属人化の原因と解消方法。スペシャリスト育成と両立するためには
2023/2/20公開
企業は、製品やサービスの品質を担保するため、人材が入れ替わっても滞りなく業務を回す必要があります。しかし、仕事をしていて「この業務はこの人しかできない」「この人がいないと業務が回らなくなる」と感じることはないでしょうか。それこそがまさに、属人化している証です。
本記事では、属人化の原因と解消法、メリット・デメリットについて詳しく解説します。属人化解消とスペシャリスト育成の両立のポイントも紹介していくので、属人化に課題を持つ方はぜひ参考にしてください。
目次
属人化とは?
属人化とは、ある特定の従業員だけに業務の知識・ノウハウが蓄積し、他の人がその業務を代われない状態になることです。業務のフローや押さえるべきポイントがブラックボックス化し、特定の従業員が不在の場合には業務が回らないといった事態に陥ります。
逆に、誰もが同じクオリティで業務を遂行できるようにするのが業務標準化です。属人化にはメリットがある一方でデメリットも多いため、それぞれを比較し、属人化をどの程度解消するかを企業で定める必要があります。
属人化の解消には、業務のマニュアルを作成するなど、業務標準化を進めることが有効です。業務標準化については、こちらの記事を参照ください。
属人化によって生じる問題
属人化してしまうと、担当者不在時に業務を進められなくなってしまうことが大きな問題となります。それ以外にも、以下のような問題が生じることに留意しましょう。
業務効率の低下
一部の人だけが業務フローを把握・実行することで、客観的な視点が失われます。本来、業務を進めるうえでは、より効率的な方法を取ることが理想です。しかし、属人化した状態では、各担当者が異なるやり方で業務を進めてしまい、業務改善のアドバイスが得られないという状況になります。また、その業務が今どのような工程にあるのか、次は何をするべきなのか、特定の人しかわからず、遅れや漏れが生じても周囲がフォローできません。その結果、業務効率低下の恐れがあります。
あらゆるところで属人化が起きていれば、社内の風通しも悪くなり、関係部署との連携が取れていないといった問題も発生しやすくなるでしょう。
製品・サービスの品質が安定しない
業務に関するマニュアルがなかったり、情報が更新されていなかったりすることも多く、担当者によって製品・サービスの品質にばらつきが生じてしまうかもしれません。同じ製品を作る場合でも、新人とベテランとで業務フローや判断基準が異なれば、同じ品質を保つことは難しいでしょう。
また、周囲からは業務フローが見えないため、品質改善の機会も生まれにくく、品質が適正かどうか定量的な評価もしづらいと言えます。
ボトルネックの発生
業務の担当者が不在である場合や退職した場合には、業務停滞のリスクがあります。また、ミスやトラブルが起こっても担当者しか対応できないため、業務の進捗に影響を及ぼすことも考えられるでしょう。
ノウハウの喪失につながる
業務フローやノウハウ、技術が社内に共有・保存されていないため、もし担当者が急に退職したらノウハウを失うことになります。引き継ぎをするにも、マニュアル化されていないため本人から直接教わる以外に方法がない状態になり、引き継ぎ作業に時間や手間がかかってしまうでしょう。
ノウハウも企業の資産です。担当者が退職することで、人的資産だけでなく、それまで時間や予算をかけて培ってきた情報資産までも失うのは企業にとって大きな損失だと言えます。
担当者への負担増加
業務フローがブラックボックス化してしまうことで、業務を行っている担当者の負担が増加するといったデメリットもあります。周囲からのサポートが得られないために、本人が無理して業務を回していたり、トラブル対応に追われ本来の業務が遂行できなくなったりと、心身に負担のかかる働き方になりかねません。属人化は長時間労働や離職率が高くなる原因にもなり得るのです。
属人化を引き起こす4つの要因
企業にとって大きなリスクになりかねない属人化を引き起こすのは、主に4つの要因があると考えられます。以下に詳しく解説します。
①業務の専門性が高い
専門的なスキルや特殊な経験が必要な業務は、特に属人化が起こりやすくなります。なぜなら、スキルを身につけるために時間がかかるうえ、経験を共有することも簡単ではないからです。結局、現時点で知識や経験を持つ人に任せきりになってしまい、属人化が進んでしまいます。
また、社内の機密情報を扱う部署など、情報にアクセスできる人が限られている業務においても、属人化が進みやすいと言えます。
②人手不足
組織に人手が足りず、業務が多忙になってしまっていることも属人化の要因です。業務を整理してマニュアル化したり、知識・経験を共有したりするための時間と人員を割けないことで属人化が起こります。
③情報共有の環境が整備されていない
業務のマニュアル化が行われていなかったり社内システムが部門ごとに分断されていたりして、情報共有するための環境が整っていないケースもあるでしょう。マニュアルを作っていても、更新されていなかったり、クラウド上での共有などIT化されていなかったりといった状況も考えられます。
④個人成果主義
組織文化として個人成果主義が強い場合も、属人化を引き起こすことにつながります。個人成果主義は従業員それぞれが成果にこだわり企業に利益をもたらす働き方である一方、各個人がノウハウ・情報をあえてブラックボックス化してしまい、属人化が進むというデメリットがあるのです。そのような組織では、情報共有の文化も根付きにくいでしょう。
属人化に特に注意したい業務
業務によっては、属人化することで組織に致命的なダメージを与える恐れがあるため、属人化が起こらないよう注意しましょう。具体的には以下のような業務が挙げられます。
情報システム部門の業務
情報システム部門の業務は、IT機器の管理からシステムの運用まで多岐にわたります。近年では、どの企業においてもITは業務に欠かせないものであり、ネットワークやサーバーは、電気や水道と同じように重要な社内インフラの1つです。情報システム部門の業務がブラックボックス化してしまうと、問題が起こった際に社内全体の業務が止まってしまう恐れがあります。特に自社で独自構築をしたオンプレミス型のシステムを使用している企業で陥りやすい状況です。
バックオフィス業務
経理、法務、総務、人事といったバックオフィスは、企業の根幹を支える業務であり、属人化による品質の差が出ないようにすべき業務です。担当者が変更になっても同一品質で業務を提供できることが重要だと言えます。業務の停滞や業務品質のブレがあると、取引先との信頼関係に影響が出たり、経営に悪影響を及ぼしたりする恐れもあるため注意が必要です。
顧客対応
信頼関係が重要な顧客対応も、属人化を防がなければなりません。担当者によって対応が異なれば、顧客からの信頼を失いかねないからです。たとえばプロジェクトの進行中、担当者によって言うことが二転三転すれば、顧客は不信感を抱くでしょう。また顧客情報やクレームの内容を社内で共有できていないことで対応が遅れたり、業務改善の機会を逃したりする恐れがあります。
トラブルへの対応
トラブル対応は迅速かつ確実な対応が必要です。担当者が不在だからといって業務が止まってはいけません。トラブルへの対処が統一されずに混乱を招いたり、必要な対処が漏れたりする可能性もあります。
頻繁に行うことではないため意識しづらいものの、トラブル対応こそマニュアルを作成して誰もが素早く確実に対応できるようにしておくことが重要です。
属人化の解消方法
すでに属人化が起こっている場合、どのように解消すればいいのでしょうか。ここからは、属人化を解消するまでに必要な5つのステップを紹介します。
①情報共有しやすい環境整備
属人化を解消するためには、まずは物理的・心理的に情報共有をしやすい環境を作ることがベースになります。情報共有をしようと思っても、共有自体に手間がかかってしまっては、情報共有の文化はなかなか浸透しづらいでしょう。どこに、どのようなルールで情報を共有するのか、そして共有された情報を閲覧しやすいような仕組みを整え活用していくことが重要です。よりスムーズに情報共有を行うなら、専用のツールを使うことも有効です。
また、従業員の心理的安全性を担保することも重要です。属人化が解消され誰もが業務を行えるようになったことで、これまでその業務を行っていた自身の価値が下がるように感じてしまう従業員もいるでしょう。それによって、積極的な情報共有が行われない恐れもあります。属人化解消後も、新たなスキル取得が可能な場を設けるなど、個人が会社から評価される仕組みを整えなくてはなりません。
②業務フローの可視化
現在行っている業務フローをすべて洗い出して可視化・言語化します。ここで大切なのは、できる限り細かく洗い出すことです。工程だと思っていないような細かい作業こそ、個人に依存した工程である可能性もあります。
③業務フローの簡略化
つづいて、洗い出した業務フローを簡略化できないか検討しましょう。無駄な工程はないか、省略しても問題ない工程はどこかといった視点で考えます。この作業を行うことで、これまで属人的に行われ見直されてこなかった業務の効率化が可能になります。複雑な業務は再び属人化につながるため、できるだけ簡潔にしておくことが大切です。
④マニュアルの作成
業務フローを整理できたら、誰もが再現できるようにマニュアルを作成します。誰が読んでも同じ品質で業務が行えるよう、わかりやすく具体的な文章であることが大切です。場合によっては図解を挿入するなどして、ひと目でわかるようにしておくといいでしょう。
作成したマニュアルは、必要な人が随時閲覧できるように保管ルールを定めましょう。マニュアルには、顧客情報や個人情報などの機密事項を含むものも少なくありません。必要な範囲のみに共有できることや、社外に漏洩しないようなルールをあらかじめ設定しておきましょう。業務内容によってマニュアルの共有範囲を変えたり、定期的に見直し・更新したりすることを考えると、ITツールを活用したマニュアル作成がおすすめです。
⑤アップデートを行う
マニュアル化したあとは、業務を行うなかで出てきた新たな提案や意見、ナレッジを共有していきます。ナレッジを共有することで、さらなる業務改善が可能になります。
また、マニュアルを作成して属人化を解消したと思った業務も、放っておけばいつの間にかまた属人化していることがあります。業務の再属人化を防ぐためには、業務フローやマニュアルを常にアップデートすることが重要です。会社の成長や人員の増減により、業務内容やフローが変更になる場合もあるでしょう。他の従業員から得られたナレッジをもとに業務マニュアルを改善したり、マニュアル作成フローを横展開したりといった仕組みのアップデートを随時行いましょう。
属人化解消の効果
属人化を解消すると、誰もがその業務を行えるようになるだけではなく、さまざまなメリットが企業にもたらされます。
組織として効率よく業務を行える
属人化を解消するにあたって業務の可視化・簡略化を行うことで、これまで気付かなかった業務フロー上のムダを削減できたり、問題を解決できたりと、業務効率の向上が図れます。
また、マニュアルが多くの人の目に触れることで、多様な視点が取り入れられるため、業務改善の機会が多くなります。さらに、担当者が不在でも業務を止めずに済むため、組織としてスムーズに業務を遂行できるようになるでしょう。
品質・サービスの安定化
情報共有を行って業務標準化を進めることで、製品・サービスの品質基準が統一され、提供する品質・サービスが基準をクリアしているかどうか客観的な判断が可能になります。そのため、誰が行っても一定の品質・サービスを保つことができるようになるのです。
社内にナレッジが蓄積される
業務フローやノウハウなどのナレッジを社内に蓄積できることもメリットのひとつです。もし属人化したままだと、担当者が休職や退職すると同時にナレッジも活用できなくなってしまいます。しかし、業務を標準化してマニュアルに残すことで、担当者がこれまでに得たナレッジを継承できるのです。また、マニュアルを利用することで、新人教育における教育の手間も大幅に削減できるでしょう。
社員のスキルアップが図れる
業務を標準化することで、担当者以外の従業員にも業務を任せられるようになり、従業員全体のスキルが底上げされます。新人や経験がない従業員であっても、マニュアルを読めば、難しい業務にも取り組みやすくなります。また、担当者側の引き継ぎや教育の負荷を軽減することができるでしょう。
マニュアルが整備されることで、「どのような手順で業務を進めるか」悩んだり「どのような手順だったか」など思い出したりする思考リソースも削減でき、その分のリソースを他の仕事やスキルアップに充てられるようにもなります。
属人化のメリットとは
上述のように、属人化は企業にとって大きなリスクをはらんでいます。その一方で、属人化にはメリットもあるとされています。特に、属人化した業務を行なっている担当者自身にとって、自身の専門性を高められ、組織の中で価値を向上できることはメリットであると言えます。顧客とも密な関係が築け、裁量権も与えられるため、「自分でなければこの業務は回せない」といったモチベーションにもなるのです。
しかし、それによってさらに属人化が進んでしまう恐れもあります。その様子を見た他の従業員に競争意識が生まれ、自分の業務を属人化しようと考える可能性もあるでしょう。属人化は個人の専門性が高まるため、短期的には効率が上がることもありますが、長い目で見ると企業にとって不利益になることも多いのが実態です。メリットとリスクとを天秤にかけて、属人化をどの程度解消するか企業の方針を決めなければなりません。
スペシャリスト育成と業務標準化を両立するには
スペシャリストとは特定の分野における専門家であり、特筆すべき技術を持っている人のことです。企業競争力を高めるためには、スペシャリスト育成が要となります。しかし、スペシャリストを育成しているはずが、気づけば業務の属人化が進んでいただけだったという企業もあるのではないでしょうか。
スペシャリスト育成と属人化の違いは、業務が可視化されて必要な情報共有ができているかどうかです。担当者以外に業務フローが見えていなければ、それは属人化していると言えます。
業務における専門性を発揮しつつ、そこから一歩進んで独自性を高めていくことで、スペシャリストとしての価値が生まれます。スペシャリストを育成するためには、他の担当者からも業務フローが見えるようにし、客観的な視点でフィードバックを受けられる状態にしなければなりません。フィードバックを受けて業務を改善していくことで、自ずと専門性だけでなく独自性も高まり、視野を広げられるようになります。
つまり業務の見える化を行っていれば、スペシャリスト育成と業務標準化を両立できるのです。
IT化でよりスムーズな情報共有を
属人化解消の要となるのがIT化です。社内で情報を共有する際や、マニュアルを作成する際にITツールを活用すれば、業務に必要な情報を一元管理できます。従業員に「このツールを使えば簡単に情報共有できる」「ここを見ればいつでもマニュアルを確認できる」と思ってもらえることは、情報共有を促す環境づくりにもつながるでしょう。
また、ERPや基幹システムなどを導入する際は、業務フローを抜本的に整備することになるため、業務フローの可視化・簡略化といった業務標準化に必要な作業を同時に行えます。ERPベンダーは各業種のベストプラクティスを持っているため、自社の業務フローを業界標準に合わせて改善することも可能です。
まとめ
業務がブラックボックス化し、特定の従業員にしか担当できなくなってしまう属人化。この状態が慢性化すれば、企業に多くの悪影響をもたらしかねません。
担当者不在による業務の停滞や、業務改善の機会喪失が起こり、それがボトルネックになることもあるでしょう。企業として担保すべき製品・サービスの品質が低下したり、担当者が退職することで企業の資産であるノウハウが失われたりする恐れもあります。
このような事態を防ぐためには、業務の見える化とマニュアル作成などのナレッジ共有が欠かせません。情報を社内で共有することで、誰もが同一品質の業務を行えるようになり、スムーズな業務遂行が可能になります。さらに、情報共有ができていれば、スペシャリスト育成との両立も可能です。ITツールも活用し、効果的に属人化解消を進めてみてはいかがでしょうか。