強)のまとめ

    前項の考察内容を以下にまとめます。

    表2:システム導入プロジェクトにおけるIT力の3要素(関係1の場合)
    image21-03.gif
    • ユーザーとITベンダーの「究極の関係」と「理想の関係」は異なる。
    • 「理想の関係」とは、ITベンダーが持っているスキルやナレッジを自社のビジネス目標達成のために最大限活用しているユーザーとITベンダーの関係である。
    • ITベンダーとの理想の関係は、どのユーザーでも目指すことが可能である。
    • まずは、自社のIT力の現状の把握を行う。

    今回は関係1(ユーザーIT力:強、ITベンダーIT力:強)について、理想の関係とはどのようなものか、という観点で考察しましたが、それ以外のユーザーとITベンダーのIT力の強弱に応じた対応などについては、次回以降、関係2~関係4の考察の中で検討していきたいと思います。

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    関口 和夫

    この記事の筆者

    新日本有限責任監査法人 マネージャー システム監査技術者

    関口 和夫

    外資系大手ITベンダーにて大規模システム構築プロジェクトのプロジェクトマネジメントや、SAPのコンサルティング業務などに従事。また、マーケティング部門において、社内のグローバルCRMシステム導入プロジェクトのリーダーや宣伝などのマーケティング業務も担当。
    2008年、新日本有限責任監査法人に入所後は、IT全般統制をはじめとしたシステム監査や、システム構築プロジェクトにおけるプロジェクトリスクマネジメントに関する各種アドバイザリー業務などを担当している。