映像制作業の利益を下げている要因は?ERPの導入効果や事例を紹介
市場は拡大傾向も、利益創出に苦戦?
映画やテレビ番組等の制作に加え、近年は多様な動画コンテンツが急増したことから、映像制作業の市場は拡大傾向にあります。総務省が公開している情報によると、特に配信市場は、コロナ禍に伴う巣ごもり需要もあり、世界的に成長しています。(*1)
動画配信サービスやショート動画といった映像コンテンツがより身近になると同時に、映像コンテンツ向けの広告が必要になったり、企業や観光地のPR手法も動画に変わってきていたりと、映像制作にまつわる業務の多様化が進みました。
しかしながら市場が拡大して売上は上がっている一方で、思うような利益創出ができず苦しむ企業も少なくありません。変化の激しい業界であり、競合も増えていることから、よりクオリティの高い制作物をよりスピーディーに供給しなければなりません。ところが、制作で手一杯になってしまい、利益を出せる体制づくりまで手が回っていないのです。
映像制作業の利益を下げている要因
映像制作業で利益創出が難しいのは、業界特有の課題が大きく関わっています。利益を下げてしまう要因として挙げられるのは、主に以下の5つです。
①長時間労働の慢性化
テレビや週刊誌など、1日ないしは週単位で新しいコンテンツを生み出さなければならない業界においては、長時間労働が慢性化しているケースがあります。長時間労働が当たり前という環境のまま市場が拡大し、制作すべきコンテンツ量も増えているのが現状です。
増加する業務を残業でまかなっている企業も少なくありません。そのようななか、中小企業における残業時間の規制は厳しくなっています。2023年より、月60時間を超える時間外労働の割増賃金が上がり、残業に対するコストは上がりつつあります。(*2)その結果として人件費が増加し、利益創出が難しい状況となっているのです。
②プロジェクト別の原価管理ができていない
映像制作業の原価は、大半が制作スタッフや役者などの労務費であること、案件ごとに複数の外注先に発注しているなど、管理が難しい点も課題です。なかでも制作スタッフの企画や打ち合わせを含めた工数管理を正確に行わなければ、その作品の原価がどれだけかかっているのかはわからず、気づけば予定以上に原価が積みあがって、利益率を下げているケースも少なくありません。
特に、1人が複数のプロジェクトを掛け持ちすると、原価管理はより複雑になります。その複雑さから、プロジェクト別の原価管理を怠ってしまうことで、利益率の低下に繋がる可能性があります。どのプロジェクトで利益が出ており、逆にどのプロジェクトが赤字になっているのか、判断できなくなってしまいます。そのような状況では、過去のプロジェクトの反省を活かすこともできません。
③制作スタッフの稼働管理ができていない
一般的に映像制作業では、コンテンツジャンルや規模によって、作品の制作にかける期間や関連コストが大きく異なります。
常に複数のプロジェクトが同時進行で動いていることから、制作スタッフがどのプロジェクトにどれだけ稼働時間を費やしているのか、正確に把握するのはなかなか難しいことです。
スタッフの稼働状況が可視化されていないことで、一部のスタッフに業務が集中してしまうことでプロジェクトが遅延したり、プロジェクトの途中で新たに人的リソースの確保を行う手間が発生したりなどのトラブル発生の懸念があります。
④業務の属人化
映像制作業では職人気質の人も多く、業務が属人化しがちです。属人化してしまった業務は、プロジェクトや制作コンテンツの進捗だけでなく、発注や請求管理といった売上に関わる部分の進捗も周囲からは見えなくなってしまいます。
もし担当者が不在だった場合、業務が滞ってしまったり、周りがフォローできずに業務効率が低下したりといったリスクも生じます。その結果、発注漏れや先方からの指摘で請求額の間違いに気づくといった事態も起こるため注意が必要です。
⑤アナログな紙管理が残っている
今でこそライブ配信や動画コンテンツといった新しい事業があるものの、業界的には古くから存在するため、アナログなバックオフィス業務が今でも残っている企業は少なくありません。特に、紙による管理が残っていることで、ハンコによる承認作業や経費精算のためだけに出社しなければならず、余計な工数がかかっている恐れがあります。
社内リソースの一元管理が課題解決のカギ
上記の課題を解決するためには、社内のリソースを可視化し、現状を適切に把握・管理することが重要となります。企業におけるリソースとは、ヒト・モノ・カネ・情報です。それぞれの状況を見える状態にし、バラバラにではなく1か所にまとめて管理することで、業務上の課題が見つかりやすくなります。
自社や部門の課題を見える化できれば、コスト削減につながる解決策の発見が可能です。部署を横断したコスト削減策が実現すれば、企業の利益創出につながるでしょう。
映像制作業において特に重要なことは、「プロジェクトの予算に対して、現在の実績がどれくらいなのか」という情報を紐づけて管理することです。そのためには、制作スタッフが「どのプロジェクトにどれだけの時間をかけているか」を可視化し、プロジェクトに紐づく原価を正確に把握する必要があります。プロジェクトに関わる情報を一元化することで、タイムリーな進捗管理ができたり、コストが想定以上にかかっている箇所を把握できたりし、対策を打つことが可能になるのです。
さらに、受発注に関わる情報も一元管理することで、属人化していた管理業務が別の担当者にも見える化され、発注遅れや請求漏れといった人的ミスも防げるようになります。
一元管理に有効なERPパッケージとは
社内リソースの一元管理には、ERP(Enterprise Resource Planning)といったツールの活用が有効です。ERPとは、企業が持つリソースを一か所に集めて管理し、有効活用するためのシステムを指します。
なかでも企業活動に必要な機能を一通り揃えてパッケージ化されているものが、ERPパッケージです。自社で開発する手間なく導入できるため、業種に合わせたものを選ぶことでスピーディーに利用開始できます。
ERPパッケージは一般的に、人事・給与管理や販売管理、生産管理、購買管理、会計管理、営業管理といった機能が搭載されています。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ERPパッケージ導入のメリット
映像制作業がERPパッケージを導入することで得られるメリットは、主に以下の5つが挙げられます。
リソースの最適化
製作スタッフをはじめとした社内のリソースが可視化されるため、どこに無駄があるのか、何にコストがかかっているのかを明確にできます。プロジェクトのボトルネックを見つけ、リソースを最適化することで、業務の効率化やコスト削減につながるのです。
具体的には、一部の制作スタッフにだけ負担が偏っていないかを発見できたり、各スタッフの稼働状況からアサインを見直したりといった、最適な人材配置ができるようになります。
赤字プロジェクトの発見・回避
予算計画に対し、現時点でどのくらいの原価が実際にかかっているか、ERPによってタイムリーな数値が見えるようになるため、赤字になりそうなプロジェクトを事前に発見できます。赤字になる前に対策を立てられるため、「気づいたら赤字プロジェクトになっていた」という状況を回避できます。
煩雑な外注管理を効率化できる
プロジェクト型ビジネスに特化したERPパッケージは、複数の外注先への発注・仕入漏れの防止を支援する機能が備わっています。発注先ごとに未発注や請求済といったステータスが一覧で表示されるほか、システムから担当者に発注・仕入期限を自動的にリマインドするアラート機能が搭載されています。そのため、導入することで業務フローの統一や業務標準化が期待できます。個人任せになっていた業務が標準化されることで、属人化解消にもつながるでしょう。
情報の正確性向上
各部署でバラバラのツールを使用していたり、Excelを使った手動の管理を行なっていたりする場合、各ツールやシートで情報が重複してしまうことがあります。同じ情報を別の場所に入力する手間もかかるうえ、転記ミスや記入漏れも起こりえます。
ところが、システムで一元管理できるようになれば、情報の二重入力や人的ミス、差異を修正する手間などを削減可能です。部署間の数字や情報に差がなくなることで、より正確かつスピーディな現状把握ができるようになります。
社内の意識改革につながる
原価の大部分を労務費が占める映像制作業では、従業員一人ひとりが損益の意識を持つことも重要です。特にクリエイターは、クオリティを追求して作業に時間をかけすぎてしまい、稼働時間=原価という意識が希薄になりがちです。
そこでERPにより、自身やメンバーの稼働時間を見える化することで、従業員が「自身の稼働がコストである」ということを意識しやすくなります。意識改革が進めば、不要な労動時間の削減や甘い見積りの防止につながり、利益確保が可能となるのです。
映像制作業に適したERPパッケージの選び方
制作内容ごとに外注先が異なり、企業や個人など多岐に渡る映像制作業では、ERPパッケージのなかでも、プロジェクト単位の管理機能に特化したものを選ぶことが大切です。
市場が成長している映像制作業だからこそ、企業や組織の規模が拡大した際、それに合わせて機能拡張できるかどうかも確認する必要があります。また、動画コンテンツでサブスクサービスを提供している場合は、サブスク管理が可能かどうかなど、自社の提供サービスの特性に合わせた管理ができることも重要です。
映像制作業のERPパッケージ導入事例
本ブログを運営する株式会社オロのクラウド型ERP『ZAC』は、プロジェクト管理機能をに特化しており、映像制作業に適しています。ここからは、映像制作業の企業でZACを導入し、自社の課題解決につながった事例を2社紹介します。これからERPパッケージを導入しようと考えている方の参考になれば幸いです。
株式会社デジタル・メディア・ラボ様
主に「映像の企画・制作」「モーションキャプチャー」「ゲーム企画開発」「ライセンス・ラボ」の4つの領域で事業展開する株式会社デジタル・メディア・ラボ様。コンテンツ制作がメインである同社では、プロジェクト別の制作原価をExcelで管理していました。
ところが、手作業だったため集計ミスがあったり集計に工数がかかったりと、タイムリーかつ正確な原価計算ができない状況だったといいます。業務フローにも紙と手作業が介在していたため、効率化を図るためにシステムを導入しました。
ZACを導入してからは、制作部門のプロジェクト別の個別原価計算をシステムにより自動化し、効率化できるようになりました。その結果、月末の締め作業が7営業日から4営業日まで短縮しています。申請承認がシステム上でできるようになって紙の使用が減り、現場目線でも大幅な業務効率化に成功した事例です。
株式会社フラッグ様
映像やWebなどのコンテンツに関して、企画、制作、複製・配信、広告・宣伝までの一連をワンストップで提供する株式会社フラッグ様。社内のシステムが分散しており非効率が発生していたことや、業務の属人化が起こっていたことなどから、ERPの導入で組織としてのさらなる成長を図りました。
ERPを選ぶ際にポイントだったのが「プロジェクト管理ができるかどうか」という点です。同社では、すべての案件がオーダーメイドであるため、制作期間内の案件ごとの原価を正確かつリアルタイムに把握したいと考えていました。加えて、ZACは自社と同じクリエイティブ業への導入実績が多いことも決め手の一つだったといいます。
導入後の大きな変化は、従業員一人ひとりに稼働時間が原価として積み上がっているという意識が芽生えたことです。クリエイターが数字に対して当事者意識を持てるようになり、利益創出に向けて自発的に考えるようになりました。
まとめ
映像制作業は市場拡大の一方で、長時間労働や損益管理の難しさ、業務の属人化などの理由から、利益創出に苦しむ現状があります。そこでおすすめしたいのが、ERPパッケージによる社内リソースの一元管理です。一から開発せずとも使えて、制作スタッフの稼働時間を含めた社内のリソースを見える化・最適化できるようになるため、業務の効率化が実現できます。
ERPパッケージを選ぶ際は、プロジェクトごとの管理機能を持っているか確認することが重要です。規模が拡大する可能性も考慮し、機能拡張が可能なERPを選ぶとなお良いでしょう。プロジェクト別の損益管理を行うことで、赤字プロジェクトを防止し、効率よく利益を創出できるようになります。
ZACであれば、上記のように映像制作業への導入実績もあり、プロジェクト型ビジネスに最適です。
参考
*1:令和4年情報通信に関する現状報告の概要|総務省
*2:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省