時間当たり採算の本質。経営者・マネージャーが知るべき成功の鍵
2024/3/15公開
かつては、「長時間残業=頑張っている」と評価される職場が少なくありませんでした。実際に成果を出しているのか、また会社に貢献しているのかは、残業時間で測れないものですが、ついつい目に見えやすい労働時間や売上のみを評価指標として設定してしまいがちです。
その点「時間当たり採算」という考え方を取り入れると、従業員が価値を生み出しているかを測れるようになります。これは、いかに効率よく付加価値を生み出しているかを可視化し、評価するための指標です。
本記事では、時間当たり採算の定義から算出方法、導入するメリットなどを解説します。「生産性を上げたい」「従業員のコスト意識を高めたい」と考える経営者やマネージャーの方は参考にしてみてください。
目次
時間当たり採算とは
時間当たり採算とは、従業員1人が1時間あたりに生み出す付加価値を算出することです。付加価値は、企業が製品・サービスを生み出す際に新しく付け加えた価値を意味し、売上から諸経費を差し引いた金額で表されます。
製造業であれば、原材料を加工して製品にすることで、新たにプラスされる機能や価値が付加価値です。サービス業の場合は、顧客の課題や要望にあった体験提供が付加価値といえるでしょう。
採算とは、収支を計算するという意味です。「採算が取れている=利益が出ている状態」が理想なので、時間当たり採算の考え方では、この利益をいかに効率よく最大化するかが重視されます。そのため、少ない経費や短い労働時間で付加価値を最大化し、効率の良い経営が目指すことが求められます。
時間当たり採算を使えば事業やチームごとの効率性を見える化し、比較できるようになります。ミドルマネジメントや従業員が経営者目線で業務を行えるようになるため、企業競争力の強化にもつながるでしょう。
経営者が知るべき時間当たり採算の算出方法
時間当たり採算は、以下の計算によって算出できます。
- 時間当たり採算=付加価値÷総労働時間
- 付加価値=売上-諸経費
諸経費には、売上原価と販管費を含めるのが一般的です。1ヶ月などの期間を決め、その間に発生した売上、経費と実際の労働時間を用いて計算します。タイムリーな採算を算出することで、迅速な経営判断に活かせるのです。
時間当たり採算を算出することで、どれだけ効率よく業務が行われているか、また無駄な残業が行われていないかといったことを判断できるようになります。効率を定量的に表現でき、チームの目標設定や共有もしやすくなるため、経営において重視すべき指標だといえます。
時間当たり採算を導入するメリット
自社の経営や自部署の評価に時間当たり採算を取り入れることで、主に以下のメリットが得られます。
評価基準が明確になり、評価への納得感につながる
プロジェクトやチームごとの時間当たり採算を可視化することで、労働時間や売上金額といった表面上の数値だけではなく、利益創出の効率性を把握でき、生産性の高い事業やチームが明確になります。
利益創出の効率性も含めた会社への貢献度が数字で明らかになるので、従業員が「評価に個人的な感情が影響しているのではないか」「残業時間が長いから評価されているのではないか」といった不信感を持ちにくく、納得して評価を受け入れられるようになるでしょう。評価者も、根拠が明確なので評価しやすい点がメリットです。
コスト意識が高まる
時間当たり採算を算出し、従業員にもその数値をオープンにした経営・マネジメントを行うことで、従業員のコスト意識が高まります。具体的には、「付加価値を生み出すために時間や経費を多くかける」という考え方から脱却し、「いかに少ない経費と労働時間で付加価値を多く生み出すか」という思考へのシフトチェンジが期待できます。
さらに、コスト削減には業務改善が有効なため、業務フローの見直しやより効率の良い手法の発案につながることもメリットのひとつです。また、売上原価だけでなく、経費として意識しづらい人件費もコストとして捉えられるようになることで、営業利益ベースでの赤字を防ぐ効果もあります。
組織のコスト意識を高める方法について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
経営者意識が身につき、後継者育成にもつながる
時間当たり採算の数値を社内に公開することで、マネージャー層から一般従業員までが経営者意識を持てるようになります。特にマネージャー層は、自分のチームや部門の数値を常にチェックすることで、今月の売上目標など目先の数値だけではなく、生産性の良し悪しを確認できるようになります。
その結果、短期的な数字を追うだけでなく、中長期的に成長するための改善や戦略といった視点を持つことができるようになり、経営者の後継育成にもつながるでしょう。一般従業員にとっても、目指すべき数値や改善ポイントがわかりやすく、自分の業務や行動が経営にどう影響しているのかを実感できるため、日々の業務のモチベーション向上が期待できます。
時間当たり採算を導入するには
ここからは、時間当たり採算の導入方法を2つ紹介します。
時間当たり採算表を作成
コストを抑えながらコンパクトに時間当たり採算を導入するなら、Excelなどの表計算ソフトで時間当たり採算表を作成するのがおすすめです。まずは年間の売上、諸経費、労働時間の予測を立て、それを部署やチームごとの月次計画に落とし込んで予算を作成します。
そして、日々の売上情報や使用した経費の金額、チームメンバーの労働時間を入力し、リアルタイムな時間当たり採算を自動計算できるようにしておきます。このような表を作成することで、日々、計画と実績を見比べられるようになるため、目標達成に意識を向けやすくなるでしょう。
この方法はコストをかけずに導入できる点がメリットである一方、採算を算出するための集約や計算が煩雑になる点に注意が必要です。
ERPなどの基幹システムを導入
時間当たり採算の算出には、売上やそれに紐づく経費のほか、誰が・どのプロジェクトや業務に・どのくらいの時間をかけているか、といったデータが必要です。ERPなどの基幹システムを導入することで、それらのデータの管理が容易になり、時間当たり採算をスムーズに算出できるようになります。
特に、IT業、広告業、コンサルティング業など、いわゆるナレッジワーカーが中心の業種では、複数のプロジェクトを並行して担当している場合も多く、それぞれのプロジェクトにどれだけの時間がかかっているかを正確に把握するのが困難です。プロジェクトごとの正確な工数=正確な原価や労働時間をタイムリーに把握するためには、システムの活用が有効です。
ナレッジワーカーの定義やナレッジワーカーが多い業種について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
時間当たり利益をKPIとした黒字経営の事例
以上のように、企業を成長させるためには、時間当たりの効率性を測ることが重要です。本ブログを運営する株式会社オロ(以下、オロ)では、時間当たり利益をKPIとして活用することで、創業から黒字経営の実現に成功しています。その中でも、オロが経営指標として重視しているのが「一人当たり営業利益」です。この数値を高めることが企業全体の収益向上につながっています。
そして、一人当たり営業利益を最大化するためのKPIとして「1時間当たり営業利益」、すなわち時間当たり利益を重視しています。これは、時間当たり採算と同様の考え方となります。1時間当たりの営業利益を管理することで、生産性の高い事業や業務を見極めることができるだけでなく、短時間で効率的に成果を出せる人を定量的なデータに基づいて判断できる点で優れた指標と言えるでしょう。
また、営業利益ベースの管理を行うことで、「粗利目標は達成しているが営業利益ベースでは赤字」という事態を防げる点もメリットです。ただし、1時間当たり営業利益を管理するうえでは、中長期に渡って企業全体の収益性を向上していくことの重要性を理解する必要があります。短期的な利益向上だけを目的としてしまうと、利益ありきの判断が横行し、長い目で見たときに人材育成が進まないなどのデメリットが生じる恐れがあるのです。オロでは、経営層が時間当たり利益による管理の目的をしっかり伝えることで、継続的な成長と黒字経営を実現しています。
まとめ
変化の激しい現代で企業競争力を高めて生き残っていくためには、経営者やマネージャー層だけでなく、従業員一人ひとりがコスト意識を高めて業務にあたることが重要です。そのためには時間当たり採算の考え方を理解し、社内に浸透させ、仕組みとして定着させていくことが有効な手段となりえます。業種によってはERPなどのシステムを導入することで、時間当たり採算をスムーズに取り入れられるでしょう。
オロでは、時間当たり採算を軸として独自の管理会計を実践し、創業25年にわたって黒字を達成しています。オロの経営手法については、書籍『ナレッジ・ワーカーマネジメント』にも記しています。これから時間当たり採算を取り入れたいと考えている方は、書籍の内容を要約した「8ページでわかるナレッジワーカーマネジメント」を下記よりダウンロードしてご覧ください。