独立採算制とは。事例を用いてわかりやすく解説
2022/4/15公開2022/9/13更新
大企業が続々と取り入れる「アメーバ経営」や「カンパニー制」は、どちらも独立採算制と呼ばれており、ひとつの企業をさらに細分化して、その小さな単位の中で会社経営をするような運営方法を指します。管理する単位が小さくなることでスピーディーな経営判断が可能になる一方、管理の難しさも生じるのが独立採算制の特徴です。
さらに細かい独立採算制の仕組みやメリット・デメリット、導入する際の検討事項について、本記事で詳しく解説していきます。
目次
独立採算制とは
独立採算制とは、企業の中にある部門・事業部などを切り分けて、それぞれが独立して利益を生み出すことを目指した経営方式のことです。部門別採算制ともいいます。独立採算制では、収支管理だけでなく、製品・サービスの開発や廃止といった経営に関する決定権も委譲される点が特徴です。
組織を切り分けることで、権限委譲による意思決定スピードの向上や、部門ごとの収支の明確化が見込めます。さらに、各部門にコスト意識をもたせて赤字が出ないよう、ひいては企業として利益を上げられるよう自主的に経営を行ってもらうことが導入の主な理由です。その結果、会社全体の利益向上が実現できます。従業員一人ひとりに裁量権を与え、働きがいをもってもらうことも可能です。
独立採算制の逆の状態を表すものとして、「どんぶり勘定」という言葉があります。どんぶり勘定とは、企業をひとつのどんぶりとして考え、収支をひとまとめにして計算することです。このような管理方法では、どの部門で赤字が出ていて、どこにテコ入れすべきなのかを正確に分析することができず、企業としての成長が見込めません。
ここからは、さらに詳しく独立採算制やそのマネジメントについて解説していきます。「とりあえず独立採算における具体例が知りたい」「ナレッジワーカー・マネジメントの概要を知りたい」という方は、こちらから8ページでわかるナレッジワーカー・マネジメントをダウンロードなさってください。
独立採算制のメリット
独立採算制のメリットは大きく3つあります。
1つ目は、部門のトップに権限委譲することで、従来より意思決定スピードが上がる点です。結果として市場ニーズにも柔軟に対応でき、さらなる事業拡大や利益向上が見込めます。
2つ目は、収支責任が明確になることです。各部門内で細かいコストを見えるようにすることで、メンバーのコスト意識が上がります。部門間でも競争意識が生まれ、社内で収益性向上や生産性向上のスパイラルが生まれることも期待できるでしょう。
3つ目として、次世代の経営者を育てられるという点が挙げられます。部門長がひとつの会社の経営者のようになるため、今後企業のトップを任せるための準備とも捉えられるのです。
独立採算制のデメリット
独立採算制には大きなメリットがある一方、デメリットも生じます。まず考えられるのが、部門ごとの独立性が高まることによって、部門間の情報共有や協力関係が弱まる恐れがあるという点です。社内で新しいアイデアや新規事業が生まれにくくなるかもしれません。
次に、それぞれの部門で管理業務が発生することによって、重複する業務が生まれたり、部門ごとに担当者が必要になって人件費が増えたりする可能性があるといった点が挙げられます。
さらに、企業としての統治が難しくなる恐れもあります。必要以上に部門間競争が激化すると、社員同士の関係が悪化することもあるでしょう。それぞれが独立した管理方法をとる可能性もあり、ひとつの企業として統一しづらくなってしまいます。部門ごとに収支の責任が問われるため、部門内で不正を隠す動きが生まれるきっかけにもなりかねません。
独立採算制を事業部単位で取り入れるカンパニー制とは
カンパニー制とは、事業部単位で独立採算制を採用している組織のことを指します。名前の通り、各事業部をひとつの会社として扱う仕組みのことです。
各部署が経営者の管理下にあり、人事や経営に対する責任を負わない事業部制とは異なり、カンパニー制では各事業部がその財政状況まで責任を負い、大きな裁量をもつことになります。貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)も、事業部ごとに作成しなければなりません。
カンパニー制をとるメリット・デメリットは、基本的に独立採算制と同じで以下の通りです。
- メリット
-
- 意思決定のスピードアップ
- 責任区分が明確になる
- 従業員のコスト意識、責任意識の向上
- デメリット
-
- 社内の連携が取りづらくなる
- 社内統治が難しくなる
- 不要な競争関係が生まれる
カンパニー制と似た考え方に「アメーバ経営」があります。これは、組織を5〜10人程度の小さな集団に分けて、それぞれのリーダーが目標達成に向けて集団を率いる経営管理手法で独立採算制をとっています。小さな組織のリーダーには、その組織の損益や生産性を意識したマネジメントが求められるため、日々の業務を通じて生産性・損益に対する意識の高い人材(経営人材)を育成することができます。
独立採算制を導入している事例
独立採算制は、現在さまざまな企業で取り入れられています。ここでは具体的に2社の事例を紹介します。
どちらの企業も、本ブログを運営する株式会社オロが提供しているクラウド型ERP「ZAC」の導入によって、効率的に独立採算制の運用をされている事例です。
株式会社JALインフォテック様
2011年、親会社である日本航空株式会社が部門別採算制度を導入したタイミングで、グループ会社である株式会社JALインフォテック様でも部門別採算制度を導入することになりました。
しかし、それまで使用していたシステムでは、各月の採算をプロジェクト別・費用科目別などの細かい単位で見ることができず、部門別採算制度に対応していませんでした。加えて、プロジェクト収支管理システムや発注管理システム、勤怠管理システムなど複数のシステムに情報が分散されていたため、データの統合が難しかったといいます。
そこで、部門別採算制度へのシームレスな連携を行うためにZACを導入し、プロジェクト別、費用科目別、月別に採算管理が実現しました。その結果、「情報が集約され、業務プロセスも部門別での管理もスムーズに行えるようになった」と語っています。
株式会社日宣様
広告やマーケティング事業を手がける株式会社日宣様では、クリエイティブ内製化によるノウハウ蓄積を目指し、クリエイターを積極採用。そうして採用したクリエイターにもコスト意識をもってもらうため、2013年からアメーバ経営を導入しました。
営業が獲得した案件をZACに入力してクリエイターに社内発注する仕組みをとり、クリエイティブチームにも案件ごとの売上額が見えるようにされています。そのため、クリエイターがコスト意識をもてるようになっていきました。
なかには、生産性を高めるためタイムマネジメントを工夫するチームもあるのだとか。そのような自発的な取り組みが社内に広がり、チーム間でいい影響を与え合っているといいます。さらに、アメーバ経営管理システムを自社開発し、ZACのデータをエクスポートして活用されています。
独立採算制を導入するために
独立採算制を導入しようと考えた場合、スムーズに運営できるよう事前に準備する必要があります。まずは、それぞれの部門を独立させて運営していくために、管理体制や評価体系を整備しておきましょう。経理作業など、部門ごとに重複する業務も発生するため、必要な人員も確保しなければなりません。従業員が制度を理解し、変化に対して不安を抱かないようしっかり説明しておくことも重要です。
さらに、独立採算制による管理を行うためには、独立した組織ごとに案件別、工程別、月別など細かい単位で正確な損益管理を実現しなければなりません。もっとも、この管理をそれぞれの部門が独自に行うと、部門間でデータの不整合が生じたり、見たい粒度でデータを確認することができず、正確な分析や判断ができなくなる恐れがあります。そのような事態を防ぐために、統一したシステムを導入して管理を行うことがおすすめです。すべての部門が同じシステムを利用することで、正確な情報を必要な粒度でスピーディに把握することができるようになります。また、内部統制など共通化されたルールを効率的に各部門の業務に適用することもできるでしょう。
独立採算制に対応できる「ZAC」とは
ZACはプロジェクト・案件単位の採算管理に特化した機能を持つERPです。売上や原価、利益等の採算管理を行うための情報を、全社、事業部、部門、案件・プロジェクトなど見たい切り口で集計することが可能です。「細かい単位で月別に採算を見たいが、都度Excelでの集計が必要」「提案・営業段階でのコストが分からない」「既存のシステムが社内売買に対応していない」など、独立採算制を実施する上でありがちなお悩みをZAC導入により、解決に導きます。
まとめ
部門ごとに経営を切り分け、それぞれで利益獲得を目指す独立採算制。組織の単位を小さくすることで意思決定のスピードが上がったり、従業員にコスト意識をもたせやすかったりする一方、社内連携不足や統治の難しさが生まれる可能性もあります。
近年は独立採算制を取り入れる企業も多く、カンパニー制という組織体系を取るケースも増えてきています。独立採算制のメリットはあるものの、いきなり社内体制を変えることは難しく、入念な事前準備が欠かせません。
なかでも、独立採算制に基づく組織の単位で正確な損益管理を実現することが重要です。そのためには事例のようにシステムを導入するなどして、細かい単位でタイムリーな損益管理ができるようにしておきましょう。ZACであれば、案件単位での売り上げや外注費、経費などを部門別かつリアルタイムに集計できます。独立採算制を検討している企業は、同時にZACの導入も検討してみてはいかがでしょうか。
【番外編】独立採算制の原則
企業における独立採算制とは直接関係ありませんが、地方公営企業法によって、水道事業などの地方公営企業は独立採算制をとるよう定められています。それが「独立採算制の原則」です。
第十七条の二の2
「地方公営企業の特別会計においては、その経費は、前項の規定により地方公共団体の一般会計又は他の特別会計において負担するものを除き、当該地方公営企業の経営に伴う収入をもつて充てなければならない」
水道事業は公共の福祉のために運営されていますが、同時に企業としての経済性を発揮し、税金などではなく利用料金等の収入を経営するための経費に充てなければなりません。そのため、自治体によって水道料金が異なり、利用した分だけ料金がかかる仕組みになっています。