経営課題とは?中小企業がぶつかる課題や解決方法を解説
2023/8/04公開
感染症流行や原材料価格変動、為替変動、デジタル化の浸透など、社会を取り巻く環境は激しく変化し続けています。これらは日常生活だけでなく、企業経営にも大きな影響を及ぼします。さまざまな要因によって経営状態が変化するなか、経営上の課題を明確化するのは簡単ではありません。
経営課題を把握できたとしても、解決するために必要なプロセスやツールを知り、手を打つことが必要となります。本記事では、日本企業の99.7%を占める中小企業に焦点を当てて、企業経営における主な課題やその見つけ方、解決方法、課題解決に有効なツールについて解説します。
目次
中小企業における経営課題とは
経営課題は企業によってさまざまです。しかし、多くの企業が共通して抱える一般的な課題もあります。ここでは、中小企業における主な経営課題を紹介していきます。
人材不足
日本全体では人口減少が続いており、2020年の国勢調査(*1)によると生産年齢人口(15〜64歳)の割合は近年減少傾向にあり、全体の60%を下回りました。一方、65歳以上の人口は28.6%と過去最多です。高齢化によって要介護人口が増えたことを考慮すると、家族の介護を理由にこれまで通りに働けなくなった生産年齢人口も増えたと考えられます。つまり、労働力はさらに減少していると言えるでしょう。
実際に、中小企業庁が発行した2022年版「中小企業白書」(*2)によると、中小企業における従業員数過不足DI(従業員が過剰と感じる企業の割合から、不足と感じる企業の割合を引いたもの)は、各業種でマイナスとなっていました。つまり、いずれの企業も人手不足を実感していることを表しています。
さらに2023年4月より、中小企業においても従業員の時間外労働割増賃金率が引き上げられました。これまで人手不足を時間外労働で対応していた企業にとっては、経済的負担が増えることも考えられるでしょう。
このような状況から、自社に合った優秀な人材を確保することはますます難しくなっていると言えます。
知識・ノウハウ不足
中小企業の場合、大企業に比べて知識やノウハウが不足傾向にある点も経営課題として挙げられます。これは、従業員数や研究開発費の違いが、知識・ノウハウの蓄積に関与しているためです。
知識やノウハウは、社内で共有・ストックする仕組みが必要です。業務で得た知識やノウハウを従業員全員で共有することにより、従業員一人ひとりのスキルアップや業務効率化につながるでしょう。また、業務の属人化を防ぎ、退職や休職による知識・ノウハウ喪失を防止できます。しかし中小企業では、人手不足が原因で、共有しやすい環境づくりやマニュアル作成まで手が回らないことも考えられます。
特にITの進歩が著しい近年では、最新技術をキャッチアップして自社のノウハウへと昇華することも重要です。具体的には、クラウドやAIの活用といった時代の流れを取り込むことで、業務効率化や生産性向上につながります。それに加えて自社独自の知識・ノウハウがなければ、競合他社の中で抜きん出ることは難しいでしょう。
中小企業の知識・ノウハウ不足は、今後市場シェアを拡大し、自社のポジションを守るためにも解決すべき課題です。
収益拡大
企業において収益を上げることは、重要かつ本質的な課題であると言えます。中小企業全体の売上高は近年回復傾向であるものの、リーマンショック(2008年)以前の売上高にはまだ戻っていません。
企業として収益を拡大することは必須であるものの、新たな機会の創出や付加価値の創造に苦労して、収益が伸び悩んでいる中小企業は多いと考えられます。
コストダウン
収益が上がっても、それ以上に製品・サービスの製造販売コストがかかっていては利益を生み出せないため、いかにコストを下げるかという課題もつきまといます。中小企業の経常利益は2020年第3四半期を底に増加傾向だったものの、2022年第4四半期にはやや減少傾向となりました。
近年では急激な物価高騰によって、企業活動で使用するエネルギーや材料価格が上がり、コスト増となっています。実際に、物価高騰によりマイナスの影響を受けた企業は約6割強(*)であり、収益減少につながっているのです。
後継者不足
人材不足とも関連しますが、企業を後継できる人材が不足していることも中小企業にとっての大きな課題です。2021年版「中小企業白書」(*3)によると、後継者が不在の企業の割合は2021年で61.5%でした。 後継者がいなければ、企業はM&Aなどで第三者へ事業を売却するか倒産することになるため、早期から手を打つべき課題と言えます。後継者育成については、以下の記事を参照ください。
経営課題を把握する方法
上記で紹介した課題は中小企業の一般的な経営課題であり、必ずしもすべての企業に当てはまるわけではありません。まずは自社がどのような経営課題を抱えているのか把握することが重要です。
そのためには、現状を可視化し、リソース不足やムダの発生といったボトルネックを明確にしなければなりません。ここからは、自社の経営課題を把握する方法について解説します。
①経営資金の可視化
経営の継続に欠かせない自社の経営資金を可視化します。お金の流れや財務状況は経営の維持に直結するものであるため、多くの企業が把握しているものでしょう。ここでは、売上だけでなく、かかったコストや収支の状況を正確に把握することが大切になります。
主に、以下のような項目を数値で可視化しましょう。
- 売上
- 利益率
- 純利益
- 費用(コスト)
企業全体での経営数値はもちろんですが、どこにどれだけコストがかかっているか、売上は高くても利益が出ていないプロジェクトや部署はないかといったミクロな視点で可視化を行うことで、収益拡大におけるボトルネックが見えてきます。
②従業員の生産性の可視化
従業員の生産性も可視化すべき項目のひとつです。各プロジェクトや業務にかけている工数を可視化し、生産性指標などを用いて分析します。そうすることで、リソース配分が最適化されているかどうかを判断できるのです。
もし、工数に対して生産量が見合わないようであれば、生産性の高い人と低い人とでどれくらいの差が出るかを確認しましょう。大きな差がある場合は、スキルが合っていない人員を配置しているケースや、従業員のモチベーション低下、教育不足などの問題が考えられます。
従業員によって生産性に差が出ないようマニュアルに沿って業務を行っているものの、工数に対する生産量が見合わないようであれば、業務プロセス自体に問題がないか疑うことも必要です。
このようにして、ムダな工数や無理のある人員配置、従業員教育の実状などを見直すことで、労働環境や業務内容、効率性といった問題を把握できます。
③組織構造の可視化
部署ごとに従業員数や能力の偏りがあると、業務にムダやムリが生じてしまいます。社内にどのような人員がいるか、どのようなスキルがあるかなどを俯瞰的に見ることで、経営上の問題や組織に不足しているものが把握しやすくなり、最適な人員配置が可能になるのです。
従業員数の多い企業では、一般的に組織図を作成し、人事異動があるたびに改定して可視化を行っています。一方、中小企業では人員が少ないために組織図を作成していなかったり、組織図があっても最新の情報が織り込まれていなかったりするケースもあるでしょう。組織構造を可視化して、組織ごとの業務量とリソース量を対比すれば、リソースの過不足を把握でき、人員配置も行いやすくなります。
さらに、組織図だけでは把握しきれない課題や実情などを知るため、従業員へのヒアリングを行うことも、経営課題を発見するうえで有効です。
④業務フローの可視化
業務フロー上のムダは、生産性向上の阻害要因となります。業務が属人化し、フローが明確になっていない場合、効率の悪さなどの問題に気づきにくいものです。
業務フローを可視化することで、今まで見えていなかったムダなプロセスや経営課題の発見につながります。業務フローがシンプルになれば、新たな問題が起こったとしても発見しやすくなるでしょう。
また、業務フローが可視化されていないと他の担当者に業務を引き継げず、人材育成も進まなくなる恐れがあります。「人材を確保できても業務を引き継げない」といったトラブルを防ぐためにも、あらゆる業務フローを可視化しておくことが大切です。
経営課題の解決プロセス
自社の経営課題を発見できたら、次はその課題を解決する取り組みが必要です。具体的には、以下のようなプロセスで課題を解決していきます。
①課題を洗い出す
上述したように、課題を把握するための可視化を行い、自社の課題を洗い出しておきます。正確かつタイムリーな情報を常に把握できる状態にしておけば、現時点で何がボトルネックになっているのかを発見しやすくなります。
同時に、明らかになった経営課題に対してどのような状態になれば課題解決と言えるのか、この時点でゴールを設定することも重要です。たとえば収益を拡大するなら、昨年対比で20%成長を目指すなど、具体的な数値を出しましょう。
②課題の原因を特定する
課題を洗い出せたら、次は何が原因なのかを特定します。たとえば、人材不足が自社の課題であった場合、採用が難航しているのか、それとも離職率が高いのかによって取るべき対策が変わってきます。
従業員の生産性が低い場合も、従業員の能力に見合わない業務を割り当てているのか、業務フロー自体にムダがあるのかなど、原因を深掘りして突き止めましょう。
③課題の優先順位を決める
経営課題が複数ある場合は、どれも解決に向けて手を打つべきですが、優先順位を決めてから取り組むことをおすすめします。一気にすべての対策を実行しようとしても、リソースには限りがあるため中途半端になりかねません。
具体的には、経営への影響度合いや緊急性から順位を決めます。経営に与える影響の大きい課題から解決することで、改善効果は大きくなるでしょう。
④課題解決方法の策定
洗い出した課題それぞれに対し、解決方法を策定していきます。このとき大事なのは、目先の現象を解消するだけでなく、中長期に渡って目標達成が可能な解決方法を定めることです。
そのためには、経営計画の策定、見直しも有効です。経営計画には企業のミッションや理念だけでなく、中長期の目標が示されています。この目標を課題に合わせて見直すことで、現在の状況をもとに取るべき対策を定められます。
もし経営計画を作成していない場合は、この段階で作成しておきましょう。
⑤解決方法を実施
④で解決方法を定めたら、実行に移していきます。計画的かつ確実に実行できるよう、対策策定の時点でスケジュール感や担当部署を明確にしておくことが大切です。
「対策を立ててもなかなか進まない」という事態を防ぐため、あらかじめ期日を決め、担当者の業務計画に織り込んでおくといいでしょう。
⑥効果・結果を検証
対策を実行に移して終わりではなく、PDCAを回すことが重要です。特にPDCAのCである適切な効果が出せているかを検証するステップでは、実施した対策によって狙った効果を得られたのか、あるいは目標に近づいているのか、具体的な数値をモニタリングして検証することが大切です。
もし狙った効果を得られていないのなら、ボトルネックになっているプロセスや原因を更に細分化して改善策を検討すると良いでしょう。また、解決方法もしくは特定した原因自体が間違っている可能性もあるため、前のステップに戻って検討しなおすことも有効です。効果が出ているようであれば、さらに目標達成に近づけるよう改善を継続していきましょう。
【事例】経営課題の解決にはシステムが有効
経営課題を発見し、解決するためには、まず自社の現状を可視化することが重要となります。そこでおすすめしたいのが、システムを利用することです。システムによって、生産性や業務の工数といった数値の把握が容易になります。
ここでは、本ブログを運営する株式会社オロのクラウド型ERP「ZAC」を導入したことで、自社の現状が可視化され、課題把握・解決につながった事例を紹介します。
事例①INSIGHT LAB株式会社様
企業内のビッグデータ分析・可視化・活用提案によってクライアントのビジネス成長を支援するINSIGHT LAB株式会社様。同社では、事業が拡大するなかで、案件別の工数がうまく管理できず、原価計算のスピードと精度に大きな課題を抱えていました。また、集計した原価の金額が合わず、再集計することが多々あったそうです。
そこで、業務管理ルールを社内で統一し、原価管理のスピードと精度を高めるためにZACを導入しました。その結果、数字に基づいた分析や顧客提案ができるようになっただけでなく、メンバーの直近の稼働状況も可視化され、数値に基づいたコミュニケーションやメンバーの特性に合わせたマネジメントが可能になったと言います。
事例②イメージ情報システム株式会社様
もう1つのケースは、独立系IT企業として、戦略立案からシステム構築・運用までをサポートしているイメージ情報システム株式会社様の事例です。
同社では、社内システムの老朽化を機に、バラバラに存在していた各システムを統合するべくZACを導入しました。複数のシステムがあることで管理部門の業務負荷が増大していたそうです。
導入後、システムが統合されたことで管理会計の精度やスピードが向上。月次決算も大幅に効率化され、年間約500万円、従業員1人あたり約10万円のコスト削減効果が生まれました。損益の予実もタイムリーに把握できるようになり、赤字になりそうな案件に対して事前に対策が取れるようになったといいます。
まとめ
激動の時代を生き抜く中小企業には、人材不足やノウハウ不足、コストダウン、収益拡大など、解決すべき経営課題が数多くあります。まずは経営資金や生産性、組織構造、業務フローなどを可視化し、自社の経営課題が何なのかを明確にしておくことが大切です。
そのうえで課題の原因を特定し、解決方法の模索や実行、そして結果の評価を絶えず行っていかなければなりません。ここで重要なのが、経営課題に紐付くさまざまなデータを正確かつタイムリーに可視化することです。ERPなどのシステムを活用し、業務効率化とともに、常に経営状況が把握できるような体制づくりを行なってはいかがでしょうか。