証憑とは?種類や保存期間、効率的な保存方法を紹介
2022/12/16公開
企業が事業を行ううえで、証憑の作成・管理は欠かせません。証憑と一口に言っても、種類はさまざまであり、適用される法律によって保存すべき期間も異なります。そのため証憑に関する正確な理解が必要です。
また証憑の種類は多岐に渡るため、紛失やミスなく効率的に管理しなければなりません。本記事では、証憑の基礎知識から、改正電子帳簿保存法を踏まえた保存のやり方を詳しく解説します。
目次
証憑とは?
証憑とは、何らかの取引が行われたことを証明する書類のことです。わかりやすいように「証憑書類」と呼ばれることもあります。企業における書類では、契約書や納品書などが証憑にあたります。 特に金銭に関わる取引で作成する場合が多く、経理部や会計担当者が扱うことが一般的です。ただし、人事や給与支払いなど、人事部が扱う書類も該当します。税務調査で事実確認を行うために用いられるなど、エビデンスとしても有効な書類です。
帳票との違い
証憑と間違われやすい言葉に「帳票」があります。帳票とは、「帳簿」と「伝票」を総称したものであり、事業を行ううえで作成される書類を広く包含している言葉です。 帳簿には、総勘定元帳や仕訳帳、現金出納帳、固定資産台帳などが該当します。
伝票は、入金伝票や出金伝票、仕入れ伝票などです。すなわち、証憑も帳票の一部と言えます。証憑を根拠として各種伝票を起票し、その伝票を集計して帳簿を作成するというのが一般的な流れです。
証憑作成・受領が必要な理由
証憑は、社外向け・社内向け問わず、どのような条件・内容で取引を行なったのか、関係者間で確認できるよう作成するものです。
取引内容の改ざんを防ぐ目的もあります。取引が成立した証明であり、法律で保存が定められているため、取引をする者同士で作成・受領しておかなければなりません。取引に関するトラブルが発生した際、取引内容を証明して適正な判断を行うためにも証憑を使用します。企業のガバナンスを確認するための監査でも利用されるため、作成・受領し、保存しておくことが必要です。 加えて、会社法や法人税法などで証憑の保存が義務付けられていることもあり、証憑の作成は必須業務なのです。
4つの証憑書類
証憑は、お金関連・商品関連・人事関連・その他の4種類に大別できます。それぞれの種類において、具体的にどのような書類があるか見ていきましょう。
売上・金銭のやり取りなどお金に関する証憑
請求書や領収書など、企業の売上や金銭のやり取りに関するものが1つ目です。企業経営に大きく影響する部分であるため、慎重な取り扱いが必要と言えます。
発注・納品など商品とサービスに関する証憑
2つ目は、商品の発注書や納品書、受領書、見積書、検収書、レシートなど、商品とサービスに関する証憑です。発注書や納品書は、在庫管理にも利用されることがあります。
雇用・給与など人に関する証憑
3つ目は、給与支払い明細書や人事異動の通達書など、従業員の雇用や給与に関するものです。雇用契約書やタイムカード、出勤簿も証憑となります。
契約書などそれ以外の証憑
最後は、上記3つ以外の書類です。事業所などの賃貸借契約書や業務委託契約書、機密保持契約書、銀行からの融資の返済予定表、銀行口座の通帳、議事録、稟議書などがあります。これらも企業経営に欠かせない書類です。
証憑の保存期間
証憑は、種類によって適用される法律が異なるため、保存すべき期間にもそれぞれ異なります。保存期間を守らず紛失・破棄してしまった場合、罰則も設けられているため注意が必要です。ここでは、主に法人のケースで各証憑の保存期間と罰則を解説します。
会社法で定められた期間
会社法では、賃借対照表・損益計算書などの計算書類(付属明細書含む)や会計帳簿は10年間、事業報告や会計監査報告は5年間の保存(*1)が定められています。これは営利法人のための法律であるため、個人事業主は対象となりません。
証憑の種類 | 保存期間 |
計算書類(貸借対照表や損益計算書など)、会計帳簿 | 10年 |
事業報告、会計監査報告 | 5年 |
税法で定められた期間
法人税法では、契約書や見積書など取引に関する書類、現金出納帳や売掛帳などの帳簿は7年間保存(*2)するよう定められています。ただし、欠損金が生じた事業年度の帳簿は10年間保存しなければなりません。 一律10年間保存するルールにしておけば、証憑を分けて保存する手間がかからないのでおすすめです。個人事業主の場合、所得税法で帳簿や決算関係書類、領収書は7年、その他見積書や請求書などは5年の保存(*3)が定められています。
証憑の種類 | 保存期間 |
取引関連の書類(契約書、見積書など) | 7年 |
取引関連の帳簿(現金出納帳、売掛帳など) | |
欠損金が生じた事業年度の帳簿 | 10年 |
保存期間を守らなかった時の罰則
証憑ごとに定められた保存期間を守らなかった場合、以下のような罰則が課されます。 さらに、2021年1月から施工された改正電子帳簿保存法により罰則が強化され、記録の隠蔽または仮装が行われたと判定された場合には、追徴課税が課される(*4)ようになりました。適正な証拠を残すためにも、証憑の保存は必須です。 もし罰則が課された場合、企業にとっては金銭的ダメージだけでなくイメージダウンにもつながりかねません。状況によっては指導のみ済むケースもありますが、保存期間をしっかり把握して守るよう気をつけましょう。
証憑 | 罰則 | 対応法規 |
---|---|---|
取引関連書類、帳簿 | 青色申告の取り消し | 法人税法、所得税法 |
欠損金の繰越ができない | 法人税法、所得税法 | |
仕入税額控除が適用されない | 消費税法 | |
計算書類、会計帳簿、事業報告、会計監査報告 | 100万円以下の罰金 | 会社法 |
証憑の保存方法
では、保存が義務付けられている証憑は、どのように保存すべきなのでしょうか。主な保存方法は、以下の2種類に分けられます。
紙保存
1つ目は、証憑原本をそのまま紙の状態でファイリングして保存する方法です。従来取られてきた方法であり、今でも多くの企業で行われています。誰でもすぐに実施できる点がメリットです。 ただし電子上でのやりとりが増えた昨今、証憑を印刷して紙保存するのはペーパーレス化の流れに反するうえ、非効率と考えられます。保管場所も必要であることに加え、リモートワークでの対応が難しいなど、デメリットも考慮しなければなりません。
電子保存
2つ目は、電子保存可能な証憑をPDFファイルや画像データ等、電子データとして保存する方法です。この方法であればリモートワークでも対応しやすく、保管スペースも必要ありません。書類の検索性向上や、紛失・劣化防止が図れます。 ただし、企業によっては電子保存を行うためのシステムやスキャナ、クラウドなどが必要になり、導入コストがかかります。
また、紙と電子データ両方存在する証憑の場合、紙が原本となるため紙の廃棄ができない点に注意が必要です。加えて、最初から最後まで電子データで作成したものや取引の最初から最後まで電子上でやりとりしたものに限る点、そして領収書や発注書については電子取引の保存用件を満たさなければならない点などにも注意しましょう。
改正電子帳簿保存法により、2024年1月1日以降、データでもらった注文書や発注書、自社が電子データにて発行している場合の控えも含め、紙の保存は一切不可となり、すべて電子データのまま保存しなければならなくなります。電子保存と改正電子帳簿保存法について以下の記事を参考にしてください。
電子保存で効率化できる証憑管理の具体例
電子保存には要件があるものの、管理コストを低減でき効率化が可能になります。ここでは、具体的にどのような効率化ができるのかお伝えします。
経費精算における領収書の扱い
これまで、備品の購入や交際費など経費として支払ったものは、紙のレシートや領収書が必要でした。しかし、電子帳簿保存法に対応し、保存要件を満たした電子保存に対応することで紙は不要になり、データのみの提出で済むようになります。 システムによっては、OCR機能にも対応しており、手打ちでの入力が不要になるケースもあるでしょう。紙の場合、どの領収書に何が書かれているか見つけにくかったのですが、電子データになることで検索性の向上も図れます。
分割や合計請求、送付の対応
見積りや納品のたびに請求書を発行するのではなく、月毎にまとめて請求を行う合計請求や、部署ごとに請求書を分けて発行する分割請求なども、電子取引であれば自動的に計算でき、管理も簡単になります。手計算による、集計ミスや分割ミスなども起こりにくいでしょう。 請求書作成後にそのままメール送付できるような、電子取引に対応しているシステムを利用すれば、郵送も不要になります。月末月初に欠かせない請求書の送付作業も効率化が可能です。
秘匿性の高い契約書の管理方法
雇用契約書や給与明細書など、秘匿性の高い証憑は、紙保存していると誰かに見られてしまったり紛失してしまったりする恐れがあります。しかし、電子保存して一定の従業員のみにアクセス権を付与すれば、情報漏洩を防げます。
まとめ
企業にとって重要かつ不可欠な証憑は、その性質や扱う情報によって4種類に分類できます。会社法や税法の対象となるため、それぞれの法律に基づいて適切に管理しなければなりません。保存期間も5年・7年・10年とさまざまで、期間を守らない場合は罰則も課せられるため、正しい理解が必要です。 電子帳簿保存法によって、証憑の電子保存ができるようになりました。
さらに2024年1月からは、電子取引を行った証憑は電子保存が必須となります。そのため、法律に基づいた要件を満たして電子保存することをおすすめします。電子化によって手間だけでなくミスも減らし、証憑に関する業務効率と秘匿性を向上させましょう。
参考
*1:会社法 :e-Gov法令検索
*2:国税庁:記帳や帳簿等保存・青色申告
*3:国税庁:No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿及び請求書等の記載事項
*4:国税庁:電子帳簿保存法が改正されました