稟議の電子化で業務効率化。メリットや注意点、具体的な方法とは?
2025/1/10公開
従来、稟議書は紙の書類で回覧して社内の承認を得ていました。ところが、昨今のDX(デジタルトランスフォーメーション)化やペーパーレス、リモートワーク推進といった流れから、電子化を図る企業も増えています。
電子化を進めることで多くのメリットが得られるものの、いざ実践しようとすると、どこから手をつけるべきか、またどのようなツールを使うべきか悩むかもしれません。実際に電子化する前には、起こりうるデメリットについても知っておく必要があります。
そこで本記事では、稟議を電子化するにあたって必要な基礎知識と電子化のメリット・デメリットを解説します。稟議を電子化する際のおすすめの方法も紹介しますので、これから電子化を考えている方はぜひ参考にしてください。
目次
稟議とは
稟議(りんぎ)とは、1人で決定できない事柄を、社内関係者の理解・承認を得て決裁を得る工程のことです。申請・承認と呼ばれることもあります。一般的に、プロジェクトに必要な予算を得たり、高額の物品を購入したりする際には稟議が必要です。
その稟議を行うために作成する書類が、稟議書です。多くの場合、社内に稟議書のフォーマットがあり、記載すべき事項が定められています。具体的には、承認を得たい事項の目的や概要を簡潔に記載します。
ワークフロー
稟議の申請・承認には、まず稟議を起案し、それらを関係者に回覧・説明し、承認を得るという流れが必要です。このような業務の流れを体系化したものや図式化したものをワークフローと呼びます。
誰にどのような流れで稟議書を回覧して承認を得るべきか、社内で統制を取るためにもワークフローの整備が重要です。ワークフローが整備されていれば、意思決定の適正化や承認状況の把握が可能となります。
そして、すべて電子上で申請・承認ができるツールをワークフローシステムと呼びます。
稟議の種類
社内で起案される稟議は、以下のような種類があります。全社員が起案するものから、その職種でないと起案する機会のないものまで、さまざまな稟議があります。
- 経理:出張費や交通費、物品購入など経費精算に関するもの、発注、代金の支払いに関するもの
- 人事:採用、休暇取得、休日出勤、異動などに関するもの
- 総務:企業が保有する設備の利用、社内行事、セキュリティ対策などに関するもの
- 営業:見積書や注文書、請求書などに関するもの
稟議書の保存期間
稟議書は、明確な保存期間が定められていません。しかし、企業の経営に関わる重要な決裁書類であるため、企業独自に保存期間を設けていることもあります。
業務上のトラブル時に証拠として用いられる書類でもあり、過去の決裁履歴でもあるため、稟議書は半永久的に保存することが望ましいと言えます。
稟議は電子化の傾向に
もともと紙の書類だった稟議書は、コロナ禍を経て年々電子化が進んでいます。電子稟議とは、稟議書をデータ化し、ワークフローをオンライン上で完結させたものです。政府がDX化を推進していることもあり、紙書類の電子化も進んできています。
押印がなくとも、タイムスタンプの付与等で証憑の正当性を証明できるようになりました。多様性のある働き方が進んでいることやリモートワークの定着等により、紙書類を電子化し、どこにいても業務が進められるよう変わりつつあります。
稟議と電子帳簿保存法の関係性
政府が紙書類の電子化を推進していることは、電子帳簿保存法の改正の歴史からも汲み取れます。
電子帳簿保存法は、1998年に制定されたものですが、2005年の改正によって紙書類をスキャンして保存できるようになりました。その後、2024年1月1日の改正では、電子取引データのデータ保存が義務化されています。 このように、政府がペーパーレス化を進めているため、稟議書も電子化が進んでいるのです。
紙の稟議書の課題
上記のような政府の施策だけでなく、紙ベースでのやり取りに対する課題も稟議書電子化の背景にあります。具体的には、以下の4つの課題が挙げられます。
申請・承認に時間がかかる
紙の稟議書を回覧・承認するためには、実際に書類を持って移動もしくは離れた事務所へ郵送するなど、手間と時間が必要です。また書類を確認するためには、出社が必要なため、出張やリモートワークの期間は確認が遅れる恐れもあります。
そもそも稟議書を作成する際も、誤字脱字や内容の変更などがある場合、その都度印刷し直す必要があり、時間がかかります。
進捗状況が不透明
稟議の進捗は、紙の書類に押された承認印でしか確認できません。また、現在誰の承認待ちかを把握するには、書類の所在を把握しなければばならず、これが業務の遅れにつながります。もし承認がどこかで止まっている場合、直接関係者の元に足を運んだり、電話で確認したりといった時間が必要です。
保管コストがかかる
上述したように、稟議書は企業にとって重要な書類であるため、半永久的な保管が求められます。しかし、紙の書類をファイリングして保管する手法であると、印刷代やファイル代だけでなく、保管するためのスペースが必要になるため、稟議書が増えるほどオフィススペースが圧迫されてしまいます。
また、過去の稟議書を確認しようとした際、書類を探すのに時間がかかってしまう点もデメリットです。
改変・紛失のリスクがある
紙の書類として移動させると、紛失のリスクが高まります。もし紛失していても、気づくまでに時間がかかる点もリスクです。さらに、押印のログも残らないため、実際に確認した日より前の日付を記載して回覧するといった改変も、容易にできてしまいます。
紙の書類は誰からでも見えることから、関係者外秘資料などのセキュリティ面にも不安が残ります。
稟議を電子化するメリット
さまざまな課題を抱える紙の稟議書は、電子化することによってそれらの課題を解消でき、企業にメリットをもたらします。どのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
稟議・決裁のスピード向上
システム上で申請・承認ができるようになるため、実際に紙を移動させる時間や手間をなくせる点がメリットです。関係者が出張やリモートワークで会社にいない場合でも、稟議を止めることなく進められます。もしどこかで止まっていてもすぐに確認できるため、時間のロスも減らせます。
コスト削減
紙に印刷するための用紙代やインク代といった事務用品のコストも減らせます。1枚ずつのコストは大きくなくとも、さまざまな部署で多くの稟議書を作成することになるため、それが積み重なるとコストは増大します。
また、稟議書を保管するためのファイルやキャビネットが不要となるため、社内のスペース・備品削減も実現可能です。
セキュリティの向上
システムであれば、申請や承認の時間が正確に残るため、改ざんができません。システムを閲覧しなければ確認できないため、関係者以外の従業員が中身を見てしまわないような制限も可能です。「見るつもりはなかったものの見てしまった」といったケースを防ぐこともでき、セキュリティ性が向上します。
もし不正アクセスや改ざんが起こっても、履歴をたどれば原因追究できるため、不正の抑制効果も期待できます。
ワークフローの可視化
ワークフローをシステム上で可視化できるのも、電子化のメリットです。誰のところで回覧・承認が止まっているのか、どのような経路で進んでいるのか、これから誰が確認すべきなのかなどの進捗状況と今後の動きが明確になります。もしどこかで止まっていてもすぐに把握できます。
社外では決裁の進捗状況がわからず業務を進められないといった問題が起こりがちです。しかし、システムなら決済が通ったことをメール通知できるものもあるため、タイムリーに決裁後の業務を進められます。
リモートワークの推進
稟議をシステム上で完結できたら、出社せずともインターネット環境のみで稟議を進められるため、リモートワーク推進につながります。申請・承認を行うために出社する手間も必要なくなります。
特に上位決裁者であれば、承認すべき稟議書も多いため、電子化することで受けられる恩恵は大きいはずです。金額ごとに承認経路を変更することや、承認者を複数設定し、いずれか1名が承認すると次の承認者に回るような多段階の承認フローも設定できます。
稟議を電子化する際の注意点
稟議の電子化は、上記のように多くのメリットがあります。一方で、これから電子化を進めていくためには注意点も知っておかなければなりません。注意したいのは、大きく分けて以下の3点です。
システム導入や整備にコストがかかる
稟議の電子化には、印刷費や事務用品のコストを抑えられる一方で、システムの利用が欠かせないため導入費用がかかります。さらに、社内のワークフローをシステムに反映させるための手間やコストが必要です。
ワークフローは、社内の体制やメンバーが変わるたびに整備が必要であるため、その都度見直す工数もかかります。システムの利用を社内で促進するための教育コストや運用体制の整備、マニュアル化などの手間がかかることも考慮しておかなければなりません。
システム障害発生時のリスク
システムを利用するうえで切り離せないのが、システム障害が発生した際のリスクです。障害によってシステムが停止してしまうと、稟議が滞ってしまい、業務に影響を及ぼす恐れがあります。
障害のタイミングによっては、重要な決裁が間に合わない可能性もあるため、万一に備えて別の稟議プロセスを用意しておくなど対策が必要です。
書類を電子化するだけでは不十分
稟議の電子化は、ただ書類をデジタルデータにするだけではありません。稟議の起案から申請、承認、データ保管まですべてのワークフローをシステム上で完結できるよう置き換える必要があります。また申請・承認の流れも統一し、システムでのワークフローが社内に浸透して機能しなければなりません。
もしワークフローが正しく機能していなければ、どこかの工程で不正が発生したり情報漏洩が起こったりする可能性があります。従業員の意識も、紙での運用からシステム運用へと変革させなければ、ただシステムを導入しただけで使用されないものになりかねません。
稟議の電子化で実現できること
システムを用いて稟議を電子化することで以下のような変化も期待できます。
フォーマットの固定、カスタマイズ
まずは、稟議書のフォーマットが固定できるようになります。稟議でよくあるケースとして、フォーマットの改定に気づかず、自分のパソコンに保存していた古いフォーマットのまま稟議を起案して、情報が不十分なまま申請に回してしまうという事例です。フォーマットが異なる稟議は受け付けられないため、修正のために差し戻され、時間も手間も余計にかかります。
ところがシステム上でフォーマットを固定できれば、そのようなミスや手戻りを防げます。フォーマットは自社に合わせたカスタマイズが可能で、社内体制の変化などに合わせて都度改定できるシステムもあるので便利です。
個別の承認経路設定
稟議の承認経路を、稟議の特性に合わせて設定できるようになります。有効なのは、金額によって稟議の最終決裁者が変わる場合や、部署・業務ごとに承認者が異なるケースです。システムならワークフロー上の決裁者を個別に設定できるため、柔軟に対応できます。
ログ保存・ログ検索
稟議のログをシステム上で保存できるので、検索が簡単になることも電子化の強みです。社内で起案される稟議は、その多くが過去のプロジェクトなどをベースに作られるため、履歴をすばやく検索できるようになることは、業務効率化につながります。また、監査対応の際もログが活躍します。
通知・アラートの設定
システムによっては、回覧が回ってきたことを知らせる通知や、承認期限を知らせるアラートを設定できます。従来の紙の稟議書は、承認を後回しにしてそのまま忘れられてしまったり、他の書類と混ざって気づくのに遅れたりと、ワークフローの遅れが生じやすく、発見しにくいものでした。
しかし、システムで自動的に通知・アラートを鳴らせば、作業忘れや書類の紛失よる遅れが発生しにくくなります。
稟議を電子化する2つの方法
電子稟議システム・ ワークフローシステム導入 | 基幹システム付随の ワークフロー活用 | |
---|---|---|
運用方法 | 電子稟議のみ対応可能 | 基幹システムの情報と紐づけて運用可能 |
導入費用 | 比較的安価 | すでに利用していれば不要 /新規導入であれば高額 |
スピード感 | 電子稟議の導入はスピーディーに行える | 運用までワークフロー整備に時間がかかる可能性あり |
稟議を電子化する場合、大きく分けて2つの方法があります。それぞれの仕組みや特徴を詳しく見ていきましょう。
電子稟議システム・ワークフローシステムの導入
1つ目は、電子稟議のための専用システムやワークフローシステムを新たに導入する方法です。初期費用はかかりますが、シンプルなシステムであるため高価でないことが一般的です。 電子稟議に特化しているため、稟議の電子化をスムーズに進められます。また、稟議のフォーマットや承認経路なども柔軟に変更でき、紙書類を電子化する際、利用する従業員もわかりやすい点がメリットです。
基幹システムに付随するワークフローの活用
2つ目は、基幹システムに付随したワークフローを活用する方法です。基幹システムに稟議のワークフローを追加し、申請・承認機能を使って稟議を進めていきます。この方法であれば、既存のシステムを活用するのみなので、新たなコストは必要ありません。新たなシステム導入も不要なため、スピーディーに利用開始できます。
ただし、これから基幹システムを導入する場合は高額のコストが必要です。電子稟議に特化したシステムではないため、ワークフローの整備が必要で導入まで時間がかかる可能性もあります。
既存のシステムによっては、稟議の工程すべてを電子化できない可能性がある点にも注意しましょう。
ワークフローシステムの落とし穴
電子稟議用にワークフローシステムのみを導入する方法は、スムーズかつミニマムコストで電子化を進められるため効果的です。一方、稟議というものは業務と紐づいているのが基本であるため、稟議のワークフローシステムと業務システム間でスムーズに連携できることが重要となります。
ワークフローシステムを導入しても、連携先との照合ができなければ不便です。例えば、稟議に関連する書類を別システムで作成してPDFファイルなどで添付する形式である場合、どの案件に紐づく書類なのかワークフローシステムだけで判断できません。
その結果、手間がかかるという理由で従来の紙の運用が残ってしまう、もしくはワークフローシステムがうまく機能しない恐れがあるのです。社内の状況やワークフローシステムの機能を把握したうえで、導入するか検討する必要があります。
ワークフロー機能のある基幹システムのメリット
ワークフローシステムを導入するのではなく、ワークフロー機能が付帯した基幹システムを導入するのも一つの手段です。
なんといっても業務に連動したワークフローを構築できるのが大きなメリットです。勤怠管理の画面から休暇申請を行ったり、販売管理の画面から見積を作成して上申を行ったりできるようになります。
ここでは、ワークフロー機能を持つクラウドERP『ZAC』を例に、基幹システムのワークフロー機能を活用するメリットを紹介します。
ひとつのシステムで稟議が完結する
まずは、システムを1つにまとめられるのが大きなメリットです。稟議を起案した従業員は、システムに直接稟議の内容を入力できるため、別で作成した書類を添付して申請するステップが不要になります。
情報が分散しないため、稟議の承認者も、どのような案件なのか複数システムを確認する必要がありません。また、システム間で情報を連携させる場合、連携自体にセキュリティリスクが生じるものの、システムが1つであればそのリスク対策も不要です。
紙の稟議に戻るリスクが少ない
上述の通り、稟議の内容をシステム上に直接作成・申請・承認するため、手順を覚えやすく、また操作しやすいという点において手間がかからず電子化の移行がスムーズだと言えます。
もし添付や内容のコピーの手間が残ったまま電子化すると、「どうせExcelデータを添付するならば、紙のほうが簡単」「管理や申請が楽」といった意見が出る可能性があります。
しかし、ひとつのシステムで入力作業を行えることによって、紙そのものとExcelデータ等の添付の手間がなくなり、紙の稟議に戻したいといった意見も出にくくなるでしょう。
まとめ
紙で起案し申請・承認するのが主流だった稟議も、DX化やリモートワークの定着から電子化が進んでいます。そこでおすすめなのが、システムを活用した電子化です。一般的には、稟議専用のワークフローシステムを導入するか、基幹システムに付帯したワークフローシステムを利用する方法で実現可能です。
どちらの方法にもメリット・デメリットがあります。しかし、稟議は社内の多くの人が関わるため、使いやすい方法を選ぶことが重要です。どのような形で電子化するか、自社のワークフローや既存のシステムとの連携を考慮して選定してください。