原価計算をシステムで効率化。4つの成功事例から学ぶERP活用法をご紹介
2022/6/10公開
企業活動において欠かせない要素の一つである原価計算。販売価格の決定や予算の管理・編成をはじめ、ビジネスのあらゆる意思決定の元となるため、原価計算は正しく行うことが不可欠です。しかし、原価計算は複雑なため、手間がかかりすぎてしまい、他の業務に支障が出てしまうこともしばしば起こります。
どうにかして原価計算を効率化したい。そのようなお悩みに有効なのがシステムの導入です。システムを活用することで、原価計算をスムーズに行うことができ、正確な損益の把握が容易になります。
本記事では、システムを導入して原価計算を効率化し、自社のもつ課題を解決した事例を4つご紹介します。
目次
多くの企業が原価計算に苦戦
原価計算とは、製品やサービスを提供するためにかかった費用を計算することを指し、原価の把握は企業にとって非常に重要です。
原価計算を行うことで、製品・サービスの価格決定、財務会計に必要な損益把握などができるようになります。さらには、経営判断に役立つ管理会計の実現にもつながるため、原価計算を正しく行うことが安定した企業経営につながるといえるでしょう。
原価には直接労務費や外注費、材料費などの直接費だけでなく、販管費や家賃、光熱費といった間接費も含まれます。そのため、原価を計算すること、配賦を行うことはとても骨の折れることです。特に、社内で複数のプロジェクトが進行している場合、誰が、何に、どのくらいの時間をかけているかの把握が難しく、そこまでは手が回らないという企業も多いのが現状です。
さらに、手作業の計算では時間がかかりすぎてしまい、経理部門への負担が大きくなります。入力ミスが発生し、誤った数字の原価を見ていたという事態にも陥りかねません。 このような問題を解決し、正確かつスピーディな原価計算を実現するためには、システムを導入することが一番の近道と言えるでしょう。
原価計算について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ここからは、さらに詳しく原価計算とシステムについて解説していきます。「原価計算の目的・メリットをまとめて知りたい」「プロジェクト別原価計算についてざっくり知りたい」という方は、こちらからプロジェクト別原価計算ガイドをダウンロードなさってください。
原価計算にERPを活用するメリット
効率よく原価計算を行うにはERPの導入が有効です。実際に、ERPを導入することで得られるメリットを紹介します。
すべてのコストを案件に紐づけ管理できる
ERPは企業内の情報を一つのシステムに集約し、管理できる仕組みになっています。プロジェクト管理機能をもつERPなら、売上に対して、仕入や労務費、販管費など複数種別の原価を紐づけられるため、かかったコストを都度集計・計算する手間が要らず、一目で損益が把握できるようになるのです。また、本ブログを運営する株式会社オロのクラウドERP「ZAC」ならプロジェクトごとの損益管理ができ、システム開発業やクリエイティブ業といった複数のプロジェクトを同時進行する業務にも対応できます。
一元化により転記ミスを防止
原価計算における数字は、会計に直接影響するため、第一に正確であることが求められます。システムをERPに一元化することで、複数の独立したシステムを使った場合に発生しがちな転記ミスや重複入力を防げます。また、データ収集の手間がかからず、最新の情報をキープできるのも大きなメリットです。例えば、社員が入力した工数がそのまま労務費として原価に反映されることで、転記が不要となり、数字の不一致といったミスを防止できます。
また、一つのシステムに情報を集約することで、社内のフォーマットが統一され、経営数字のチェックがしやすくなるといった効果もあるでしょう。
配賦計算を自動化できる
原価計算において、間接費の配賦作業は非常に煩雑です。この煩雑さが、原価計算の実現を困難にしている要因の一つであり、配賦作業に時間を取られているという企業は多いものです。
配賦機能をもつERPを使えば、あらかじめ配賦基準を設定するだけで配賦作業を自動化でき、業務を効率化できます。例えば、家賃や光熱費といった特定のプロジェクトに直接紐付かない間接作業工数をシステムに入力。入力された工数は、システム内部で直接作業時間、間接作業時間に判別され、労務費等の配賦基準として活用される仕組みです。また、売上計上時に仕掛品を自動的に売上原価に振り分けるといった、便利な機能をもつERPもあります。
タイムリーな損益管理を実現
原価計算においては、常に最新の情報が反映されていることも重要です。なぜなら、案件の状況は常に変化しているからです。そのため、せっかく原価計算を行っても、情報が随時更新されていなかったり、プロジェクトの終了後だったりしては効果的ではありません。気が付いたときには想定以上の原価が積み上がっており、赤字案件になっていた、という事態も起こりえるのです。
プロジェクト管理機能に強みを持ったERPを活用することで、プロジェクトの情報と進捗をリアルタイムで確認することが可能です。プロジェクトが順調であるかを常に確認し、問題点の早期発見・対策ができるので、赤字プロジェクトの防止につながります。
システム導入による原価計算の成功事例4選
ここからは「ZAC」を導入し、原価計算の効率化に成功した事例をご紹介します。
①株式会社JMC様
社員数81名規模でZACを導入した株式会社JMC様。「3Dプリンター出力事業」と「鋳造事業」で顧客メーカーのものづくりをサポートしており、わずか2年弱の準備期間で上場を成し遂げています。
上場にあたり、特に大きな課題だったのが、非効率な原価計算でした。同社のビジネスは人件費が原価の大半を占めており、原価計算を行うには製造にかかった作業工数を正確に集計する必要がありました。以前はExcelを集計して手作業での計算を行っていましたが、案件データと工数管理が連携していなかったり、勤務時間と工数時間がズレるなどの人為的ミスが発生したりといった問題があったといいます。工数が正しくなければ、同社の配賦基準も誤ったものになるため、ありえない原価データが作成されることもありました。監査法人からも、手作業の原価計算は「内部統制上のリスク」だと指摘され、正確性やスピードを担保するためのシステム導入を検討開始しました。
「ZAC導入後は、営業プロセスと製造プロセスを分断することなく同じシステムで管理できているため、統制もかけやすく、数字の正確性や業務の効率化にもつながっています」(取締役 CFO 森谷様)
月間約300件、年間約3,000件の案件が発生する同社。原価計算を手作業で行っていた際は、工数データや機械の稼働データを毎日集計しなければ、集計作業が追い付きませんでした。ZAC導入後は、実質毎日行っていた原価計算が5営業日ほどの作業で完了し、精度も向上。月次決算も9営業日から4営業日に短縮することに成功しました。
また、案件別の詳細な損益レポートも作成できるため、以前のように原因不明の赤字もなくなったとのこと。原因がはっきりすることで、社員への具体的な指示や注意喚起に活かされているようです。セグメント別の売上集計も出力でき、過去データをもとに根拠のある予算を組めるので、予算統制のレベルが底上げされたのも大きなメリットだといいます。
さらに、同社では原価を元に見積書を作ることも行っています。以前は紙の見積書をクリアファイルで管理していましたが、ZACでは案件ごとに見積書のバージョンがシステム上に蓄積されるので、管理上のミスも削減できました。
②株式会社エクス様
社員数100名規模でZACを導入した株式会社エクス様。製造業向けの生産管理システム『Factory-ONE 電脳工場』シリーズを開発しています。
創業以来、自社製品とExcelを組み合わせた独自の方法で原価管理に挑んでいましたが、ビジネスの成長にともないExcelを使った原価計算に限界を感じるようになったといいます。「仕掛中のプロジェクト原価を見ながら、外注費を抑える・アサインを調整するなどの手を打ちたかったが、実態は確定したデータを見るだけとなり、すでに手遅れ」ということが多かったそうです。
原価管理としてだけでなく経営判断にも原価データを活かしたいという思いがありました。しかし、二つのシステム間でデータの不整合があることも多く、経営判断の根拠とするには精度に不安があったといいます。「データの"見える化"まではできていたけれど、それを踏まえて素早くアクションを起こすような"次のわかる化"までは至っていない」のが現実でした。
そこで「原価」に着目して、組織全体を一気通貫で統制する仕組みの構築を決意。現場にとって都合のいい、部分最適に陥ったシステムになることを避けるため、自社でシステム開発をせず、あえて他社製品であるZACを導入することになりました。
同社では、一つの案件でフェーズや進捗にあわせて段階的に売上計上を行っているのが特徴です。さらに各フェーズの工程も実際の作業内容によって細かく管理し、それぞれの完了・納品といったタイミングで売上計上。これを「枝番管理」と呼んでいます。一つの案件でも各フェーズで売上計上タイミングや関わる人員も異なるため、別案件として管理し、これらをプロジェクトとしてまとめていたといいます。これらの「プロジェクト」「案件」「枝番」の3階層での売上計上や原価管理が、ZACではカスタマイズなしの標準機能で対応できたことが導入の決め手でした。
「ZAC導入後の大きな変化は、社員の行動が変わったことです。原価計算は以前から行っているので業務処理自体はそれほど変わっていませんが、どの処理をいつまでに行うかというスケジュールを社員みんなが意識し、各処理をきっちり行うようになりました」(代表取締役社長 抱様)
導入前は原価登録に締め切りを設けておらず、タイムリーに原価を登録させるルールがあいまいで、どのくらいの作業時間を予定しているかといった予算管理も不十分だったとのこと。そのため、登録されずに溜まっていた原価が一気に入力されるまで赤字が判明せず、「赤字はいきなりやってくる」という状態でした。
ZACでは月次の締め処理を行えば、当月までの作業実績と翌月以降の作業予定を組み合わせて、プロジェクトの最終的な利益率・原価率がどのくらいになるかの着地見込みを示す機能があります。そのため、対策が必要なプロジェクトを早期に発見して、速やかに手が打てるようになるのもメリットです。
管理者だけでなく、現場の社員同士がお互いのプロジェクトの進捗を管理できるので、黙っていてもすぐに異変がわかるようになったのも嬉しいメリットだといいます。ZAC導入後、半年で作業工数は月間82時間、約11人分の削減に成功。今はさらに削減効果が大きくなっていると予想されます。
③AZAPAエンジニアリング株式会社様
社員数90名規模でZACを導入したAZAPAエンジニアリング株式会社様。自動車分野で新技術・先端技術の開発と先駆的なソリューションを提供するAZAPAグループの一員として、主にOEMメーカーの車両開発に携わっています。また、エンジニアリング事業だけでなく、製品化事業にも取り組んでいます。
ZACを導入する前に、まずはZACの姉妹製品であるReforma PSAを導入した同社。事業規模が拡大するにつれて、それまで親会社に一任していた案件管理を自社で行う必要がでてきたためにリプレイスに至ったとのこと。当初は社員数が20名程度だったため、費用感も考えReforma PSAを選択した経緯がありました。その後、原価配賦が必要になり、ZACへのステップアップを決意したといいます。
ZAC導入による大きなメリットは、直接費と間接費の管理方法が明確になったことだそうです。例えば、工数や交通費などをZACの仕様に合わせて、案件に紐づけて直接費扱いとするのか、部門に紐づけて間接費扱いにするのかといった社内ルールを決めたことで、経営陣が求める正しい原価管理を実現しました。
さらに、案件ごとの稼働状況や利益がリアルタイムで確認できるようになり、データに基づく経営管理がより正確に行えるようになるという変化もありました。分散していた業務管理が一元化されたことで、二重入力や転記などのムダがなくなり、作業効率がアップしたこともメリットにあげられます。
「原価配賦が実現し、案件に売上と原価が紐づくようになったことで、経営判断がしやすくなりました。原価配賦をともなう案件別の詳細な損益管理が実現し、案件ごとの利益率とその要因分析が行えるようになったため、利益予測の精度も上がりました。また、残業が多く利益率が悪くなりつつある案件を発見して、すぐに対策を打てるようになった点は、社内のメリットだけでなく、お客様にも喜ばれているように思います」(事業統括部長 和泉様)
同社では、案件別原価の確認を含め、出力した経営データを財務会計システムへの連動も実施。経営会議での報告時には、それらのデータを活用して、各月の予実や売上高、経常利益、案件別の粗利などのKPIを設定しています。
④株式会社フラッグ様
社員数100名規模でZACを導入した株式会社フラッグ様。映像やWebなど各種コンテンツの企画、制作、複製・配信、広告・宣伝までの一連をワンストップで提供する事業を行っています。
もともと、部門ごとに最適化され、独立したシステムが複数存在していた同社。しかし全体的な連携が考慮されていないため、各所で非効率が発生しているという課題がありました。例えば、管理部門が行う案件ごとの個別原価管理では、各システムからのデータ集計、仕訳入力、原価計算、プロジェクト収支報告書の作成という手間があり、どんなに頑張っても2週間遅れの実績報告が精一杯だったといいます。業務時間のほとんどが集計・計算作業に費やされるため、その先の分析やマネジメントはよほど頑張らないと手が追いつかない状況でした。
その後、社員数が60名を超えたあたりからオペレーションに無理が生じるようになり、社内の課題をERPによって一気に解決するために、ZACの導入を決めました。「プロジェクト管理ができるERP」という条件でのERP選定を行った同社。同社の場合、すべての案件がオーダーメイドで作られており、制作期間内に積みあがる人件費や仕入といった原価を、案件ごとに正確かつリアルタイムに把握できることが必須条件でした。それらの条件を満たしているのがZACだったといいます。
ZACのプロジェクト管理画面は、個別案件の受注金額や仕入金額以外に、クリエイターの労務費も原価として表示される仕組みです。それによって、案件に対する作業時間が原価として積みあがっているという事実を、クリエイターが自然に意識するようになったといいます。インプットを一つのシステムに集約し、工数と原価の関連をシンプルに見せることで、数字に対する当事者意識が芽生えたのは大きな変化です。
また、ミドルマネジメント層にも変化が表れており、自部門の原価・利益が正確な数字として表示されることで、もっと利益を出すにはどうしたらいいか、赤字案件を防ぐにはどうしたらいいかを自発的に考えるようになったとのことです。経営管理や意思決定がミドルマネジメント層において自然に行われることになり、いい効果が得られています。
「私たちのようなクリエイティブ系の業態だと、数字を意識して仕事をしているのは社内のごく一握りというケースは多いと思います。しかし、どんぶり勘定で生き残れるほどの経営環境ではなくなりつつある今、信ぴょう性のある経営数字を誰もが見られるようにするERPのような仕組みが必要だと思います」(代表取締役 久保様)
スムーズな原価計算を叶えるERPの選び方
今回紹介した事例からわかるように、Excelを使った手作業での原価計算は、企業が小規模の時は問題なくとも、規模が大きくなるにつれて負担が増加します。そのため、一定規模以上の企業においては、システムを活用した原価計算が必要になってきますが、数あるERPの中からいったいどのような点に注目してERP選定をすればいいのでしょうか。
まず、原価計算において多くの企業がつまずく、「正確な労務費の把握」と「煩雑な配賦計算作業の効率化」ができることは外せないポイントとなるでしょう。
特に、複数のプロジェクトが同時進行する業種においては、プロジェクトごとの労務費を把握することではじめてプロジェクトごとの原価、損益が見えてきます。そのような業務形態をもつシステム開発業やクリエイティブ業、コンサルティング業といった業種には、プロジェクト管理機能をもっているERPがおすすめです。
案件終了後に赤字が判明するという事態にならないためにも、随時情報を入力し、タイムリーに反映されることも欠かせません。しかし、忙しい業務の中、毎日欠かさず入力することは思いのほか難しいものです。入力を促すためにも、入力漏れを防ぐアラート機能などがついていることも選定の候補となるでしょう。
また、原価は直接、企業の会計・経営判断に影響してくるため、データの正確性を担保できることもポイントです。内部統制が担保されたERPなら、不適切な原価操作やミスを防ぐ仕組みや、履歴が残る仕組みを兼ね備えているため、正しい原価計算を行うのに有効です。
さらに、原価計算のデータを経営戦略に活かせる機能があるとよりよいでしょう。ERPの中には、集約したデータから多様なメッシュデータを出力でき、経営分析を視覚的に把握できるBIツールの機能をもつものもあり、より精緻なデータ分析が可能です。計算した原価に関するデータをより効果的に利用するなら、ぜひ押さえておきたい機能です。
まとめ
正確かつスピーディな原価計算を実現することで、赤字プロジェクトを削減し、企業の成長につながることが事例からわかりました。月次決算にかかる時間が大幅に短縮できるので、経理部門の負担も軽減できます。
また、経営層はもちろん、ミドルマネジメントや現場社員の意識向上にもつながり、一人ひとりが原価や損益に対する意識をもって業務にあたるようになったというケースもありました。このように、原価計算は、正しく原価を把握するだけにとどまらず、企業に多様な利益をもたらします。
プロジェクト管理機能をもつZACなら、労務費の把握や配賦作業、煩雑な原価計算を案件ごとに行うことができ、原価や損益を踏まえた詳細なレポートを経営判断に活かすことが可能です。原価計算を効率化したい、原価計算を経営に活かしたいと考えている企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。