「ユーザーIT力:弱 × ITベンダーIT力:強」の関係性考察
今回は考察の3つめとして、「関係3(ユーザーIT力:弱、ITベンダーIT力:強)」について、ケースを挙げて考察していきたいと思います。
関係3(ユーザーIT力:弱、ITベンダーIT力:強)の考察
前回までに見てきたような、ユーザーのIT力が強いケースというのは、実際はかなり限られたケースになると考えられます。例えば、IT力が強いユーザーの取り組みは、雑誌をはじめとした各種メディアで取り上げられることが多いと思いますが、それはその取り組みの先進性だけではなく、おそらくそのような事例の希少性にも起因していると考えられます。その意味からも、今回考察するこの関係は、おそらく最も一般的なユーザーとITベンダーの関係であるといえます。
では、ユーザーのIT力が弱いケースとは具体的にはどのようなケースが想定されるでしょうか?
ユーザーのIT部門/IT担当者ごとに、ITに関してそれぞれ得意な領域とそうでない領域があると思います。ここでは論点を明確にするために、IT力の3要素のうち、テクニカルスキルとプロジェクトマネジメントスキルの2つの要素が弱いケースについて検討します。
IT力の2つの要素に着目して考える
まず最初は、テクニカルスキルです。
システム導入プロジェクトでは、それまでユーザーが使ったことのない全く新しいシステム/アプリケーションを導入することになり、ユーザーはそれらに関する知識がほとんどもしくは全くない状態であることも想定されますので、IT力の3要素の1つであるテクニカルスキルの面でユーザーのIT力が弱くなることは十分考えられます。しかしこの場合は、ITベンダーのIT力が強ければ、ユーザーは特に要求しなくても、ITベンダーが、プロジェクトの各フェーズで必要な情報を提供してくれるはずですので、プロジェクトの円滑な実行という面では、大きな障害になることは考えにくいと思います。(ITベンダーが十分な説明をしていない場合は、ITベンダーのIT力が弱いケースに該当する可能性があります。)
次にプロジェクトマネジメントスキルです。
システム導入プロジェクトにおけるユーザーとITベンダーの理想的な関係を考える上では、プロジェクトマネジメントスキルは最も重要なIT力の要素となります。
ITベンダーのシステム導入プロジェクトを担当するメンバーは、1つのプロジェクトが終われば次のプロジェクトを担当する、といった形で、継続的にシステム導入プロジェクトに携わることができます。一方でユーザーのIT部門/IT担当者は、システム導入プロジェクトは10年に1回あるかないか、というケースも少なくありません。ITベンダーのプロジェクト担当メンバーはプロジェクトマネジメントに精通していますが、ユーザーのIT部門/IT担当者は、システム導入プロジェクトを担当する頻度から考えても、プロジェクトマネジメントに精通していません。システム導入におけるプロジェクトマネジメントの概要すら理解していないケースも十分想定されます。ユーザーのIT力としてプロジェクトマネジメントスキルが弱い場合、このようにユーザーのIT部門/IT担当者がプロジェクトマネジメントに関する概要レベルの理解も不十分なため、ITベンダーとの意思疎通が思うようにできず、結果としてそのことがプロジェクトの円滑な実行を妨げる一因となってしまう可能性があります。
客観的に自社のIT力を見極める
ユーザーのIT力の3要素の中で、特にプロジェクトマネジメントスキルが弱い場合にはどのような対応を取ればよいのでしょうか?
一般的に起こりうるケースとしては、ユーザーが自社のプロジェクトマネジメントスキルのレベルについて特に考慮することなく、ITベンダーが提案する標準的なプロジェクトマネジメント手法や支援内容をそのまま受け入れてしまうケースです。仮にユーザーのプロジェクトマネジメントスキルのレベルが低い(IT力が弱い)場合、本来であれば、自社のIT力の弱さを前提に、足りないスキルを補う形で、ITベンダーからは標準的なサービスよりも支援領域を拡張したプロジェクトマネジメント支援を受ける必要があります。しかし多くのユーザーはITベンダーから提案を受ける際に、特にプロジェクトマネジメントに関しては、自社にどのような支援が必要か、という観点での検討が不足しがちです。ITベンダーのプロジェクトマネージャー候補者によるプレゼンテーションの印象が良ければ、あとはITベンダーの標準的なプロジェクトマネジメント手法や支援内容が自社のプロジェクトマネジメントスキルにどの程度合致しているか、という観点での検討はほとんど行わずに、それ以外の技術要件や業務要件との適合性の検討にほぼすべての労力を費やすケースが多いと思われます。その結果、プロジェクト進行中に、ITベンダーの提供するプロジェクトマネジメント支援とユーザーに必要なプロジェクトマネジメント支援の不一致によるトラブルが顕在化し、プロジェクトの円滑な実行が阻害されることなどが考えられます。
このような事態を避けるには、技術要件や業務要件と同様に、プロジェクトマネジメント支援に関する要件(ITベンダーからの支援内容)も十分な検討を行う必要があり、それにはまず自社のプロジェクトマネジメントスキルを客観的に評価する必要があります。例えば、ユーザーのIT部門/IT担当者の中に、システム導入プロジェクトの立ち上げから本番稼動までの一連の各局面を主体的に一通り経験しているメンバーがいる場合や、実際のプロジェクトを経験していない場合でも、プロジェクトマネジメントに関して知識をもったメンバーがいる場合などで、そのメンバーがプロジェクトに参加できるようであれば、ITベンダーの標準的なプロジェクトマネジメント支援でも問題なく対応できる可能性もあります。しかしそうでない場合は、自社のプロジェクトマネジメントスキルの不足を補う何らかの支援をITベンダーや外部コンサルティング会社などに求める必要があります。
パッケージベンダーによるプロジェクトマネジメント支援の場合は、カスタムメイド主体のITベンダーよりもプロジェクトマネジメント支援の範囲が限定的になるケースが多いため、必要となるプロジェクトマネジメント支援の範囲については、パッケージシステムのカスタマイズや追加開発プログラムなどのボリュームと、それに対応した提案書や契約書の内容を踏まえて、さらに慎重な検討が必要になる場合があります。
関係3(ユーザーIT力:弱、ITベンダーIT力:強)のまとめ
今回の考察内容を以下にまとめます。
- プロジェクトマネジメントスキルが弱いユーザーは、自社の状況を客観的に見極めたうえで、プロジェクトマネジメント支援についても、ITベンダーからの支援内容を検討する必要がある。
- パッケージベンダーから支援を受ける場合、カスタムメイド主体のITベンダーよりもプロジェクトマネジメント支援の範囲が限定される場合があるため、さらに慎重な検討が必要である。
次回は、最後の考察として関係4(ユーザーIT力:弱、ITベンダーIT力:弱)について考察していきます。