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「原価計算」で企業の競争力UPを実現する

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2013/2/07公開

前回のコラムでは受注活動についてお話しました。今回は原価計算の話題を取り上げてみたいと思います。

目次

    原価計算制度―原価計算の過去と今

    原価計算制度そのものは、戦前からの歴史がありその目的は財務諸表の売上原価や期末在庫を算定するといった決算の仕組みの一環として策定されたものというより、戦前の価格統制制度のもと流通価格や国家機関への納品価格算定の基礎となる制度であったと考えます。

    最近の公共事業や公営機関への製品納入・施設建設などの取引に当たっては競争入札制度が増えてきましたが、これらの取引では一般的に「原価加算取引(原価を基礎として納入価格を決定する制度)」が適用されていました。このような背景のもと、加えて適正な財務報告の作成に寄与する目的から、我が国では企業会計の斟酌すべき基準として、昭和37年(1962年)に当時の大蔵省企業会計審議会が中間報告として公表した「原価計算基準」が設定されるに至りました。

    「原価計算基準」では全5章、47項からなる企業会計の実践規範であり、我が国の実務における事実上の「公正なる会計慣行」として適用・運用されてきました。他方、驚くべきことに「原価計算基準」は昭和37年の公表以後、今日に至るまで一度として、変更されたことはありません。
    私見ですが、このことは当時の「原価計算基準」が理念的であったこと、細則主義というより原則主義的なアプローチで策定されてきたこと、が想像されます。

    企業会計の実務では棚卸資産の評価は税法や企業会計基準である「棚卸資産会計基準」に依っています。例えば、税法では原価差異の配賦計算等を規定し、企業会計基準では棚卸資産の経済的な回収可能性を主な論点としており、いずれの観点においても、原価計算の構造そのものに影響を及ぼすほどのものとは思われません。とは言うものの経済活動が多彩になり、様々なビジネスモデルが登場する今日において原価計算基準がやや陳腐化してきているのではないか、という見解も聞かれます。

    原価計算の目的-原価計算はいかなる活動に貢献してきたのか

    下記の表は「原価計算基準」第1項で明らかにされている原価計算の目的です。

    【原価計算の目的】
    原価計算の目的

    原価計算は5つの目的を有していますが、1番の財務諸表作成目的がいわゆる財務報告目的に即するものであるのに対して、2番から5番は専ら経営管理や経営意思決定に役立てるものです。決算や会計監査では1番の財務諸表作成目的が重視される結果、企業規模や業種の違いによらず、全部原価方式や原価差異配賦調整による実際原価が反映されることが留意されます。

    他方、管理会計的な見方からすれば様々な見方が許容されているともいえるでしょう。ここで典型的な論点が標準原価計算です。「原価計算基準」では明示されていませんが、標準原価計算は決算の早期化に貢献するばかりでなく、製造現場での生産管理や営業現場での価格見積りに高く寄与します。

    例えば、標準原価計算の考え方は、今日では製造業のみならず卸売業の多くで採用されており、営業現場での受注交渉の基本となっています。また、受注業において、当初の価格見積りでの「材料の購入単価、投入量、工程数」といった原価に係る情報をある程度標準化することによって商談のスピードを迅速化できます。

    唐突な例ですが、最近の商談ではいわゆるタブレット端末による商品構成の提示と価格の見積りがしばしば見られるようになりました。これらの事例は財務諸表を迅速に策定するという決算早期化を超えて、企業の競争力の源泉となっていることを示す端的な事例と言えるでしょう。

    様々なビジネスモデルの発展-守るべき採算管理とは何か

    原価計算基準の公表された昭和37年は東京オリンピック(昭和39年)を目前に高度成長直前期の時代であり、商売でいえば作れば売れ、生産設備の操業度は100%超えが常態であり、装置集約的な産業がメインの時代でした。今日の持続的成長を継続しているものは、産業のソフト化やサービス化にシフトであり、企業の多くが明日の売上を求めて様々な受注獲得の競争環境への適応であります。

    また、商談の成立は供給者の販売希望価格と需要者の求める価格の交渉で決まるものの、価格のみで商談が決まるわけではない、ということは今日の常識です。企業は様々な販売スキームを持ち出してくることになり、今日の企業会計における「収益認識の議論」に繋がることになります。収益を含めた製品群・事業体の採算管理という論点は、拡大すれば企業価値の論点と言うことになりますが、その構成単位は一つ一つの製品・商品の採算を把握し次の対策を練って実行することに尽きると考えられます。

    企業の競争の基準が「Quality(品質と志向)」、「Cost(原価と価格)」、「Delivery(納期とスピード)」にあることは、今も昔も変わりません。今日の国際競争の状況に思いをはせれば、競争すべき基準には変わりがないものの競争の仕方が変わってきているのではないでしょうか。自戒を込めて申し上げれば、現代の日本企業で働いておられる経理や経営管理の皆様には、守るべき価値を守りつつも、よりしなやかで自由な発想が求められていると思います。

    プロジェクト別原価計算ガイド

    赤字プロジェクトの原因を分析し、根本的な解決を手助けするガイドブックです。原価計算を行う5つの目的から、広告業やIT業界などに特有のプロジェクト型の原価計算の「鍵」までわかりやすくまとめました。

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    橋本 智明

    この記事の筆者

    BDO三優監査法人 マネージャー 公認会計士

    橋本 智明

    元大手監査法人にて上場準備業務、国内監査、外資系監査業務のほか、企業統合支援、上場準備企業の公開支援、管理会計構築に携わる。大手証券会社出向時に資本政策・事業承継対策・株式公開支援を経て、大手監査法人に戻り、国際・国内会計監査に携わる。現在、三優監査法人にて、国際会計基準(IFRS)対応業務、上場支援業務、決算業務の効率化、管理会計構築、事業統合支援業務のほか、オーナーのための事業承継対策等アドバイザーとして担当。日本公認会計士。中央大学商学部卒。