販管費とは。販売費と一般管理費の区分や内訳、分析方法を解説
2024/1/05公開
企業が本業を営むために欠かせない販売費及び一般管理費は、損益計算書上にも記載され、企業の経営状況を把握するためにも重要な数値です。販管費と呼ばれるこの費用には、具体的にどのような費用が該当し、どの勘定科目に仕訳されるのでしょうか。また、どのように経営分析に活用したらいいのでしょうか。
本記事では販管費の具体例から分析方法、販管費を削減するポイントまで解説します。適正な販管費の把握・管理と改善を行いたいと考えている場合は参考にしてみてください。
目次
販管費(販売費及び一般管理費)とは
販管費とは、製品・サービスの販売に直接かかる費用である販売費と、企業の管理活動全般において発生する一般管理費のことです。この2つを合わせて「販管費」という略称で呼びます。
営業利益の算出には、売上総利益から販管費を差し引く必要があるため、販管費は企業の利益を正しく把握するために重要な数値であると言えます。損益計算書では、売上総利益の次に表記されるものです。
販売費
販売費とは、製品・サービスを販売する活動全般で発生する費用のことです。具体的には、販売にあたる従業員の給与や販売手数料、広告宣伝費、配送費などが該当します。営業活動における交通費や接待費なども販売費です。
一般管理費
一般管理費とは、企業活動で必要な一般管理業務において発生する費用のことです。具体的には、製品・サービスの生産や販売に直接関わらない従業員の給与や賞与、各種手当、オフィスの家賃や水道光熱費、通信費、消耗品費などが該当します。
2つに区分されている理由
販売費と一般管理費は、企業によって明確な区別が難しいこともあり、損益計算書上は「販売費及び一般管理費」としてまとめて扱われます。しかし、実際はそれぞれ性質の異なる費用であることから別の名称で区分されています。
販売費は、製品・サービスの販売に関する費用のため、生産量や販売量、時期によって変動する可能性があるものです。一方、一般管理費は生産量や販売量の影響を受けにくく、固定費も多く含まれています。
そのため、会計上は販売費と一般管理費を分けて管理し、損益計算書を作成する際にそれぞれの数値をまとめて計上するのが慣例です。
販管費の具体例
販売費と一般管理費については上で解説した通りです。ここからは、それぞれどのような費用が該当するのか、またどの勘定科目に計上すべきなのかを具体的に紹介します。
販売費に含まれる費目
販売費に含まれる主な費用とその勘定科目は以下の通りです。
- 広告宣伝費:広告出稿費、ニュースリリース掲載費、パンフレット作成費、チラシ印刷代、DM郵送費など
- 販売手数料:委託販売業者や販売代理店へ支払う手数料、決済システムの手数料など
- 荷造運賃費:製品を発送する際の配送料、梱包資材費など
- 販売促進費:製品サンプルの製作費、キャンペーンの割引負担など
- 接待交際費:取引先への接待費や慶弔費など
- 旅費交通費:営業活動にかかった交通費や出張旅費など
- 給与賃金:営業部門の従業員に支払う給与
一般管理費に含まれる費目
一般管理費に含まれる主な費用とその勘定科目は以下の通りです。
- 給与賃金:間接部門の従業員に支払う給与や賞与など
- 役員報酬:役員に支払われる報酬
- 福利厚生費:従業員の健康診断費、慶弔費など
- 修繕費:オフィスのメンテナンス費用、事務機械の修理費など
- 水道光熱費:オフィスでかかる水道代、ガス代、電気代など
- 地代家賃:オフィスの家賃、従業員用駐車場代など
- 消耗品費:事務消耗品、少額の工具・器具など
- 通信費:電話代、インターネット利用料、サーバー代など
- 旅費交通費:従業員の通勤手当、営業活動以外の出張費など
- リース料:コピー機や複合機など事務機械のリース費
- 減価償却費:固定資産の当期計上分減価償却費
注意したい「人件費」の扱い
営業部門の従業員の給与は販売費、間接部門の従業員の給与は一般管理費と紹介しました。しかし、業種によっては人件費のすべてが販管費に分類されるわけではない点に注意しなければなりません。自社で製品・サービスを生み出す業種の場合、製品・サービスの製造に関わる人件費は「労務費」扱いとなり、売上原価に計上します。
売上原価と販管費の違い
売上原価とは、製品・サービスの仕入れや製造にかかった費用のうち、特定の期中に売れた商品にかかった費用のことです。つまり、製品・サービスの製造にかかった人件費は売上原価に分類されます。
たとえば工場の製造ラインで働く従業員などは、販売でも管理でもなく「製造」に関わっているため、販管費には分類しません。IT業や広告業など、サービスを提供する企業でも同様、エンジニアやデザイナーといったサービスの製造に直接関わる従業員の人件費は売上原価と捉えられます。
企業によっては、営業と製造両方の業務に携わっている従業員もいることでしょう。その場合は、各業務の工数に応じて売上原価と販管費に振り分けることになります。
このように、製品・サービスの生産に関わるかどうかによって、売上原価と販管費のどちらに計上されるかが分かれます。売上原価について、詳しくはこちらの記事を参照ください。
経営分析に活用できる販管費の指標
販管費は経営分析にも活用できる数値です。ここでは、販管費を用いた2つの指標を紹介します。
販売費比率
販売費比率とは、売上高に対してどれだけ販売費がかかったかを表す指標です。売上を上げるためにかかった販売費の効率性を判断できます。算出するための計算式は以下の通りです。
- 販売費比率(%)=販売費÷売上高×100
販売費比率が低ければ低いほど、少ない販売費で多くの売上を生み出せており、効率的な営業活動ができているとわかります。ただし、販売費比率は業態ごとに異なり、販売戦略によっては販売費を多くかけるタイミングもあるため、戦略と合わせた判断を行わなければなりません。
販売管理費比率
販売管理費比率とは、売上高に対して販売費と一般管理費がどれだけかかったかを表す指標です。売上高販管費率とも言われています。販売費比率では、売上高に対してかかった販売費のみを見ていましたが、販売管理費比率は一般管理費も含めて判断します。算出するための計算式は以下の通りです。
- 販売管理費比率(%)=販売費及び一般管理費÷売上高×100
販売管理費比率は、固定費などの一般管理費も含めた経営効率を判断するために有用です。こちらも販売費比率と同様、割合が低ければ効率良く売上を生み出せていることになります。また、販売費比率と比較したときに、販売費比率の推移が一定なのにも関わらず販売管理費比率が増加している場合、一般管理費が増加しているという判断も可能です。
販売管理費比率を使った経営分析方法
経営において、どこにコストをかけるかは業種や戦略によって異なるため、当期の販売管理費比率を算出しただけで経営状況を判断するのは難しいのが実情です。そこで、販売管理費比率を使って経営分析を行うための比較方法を2つ紹介します。経営分析を行う際に参考にしてみてください。
期間による比較
まずは、前年度や前月といった過去の数値と比較する方法があります。もし前年度と比べて販売管理費比率が上がっている場合、売上高に対して使用している販管費をかけすぎている可能性があるため、何が費用を押し上げているのか、ボトルネックを探すアクションが必要になります。
このとき、比べる期間との経営戦略の違いにも着目することが大切です。もし今期に「広告を拡大する」戦略を取っていた場合、販売管理費比率が上がるのは当然のことです。どのような理由で販管費が増えているのか、または販管費を増やしたことで売上高がどのように変化したかといった分析を踏まえて、経営効率を上げるための方法を検討しなければなりません。
業界平均との比較
自社の販売管理費比率をと業界平均値を比較することも、経営効率の判断基準になるでしょう。
ここでは、中小企業庁が公表している「中小企業実態基本調査(令和4年確報)」(*1)の統計表 3.売上高及び営業費用 (2)産業中分類別表 1)法人企業 より、各業種の販売管理費比率を算出して紹介します。ただし、戦略や方針によっても比率が異なるため、あくまで目安として比較しつつ、自社の数値が高すぎていないかを確認することがおすすめです。
業種 | 販売管理費比率 |
---|---|
建設業 | 19.35% |
製造業 | 17.65% |
情報通信業 | 40.89% |
運輸業、郵便業 | 23.94% |
卸売業 | 13.91% |
小売業 | 28.87% |
不動産業、物品賃貸業 | 31.36% |
学術研究,専門・技術サービス業 | 42.97% |
宿泊業、飲食サービス業 | 76.16% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 37.50% |
サービス業(他に分類されないもの) | 41.89% |
販売管理費比率は、業種によって平均値が大きく異なります。一般的に、製造業など売上原価の比率が高い業種であれば、そのぶん販売管理費比率は低くなる傾向があります。反対に、宿泊・飲食サービス業など、販売に関わる人件費が費用の多くを占める業種は、販売管理費比率が他より高めです。
販管費を削減するには
販売管理費率を分析した結果、改善が必要だった場合にはどこから手をつければいいのでしょうか。ここからは、販管費削減につながる方法を3つ紹介します。
工数を見直す
従業員の工数を見直し、販管費削減につなげる方法があります。まずは従業員がどの業務にどれくらい工数をかけているのか把握し、効率化できる部分がないかを探りましょう。
業務を効率化できれば、同じ工数でもより多くの付加価値を生み出せます。工数削減によって生まれた時間を、他の業務に割り当てることも考えられるでしょう。その結果、残業が減り、販管費に含まれる人件費の削減が可能となるのです。もしも必要以上に残業が発生している場合や、販管費の大部分を人件費が占めるようであれば、この方法で大きな効果が得られるでしょう。
固定費を見直す
一般管理費に分類される固定費を見直すことも販管費削減に有効です。毎月かかる固定費は、削減できれば大きな費用削減につながります。たとえばリモートワークが中心となっていれば、いっそオフィスを縮小したり、費用の少ないオフィスへ移転したりすることも考えられます。
契約している駐車場の利用率が低ければ解約する、使用頻度の低い事務機器のリースをやめるなど、これまで慣習で利用し支払い続けてきた固定費が本当に必要なのか、今一度見直してみましょう。ただし、従業員の働くモチベーションや健康管理につながっているような福利厚生は、見直しの際に従業員満足度が低下しないかよく判断しなければなりません。
広告宣伝費を見直す
広告の費用対効果を観測し、場合によっては見直すことも販管費削減には重要です。広告のターゲティングは適正か、効果に対してかける費用は見合っているかを適宜確認し、効果の高い広告に注力したり、効果の低い広告があれば出稿をやめたりといった判断が必要となります。
特に、広告運用を外部に一任している場合は、広告宣伝費が固定費化しがちです。社内でも結果をモニタリングできるようにしておくことで、効果的な広告出稿ができているかを判断しやすくなります。
複雑な販管費の管理をシステムでスムーズに
営業活動がどれだけ利益に貢献しているのか、費用対効果を測るためにも販管費の把握は重要です。ただし、販管費には多くの費用が含まれるため、管理や処理が煩雑になることもあります。
そこでおすすめしたいのが、原価管理システムやERPの活用です。売上に紐づく複数のコストを可視化できるシステムを使用すれば、売上原価や販管費をスムーズに把握できるようになります。
本ブログを運営する株式会社オロが提供するクラウド型ERP「ZAC」なら、案件ごとに関連する費用を紐づけて一元管理できます。従業員の工数も案件や工程ごとに管理できるため、上述したような工数の見直しも行いやすく、コストの適正化やKPI設定に役立てることが可能です。
利益を上げるためにも、タイムリーに把握できる環境を作ることが大切だと言えます。
まとめ
製品・サービスを販売したり企業運営をしたりするために欠かせない販管費。効率のいい営業活動を行い、利益を確保するためには、販管費の正確な把握と改善が重要です。まずは自社の販管費がどの程度かかっているのか、どのように推移しているかを分析して、削減できる販管費はないかを検討しましょう。
また、単純に販管費を削減するだけでなく、業務効率化によって生産性向上の意識を持つことで、より安定した利益創出につながります。生産性が上がれば、販売管理費比率を下げることができ、効率よく売上を生み出せるのです。下記からダウンロードできる「生産性向上BOOK」も参考に、ぜひ販管費の適正化や営業活動の効率化を図ってはいかがでしょうか。
参考
*1:中小企業実態基本調査 (令和4年確報)統計表3.売上高及び営業費用 (2)産業中分類別表 1)法人企業|中小企業庁