フォレンジック会計とその歴史
2012/8/24公開
「フォレンジック会計(訴訟会計)」
日本ではまだ馴染みがありませんが、不正、争訟、知的財産権など、多くの分野でフォレンジック会計が適用される場面が増加しています。フォレンジック会計を利用することで、主張に対して会計的な専門性や信頼性が得ることができ、様々な偶発的な事象に対して組織の利益を守ることができるでしょう。
このコラムでは、これからの日本でも、組織の中の争訟分野で重要な地位を占めるようになるであろう「フォレンジック会計」について、経験豊富な会計士が一足先の技術を皆様にお伝えしたいと思います。
今回はまず、「フォレンジック会計とは何か」という話から、その歴史についてお話したいと思います。
目次
フォレンジック会計とは?
皆様、フォレンジック会計という言葉をご存じでしょうか。英語ではForensic Accountingというスペルですが、このフォレンジック会計は日本ではまだまだ知名度が低いため、ご存じでない方が大半かもしれません。英語を直訳すれば、「法廷会計」、「訴訟会計」という感じになりますが、実際には法廷以外などでも用いられる技術であるため、「フォレンジック会計」として紹介されることが多いようです。
さて、このフォレンジック会計がどういうものかというと、簡単に言えば、「依頼者(裁判所や弁護士、企業)の抱える訴訟等の紛争に関して、損害額等の算定根拠を調査、算定、分析、報告することで、依頼者の紛争解決を支援する」という会計技術のことです。
まさに、不正発生時の損害額の調査・算定や知的財産権が侵害された際の損害額の調査・算定など、フォレンジック会計が適用される場面が近年増加しています。
組織における海外との争訟や様々な不正、知的財産権の侵害が増加しているこの時代、その損害額等については、より会計的な専門性や信頼性を求められる時代がやってきています。そのため、このフォレンジック会計は、日本でこれからより重要な分野になることが予想されます。というのは、海外ではこのフォレンジック会計は既に大きな市場をもっている分野だからです。
フォレンジック会計の歴史
ここからは、フォレンジック会計の歴史を紐解いていこうと思います。
そもそも、会計分野の歴史は産業の発達が早かった英米が主役です。英米では、19世紀から既に公認会計士制度が創設されており、歴史が長く、資格者数も今日現在で英米共に30万人規模です。このような点で日本とは大きく異なっています。(日本の公認会計士法成立は1948年、2012年5月現在の公認会計士数は2万3千人)
英米の公認会計士(以下、「会計士」といいます。)は、日本の会計士の大半が監査業務に携わっているのとは異なり、半数以上が事業会社やパブリックセクターに勤務する者です。このため欧米では、民間・公務双方の会計専門家がそれぞれの組織の中で、会計技術を洗練させてきました。その中で、争訟関連でも積極的にその会計技術を利用してきた結果、フォレンジック会計という分野が確立されたと考えられます。
民間のフォレンジック会計士は、法定監査とは異なり、民事・刑事の区別なく、企業不正全般の調査を行います。彼らは、企業や弁護士を依頼人として、第三者の立場から調査を実施します。調査後は調査レポートを提出し、調査対象が訴訟に発展した場合は、フォレンジック会計士が証人として法廷で証言することもあります。
公務にフォレンジック会計が活用された例として、古くは禁酒法時代の米国ギャング「アル・カポネ」脱税訴訟があります。IRS(米国の国税庁に相当)とFBIが、有罪判決のための十分な証拠を発見するのにフォレンジック会計を用いたという例があります。
一方で、民間でもフォレンジック会計が積極的に活用されており、米国通信大手ワールドコムの粉飾決算を内部告発したシンシア・クーパー(米国公認会計士、公認不正検査士、当時内部監査を担当していた同社副社長)の例などがあります。この功績が認められた彼女は、TIME誌の2002年度「Person of the Year」に選ばれています。
海外では、このような形でフォレンジック会計が発達しており、現在でも重要な分野を占めています。日本でこれからフォレンジック会計がより多く取り上げられるようになる日も近いはずです。
次回は、皆様にフォレンジック会計についてより詳しく知ってもらうための内容を掲載させて頂く予定です。