レガシーシステムとは。「2025年の崖」との関係や脱却方法なども説明
2022/8/19公開2024/5/22更新
レガシーシステムからの脱却が唱えられている昨今、レガシーシステムを使い続けている企業は少なくありません。経済産業省が公表した「DXレポート」でも古いシステムの継続的な利用は企業の成長の足枷となり、経済的損失にもなりかねないと懸念されています。
そこで本記事では、レガシーシステムについてや2025年の崖との関係を分かりやすく説明した上で、企業がレガシーシステムから脱却するための方法などを解説します。
目次
レガシーシステムとは
レガシーシステムとは、最新の技術ではなく、古い技術で構築されているシステムのことです。具体的には、1980年代に多くの企業が導入した、メインフレームやそれを小型化したオフコン(オフィスコンピューター)といったコンピューターを使ったシステムを指します。
1990年代後半から2000年に入る時期にかけて、企業の多くが標準化された仕様、もしくは公開されている技術を用いたオープン系のシステムに移行しました。この移行時期に開発されたオープン系システムは、すでに20年以上が経過しており、現代では古くなりつつあります。これらのシステムは最新技術に対応しにくく、レガシーシステムに含まれることも珍しくありません。
レガシー化の原因
当時は最新の技術が使われていた社内システムも、時間の経過や技術の進化とともにレガシー化してしまいます。その背景にはシステムの老朽化だけでなく、様々な要因が潜んでいます。
改修や追加開発による複雑化
システムに対し、不具合の改修や機能の追加開発を行うケースは少なくありません。そして何十年と使い続けるうちに、細かな改修や追加機能が増え、システムそのものが複雑化してしまいます。その結果、パフォーマンスの低下や維持費の増加につながり、システムのレガシー化が起こるのです。
ナレッジ・スキルの消失
システム導入当初に在籍していた従業員がすでに退職していたり定年を迎えていたりすることも、レガシー化の一因です。システムの仕様を知る人がいなくなり、使用されているプログラミング言語自体もレガシー化している状況では、問題が起こった際も社内で対応できないでしょう。技術革新とともに、旧タイプのシステムに関する情報も入手しにくくなるため、新たに学び直すことも困難になっています。
開発会社への依存
システムを開発・導入する際は、開発技術や保守方法を開発会社に一任し、要件定義のみを自社で担うケースが一般的です。しかしそれでは、社内に技術を持つ従業員が育たず、開発会社なしにはシステムを維持・変更できない状態に陥ってしまいます。その結果、システムを自社で自由に更新できなくなるのです。
レガシーシステムによって生じる問題とは?
レガシーシステムによって生じる問題は、具体的には下記の5つです。
- パフォーマンスの低下
- 莫大なコストが発生する
- 管理が属人化しやすい
- 法改正などの変化に対応しにくい
- セキュリティリスクの増加
それぞれ詳しく解説します。
①パフォーマンスの低下
レガシーシステムは従業員の業務パフォーマンスを低下させ、社内全体の生産性低下につながります。
例えばシステムの改修要件に対して、部分最適で何度も改修を重ねることで、「ソースコードのスパゲッティ化」と呼ばれる全体最適から遠いシステムになってしまいます。 また、システムを長年使い続ければ続けるほど、バグに対応できなかったり、データ消失の危険性が高まったりするので注意が必要です。
加えて蓄積されたデータ量が膨大となり、検索速度が遅くなることも、ユーザーがシステムを円滑に動かせなくなる原因となります。 これらは社内全体における業務の進捗の他、これまでに企業が蓄積してきたデータといった資産にもかかわります。
さらに、ブラックボックス化したレガシーシステムは、ひとかたまりのデータの一括処理(バッチ処理)完了までに時間がかかります。データの一括処理を終業後に実施したとしても、業務開始時刻までに一括処理やバックアップが完了しない場合もありえます。こうした場合、社員に残業をしてもらうことにもなりかねず、残業代の支払いが必要になることもあるでしょう。
②莫大なコストが発生する
新システムの導入にはコストがかかるため、従来のシステムを使い続ける方が、コストを抑えられるように感じるかもしれません。しかし、過去に導入したシステムを部署単位で最適化したり、新技術の無理な導入を繰り返したりしていると、システムが複雑化・肥大化します。肥大化・複雑化したシステムの保守管理にはさまざまなコストがかかるため、トータルで考えると莫大な金額になるといえるでしょう。
例えば、データベースの維持やアップグレード、データのセキュリティ確保などに費用がかかります。それだけでなく、新しい技術に投資できず時代のニーズから後れをとることにもなりえます。
また、システム構造が複雑化した結果、ちょっとした改修でも思わぬところに影響が出て、システム障害が頻発するようなこともあるでしょう。システム障害が発生すると、社内業務が停止する可能性があるだけでなく、最悪の場合、顧客データや研究開発データなど重要な情報が消失する恐れがあります。システム障害の度に社内外の人的コストを割く必要があること、リスクヘッジにかかるコストが通常よりも高いという点にも気をつけなければいけません。
③管理が属人化しやすい
レガシーシステムは、特定の技術や知識を持つ一部の人しか運用できないことが多く、特定の人材しか業務を担当できない、といった属人化につながりがちです。 レガシーシステムを一部の人に依存して利用している企業の場合、システムを理解している特定の人に負担がかかります。そのような場合、特定の人が退職や異動などで不在になると、システムが短期間のうちにブラックボックス化するので注意が必要です。
レガシーシステムが構築された当時(1990年後半から2000年頃)のことをよく知る社員や技術者は、2025年~2030年頃にかけて定年退職の年齢に達します。2025年4月に定年退職の年齢が引き上げられるものの、いずれシステム担当者は定年退職を迎えることになります。外注の場合も同様です。そのため、システム担当者不在後のシステムの扱いについて検討しなければならないことに変わりはないでしょう。
④法改正などの変化に対応できない
ビジネス環境が変化する昨今、法改正とともに求められるシステム要件が次々に変化しています。例えば、電子帳簿保存法の改正により、2024年1月から電子取引データのデータ保存が完全義務化されました。レガシーシステムの場合、システム側でこういった法改正に対応できなかったり、改修によりさらにレガシー化を進めてしまう危険性があります。
つまり、レガシーシステムを利用し続ける企業はスピード感を持って臨機応変に対応できず、ビジネスで後れをとることが懸念されます。
⑤セキュリティリスクの増加
企業にとっての命取りになりかねない、セキュリティリスクについても注意しなければなりません。なぜなら、システムが古くなればなるほど、そのシステムの弱みをついたコンピューターウイルスが生まれていき、セキュリティが脆弱になってしまうからです。
すでにバージョンのサポートが終了した古いシステムでは、次々発生するセキュリティリスクに対応できません。社内で対応しようとも、ブラックボックス化されたシステムはメンテナンスできる人も限られており、人員確保が難しかったり、工数がかかってしまったりする可能性もあるでしょう。
レガシーシステムからの脱却を阻む要因
問題点が指摘されているレガシーシステムですが、多くの企業が脱却できていないのはなぜでしょうか。
レガシーシステムから脱却できない主な理由として、
- 現行システムがある程度有益で従業員の努力により使い続けられる
- システム刷新のコスト不足
- 新システムの要件定義ができる人材の不足
が挙げられます。
レガシーシステムから新システムに移行するには、少なからずコストと手間がかかります。そのため、現行のシステムに不便は感じつつもまだ使える場合、システムの移行を後回しにしがちです。また、短期的には現行システムを使い続ける方が安価であるため、長期的なコスト検証まで至っていないという企業も多いでしょう。
さらに、いざ新システムを導入しようと思っても、現行システムをよく知る人材が退職や定年によって社内におらず、システムを置き換えるための要件定義ができないといった状況に陥ってしまうことも、レガシーシステム脱却を阻む要因のひとつです。
レガシーシステムと2025年の崖問題の関係
2018年に経済産業省が公表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(*1)では、約8割の企業がレガシーシステムを抱えていることが明らかにされました。
このレポートでは、企業がレガシーシステムに対応できなかった場合、DX実現が難しくなるだけでなく、2025年以降には最大12兆円の年間経済損失が生じると述べられています。
2025年の崖について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
レガシーシステムから脱却する方法
レガシーシステムから脱却する方法として下記の3つが挙げられます。
- モダナイゼーション
- マイグレーション
- レガシーフリー
それぞれ詳しく解説します。
モダナイゼーション
モダナイゼーションは、現代化、近代化という意味を持ち、すでにあるデータやプログラムなどといった社内のIT資産を活かすかたちで、現在稼働しているソフトウェアやハードウェアを新しい製品や設計に置き換えることです。
モダナイゼーションには現行機能を受け継いで老朽化したシステムを最適化できるというメリットがあります。主な手法は下記の3種類です。
- リプレイス:古くなった基幹システムや破損した基幹システムを新しいシステムに置き換える手法
- リホスト:基幹業務用として使われる古いオフィスコンピューターや大型コンピューターなどで稼働する業務システムなどを、クラウドシステムなどで構築された新しいシステム基盤に移す手法
- リライト:新しいプログラミング言語を活用して、既存ソフトウェアと同等に動くソフトウェアを新しい機種やOSを対象に再開発する手法
マイグレーション
マイグレーションとはソフトウェアやハードウェアのシステム、もしくは蓄積されたデータなどを別の環境に移転したり、新環境に切り替えたりすることです。前述したモダナイゼーションがIT資産を活用して既存のシステムを新しくするのに対し、マイグレーションはシステムの性能や要件などの変更は行いません。
マイグレーションのメリットは既存のシステム構造を新しいシステムにおいて再現できる点にあります。マイグレーションは下記の流れで進めていくことが一般的です。
- 現状分析:現行資産の棚卸し、要件定義、移行方針の検討などを行う
- 開発:言語の書き換え、システム全体の再構築など
- テストと移行:新しいシステムと古いシステムの比較テスト、総合テストなど
- 本番での運用:並行稼働、本番稼働など
レガシーフリー
レガシーフリーとは古くなった部品や機器を備えず、新しい仕様を全面的に採用したシステムやコンピューターのことです。
レガシーフリーのメリットは、古い規格の部品に対応する必要がないため設計が簡素で、同等のグレードの製品よりも価格が安いところにあります。また、古い技術に対応するための制約から解放されるため、高い性能も期待できます。
SaaSでレガシーシステムから脱却
上述のように、レガシーシステムから脱却する方法はいくつか考えられます。しかし、環境や仕組みを整えないまま、これまでと同様にシステムを構築した場合、いつか再びレガシー化に陥ってしまうリスクは拭えません。
そのため、レガシーシステムから脱却する方法として、近年ではSaaSを利用してシステムをクラウド化するという方法も一般的になっています。ベンダーが提供しているクラウドシステムなら、定期的なメンテナンスが提供されるため、常に最新の状態にアップデートできます。また、ベンダーからのサポートが得られるため、保守のための人員を割く必要もありません。
本ブログを運営する株式会社オロのクラウド型ERP『ZAC』も、社内業務を効率化できるクラウドシステムです。自社に必要な機能のみを組合わせることができるパラメータ機能を持ち、必要に応じて機能やライセンス数の拡大・縮小も可能なため、比較的低コストでの運用が可能です。レガシーシステムからの脱却を考えている方はぜひご検討ください。
まとめ
レガシーシステムとは古くなった技術や仕組みで構築されたITシステム全般を指します。レガシーシステムを使い続けることで生じるリスクは、経済産業省が発表した「DXレポート」で説明されています。企業はレガシーシステムを使い続けることで、経済的損失をはじめさまざまなリスクが生じる可能性があることを認識しなければなりません。
現在レガシーシステムを利用している企業は、古いシステムからの脱却をできる限り早く行うことが望ましいでしょう。脱却方法としてモダナイゼーション、マイグレーション、レガシーフリーを挙げました。SaaSを活用することも、脱却のために有効な手段です。これらの方法のなかから自社のニーズや状況に合った方法を選択してください。