工数管理とは?利益向上や業務改善に活かすための管理手順を解説
2022/5/17公開2024/5/15更新
プロジェクト管理や原価管理、業務改善などを行ううえで工数管理は欠かせません。しかし実際にかかった工数を把握して日々入力する作業は、従業員にとって負担になり得るものです。
そこで本記事では、従業員に「無駄」「意味がない」と感じさせない工数管理の手順を解説します。日々の入力を楽にするだけでなく、効率的に工数を分析するためのツール選定のポイントも紹介しますので、ぜひ参考になさってください。
目次
工数管理とは
工数管理とは、業務にかかった時間と人数を把握し、常に確認できる状態にしておくことです。工数とは、業務完遂までにかかる作業量を指す言葉であり、作業時間×人数で算出します。それぞれの業務やプロジェクトにどれだけの時間がかかっているのかを把握することで、プロジェクトの進捗管理が可能です。また、かかった時間によって人件費が明確になり、原価管理や業務改善にもつなげられます。
各プロジェクトごとの工数や、従業員一人ひとりが各作業にかけている工数を把握することは、企業が利益を出すうえで重要です。そして正確な工数を把握するためには、従業員がこまめに工数を入力する必要があります。もし入力作業が負担になってしまったら、続かなかったり精度が下がったりしてしまう恐れもあるため注意が必要です。
勤怠管理との違い
勤怠管理とは、従業員の始業・終業時間や休憩時間など、就業状況に関わる時間を把握しておくことです。勤怠管理を行うことは労働基準法で定められているため、企業には正確な管理が求められています。給与計算や企業のコンプライアンスにもかかわる業務です。
一方、工数管理は企業に義務付けられているわけではありません。勤怠管理を行っていない企業はありませんが、工数管理を行っていない企業はあると考えられます。工数管理は企業が利益を上げるために欠かせないものです。各プロジェクトの人件費を求めたり、時間のかかっている業務を改善したりといったことは、工数管理を行うことでしか実現できません。
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工数管理を行う目的とメリット
工数管理を行う一番の目的は、どの業務に、誰が、何時間関わったかを可視化することです。正しく把握することでムダを発見でき、生産性向上のための具体策を検討できるようになります。その結果、企業の利益向上につながるのです。
工数管理を行うことで、主に以下のメリットがあります。
業務効率化につながる
各プロジェクトや業務にどれだけの工数がかかっているかが把握できれば、予定工数を超過している業務や、特定の従業員に負担がかかっていないかといった、問題点の把握が可能です。ムダな作業の削減や適切な人員配置など、業務改善のための具体策を講じることで、業務効率化につながるでしょう。
また、赤字になりそうなプロジェクトを早期発見して手を打つこともできるようになります。
従業員のコスト意識向上
工数が可視化されることで、各従業員の時間意識・コスト意識の向上が期待できます。工数を元に各自の目標を立てやすくなったり、改善すべきポイントが見えやすくなったりもするでしょう。従業員が自らコスト意識を持つことで、利益が上がる体制を築けるのです。
スケジュールや見積もりの精度向上
現時点での正確な工数が管理できれば、プロジェクトのスケジュール管理もしやすくなります。過去の類似プロジェクトを参考に、精度の高い見積もりやスケジュールを作成することもできるでしょう。 これらの目的を達成するためには、現実とズレのない精度の高い工数管理が重要になってきます。
工数管理の手順
工数管理を行うためには、大きく分けて以下の4つのステップがあります。
- 工数を見積もる
- 工数を入力する
- 予定と実績情報の比較
- 蓄積された工数情報を分析し、改善へ
工数管理では、PDCAサイクルを回して工数を正しく把握し、利益向上を目指していくことが大切です。それぞれのステップを具体的に解説していきます。
①工数を見積もる
まず、プロジェクトを完遂するまでにどれだけの工数がかかるのかをはじめに見積もります。デザイナーやエンジニアをアサインするうえでは、見積もりの精度が非常に重要です。近い前例があればそれを参考に、前例がなければ各業務を行うチームで検討して見積もりを作りましょう。
このとき、あわせて工程表も作成します。工程表とは、いつ・どの作業を・誰が・どれくらいの時間で終えるのかを計画したスケジュール表のことです。メンバーのスキルも考慮しながら工程表を作成しましょう。
人月単価とは
1人の従業員が1ヶ月間業務に従事した場合にかかる人件費のことを人月単価といいます。IT業やシステム開発業などで使われることが多い言葉です。スキルや経験、時期などによって変化するため、同じ人でも人月単価が異なる場合があります。
プロジェクトの見積もりを作る際は、この人月単価を考慮することが重要です。プロジェクトメンバーそれぞれの人月単価に基づいて見積もりを作ることで、精度を高められます。
②工数を入力する
プロジェクトが始まったら、管理表や管理ツールに日々の工数を入力していきます。ここで大切なのが、入力する数値の精度を高めることです。毎日入力できる状態が好ましいでしょう。
1人の従業員が複数のプロジェクトに関わっていることもあるため、該当のプロジェクトにどれだけの時間を使ったのか各自が記録しておかなければなりません。そのためには、入力作業や毎日入力されているかのチェックに手間がかからないよう、ツール等を使った仕組み作りが必要です。
③予定と実績数値の比較
日々入力している工数の実績と、はじめに見積もった予定とを比較し、スケジュールの進捗や費用がオーバーしそうにないかを確認します。プロジェクトが終わった段階で全体を振り返ることも大切ですが、この比較をマネージャーや経営層が日々行うことも重要です。遅れていたり予定より工数がかかっていたりする業務を発見し、先手を打つことができます。
勤怠管理や工程表とあわせて工数管理を行えば、複数の管理者がチェックできフォローし合えるのでおすすめです。
④蓄積された工数情報を分析し、改善へ
プロジェクトが終わったら、工数情報を分析して次の改善へつなげていきましょう。たとえばチーム別や個人別などで分析し、人によってどれほどの差があったか、またどの工程が予定より超過したのかなど、さまざまな観点で分析します。
分析した結果、どこを改善すれば利益が上がるのかを検討し、次回の類似プロジェクトの参考にします。ひとつのプロジェクトの予実管理に留まらず、他のプロジェクトとも比較して改善ポイントを探すことも大切です。
工数管理に使える具体的なツール
正確な工数管理を行うには、従業員がいかに日々正確な工数を入力していけるかどうかが肝心です。さらに、入力されたものは管理者や関連するメンバーが閲覧・管理できるようになっている必要があります。そのため、Excelやシステムに入力して管理されていることが一般的です。
それぞれのツールを利用するメリットとデメリットを以下に解説するので、どちらを導入しようか迷っている場合は参考にしてみてください。
Excel
表計算ソフトであるExcelは、OSがWindowsのパソコンであれば無料で利用可能です。利用するハードルの低さと利便性の高さから多くの企業で使用されています。Excelを利用する場合は、以下のようなメリットとデメリットが考えられます。
Excelのメリット
- 導入費用が不要or抑えられる
- 抵抗なく操作できる
社内で使っているパソコンにExcelのソフトが入っていれば、費用をかけずに利用できる点が大きなメリットです。新たに導入する場合でも、システムに比べて費用を抑えられます。普段から仕事でExcelを使う機会が多ければ、誰でも操作に迷うことがなく、すぐに使い始められるでしょう。
Excelのデメリット
一方、Excelを利用するデメリットとして以下のようなことが考えられます。
- 最初にフォーマットを作成しなければならない
- 複雑な計算には限界がある
- 共有して使うにはやや不便
- スマホからの入力がしづらい
Excelを使う場合、まずは自社に合った工数管理のフォーマットを作成しなければなりません。既存のテンプレートを使う場合も、自社向けにカスタマイズするなどの手間が必要です。カスタマイズするにもExcelの関数では限界があるため、求める機能を実現できない可能性があります。複雑すぎる関数は、作成者しか管理できなくなる点もデメリットです。
さらに、ひとつのファイルを複数人で共有する場合、他の人が入力したものを誤って削除したり、同時に保存作業を行うとうまく反映されなかったりすることがあります。基本的にはパソコンから使うものであるため、スマホだと操作しづらく、慣れていない場合は不便に感じてしまいます。
工数管理システム
工数管理システムは最初から必要な機能を備えた状態のため、フォーマット作成の手間が省略可能です。従業員が各自工数を入力することで、プロジェクトごとにかかった工数を自動で集計します。工数管理システムを利用するメリットとデメリットは、以下の通りです。
工数管理システムのメリット
- 工数情報をリアルタイムで把握できる
- 入力した数値に基づいた分析ができる
- 入力ミスや入力漏れが起こりにくい
- 勤怠に紐づけることで従業員の手間が省ける
各従業員が入力した工数の中から必要なものを自動集計し、グラフ化までをタイムリーに行え、計算ミスなども起こりにくい点がメリットです。入力された数値を用いて、様々な分析レポートを作成できるシステムもあります。分析のための集計作業を省略でき、タイムリーな経営判断の手助けになるでしょう。
システムでは他の人の項目に入力できないので、誤入力や誤削除を防げる点も強みです。入力漏れアラートが出るシステムや勤怠に紐づけて管理できる機能を持つシステムもあるため、入力忘れを防ぐ効果も見込めます。
工数管理システムのデメリット
逆に、システムの利用には以下のようなデメリットもあります。
- 導入費用がかかる
- 慣れるまでに時間がかかる
- 既存システムと重なる部分が出る
システムを使う場合は、導入やカスタマイズのための初期費用や定期的な利用料がかかります。初めて使うツールであれば、従業員が使えるように教育を行う時間も必要です。また慣れるまではミスも起こり、サポートに手間がかかることも考慮しておきましょう。すでに利用している勤怠システムで工数入力を行なっている場合、二度手間になって従業員の負担を増やしてしまう恐れもあります。
ツール選びで意識したい3つのポイント
工数管理を行うツールには、上述のようにそれぞれメリットとデメリットがあります。Excelであれば自社に合ったカスタマイズがどこまでできるか、システムであれば求めている機能があるかを意識して選ぶことになるでしょう。また、ただ工数を管理するだけに留まらず、そこから算出される労務費を原価に計上できるシステムかどうかも押さえておきたいポイントです。
ツールを選ぶ際は、以下の3つのポイントもあわせて意識してみてください。
①入力の負荷が少ないこと
工数管理は日々行い、正確に記録することが大切です。しかし従業員にとって、毎日の入力は手間となります。そのため、工数管理ツールは従業員にとって入力の負担が少ないものを選びましょう。たとえば勤怠管理と工数管理が紐づいているなど、二度手間が発生しないものがおすすめです。スマホからの入力機能が備わっていると、外出先やテレワークからでもタイムリーに入力が可能です。
また、従業員には工数管理の重要性を理解してもらい、工数入力を後回しにしないよう啓蒙することも欠かせません。
②自社の業種に合っていること
システムが自社の業種の特性に合っているかも押さえておくべきポイントです。たとえばクリエイティブ業や広告業などのプロジェクト型ビジネスであれば、1人が同時並行で複数のプロジェクトに携わっていることも多いため、プロジェクトごとの工数管理がしやすいシステムを選びましょう。
業務の進捗とあわせて工数管理を行う場合、工程表などが自社の業務フローに合っていなければ、使わない機能となってしまう恐れもあるので注意が必要です。
③分析を支援する機能があること
プロジェクトの作業時間の内訳を出力する機能や、従業員ごとの稼働状況がわかる機能など、多角的な軸で工数を集計できるかどうかもポイントのひとつです。集計したものをグラフなどでまとめてレポーティングできれば、分析のための手間を省けて効率化できます。自社の経営判断に必要な分析軸を備えたシステムかどうか、あらかじめ確認しておきましょう。
もう意味がないとは言わせない!工数入力だけで終わらせないために
業務にかかった時間や人数を把握することで企業の利益向上につなげる工数管理は、企業にとって大変重要なものです。赤字プロジェクトを未然に防いだり、赤字になった場合に原因究明したりするためにも、正確な工数をタイムリーに把握できる仕組みを構築しましょう。
工数管理にはExcelかシステムを使用することが一般的です。どちらのツールにもメリットデメリットがあるため、自社の状況にあわせて選ぶ必要があります。システムであれば、従業員が日々の工数を入力をするだけで自動集計をしたり、セグメントごとの分析を出力できたりと、スムーズな工数管理を行うことができるでしょう。
現場の社員からは「工数管理は意味がない、時代遅れ」といった意見もあるでしょう。工数管理をマネジメントや事業運営に活かすためには目的やメリットを伝えて工数入力の必要性を説くだけでなく、工数を活用しやすい仕組みづくりが必要です。
下記の資料では、仕組みづくりのヒントとなる工数を活かすための管理ポイントや、制作部門や営業部門などの部門別活用パターンをまとめています。ぜひご覧ください。