みなし残業の不安を解消!違法性を簡単チェック
2021/3/19公開2022/3/30更新
「みなし残業」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
「聞いたことはあるが、きちんと意味は知らない...。」
「みなし残業を採用している会社はブラックなイメージがある。」
様々なメディアやネットの記事では、なんとなく悪い印象を抱いているケースが多く見られます。
業務内容や業態に応じて「みなし残業」を正しく取り入れている会社もありますが、違法の可能性がある、誤った取り入れ方をしている会社も少なくありません。
今回の記事では、そもそも「みなし残業」とは何か、違法にならない「みなし残業」を導入するためにはどうしたら良いかを見ていきましょう。
目次
そもそも「みなし残業」とは?なぜ設けられているのか
「みなし残業」とは「固定残業」とも呼ばれ、月々に発生する時間外労働を一定時間見込んでおくことを指します。
企業はその見込んでおいた時間分を、あらかじめ時間外労働分の賃金として給与に上乗せしておきます。
本来、企業(使用者)側は、全ての従業員がどれだけの時間働いたのかを正確に把握する義務があります。
しかし、会社の規模が大きくなるにつれ、一人ひとりの従業員の正確な労働時間を把握することは難しくなるでしょう。
職種によっては、本人の報告を正として受け取る以外に計測をする術がない場合もあります。
こうした実状を踏まえ、採用されているのが「みなし残業」です。
「みなし残業」のメリット・デメリット
みなし残業を取り入れることによって発生するメリットとデメリットを下記のようにまとめました。
導入することで便利になる部分もありますが、気をつけなければいけない点もあります。
企業 | 労働者 | |
---|---|---|
メリット | (1) 固定残業時間内であれば残業計算が不要になり、経理の負担が軽減される。 (2) 月々に支払う給与が多く見える場合もあるため、求職者にとって魅力的に映りやすい。 |
(1) 残業をしなくても、一定の残業代が含まれた給与が担保される。 (2) 業務時間内で業務を効率的にこなした人の給与が低く、長々残業して時間で稼ぐといった状況が緩和される。 |
デメリット | (1) 労働者の残業時間が設定したみなし時間未満でも、その分の給与を支払う必要がある。 (2) みなし残業時間として設定した時間を超えた場合は、追加で残業代を支払う必要がある。 |
(1) みなし残業制を正しく理解しないまま違法性の高い残業を強いられ、正当な報酬を受け取っていない・不当に長時間の労働をしているなど、トラブルが起こる可能性がある。 |
【要チェック!】違法の可能性がある「みなし残業」の特徴とは
「自社は違法な"みなし残業"を行っていないだろうか...」と疑問を感じた時にチェックしておきたい「みなし残業」の特徴をご紹介します。
①みなし残業時間を超えた分の給与が含まれていない
このケースはグレーゾーンではなく「違法」です。
例えば、月20時間の時間外労働分の給与を含む条件で、月25時間の時間外労働を行った場合、使用者は労働者が追加で働いた5時間分の給与を上乗せして支払う義務があります。
仮に、基本給に加えて固定残業代20時間分を含んで給与支払いを行う条件の会社があるとします。
Aさんが月に25時間の時間外労働を行なった場合、Aさんははみ出した5時間分の給与を受け取ることができます。
一方、Bさんの時間外労働が月18時間で済んだ場合でも、元々設定されている20時間分の固定残業代が2時間分減額されることはありません。
そのため「みなし残業制なので、どれだけ残業をしても残業代はすべて給与に含まれている」などの理由をつけ、労働者が実際に働いた分の給与を誤魔化すことは、違法です。誤った考え方が浸透している場合、サービス残業の温床になりかねません。
このような給与未払いの事案は実例もあり、厚生労働省の「労働基準関係法令違反に係る公表事案(*1)」の中に違反事例として摘発されています。
②給与に何時間分の残業時間が含まれているのか明記されていない
-
月給350,000円〜(固定残業代を含む)
固定残業分を超える割増賃金は別途支給します
求人募集で上記のように給与の内訳がない表記を見たことはありませんか?
一見して高給で魅力的な求人募集ですが、こうした表記は不適切とされています。
なぜなら、何時間の残業を見込んでいるのかが記載されていないためです。
ここで含まれている時間が20時間なのか、40時間なのか、それともさらに多い時間を想定しているのかによって、どこから残業代が発生するのかが変わります。
そのため厚生労働省では、みなし残業代(固定残業代)を基本給と分けて表記するよう、
下記のように呼びかけています。
固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに、 次の①~③の内容すべてを明示してください。
① 固定残業代を除いた基本給の額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働、 休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨▶ 時間外労働について固定残業代制を採用している場合の記載例
① 基本給(××円)(②の手当を除く額)
② □□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)
③ ○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給※「□□」には、固定残業代に該当する手当の名称を記載します。
※「□□手当」に固定残業代以外の手当を含む場合には、固定残業代分を分けて記載してください。
※ 深夜労働や休日労働について固定残業代制を採用する場合も、同様の記載が必要です。
出典:「固定残業代 - 厚生労働省」
③労使間の合意なしに基本給+固定残業代が変更される
みなし残業代の見直しに伴い、調整のため基本給が減額になるケースにおいては、
従業員の同意を伴わず一方的に定めることは違法の可能性が高いです。
そもそも基本給とは、労働者の能力・学歴・経歴・勤続年数・成果などの要素がベースになって決まるものですから、何の理由もなく基本給を減額される場合は、その理由を確認してみましょう。
また、基本給が各地域で定められている最低賃金を下回ってしまうと、違法になります。
④36協定の上限を超えた残業時間の設定がなされている
企業は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた労働が必要な場合、労使間で協定を締結し届け出を行う必要があります。この協定を36協定と言います。もちろん、36協定を締結したからといって、無制限に労働時間を増やすことはできません。
36協定を締結していも、平常時、残業は月45時間、年360時間まで、と法律上義務付けられています。
つまり、「みなし残業 月80時間」のようなケースは違法の可能性が高いです。
ただし、業態・業種によっては繁忙期が生じるタイミングがあるでしょう。
このように臨時的に発生する残業の場合、月100時間未満・年720時間までが上限として、年に6回までは月45時間を超える残業が認められています。
上記の法定ラインを超えている場合は、労働環境・条件の見直しが必要です。
「みなし残業」のトラブル防止のためにできること
みなし残業が実際に導入されている企業は多くあります。
しかしながら、違法の可能性が高い状態で放置してしまえば、法律違反や訴訟問題に繋がる危険性、労働環境の悪化による従業員の士気やサービス品質の低下、人材の流出などの生産性悪化が懸念されます。
そのような事態を避けるためにも、正しくみなし残業を理解する必要があります。
ここまでにお伝えした内容を雇用者・被雇用者が同意の上、遵守していれば、健全にみなし残業を取り入れることができます。法令を遵守したみなし残業であるかどうかは、主に以下のチェック項目を満たしているかで判断できます。
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- 雇用契約書に就業規則や賃金規定が明記されている
- 事前合意なしに労働契約条件の変更をしない
- 各地域で定められている最低賃金のラインを守る
- 実態に即さないほど長いみなし労働時間を定めない
- 定められたみなし労働時間分を超えて時間外労働をした場合、その給与が支払われている
ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
「みなし残業」の指す意味から、法令を遵守しながら取り入れるチェックポイントまでを述べてきました。
読んでいるうちに「自分の会社は大丈夫だろうか?」といった漠然とした不安から、「〇〇を見直していこう」といった糸口の発見に変わってきてはいませんか?
「みなし残業」とは月々に発生する時間外労働を事前に一定時間見込み、その分の給与を含めておくことで、きちんとルールが守られている状態であれば、法律上は「ブラック」な状態ではないことがわかりました。何をもって「ブラック」と判断するかはそれぞれですが、より良い働き方を目指し、企業も労働者もメリットを得るための方法の一つとして再認識いただけたかと思います。
「みなし残業」は、みなさんが働く上で基本となる労働基準法や36協定に沿って形作られている制度です。
守るべき項目を守って活用すれば、違法と判断されることなく、どんな企業でもみなし残業制を導入できます。
もし「今後新たにみなし残業を取り入れようと検討している」もしくは「現状のみなし残業のルールに疑問を感じている」ケースに当てはまるようでしたら、先に述べたチェック項目をぜひ確認してみてください。本記事が職場環境をより良くするための第一歩として、お力になれれば何よりです。