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ナレッジマネジメントとは。メリットや実施のために知っておきたいこと

ナレッジマネジメントとは。メリットや実施のために知っておきたいこと
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2022/8/26公開2022/9/01更新

企業競争力を高めるためには、社内のナレッジを有効活用しなければなりません。そこで取り入れたいのが、ナレッジマネジメントという経営管理の手法です。社内のナレッジを共有・活用しやすくなり、業務の属人化を防いだり組織力を向上させたりと、企業にとって嬉しい効果が期待できます。

本記事では、ナレッジマネジメントの定義から具体的な導入ステップ、便利なツールなどをご紹介します。導入を考えている企業やナレッジの属人化に悩む方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

    ナレッジマネジメントとは

    ナレッジ(knowledge)は知識や知見といった意味を持ち、社内にある知識や技術、ノウハウ、データを指します。ナレッジマネジメントとは、このようなナレッジを共有して活用することで、新たな知識や価値を生み出す経営管理の手法です。

    1990年代に一橋大学教授(現・一橋大学名誉教授)の野中郁次郎氏らによって提唱された「知識経営」の考え方が元となっています。従来であれば個人が各々で保有していた知識を、社内全体で活用できる形に変えることで、企業としての生産性向上やイノベーション促進につなげられます。

    暗黙知と形式知

    暗黙知と形式知

    組織が有する知識は大きく「暗黙知」と「形式知」に分けることが出来ます。

    「暗黙知」は、技能やノウハウなど個人が蓄積してきた知識や感覚などのことを言います。「暗黙知」は言語化や数値化が行われていないため、他者と共有されにくいという特徴があります。一方、知識や技術を誰もが活用できるよう、言語や数値、図表など、何らかの形で表現された知識やデータを「形式知」と言います。共有しやすく、継承可能である点が特徴です。

    ナレッジマネジメントを実践するためには、まず暗黙知を形式知へと変換する必要があります。

    ナレッジワーカーとナレッジマネジメント

    自らの持つ知識や収集した情報をもとに創意工夫して、企業に付加価値を生み出す労働者をナレッジワーカーと呼びます。高度な専門知識を備えた人材が競争優位の源泉となる知的サービス業にとって、ナレッジワーカーは重要な存在です。

    組織全体が中長期にわたって成果を出し続け、経営理念・事業のミッションを実現するために、ナレッジワーカーが能力を存分に発揮できるような環境や仕組み作りが欠かせません。この点、ナレッジマネジメントはナレッジワーカーが必要な情報に効率的にアクセス出来るようにするための重要な取り組みです。

    ナレッジワーカーの詳細は、こちらの記事を参照ください。

    ナレッジワーカーとは?具体的な職種や必要なスキルを紹介

    SECIモデルの考え方

    SECIモデル

    ナレッジマネジメントを実践するうえで大切なのが、SECIモデル(セキモデル)です。SECIモデルとは、暗黙知を形式知に変換し、そこからさらに暗黙知を生み出すサイクルのことです。サイクルのプロセスである「Socialization」「Externalization」「Combination」「Internalization」の頭文字から名付けられました。各プロセスの概要とポイントを以下に解説します。

    共同化(Socialization)

    共同化は、個人が持つ暗黙知を、経験によって他者と共有するプロセスです。このプロセスで言語化や数値化を行う必要はありません。身体の感覚で捉えたり、ともに経験を積んだりすることで、暗黙知を暗黙知のまま共有します。

    表出化(Externalization)

    表出化は、個人が持つ暗黙知を言葉や数字など目に見える形にして形式知に変換し、他者と共有するプロセスです。図表や映像などに変換する場合もあります。形式知にする際には、客観性と論理性が必要です。

    連結化(Combination)

    連結化は、表出化によって生まれた形式知同士を組み合わせて、新たな知識を創り出すプロセスです。結合化と呼ばれる場合もあります。複数のチームで形式知を持ち寄って新しいアイデアを生み出したり、他者の作成したマニュアルに自身の知識をもって改良したりする工程のことです。このプロセスにより、一個人の形式知が組織の形式知へ変わります。

    内面化(Internalization)

    内面化は、結合化によって生まれた組織の形式知を、個人が繰り返し実践して習得するプロセスです。実践するなかで、さらに新しい知見やノウハウを得られます。それが再び個人の暗黙知となるのです。ここで生まれた暗黙知を再び共同化する、というサイクルによってナレッジマネジメントの実践が可能になります。

    ナレッジマネジメントを行うメリット

    上述のSECIモデルを一度実践するだけでなく、何度も繰り返し行うことでナレッジマネジメントのメリットを享受できるようになります。どのようなメリットが得られるか、具体的に見ていきましょう。

    属人化の防止

    ナレッジマネジメントによって社内にナレッジが蓄積し、形式知をすぐに共有・利用できるようになります。その結果、業務の属人化を防げて、若い世代へ継承しやすくなったり業務再現性を担保できたりする点がメリットです。

    人材育成を効率化し、組織力を高める

    社内に蓄積されたナレッジを活用できれば、人材育成にかかる人的コストを減らせます。ベテラン社員は自分の業務に集中でき、新入社員はマニュアルを読むことで質問する手間を省けます。また、蓄積されたナレッジを教育に活かすことで、教える側の知識差に基づく教育レベルの格差を排除して、常に高レベルで安定した教育を行うことができるようになります。

    サービス品質の向上

    ナレッジを共有することで他部門とのコミュニケーションが活性化され、連携が強化されるといった効果が見込めます。クレームへの迅速な対応といったカスタマーサポートの質の向上のみならず、サービス・商品に対する新しいアイデアが生まれるようにもなるでしょう。

    また、サービス・商品や販売促進施策などへの改善提案もナレッジとして1か所にまとめることで、サービス改善を実施しやすい体制ができるのです。

    サステナビリティの向上

    近年増加傾向にある大規模災害に備えて、企業のサステナビリティ向上が求められています。そこで役立つのがナレッジです。過去の災害対応やシステム障害時の対応などをナレッジとして残しておけば、リスクに備えられます。また類似の状況が発生しても、即座に対策を取ることができ、復旧までの時間を短縮できるでしょう。

    企業競争力の強化

    上記のように、業務を効率化できたり顧客満足度を高めたりといったことが、企業競争力を高めることにつながります。ナレッジマネジメントによって、ナレッジワーカーが育つ土台ができれば、従業員が自発的に学ぶようになり、更なる人材の成長も期待できます。また、既存のナレッジからイノベーションが起きることで、市場にない新しい価値を生み出すことも可能です。

    ナレッジマネジメントを行うための4つのステップ

    企業競争力強化が見込めるナレッジマネジメント。実践する際には、4つのステップがあります。それぞれのステップについて詳しく解説していきます。

    ①ナレッジ活用の目的を決める

    なぜナレッジマネジメントを導入するのか、またナレッジをどのように活用したいのかといった目的を最初に決めて組織内で共有することが大切です。

    知識の提供者が、ノウハウや技能を独り占めしようとしたり、伝えることを面倒と感じて知識を提供しないようでは、有意義なナレッジは蓄積できません。目的が明確であれば、従業員にもモチベーションが生まれ、自主的にナレッジの共有を進めるようになると期待できます。

    ②ナレッジを収集する

    目的を明確にできたら、次は社内のナレッジを収集します。このとき、すでに言語化や図表化されている形式知だけでなく、個人が持つ暗黙知も形式知に置き換えて収集していくことが大切です。

    ③ナレッジを分類・整理する

    収集したナレッジは、活用する部署や課題に応じて分類します。利用者の立場に立って利用しやすさを意識した分類に整理すると良いでしょう。

    ④ナレッジの共有・活用

    ナレッジは、社内に共有して初めて活用できるものです。そのためナレッジを蓄積する方法や社内に共有する仕組みが非常に重要となります

    利用者が、必要なナレッジを探すのに時間がかかるようでは、せっかく蓄積したナレッジも活用されないまま終わってしまったり、業務効率が低下してしまう恐れがあります。ナレッジを共有する際は、利用者がスムーズにナレッジにアクセスできる方法を選ぶようにしましょう。

    ナレッジマネジメントを支援するツール

    ナレッジマネジメントを推進するうえでは、ツールも積極的に活用していくことが望ましいでしょう。ツールにはさまざまな種類があるため、利用する目的を明確にして選ぶことが大切です。ここでは、5つの支援ツールとそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。

    グループウェア

    組織内のコミュニケーションや情報共有に特化したグループウェアは、スケジュールの共有や連絡先の一覧化、ファイルや書類の共有などが可能です。業務をスムーズに進めるため、多くの企業で導入されています。既に導入済みのグループウェアがあれば、そのシステムをナレッジマネジメントにも活用することで新たな仕組みの導入よりもコストを抑えることができるでしょう。

    一方、新たに導入する場合は、ナレッジマネジメントに直接関わらない機能も付随するためコストがかさみ、周知にも時間がかかります。データ保管容量にも制限があるものもあるため注意しましょう。

    社内Wikiツール

    社内wikiとは、社内にある情報を保管するためのオンラインツールです。情報の共有・蓄積を目的としたツールであり、タイトルと本文で情報をストックしていくケースが大半です。一度作成した情報は誰でも随時更新できるため、ナレッジの連結化が容易だと言えます。情報の検索しやすさもメリットです。

    ただし、利用者自らが情報を書き込めるようにしていることも多いため、誤って情報を編集してしまったり、管理者が明確でないため、情報が更新されず古い情報が記載されたままになったりする恐れがあります。また、部署ごとに異なるWikiツールを導入してしまえば、連携ができなくなり、管理も煩雑になるため注意が必要です。

    AIチャットボット

    AIチャットボットは、チャットの窓にキーワードや質問を書き込むと、AIが自動的に回答を表示してくれるツールです。質問を入力するだけと使い方がシンプルなため、利用者が気軽に使い始められます。キーワードから欲しい情報にアクセスしやすい点もメリットです。

    利用を開始するまでに、ある程度の回答の準備が必要となります。利用者側からは用意された回答の全体像が見えないため、質問を書き込んでも回答が見つからない状況が繰り返されると、利用者がいなくなってしまう可能性があります。

    CRM

    顧客管理を行うツールであるCRMは、営業に関するナレッジの蓄積に向いています。顧客と案件を結び付けて管理できるため、現在進行している案件の情報を確認する場合や、過去の類似事例について調べる場合に便利です。

    ただし、営業以外の部門では扱いづらかったり、そもそもアクセス権を営業部門以外に付与していなかったりと、全社的に利用するツールとしては懸念があります。

    プロジェクト管理ツール

    1つのプロジェクトに関する情報を網羅的に集約したい場合は、プロジェクト管理ツールの利用がおすすめです。プロジェクトごとの予実、工数管理など、プロジェクトに関する情報を1か所にまとめられる点がメリットです。営業部門だけでなく、制作部門などプロジェクトに関わる部署全体で管理・閲覧できます。

    プロジェクトごとの管理に特化しているため、特定のプロジェクトに分類できないナレッジを管理するには不向きと言えます。

    まとめ

    ナレッジマネジメントは、社内の暗黙知を形式知に変換して活用する経営管理手法であり、継続することによって属人化防止をはじめとした、さまざまなメリットが得られるものです。 ナレッジマネジメントを取り入れる際は、SECIモデルを理解・実践することがポイントとなります。導入前には必ず目的を設定し、従業員が自分ごととしてナレッジの共有・活用ができる環境を整えておきましょう。

    ナレッジマネジメントをスムーズかつ効果的に行うには、ツールの利用も有効です。目的に合ったツールでナレッジマネジメントを実践し、企業競争力強化に取り組んでみてはいかがでしょうか。

    Q
    ナレッジとは何?
    A
    単純な知識だけでなく、技術やノウハウ、データなどを指す言葉です。ナレッジマネジメントとはをご覧ください。
    Q
    ナレッジマネジメントのメリットは?
    A
    ナレッジマネジメントを継続することで得られるメリットとして、以下の5つが挙げられます。
    ①属人化の防止
    ②人材育成を効率化し、組織力を高める
    ③サービス品質の向上
    ④サステナビリティの向上
    ⑤企業競争力の強化
    詳しくはナレッジマネジメントを行うメリットをご覧ください。

    ナレッジワーカー・マネジメント

    ナレッジワーカーが競争力の源泉となる知的サービス業(IT・広告・コンサルティング業)が、中長期的に成長し続けるには「経営管理の仕組み」が不可欠です。累計1,000社以上の経営改善を支援してきた当社の経営管理ノウハウを8ページにまとめました。

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    矢野 由起

    この記事の筆者

    ライター

    矢野 由起

    製造業のエンジニアとして9年半勤めた経験を活かし、現在はフリーランスのライターとして活動中。職場の生産性や働き方改革、クラウドツール活用、複業などに興味があり、人事領域に関する記事なども手掛けている。

    清宮 理慎

    この記事の監修者

    株式会社オロ 取締役

    清宮 理慎

    2010年、株式会社オロに入社。ZAC導入支援グループのグループ長、開発グループのグループ長を担当した後、2022年にクラウドソリューション事業部の事業部長に就任。「ZAC」を用いた管理会計により事業部の運営を行っている。著書に「ナレッジワーカー・マネジメント 業績も人もついてくる数字で語るマネジメント術」(プレジデント社)がある。