2層ERPとは?メリットとデメリット、効果的な活用事例を解説
2層ERP(2Tier-ERP)とは?
2層ERPとは、企業グループの本社で稼働している大規模ERPを「コアERP」と位置付け、それとは別に海外拠点や子会社など事業や拠点単位で、ビジネスニーズに柔軟に対応できる「サブERP」を選定・導入する方法です。そのうえで、コアERPとのデータ連携をはかります。2000年代後半から米ガートナー社(※)などによって提唱されてきた考え方です。
各子会社・拠点サイドにおいては、事業やそのエリアの商習慣に適合したERPを利用できるため、大型ERPの一括導入により懸念される業務効率の低下を防げます。一方、本社サイドでは、コアERPとサブERPとのデータ連携を行うことにより、大型ERPの一括導入時と変わらず、各拠点の経営データの早期取得が実現可能です。
2層目に導入されるサブERPは、コアERPとのデータ連携などの条件を満たせば、さまざまな選択肢の中から選定できます。そのため、経営環境の変化やビジネスの不確実性を見越したローコストなソリューションの導入が可能です。
※ガートナー(英: Gartner, Inc.)
米国に本拠地を置く業界最大規模のITアドバイザリ企業
従来型のERPの仕組みと違い
従来型のERPは、本社と各拠点で同一のERPを利用する仕組みが一般的でした。これをグローバル・シングル・インスタンスと呼びます。この仕組みでは、それぞれ別の独立したERPを利用した場合に比べ、即時にデータを取得・連携でき、タイムリーな経営判断を実現できます。
グローバル・シングル・インスタンスでは、データのリアルタイム性は確保されるものの、商習慣や業務プロセスの異なる拠点で業務効率が下がったり、システムの維持管理に負担がかかったりするデメリットが生じます。また、大規模ERPを小規模な拠点にも導入しなければならず、費用面の負担増加も課題です。
その後普及した2層ERPという考え方では、拠点に異なるERPを導入したうえで本社のERPと即時にデータを連携します。2層ERPによって、各拠点の費用負担を抑え、かつ業務最適化が可能です。
2層ERPが求められるようになった背景
企業のグローバル化が進むにつれ、管理すべき経営資源が複雑になり、より高度な経営管理が必要となってきています。しかし、異なる国同士でのデータ連携やフォーマット統一は容易ではありません。事業内容によっては、同じERPを使うことでかえって非効率が生じることもあります。
そこで、本社のコアERPとは別に拠点ごとのサブERPを持ち、データを連携させる2層ERPという仕組みが求められるようになりました。さらに、近年はクラウド技術も著しく進展しています。情報共有ツールだけでなく、基幹システムもクラウドサービスで数多く提供されるようになったことから、コストを抑えながらの導入や運用が可能です。このような背景から、2層ERPが現実的な形態として注目を集めています。
2層ERPを採用する5つのメリット
企業のグローバル化によって2層ERPのニーズが高まっています。この仕組みを採用することによって企業が得られるメリットは、主に以下の5つです。
①海外拠点や子会社に合ったERPを選定できる
2層ERPでは各拠点が本社と異なるERPを利用できるため、拠点ごとの商習慣や業務プロセスに即した仕様のシステムで効率化を図れます。
グローバル・シングル・インスタンスの場合、商習慣や展開する事業が異なる拠点で、本社のシステムや業務プロセスに合わせる必要があるなど、不要な業務負荷をかける可能性があります。そのような懸念や課題が、2層ERPによって払拭可能です。
②各拠点の情報をリアルタイムで把握・管理できる
2層ERPでは、本社のコアERPと連携できるシステムをサブERPとして採用することが条件です。つまり、各拠点の情報は本社のデータと一元管理が可能であり、本社で常に最新の情報を把握・管理できます。
言語や通貨、会計基準が異なる場合でも、経営状況がリアルタイムに把握でき、タイムリーな経営判断が可能です。
③導入コストの削減につながる
2層ERPは、グローバル・シングル・インスタンスに比べて導入コストを抑えられます。拠点を複数持つような企業の本社では、オンプレミス型のERPを導入するケースが一般的です。それは、企業の規模が大きかったり企業独自の業務プロセスが根付いていたりして、システムを一から構築する必要性が高いためです。
コアERPと同じオンプレミス型ERPを各拠点に導入するとなると、コストもかかるうえ、導入までの期間も長くなります。サブERPを小規模ERPやクラウド型にすることで、導入コストを下げつつ、各拠点に適した柔軟なERP選定ができるようになるのです。
④業務効率低下のリスクを減らせる
大型ERPを運用することで、かえって業務効率を下げてしまう可能性があります。2層ERPなら、そのリスクを減らせる点もメリットのひとつです。
一般的に各拠点は本社より規模が小さく、人員も多くありません。そこに本社と同じ大型ERPを導入すると、運用のために人員が必要であったり、自拠点のルールに準拠させる手間がかかったりします。あらかじめ拠点に即したERPを導入すれば、"大型ERPを自拠点に適用させるための作業"が不要となるのです。
⑤スムーズなM&Aの実施
M&Aは国内外で盛んに行われています。現時点で考えていなかったとしても、いつかM&Aを行うタイミングがくるかもしれません。その際、企業固有のオンプレミス型ERPを使っていると、合併する際にERPを変更しなければならず、スムーズなM&Aの障壁となってしまいます。
その点、拠点ごとに個別のERPを利用していれば、M&A後もそのまま事業に合ったERPの継続利用が可能です。システム変更や統合の必要性がなくなり、コストや手間をかけずに済みます。
2層ERPの3つのデメリット
上記のようなメリットを得られる2層ERPですが、以下のようなデメリットもあります。メリットとデメリット両方を知ったうえで、自社に採用するか検討しましょう。
①ERPの仕様に合わせた教育が必要
利用するERPが拠点ごとに異なるということは、それぞれの仕様に合わせた教育を各拠点の従業員に行わなければならないということです。マニュアルもそれぞれ作成する必要があるため、その分の工数がかかってしまう点はデメリットと言えます。
②ERPごとのランニングコストの発生
各拠点で異なるERPを利用するとなると、それぞれの利用料や運用管理費、保守費用などのランニングコストがかかります。毎月の費用は高額でなくとも、利用しつづける限りかかるコストなので、積み上がると大きな負担になりかねません。
③ベンダーごとにサポート内容が異なる
拠点ごとに異なるERPを導入する場合は、ベンダーごとの対応も異なるため、あらかじめサポート内容を把握しておかなければなりません。各ベンダーの連絡手段や対応時間、対応範囲など、拠点ごとにトラブル対応マニュアルを用意しておく必要があります。
また、他拠点でのトラブル対応事例が別の拠点では通用しないことが多く、類似トラブルが起こっても参考にできない点にも注意が必要です。
2層ERPが効果的な企業の特徴
2層ERPモデルの採用は、すべての企業に向いているわけではありません。以下の特徴を持つ企業であれば、効果的に活用できるでしょう。
国内外の拠点があり、グローバル展開を行っている企業
拠点が国内や海外に複数あるようなグローバル企業には2層ERPがおすすめです。特に海外拠点では、商習慣が国ごとに大きく異なるケースが多く、日本国内の商習慣に合わせて構築されたERPを採用しても実務とマッチしません。かえって業務効率が落ちる恐れもあります。
さらに、グローバル企業は本社の規模が大きく、システムも社内の業務プロセスに合わせてカスタマイズされた大規模なものになりがちです。そのシステムを小規模拠点へ導入するにはコストがかかりすぎることからも、2層ERPが有効だと言えます。
もともとその国の商習慣に合わせて開発されていて、かつコアERPとも連携できるERPを採用すれば、拠点内でもスムーズにERPを活用できるうえ、本社とのデータ共有が可能です。2層目のサブERPとして小規模なシステムを導入することで、コストを抑えたスピーディな導入が実現します。
多種多様なサービスを展開し、複数のグループ会社を抱える企業
グループ内にビジネスの内容や業務フロー、経営管理指標が大きく異なる関連企業を抱えているような企業にもおすすめです。たとえば、企業グループ内で卸・小売のような商社系の事業会社と、システム開発のような制作・開発系の事業会社が存在するグループがこれに該当します。
商社系事業では、業務を遂行するうえで在庫管理やサプライチェーンマネジメントが非常に重要となります。一方の制作・開発系事業では、プロジェクト管理や従業員の工数管理、生産性分析が重要です。業務システムに求められる機能も異なるため、それぞれに適したERPを採用する2層ERPが向いています。
2層ERPの活用事例
ここからは、本ブログを運営する株式会社オロのクラウド型ERP「ZAC」を2層ERPとして活用した事例を紹介します。親会社の指定する会計システム=コアERPに対して、自社の業態にフィットするZACをサブERPとして導入し、データ連携をはかることで最適なシステム構築を実現した2層ERPモデルの成功事例です。
株式会社デジタル・メディア・ラボ様
主に「映像の企画・制作」「モーションキャプチャー」「ゲーム企画開発」「ライセンス・ラボ」の4つの領域で事業を展開する株式会社デジタル・メディア・ラボ様。同社は原価計算の高精度化と効率化を求めてERPの導入を検討していました。
東証一部上場の加賀電子グループのグループ会社であることから、もともと親会社の会計システムを使用しており、プロジェクト別の原価計算はエクセルを使って手作業で行っていたそうです。既存の会計システムを拡張して原価計算に使えないかと考えていましたが、親会社とは事業内容が異なることからマッチしなかったといいます。
そこで、プロジェクト管理に特化したクラウド型ERPであるZACを採用しました。その結果、制作部門で必要だったプロジェクト別・個人別の原価計算の自動化が実現。月次の締め作業にかかる時間が半分になり、管理部の負担が大幅に削減されました。グループ指定の会計システムとの連携も容易で、親会社基準の内部統制もクリアできたと言います。
ZACは2層目のERPに最適
サブERPでは、コアERPに対応可能なERPであることが欠かせません。ZACは上記事例でも紹介したように、コアERPとの連携が可能なクラウド型ERPであるため、2層目のサブERPに適しています。実際に、財務会計システムをはじめとする外部システムとの連携が可能です。詳しくは「ZAC連携ソリューション」のページもご覧ください。
また、ZACでは必要な機能(モジュール)を必要なライセンス(ユーザー)数だけ導入するといったことも可能なため、システム利用費を抑えつつ、業務を効率化できます。たとえば、コアERPで勤怠管理や生産管理、財務会計を行い、ZACでは各拠点の事業や業務にあった販売管理やプロジェクト管理のみを行うといった使い方が可能です。さらに、ビジネスの進展、組織の成長にあわせて、機能拡張も柔軟に行えます。
ZACはIT業やクリエイティブ業、士業などのプロジェクト型ビジネスに特化したERPです。プロジェクト型ビジネスを営む拠点向けのサブERPとして検討してみてはいかがでしょうか。