IPOを実現するためのKPI管理の重要性
2017/7/18公開2020/11/19更新
本連載では、「3社でIPOを実現した経営参謀が説く、IPOを実現する経営計画・予実管理」をテーマに、3社のIPOいずれも下方修正していない経営参謀が、「上場ゴール」にならないための経営計画づくりを全6回に分けて具体的にお示ししたいと思います。
目次
今回はKPI管理の重要性について説明します。
「KPI管理」の意義
経営計画を達成するためには、KPI管理が重要です。KPIは「key performance indicator」の略称で、「重要業績評価指標」という意味です。目標達成のための尺度を計るための指標「業績評価指標(performance indicators)」の中で特に重要なものをKPIとします。
「Key」、つまり事業戦略のカギとなる指標ということです。目標の進捗状態を示すための定義するものであるため、KPIで成約率、成約件数、平均受注単価を設定して次なる施策などに役立てます。日次、週次など一定の期間で業務実績を計測し、進捗状態が思わしくなければ改善点を洗い出します。
また、KGIの設定も必要になります。KGIとは「Key Goal Indicator」の略で、日本語では「重要目標達成指標」です。ゴールとなる目標を設定しなければ、何を具体的に改善するのか、どのような施策を実行するのかはあいまいになります。
では、具体的にどのようにKPIとKGIを活用するのか、例えばECサイトを運営する会社の売上予算を達成するにあたり、以下のようにKPIとKGIを設定したと仮定します。
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- KPI
- インターネット広告による集客5%アップ、検索経由による集客数5%アップ、コンバージョン(成約)率10%改善、リピート率10%改善
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- KGI
- 売上は前期比30%アップ
このKPIとKGIの設定をそれぞれ見ると、KPIは売上アップという目標を達成するために、どのような点を改善すれば良いのかを挙げています。
ECサイトですのでインターネット広告と検索経由による集約、コンバージョン率とリピート率の改善などが目標達成のためのプロセスとして挙げることができます。
KPIを設定するには現状を把握することが必要ですので、KPI設定前にECサイトのアクセス数、流入元、コンバージョン率、リピート率などの分析が必要となります。
改善の余地がある点に関してはKPIとして改善数値を上げることにより、具体的にどのくらい改善を目指すのかがハッキリと認識できます。
KPIはプロセスの実施状況を計測するために、実行の度合い(パフォーマンス)を定量的に示すものです。KGI達成に向かってプロセスが適切に実施されているかどうかを中間的に計測するのがKPIなのです。
「KPIの設定がない=中間目標を持たない」業務は当然ながら効率も落ちます。モチベーションを持続させ引き上げるためには、各人のセルフコントロールも必要ですが、チームで共有できる中間目標の設定が大切です。
ただし「KPI」の想定がずれれば「KGI」の結果も大きく変わります。「KPI」の設定には目標(ゴール=KGI)に対する戦略の理解と、実行する戦術をよく考え指標を設定したいものです。
KPI特定にあたって、「SMART」という頭字語がよく使われます。KPIには次の要素が必要とされます。それは、Specific(明確性)、Measurable(計量性)、Achievable(達成可能性)、Result-oriented or Relevant(結果指向または関連性)、Time-bound(期限)です。
- 【SMART】
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- Specific(明確性)
- Measurable(計量性)
- Achievable(達成可能性)
- Result-oriented or Relevant(結果指向または関連性)
- Time-bound(期限)
定めたKPIをグラフ化して職場内で「見える化」すると、より効果が上がります。目標を細分化するために細かな数値目標を設定したところで、それを継続して達成していかなければ意味がありません。
グラフにすることで自分が定めたKPIをどれだけ達成できているか一目で知ることができ、刺激になります。また「誰かに見られている」という意識から緊張感が出るのに加えて、周囲も「数値が下がってきたね。やり方を見直した方がいいよ」とアドバイスをしやすくなるでしょう。
「遊魚緑荷を動かす」
チームでKPIを定める際にしっかりと頭に入れておきたいのは「どんなに素晴らしい物差しを作っても、それが使われないのでは何の意味もない」ということです。毎月、もしくは必要な頻度で数字を更新し、数字をしっかり分析し、それを社内に周知できるような環境を作ることが大切です。
1人だけ見ている指標が異なる、独自の分析をしているという場合、施策の誤りや、精緻な効果検証ができなくなるといったことが発生してしまい、何のためにKPIを定めたのか分からなくなってしまいます。
KPI未達成による改善で取り組まなければいけない項目が山ほどあると、どれから手を着けたらよいのかわからなくなってしまいます。さらに、担当者の目線ではどれも優先度が高く、優先順位が決められないということもよく起こってしまいます。
そんな時は、縦軸に「実現可能性」、横軸に「ビジネスインパクト」を割り当て、それぞれの「優先度」を決めておいた表を作成します。
目標に対して修正を行う時は、この表に則って行動していくと効果的です。KPIを達成するために改善策を片っ端から挙げていき、それらに「実現可能性」と「ビジネスインパクト」の観点から、この表に当てはめます。更にその優先度に対して目標解決日数を定めておくことも重要です。そしてスコアの高い改善策、つまりこの表の左上の改善策から実施していくと、効果的な軌道修正が可能となります。
KPI管理の目的は信頼ある計画の策定と組織的な情報共有による戦略の継続的管理を目的としていますが、最終的な目標はKPI管理体制の構築により会社全体の利益貢献し、且つ組織的運用による変革の実現を目標としていることを忘れるべきではないと思います。
KPIという定量的な数値根拠は、組織変革を起こそうとする時に最も高い合理性と説得性を発揮すると言っても過言ではありません。坂本龍馬の言葉に、「遊魚動緑荷~遊魚緑荷を動かす(ゆうぎょりょくかを動かす)」というのがあります。「池に遊ぶあの魚たちでさえ、自分の思うとおりに浮き草を動かしているというのに、なぜ、人々は自分から動こうとしないのか?」ということですが、会社組織の中でも、上からではなく下からの力によって何か変革が必要なとき、新たな事業をはじめようとするときには、上の大きな力に対する働きかけが必要となります。自分達より力のあるものを動かそうとする時に最も必要なのは「熱意」、ただし熱意だけで何とかなるものではなく、KPIという数値根拠に基づき合理的に説明し説得させることが重要です。組織の中の一人ひとりが、自発的に熱意をもって会社をより良い方向に変革していくように立ち上がるための一つのツールがKPIと考えなければなりません。