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ソフトウェアビジネスの会計監査の現場から第1回 ~新「工事契約会計」の適用開始~

ソフトウェアビジネスの会計監査の現場から第1回 ~新「工事契約会計」の適用開始~
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2009/8/19公開

本コラムでは「工事進行基準」の詳細な解説と、進行基準に対応するために必要なプロジェクト管理の具体的手法、また、IFRSがおよぼす工事進行基準への影響について解説致します。ソフトウェアビジネス以外にもご活用いただける内容となっています。ぜひご覧ください。

目次

    新「工事契約会計」の適用開始

    2009年4月から適用されている新会計基準「工事契約会計」(※1)が、システム開発を行う企業に大きな影響を与えています。

    新「工事契約会計」は、受注制作のソフトウェアの売上計上基準として適用されてきた工事完成基準に代え、工事進行基準(※2)を優先的に適用することを求めたからです。工事進行基準の適用開始はなぜそのように騒がれたのでしょうか。それは、工事進行基準を適用するためには、開発開始前に契約金額を合意すること、また、高い精度で制作原価を積算することというシステム開発ビジネスの実務を考えると短期間ではとても対応できそうもない条件が提示されたからです

    しかし、このような難しい条件をクリアして、システム開発を行っている上場企業はこの4月から既に新「工事契約会計」を適用しているはずです。問題はすべて解決されたのでしょうか。

    そうとは思えません。開発が始まってもなかなか契約額が決まらない、あるいは、開発を開始する時点で見積もった原価が開発を進めていくにつれ大きく変わってしまうという古くて新しいこの業界にとっての課題は、新「工事会計基準」の適用がなかったとしても、システム開発を行う企業がなんとか解決しようと試み、しかし、失敗を繰り返してきた経緯があるからです。

    こういった本質的な課題が解決されないままに工事進行基準の適用が始まったわけですから、契約額の変更や工事原価の積算誤りなどに起因する過去に計上した売上高の訂正が増加し、不適切な決算として取り扱われる事例も増える可能性があり、工事進行基準の適用上の混乱はしばらく続くものと思われます。

    不適切な決算

    (※1)「工事契約会計」とは、平成19年12月27日に公表された「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)、「工事契約に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第18号)のことを指します。
    (※2)工事進行基準とは、受注総額に工事原価の発生度合いなどから計算される工事進捗度を乗じて売上高を計算する収益認識に関する会計処理のことを指します。

    システム開発を行う企業におけるプロジェクト管理のポイント

    話は変わりますが、監査法人に勤務する公認会計士が行う業務の中に、企業の上場準備監査という重要な業務あります。

    今でもシステム開発をビジネスとする会社の上場意欲は依然として強いものがありますが、システム開発を行う企業の上場準備監査の中でお受けする質問の一つに、プロジェクト管理をきちんとできるシステムを知りませんか?というものがあります。もちろん、システム開発を事業とされていますから自前で制作することもできるはずですが、上場までの期間や準備作業の効率性を考慮すると既に実績のあるシステムの導入を検討されるのでしょう。

    私がそのようなご質問を受けた際には、下記のようなプロジェクト管理のポイントを満たせるシステムの導入が必要ではないでしょうかとお答えします。

    • 受注決裁をする前のプロジェクト原価の発生を防止できる
    • 稼働管理の結果が適切に原価計算に反映できる
    • 予定原価の変更を適時に反映できプロジェクト利益管理が適時に行える
    • 完成後に発生した原価をプロジェクト別に集計できその原因分析ができるなど

    プロジェクト管理ができるシステムは世の中にいくつかあると思いますが、株式上場を目指す規模の企業が求められる内部統制のレベルに合致した上記のような機能を実装する業務システムはそう多くはないというのが実情ではないでしょうか。

    進行基準を適用するために重要なプロジェクト管理

    さて、工事進行基準の話に戻りますが、上記のいくつかの統制上のポイントは、工事進行基準適用のベースとなります。

    受注額が決まっていることと見積原価が決まっていることという工事進行基準の適用要件を満たすには、まずは、受注段階でプロジェクト別に受注額と予定原価の比較ができること、見積原価の変更が適時・適切に実施できることによってプロジェクト別の利益管理がきちんと行えることが必要だからです。もちろん、プロジェクト別の利益管理は企業会計のために行うものではなく、企業が赤字プロジェクトを抱えずに継続的に利益を出すという意味でも非常に重要です。

    今回、システム開発を行う企業にとってのプロジェクト管理の在り方について連載の機会をいただきましたが、利益を出せる企業、利益を出すために必要な仕組みや内部統制、工事進行基準を適切に適用するためのポイントなどについて、次回から順次ご説明して参りたいと思います。宜しくお願いします。

    pic-column1_calc.gif

    INDEX : ソフトウェアビジネスの会計監査の現場から

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    柴谷 哲朗

    この記事の筆者

    太陽ASG有限責任監査法人 代表社員 公認会計士

    柴谷 哲朗

    平成3年中央大学商学部卒業。平成10年公認会計士登録。大手監査法人を経て現在、太陽ASG有限責任監査法人の代表社員として活躍中。ソフトウェア、コンテンツ等の会計実務を専門とし、著書には「ソフトウェアビジネスの会計実務」(中央経済社)などがある。