固定費と変動費は何が違う?分類の目的や分類方法、削減ポイントを解説
2023/10/18公開
事業で発生する費用は「固定費」と「変動費」の2種類に分けられます。それぞれどのような費用が該当するのかを知っておくことで、経営指標の算出が可能です。また、事業にかかる費用や得られる利益を明確にしておけば、事業継続や新規事業立ち上げの判断軸にもなります。
本記事では、経営判断に重大な影響を及ぼす固定費と変動費について、それぞれの違いや分類方法、削減するポイントを紹介します。
目次
固定費・変動費の違い
費用を固定費と変動費に分けることは、事業を健全に営むために重要です。それぞれの特徴や具体例を解説しますので、自社においてどの費用が固定費または変動費にあたるのか確認してみてください。
固定費
固定費とは、製品・サービスの生産量や売上高と関係なく一定で発生する費用のことです。仮に売上がゼロでもかかる費用と言えます。事業を継続するために必要な費用であるため、なくすことはできません。
しかし、固定費が少なければそれだけ利益の出やすい体制となるため、真っ先に削減が求められる費用でもあります。具体的には、以下のような費用が挙げられます。
- 人件費
- 地代家賃
- 減価償却費
- リース料
- 広告宣伝費
変動費
変動費とは、製品・サービスの生産量や売上に応じて変動する費用です。変動費は生産量増加とともに増え、生産量が減れば下がり、生産しなければ発生しません。具体的には、以下のような費用が該当します。
- 原材料費
- 仕入れ費
- 外注費
- 販売手数料
- 運送費
変動費の定義はあくまで「生産量や売上に連動して変化する費用」であるため、それ以外の要因(気候による変化や燃料費高騰など)で費用が上下する費目・科目は変動費とはならない点に注意しましょう。
労務費の扱い
労務費は人件費の一部であるため、基本的には固定費に分類されます。しかし企業によっては、生産に直接関わっている費用として、変動費としてみなすケースもあります。直接労務費を変動費として管理することで、業務改善を行なった際等にどのくらい生産性が向上したかを測ることが可能です。一方、生産量が減ったとしても実際の人件費自体は変わらないため、労務費を変動費とする場合は注意が必要です。
準固定費・準変動費
事業にかかる費用は、上述した固定費と変動費のどちらかに振り分けるのが難しいものもあります。その場合は、準固定費・準変動費に分類されます。
準固定費とは、一定の範囲内であれば固定されるものの、それを超えたときに増加し、またそこで固定化されるような費用のことです。たとえば、製造業において昼間の勤務だけだったところ、繁忙期は夜も稼働するとなった場合、夜勤の従業員を雇わなければなりません。このケースにおける人件費は、準固定費にあたります。
準変動費とは、生産量がゼロでも発生するうえ、生産量が増えるに従って増加する費用のことです。たとえば水道光熱費は、一切稼働しなかったとしても基本料金がかかります。もし稼働して生産すれば、その分従量課金されて料金は上がるでしょう。このような性質を持つ費用が、準変動費と呼ばれています。
準固定費・準変動費は、固定費または変動費のどちらかにみなして分類するか、固定費部分と変動費部分に分解して振り分ける方法を取ります。どのような方法で分類するかは、各企業で選ばなければなりません。
費用を固定費・変動費に分ける目的
そもそも、なぜ費用を固定費と変動費に分ける必要があるのでしょうか。その理由は大きく分けて以下の3つです。
利益を予測する
利益を算出する際、まずは売上高から固定費を差し引き、さらに変動費を引きます。変動費は売上高と連動するため、売上予算に応じた変動費を差し引くことで、利益の予測が可能になるのです。そのために、固定費と変動費の正確な数値が必要になります。
また、固定費・変動費から損益分岐点を出すこともできます。損益分岐点とは、製品・サービスを生み出すための費用(総コスト)と売上高が同じ金額となるポイントのことです。損益分岐点を明確にすることで、利益を得るために必要な販売量および単価がわかるため、売上目標や販売計画の立案に活用できます。
効果的な費用削減が可能
固定費と変動費はそれぞれ性質が異なるため、費用削減の難易度や効果も変わります。一般的に、変動費は主に原材料費や外注費など、製品を生み出すために不可欠なものが多く、なかなか削減できないといった場合もあるでしょう。
しかし固定費は残業時間削減や成果が出ていない広告出稿の中断、ムダな費用の見直しなどで削減しやすい場合が多く、生産量に連動しないため確実な収益改善が見込めます。どちらの費目が利益を圧迫しているのかが明確になれば、手を打つべき箇所も明確になるため、あらかじめ分類しておくことが重要です。
事業立ち上げの判断基準になる
新規事業を立ち上げた場合、はじめは売上が見込めないため、変動費より固定費のほうが多くかかります。もしその事業の売上がゼロだった場合、研究開発費も含めた固定費分はすべて赤字になるのです。
そこで、事業立ち上げ時にどれくらいの固定費がかかるか見積もっておくことが大切になります。見積もった内容から削減できる費用を見極めて赤字幅を減らしたり、市場に投入する時期を早めて売上を獲得したりできるからです。もし削減が難しく、赤字額が大きくなるようであれば、事業立ち上げを取りやめる判断も下せるでしょう。
固定費・変動費の分類方法
固定費と変動費を分類することは「固変分解」と呼ばれます。固変分解の必要性はわかっても、いざ実践しようとすると迷うことも多いのが実情です。そこで、固定費と変動費の分類方法を紹介します。勘定科目法と回帰分析法の2種類があり、企業ごとにどちらかを使って分類します。
勘定科目法
勘定科目法は、費用の勘定科目ごとに固定費と変動費を振り分けて分類する手法です。「地代家賃は固定費」「原材料費は変動費」といったように、勘定科目を一つひとつ振り分けていきます。
勘定科目は必ずどちらかに帰属する必要があるため、どちらとも判断しがたい準固定費や準変動費は企業判断で振り分けることになります。また業種によって、何を固定費として何を変動費とすべきか異なります。中小企業庁が公表している業種ごとの指標(*1)を参照して、自社に適した分類を行いましょう。
回帰分析法
回帰分析法は、売上高と総コストのグラフを用いて固定費と変動費率を導き出す手法です。最小二乗法とも呼ばれます。縦軸を総コスト、横軸を売上高として、毎月の数値を点で書き入れ、その点を結んだ近似曲線から変動費率と固定費が割り出せるというものです。
式は以下のようになります。
- y=ax+b (a:変動費率、b:固定費)
この手法は手計算で行うこともできますが、Excelを使用するとスムーズです。線形性の仮定などいくつか留意点はありますが、勘定科目法より正確な固変分解が可能なため、勘定科目法で出た数値が実態とかけ離れているようであれば回帰分析法で算出することをおすすめします。
固定費・変動費で分かる経営分析の指標
固定費と変動費それぞれの数値が明確になると、経営に役立つ以下のような指標を導き出せます。
- 限界利益
- 損益分岐点
- 安全余裕率
- 売上高変動費率
いずれも企業のコスト構造を把握し、経営の意思決定を行うために有効な数値であるため、正確な数値を出せるようにしたいところです。それぞれがどのような指標で、どうやって算出するのかを解説します。
限界利益
限界利益とは、売上高から変動費を差し引くことで算出でき、製品・サービスを販売して直接得られる利益のことです。製品やサービスが1単位売れるごとに得られる利益を意味します。限界利益が高ければ高いほど損益分岐点を引き下げられるため、事業の収益性の高さを判断する際に役立ちます。
- 限界利益=売上高ー変動費
限界利益は、利益に固定費を加えたものとも言えます。事業継続には、限界利益がプラスになっていることが最低条件であり、さらに利益を得るためには限界利益から固定費を差し引いた数値もプラスでなければなりません。
損益分岐点
上述した通り、損益分岐点とは、製品・サービスを生み出すための費用と売上高が同じ金額となるポイントのことです。そのポイントにおける売上高を損益分岐点売上高と言い、企業は利益を出すためにそれより上の売上高を目指します。
損益分岐点は、固定費と変動費によって変わります。もし損益分岐点売上高に達することが難しいのであれば、費用を削減して損益分岐点を下げたり、商品・サービスの価格を上げて売上高を上げたりといった判断ができるでしょう。
損益分岐点を使った分析について、詳しくはこちらの記事もご参照ください。
安全余裕率
安全余裕率とは、実際に得られた売上高と損益分岐点売上高の差がどの程度なのかを示す指標です。安全余裕率がマイナスの場合、経営が赤字であることを示し、プラスの場合でもその割合によって財務状況の余裕の有無を判断できます。安全余裕率の算出式は以下の通りです。
- 安全余裕率=1ー(損益分岐点売上高÷実際の売上高)
安全余裕率は、その割合だけ売上が減少すると利益がゼロになることを表します。高ければ高いほど財務状況に余裕がある状態であり、40%以上が理想とされています。
売上高変動費比率
売上高変動費比率とは、売上高に対して変動費がどれくらいの割合を占めているのかを測る指標です。単純に「変動比率」とも呼ばれます。
売上高を分解すると、固定費・変動費・利益の3つの要素に分かれます。もし変動費の割合が大きければ、固定費の割合が低く、赤字リスクが少ない状態です。ただし、販売量が増えても変動費が大きいため、利益を得にくい状態とも言えます。
計算式は以下の通りです。
- 売上高変動費比率=変動費÷売上高×100
売上高変動比率は企業規模や業種によって異なりますが、中小企業庁の「企業規模別に見た売上変動費比率」(*2)によると、平均は70〜80%となっています。
固定費・変動費を削減するには
企業が赤字を防ぎ、利益を得るためには、費用削減の努力が欠かせません。しかし、やみくもに削減しても、大きな増益効果につながらなかったり品質低下を招いて売上が減少したりする恐れもあります。そこで、効果的に費用を削減するために行うべきことを紹介します。
優先順位を決める
効果的な費用削減を行うため、まずはどの費用から削減するか優先順位を決めましょう。その中でも固定費は、基本的に売上高に影響がなく、削減して売上が減るといったことは考えにくいものです。
逆に、変動費を下げると売上の低下を招きかねません。たとえば、原材料費を下げることで品質が低下してクレームが増加したり、顧客離反が起きたりなど、マイナスの影響が考えられます。まずは固定費で削減できる部分はないかを検討するのが有効です。
固定費の削減例
固定費の削減を考えた場合、どのような費用をどう削減すればいいのか、以下に例を挙げます。参考にしてみてください。
- 光熱費のプランを見直し、安いものへ変更する
- 不要な備品のリースを止める
- 家賃の安いオフィスへ移る
- 効果の低い広告出稿を止める
- ネットバンキングを利用して振込手数料を削減する
- ペーパーレス化で消耗品費を削減する
変動費の削減例
変動費も、削減効果は低いかもしれませんが、ムダがあれば減らしたほうがいいでしょう。具体的には以下のような削減方法が考えられます。
- 今より単価の安い仕入れ先があればそちらへ変更する
- 一回の仕入れ量を増やして単価を下げられないか交渉する
- 外注費の価格交渉を行う
- 商品の積載効率を高めて輸送トラックの便数を減らす
固定費・変動費を分析して意思決定に生かす
固定費と変動費をもとに経営分析を行うことで、どこを削減すべきかや利益を出すには何をすべきかが見えてきます。
これらの分析は、システムを使うことで効率化が可能です。たとえば、本ブログを運営する株式会社オロが提供するクラウドERP『ZAC』なら、部門別・クライアント別・事業別といった各セグメントごとの費用をアウトプットできるため、どこに費用がかかっているのかがわかります。さらに、各費用をプロジェクトごとに紐づけられるため、より的確な改善策を立てることも可能になります。
たとえば、空間活用に関する企画・デザインから施工までをプロデュースする中央宣伝企画株式会社様では、人件費が主な費用の1つです。同社では、一般的に固定費とされる人件費を、変動費のように個別のプロジェクトに割り振るためにZACを活用しています。人件費を原価とすることでより正確な原価と利益の把握ができるようなったと言います。さらに、個々のプロジェクトの状況を可視化することで、経営改善にも生かせているとのことです。
このようにシステムを活用することで、固定費、変動費をより精緻に分析し、経営の意思決定に生かすことが可能になります。
まとめ
固定費と変動費を正しく分類できれば、事業にかかっている費用の構造がわかり、自社の経営判断や経営改善に生かせます。商品・サービスの生産にどの程度の費用がかかっているのか、どのくらい販売する必要があるのかが明確になれば、利益を上げるために何をすべきかが見えてくるのです。固定費・変動費の分析を経営に生かしたいと考えている方は、下記からダウンロードできる管理会計の資料もぜひ参考にしてみてください。
まずは自社の費用がそれぞれ固定費・変動用のどちらに分類されるのかを把握し、分類するところから始めましょう。