労務管理とは?人事との違いから労務管理の課題まで解説
2020/9/04公開
従業員一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮するために欠かせない労務管理。その重要性を認識しつつも、「具体的に何をすればいいのか、どのような定義なのかわからない」という方も多いはず。そこで本記事では、労務管理の概要から人事と労務の違い、労務管理の業務内容、労務管理の課題と対応策まで、労務担当者が知っておくべき基礎知識について解説します。
目次
労務管理とは
労務管理とは、勤怠・賃金・福利厚生など、従業員の労働に関する業務を法律や就業規則に基づいて管理することです。経営要素である「ヒト」「モノ」「カネ」の中でも、最も重要な「ヒト」を活かすための管理になります。従業員一人ひとりが快適に働き、高いパフォーマンスを発揮するために、労務管理は欠かせない業務と言えます。
労務と人事の違い
労務と人事の仕事は混同されがちですが、一体何が違うのでしょうか。
会社によっては、一般的に労務の業務範囲とされる勤怠管理や給与計算を人事が担当していたり、人事と労務が同一部署に統括されていたりことも珍しくありません。どちらも「人」に関わる業務のため、兼務が発生しやすくなることも、労務と人事が混同される一因と言えるでしょう。
労務と人事の業務範囲は会社によって様々ですが、一般的に労務は就業規則の整備や労働時間の管理など、「職場全体の環境を整備する」役割を担います。
一方、人事は従業員の採用・入退社の手続き・教育研修・異動・人事評価など、「個々の従業員の働き方をサポートする」役割を担うケース仕事が多いようです。
労務 | 人事 |
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など |
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労務管理の基本的な業務
ここからは勤怠管理や給与計算も含めた労務管理の各業務について解説します。
就業規則管理
労働基準法に則った会社ごとのルールが就業規則です。給与や労働時間といった労働条件から職場の規律や懲戒まで、さまざまな決めごとが記されています。
常時10人以上の従業員を雇用している会社では、就業規則の作成が必須です。その際、労働時間、休日、賃金、退職・解雇の事由に関する項目は必ず記載しなければいけません。会社が独自のルールで定めている場合は、退職金や職業訓練、災害補償などについても記載する必要があります。
就業規則は新しい業種ができた場合や法改正があった場合、その都度改定し社内で周知する必要があります。
勤怠・労働時間管理
勤怠管理とは、出退勤の時刻・遅刻・欠勤・早退などを管理することです。勤怠管理によって算出された労働時間を、法に則って適切に管理することを労働時間管理といいます。
働き方改革によって、2019年4月から全従業員の労働時間を把握することが企業に義務付けられました。タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間など、客観的な根拠に基づき、企業は全従業員の労働時間を把握しなくてはいけません。働き方の多様化にも伴い、タイムカードの打刻のタイミングやテレワークの処理ルールなど、今後はより細かいルールづくりが求められていくでしょう。
給与・賞与計算
労務の軸となる業務が給与・賞与計算です。遅滞やミスは許されないので、慌てて計算を間違えないよう計画的に進めることが大切です。給与や賞与は従業員の生活を支え、モチベーションにもつながります。賃金規定をしっかり把握し、スピーディーかつ正確に行えるよう業務体制を整えましょう。
社会保険手続き
健康保険や厚生年金保険など、従業員の病気やケガなどに対して必要な給付を行う公的な保険が社会保険です。労務では保険加入手続き、住所変更、扶養異動、出産・育児・介護・疾病による休業に関する給付金申請などを行います。社会保険料は天引きした本人負担分に会社負担分を加えて、翌月末に年金事務所に納付します。最近ではインターネット(Pay-easy)を利用して納付する企業も多いようです。
労働保険の年度更新
雇用保険と労災保険をあわせた労働保険は、正社員・パート・アルバイトといった雇用形態にかかわらず、一人でも従業員を雇っていれば加入義務が発生します。労働保険料は従業員に支払う1年間の賃金総額に保険料率をかけて算出し、年に一度、会社全体分をまとめて納付します。
福利厚生管理
福利厚生とは、社会保険料の事業主負担や特別休暇制度など、従業員に対して会社が提供する金銭以外の報酬のことを言います。出産お祝い金制度やバースデイ休暇など、会社ごとに特徴的な福利厚生が用意されているケースが多いようです。ちなみに、労働安全衛生法で企業には健康診断の実施が義務付けられていますが、福利厚生として実施するのが一般的になっています。
安全衛生管理
労働安全衛生法に基づき、企業は従業員の安全と健康を確保しなければいけません。危険防止措置や安全衛生教育の実施、前項の健康診断も含めた従業員の健康増進の措置などの制度を整え、それらが適切に実施されているか管理するのも労務の役割です。
労災対応
安全衛生管理を行っていても、業務中の事故や病気が発生することはあります。こうした労働災害への対応も労務が行います。場合によっては、家族への賠償や労務トラブルに発展するおそれもあるので、慎重な対応が必要です。
労務トラブル対応
セクハラやパワハラといったハラスメントや過重労働など、さまざまな労務トラブルに対応するのも労務の仕事。未然に対策を練りつつ、万が一労務トラブルが発生した場合も円満解決を目指して対応することが大切です。
労働組合との関係においても、活動を妨害したり不用意な発言をしたりしないよう留意し、労務トラブルにつながることのないよう心がけましょう。
業務改善
昨今、働き方改革に伴う法改正もあり、労務管理の見直しを迫られている企業も多いことでしょう。労務管理を効率化し、改善することが、従業員にとっても労務担当者にとっても負担軽減につながります。定期的に発生する労務管理項目については、最新の法令や専門家の知見などを参考にしながら、随時改善していきましょう。
労務管理の5つの課題
多岐にわたる業務領域
労務管理には勤怠管理や給与管理など、毎月の業務量やタイミングが決まっているものもあれば、労務トラブル対応など突発的に発生する業務もあります。そのため、定例で発生する業務については年間スケジュールを可視化し、突発事項に対応できるよう備えることが大切です。
働き方の多様化
少子高齢化が進み、終身雇用や年功賃金といった日本的な雇用システムは機能しなくなりつつあります。徐々に浸透しつつあったテレワークやフレックスタイム制は新型コロナウイルスによる外出自粛の影響でいっきに加速し、今後さらに働き方は多様化していくでしょう。性別・年齢に関わらず、それぞれのライフステージに応じて柔軟に働ける環境を整えることが労務には求められます。
労務トラブルへの意識の高まり
昨今、ハラスメントや過重労働に対する世間の意識は非常に高まってきています。一方、経済情勢の変化の中で、やむなく労働条件の変更や雇用調整を行う必要が生じる会社もあるはずです。こうした労務トラブルにつながる可能性のある事案に対しては、法令を守ることはもちろん、労使間で事前に十分話し合うよう心がけることが望ましいでしょう。
会社の成長と労務管理
小規模な会社では、人事・総務が労務を兼任するケースも珍しくありません。従業員数も少ないため、タイムカードや表計算ソフトを使った手作業で労務管理することもできます。
しかし、従業員数が増えるにつれて、労務管理作業は膨大になります。労働基準法や安全衛生管理法などの労働法は従業員数に基づいて対応する内容が変わる項目もあるため、会社規模に応じて就業規則の見直しなどが必要になります。
会社の成長過程において、どのタイミングで労務管理の専門部署を設けるか、人員を増やすのか、必要なソフトウエアを導入するか、その見極めも重要です。
労務コンプライアンスの遵守
労働法は時代に応じて変化します。働き方改革にともなって2019年4月から随時、時間外労働時間の上限規制、年5日の有給休暇取得の義務化、高度プロフェッショナル制度、待遇についての説明義務強化などが施行されています。
労務担当者にとって、時代の変化に柔軟かつ適切に対応していくことは重要な責務となります。厚生労働省が提供しているポータルサイト「確かめよう労働条件」では、法令・制度の紹介などがわかりやすく掲載されています。積極的に最新情報をチェックし、職場環境に反映していきましょう。
煩雑な労務管理はシステムで効率化
正確さとスピード、そして変化に対する柔軟性が求められる労務管理。重大なトラブルにつながる前に、可能な限り作業をシステム化して業務を効率化しましょう。そのためにまず、これまで紙や表計算ソフトなどで管理されていた業務のシステム化を検討してみてはいかがでしょうか。
たとえば勤怠管理のようなルーティンワークや、文書管理など決まったフォーマットを社内共有する業務はシステム化しやすい内容です。ERPパッケージなどのシステムを導入することで、給与計算や保険手続きなど連動業務もあわせて効率化できます。
本ブログを運営する株式会社オロのプロジェクト型ビジネスに特化したクラウドERP『ZAC』では、労務管理をサポートするさまざまな機能を提供しています。
たとえば『ZAC』の勤怠管理機能を使うと、出退勤時間や休憩時間などの勤務時間管理のほか、36協定や各社独自の就業規則に準拠した残業・休暇管理が行えます。アウトプットの形式も豊富なので、働き方改革に応じた必要なレポート作成もスムーズになるでしょう。
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まとめ
社員一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮するために欠かせない労務管理。会社が小規模なうちは人力での労務管理もできますが、会社の規模が大きくなるとそうはいきません。労務管理をないがしろにすれば、大きなトラブルにつながるリスクもあるため、早いうちからシステム化し、業務を効率化するといいでしょう。短期的な成果が見えづらく、つい後回しになりがちな労務管理ですが、持続的な会社の発展には欠かせないものになります。本記事を参考に、ぜひ自社に最適な労務管理を実現してください。
参考
※1...原尚美・菊地加奈子, 『ひとりでできる 必要なことがパッとわかる 人事・経理・労務の仕事が全部できる本』, ソーテック社, 2019
※2...厚生労働省 : 人を雇うときのルール
※3...厚生労働省 : 「働き方改革」の実現に向けて
※4...厚生労働省 : 確かめよう労働条件
※5...片岡宏将・吉崎英利, 『図解いちばんやさしく丁寧に描いた総務・労務・経理の本 '20~'21年度版』, 成美堂出版, 2020
※6...厚生労働省 : やさしい労働管理の手引き