組織におけるコスト意識の高め方。目的や具体例も解説
2023/7/07公開
会社で利益を上げるためには、売上アップに加えて、原価や経費といったコストを削減することが重要です。しかし、コストは目に見えにくいものも多く、特に従業員にとって意識しにくいものだと言えます。
従業員のコスト意識を高めるためには、まずコストにはどのようなものがあり、どのくらいかかっているのかを可視化することが有効です。
この記事では、組織におけるコスト意識の高め方について詳しく解説します。
目次
コスト意識とは
組織におけるコスト意識とは、働くうえで各業務や工程にどのようなコストが発生しているかを常日頃意識することです。社員一人ひとりがコスト意識をもち、コストの発生を自分ごととして捉えることで、社内のコスト削減や経営基盤の強化など、様々なメリットが得られます。社内のコストを削減できれば、会社の利益増加にもつながります。安定した企業経営を行うためにも、まずは従業員のコスト意識を高める必要があるでしょう。
コストの具体例
コストには、金銭的コスト(経費)と時間的コスト(時間)があります。会社には目に見えやすく算出しやすいコストだけでなく、普段なかなか意識が向かないコストも多く存在します。たとえば、経費の中でも特に労務費は把握しにくいものです。
ここでは、金銭的コストと時間的コストの具体例を紹介します。
金銭的コスト
金銭的コストとは、直接お金が発生するコストのことです。主なものとして、人件費や保守修繕費、消耗品費、旅費交通費などの経費が挙げられます。
人件費 | 労務費(制作部門の賃金など、製品やサービスの製造にかかる費用)、販売費(営業部の賃金など、販売にかかる費用)、一般管理費(経理・総務の賃金など、企業の管理全般にかかる費用) |
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保守修繕費 | サーバーの保守費など |
消耗品費 | 事務用品の購入費など |
旅費交通費 | 従業員の交通費など |
時間的コスト
時間的コストとは、各行動や業務にかかる時間のことです。時間的コストの具体例としては、業務開始から終了までの時間の長さ(就業時間)や実作業時間、従業員に対する教育の時間、待ち時間などが挙げられます。時間的コストは、業務が効率的に行われているかどうかを測る指標にもなるのです。
また、時間的コストは、金銭的コストと密接に関わるものもあります。例えば、就業時間で時給を計算している場合、時間的コストと比例して金銭的コストも増加するでしょう。
コスト意識を高める目的
コスト意識を高めることによって、どのようなメリットが得られるのでしょうか。この章では、コスト意識を高める目的について詳しく解説します。
利益を上げるため
会社は利益を上げることによって、従業員や株主への還元を行ったり、次の事業への投資を行ったりすることが可能です。利益の還元は従業員の働くモチベーションにつながり、投資を行うことで新たな利益を生み出せる可能性が高まるでしょう。
利益は、売上-原価(コスト)という式で算出します。いくら売上を上げても、同時にコストが増加していては利益を得ることはできません。逆に、たとえ売上が伸びていなくても、コストが下がれば得られる利益は増えると言えます。そのため、売上増加ばかりに目を向けるのではなく、普段からコストを削減する意識が利益アップにつながるのです。
経営基盤強化のため
コスト意識を持つことは、経営基盤の強化にもつながります。
例えば、会社が成長し、人や仕事が増えた際にも適切なコスト配分が可能となるでしょう。 さらに、コスト削減によって利益を上げられれば、その利益を使って新たに人を雇用したり、新しい事業を増やしたりなど、より強固な経営基盤を実現するための施策を行いやすくなります。
また、コスト意識を持つことは、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)にもつながります。会社で使う電気やガス、水道などのエネルギー使用量を削減できれば、気候環境や地球温暖化への負荷を減らせるでしょう。
従業員に経営者視点を持ってもらうため
社内にコスト意識を根付かせることで、従業員一人ひとりに経営者視点を持ってもらいやすくなります。従業員が経営者視点を持つことで、会社の利益をアップさせるためにはどうしたらいいか、当事者意識をもって業務に取り組めるようになります。企業全体の利益を基軸に考えられるようになるため、業務上における判断や意思決定のスピードも大きく向上するでしょう。
コスト意識を高めるための3つのポイント
コスト意識が不足している大きな要因として、「何にコストがかかっているか」が見えないことが挙げられます。そのため、まずは会社の業務で発生しているコストを可視化することが重要です。
この章では、コスト意識を高めるために、可視化すべき3つのポイントについて解説します。
①業務のムリ・ムダ・ムラの可視化
まずは、普段行っている業務の「ムダ・ムリ・ムラ」を可視化することから始めていきましょう。これらは業務効率化を阻むものであり、コストダウンの足かせとなるものです。
- ムダ:必要以上に生産することや、余計な動作や作業のこと
- ムリ:実現不可能なスケジュールや人手に見合っていない作業量のこと
- ムラ:適正な方式が標準化されていないため、ムダとムリの間を行き来している状態・状況のこと
業務フローを洗い出し、どのような業務が「ムダ・ムリ・ムラ」につながっているのか、それによって発生する問題点を把握し、これらを解消できるように取り組んでいきましょう。
②部門別のコストの可視化
組織全体のコスト意識を向上させるためには、部門別にコストを可視化する方法も有効です。どの部門、さらに部署内のどこにコストが集中しているのかがわかるようになり、最も身近である自部門のコストに意識を向けやすくなります。
部門の中でもコストセンターと呼ばれるバックオフィス部門は、直接的に利益を生み出さないため、利益やコストに対する意識を持ちにくい傾向があります。バックオフィス部門では、時間的コストを可視化し、把握することによってコスト意識向上につなげられるでしょう。
③案件別のコストの可視化
広告業やシステム開発業のような案件単位で業務を進める業種の場合、自分の関わる案件のコストを可視化することで、コスト意識を高められます。
もしも売上だけ追ってコストが把握できていない場合、気付いたときには案件が赤字化していることもあり得ます。そのような事態を防止するためにも、案件ごとにコストがどのくらいかかっているのか、かかりそうなのか常に意識することが重要です。案件にかかる主なコストとして、外注費や材料費、会議費、光熱費などが挙げられます。
さらに、これらの金銭的なコストを把握しつつ、見えにくい時間的コストも可視化することが求められます。しかし、複数の案件を同時進行している場合、どの案件や業務にどの程度の時間がかかっているか把握することは非常に煩雑です。まずは、必要以上に時間がかかってしまっている案件はないか、特定の人に負担がかかりすぎていないかなどを把握することから始めていきましょう。
組織のコスト意識を高める方法
この章では、上記のポイントを押さえたうえで、実際にコスト意識を高めるにはどのような取り組み方法があるかを紹介します。
コストダウン目標を設定する
まずは、具体的な目標を設定し、コストについて考える機会を設ける必要があります。具体的な目標がなければ、コスト削減に意識は向かないものです。例えば、下記のような具体的な数値をもとにして目標を設定すると良いでしょう。
- 経理業務にかかる経費を20%削減する
- 業務フローを見直し、残業時間を3割削減する
部門別や案件別で可視化したコストをもとに部門で目標を立て、目標達成に向けた取り組みを行うことで、会社全体のコスト意識向上が望めます。このとき、高すぎる目標を立ててしまうと、逆に社員のモチベーションが下がってしまうため、現実的な目標を設定することも大切です。
コストダウンプロジェクトチームを結成する
コスト意識を高めるためには、目標を立てて終わりでなく、継続的にPDCAを回さなければなりません。また、従業員がモチベーションをもって取り組める仕組みの構築も重要です。そのためには、プロジェクトチームを結成し、目標達成状況の観測や啓蒙を行うことが有効です。
プロジェクトチーム結成後は、チーム内でコスト削減の方法と具体案、役割分担を明確にします。目標を達成した際の評価基準を明確にしたり、従業員に対して必要なアドバイス・サポートを行ったりすることで、社内のコスト意識向上につながるでしょう。
コスト削減を評価につなげる
コスト削減への取り組みを従業員の評価につなげることで、コスト意識の土台が醸成されます。評価を実施する際には、金銭的コストの削減はもちろん、残業せずに業務を終わらせるといった時間的コストも評価することが大切です。時間的コストを意識することによって、業務効率化にも期待できるでしょう。
案件のコスト管理を行う
案件単位で業務を進める業種であれば、案件別に可視化したコストをもとに、利益率が下がっているか(原価率が上がってしまっていないか)を、モニタリングする必要があります。そのうえで、目標に対して達成度はどうなっているのか、コストが増加している場合はどこに問題があるのかを把握し、適切な対策を立てることが望まれます。原価と利益を意識したマネジメントを行うことで、部門全体のコスト意識を高めることができるのです。
コスト意識を高め、生産性向上を実現した事例
プロジェクトによって異なる経費をすべて手計算で行うことは、とても時間がかかり、担当者の負担も大きくなります。システムを活用することで、金銭的コストと見えにくい時間的コストの両方を可視化することが可能です。
この章では、本ブログを運営する株式会社オロが提供するクラウドERP「ZAC」を導入し、コスト意識を高め、生産性を向上した事例を3つ紹介します。
株式会社オレンジ社様
株式会社オレンジ社様は、企業広報を中心とした企画制作、実施運営、改善支援などを一貫して行う会社です。同社では「全員参加の経営」を目指しており、そのために部門別採算制度を採用しています。部門別採算制度の運用には、採算や作業工程などの情報も書き込めるオリジナルの手書き伝票を使用していましたが、手間・時間がかかっていたのが課題でした。
ZAC導入後は、ZACから出力したデータで、部門別・個人別・案件別の「売上高」や「売上原価」、「付加価値高」、「時間あたり付加価値高」などの数値の確認・分析ができるようになったと言います。これらの数値を細かくモニタリングすることで、問題点が見つかった場合でも、すぐに当該部門長と対策も立てられるようになりました。
その結果、売上原価率を5年で11.2%減少させることができ、コストの圧縮に成功。コスト管理のレベルが高まることで時間外労働が減り、コスト削減によって生まれた資金をもとに新たな取り組みが行えるようになったこともメリットです。
フュージョン株式会社様
ダイレクトマーケティングを基軸とした総合マーケティングサービスプロバイダであるフュージョン株式会社様。同社では、案件別の作業実績をシステムに入力していたものの、各データの所在や入力内容がバラついており、誰が・どの案件に・どのくらいリソースを割いているかを正確に把握できておらず、社員の損益意識も希薄な状態だったと言います。
そこでZACを導入し、損益をベースに案件全体の分析を実施しました。ZACのデータから「受注見込管理」「案件類型別の損益資料」「クライアント別の損益資料」という3つのレポートを出力し、経営層だけではなく各部門に共有し、マネジメントに活かしています。その結果、合理的な経営判断、営業判断が行えるようになったとのことです。また、案件別の損益が明確になることで、社員の意識や行動が大きく変化したというメリットも得られています。
株式会社フラッグ様
株式会社フラッグ様では、映像やWebなど各種コンテンツの企画、制作、複製・配信、広告・宣伝までの一連をワンストップで提供しています。
当時、同社では経費管理や受注管理、会計システムなどのシステムがそれぞれ独立し、連携されていない状態にありました。そのため、各所で非効率が発生しているという課題がありました。ZAC導入により、これらのシステムを一つに集約し、工数と原価の関連を可視化することに成功しました。
また、クリエイターがより良いものを作ろうとするあまり、自身の稼働時間やコストに対する意識を持ちづらいという、クリエイティブ業特有の課題にも変化がありました。ZAC上ではクリエイターの労務費も原価として表示されるため、社員一人ひとりに数字に対する当事者意識が芽生えるようになったとのことです。
自部門の原価・利益が正確な数字としてZACから提供されることで、ミドルマネジメント層にも変化があったと言います。さらに利益を出すにはどうすればいいか、赤字案件を防ぐにはどうしたらいいかを自発的に考えるようになったそうです。
コスト意識を高めるにはまずコストの可視化から
企業で安定した利益創出をするためには、社員一人ひとりがコスト意識を持つことが重要です。コスト意識を高めるためには、案件に関わる経費や仕入などの金銭的コストを明らかにするとともに、どの業務にどのくらいの時間がかかっているかといった、時間的コストを可視化する必要があります。
しかし、クリエイティブ業やシステム開発業といった、プロジェクト単位で業務を行う会社では、一人が複数のプロジェクトを進行しているため、工数などの時間的コストを正確に把握することは難しいことです。そこで、システムを活用することで、コストの可視化をスムーズに行えるようになります。
ZACのようなプロジェクト管理機能に特化したシステムであれば、案件に紐づくコストを一括で管理することが可能です。自分が関わる案件にコストがどのくらいかかっているか、自身の労務費がどのように積みあがっているかを把握することで、コスト意識が育まれるでしょう。