2030年問題に向けて情シス担当者が取り組むべきDX

2023/7/14公開

日本では少子高齢化が進み、働き手の減少と同時に社会保障費の増加が大きな課題となっています。特に2025年の崖から2030年問題、2040年問題と、働き手が不足することで社会全体にさまざまな影響が及びかねません。

これらの問題を解決するカギがDXです。そして企業においてそのカギを握るのが情シス(情報システム部門)担当者だと言えます。本記事では、2030年問題による社会や企業の課題と、情シス担当者が今から取り組める対策について紹介します。

2030年問題とは

2030年問題とは、2030年に高齢化が進み、それによって起こると考えられるさまざまな問題のことです。内閣府による「令和4年版高齢社会白書」(*1)によると、2030年時点で日本国民の約3.2人に1人が65歳以上となると予測されています。出生率が下がるとともに、団塊の世代は後期高齢者となり、高齢者を支える働き手の世代が減っていくという状況です。

具体的な課題としては、15歳~64歳である生産年齢人口が減り、GDPが低下するといった経済規模の縮小、社会保障費の負担増加などが挙げられます。経済産業省の発表する資料(*2)によると、特にIT業界では、IT人材が2030年時点で最大79万人不足すると予想されていることもあり、まさに危機的状況です。

目前に迫る2025年問題

2030年問題の前に、まずは2025年問題が目前に迫っています。2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上となり、日本国民の約5.6人に1人が後期高齢者になるという超高齢化社会に予測される課題のことです。

働く世代の人口が減るなか、社会保障費は膨れ上がって不足し、医療や介護分野も人手不足から十分なサービスを提供できない状況となることが考えられます。また、日本企業において老朽化したシステムを使い続けることで経済的損失が発生する「2025年の崖」も課題のひとつです。

2025年の崖については、こちらの記事で詳しく解説しています。

2040年問題ではさらに深刻化

さらに2040年には、団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者となり、日本国民の約2.8人に1人が高齢者、さらに全体の約5人に1人が後期高齢者になると予測されています。64歳以下の人口は、2022年と比較して約1700万人減少するという予測があるなど、少子化も深刻な課題です(総務省「人口推計」(*3)と「令和4年版高齢社会白書」より算出)。

医療費が大幅に増加する一方、働き手の世代は人口減少が続き、日本経済はマイナス成長が見込まれます。2025年時点では労働力不足が進行すると考えられており、厚生労働省の「厚生労働白書」(*4)では、2040年には20歳~64歳の人口が総人口の約半分程度まで減少するとも言われています。現在の社会保障制度や社会のルール自体が持続困難になり、企業活動にも大きな変化が求められる可能性があるでしょう。

2025年問題から2030年問題、2040年問題は地続きであり、切り離せるものではありません。2040年以降もこの問題は深刻化し、2060年には約2.6人に1人が65歳以上となると言われています。差し迫った2025年問題だけでなく、その後の問題にまで視野を広げて今から対策を検討・実行していく必要があります。

2030年に起こる具体的な社会問題

このように、少子高齢化が進む日本において、具体的にどのような社会問題が起こりうるでしょうか。ここでは、2030年に起こると考えられている問題点を解説します。

労働力の減少

生産年齢人口と呼ばれる15〜64歳の人口は、1995年をピークに減少が続いています。2030年には6,975万人まで減少する見込みとなっており、国を支える働き手不足の深刻化が大きな問題です。

労働力が減ればGDPが低下し、国としての経済力も下がるでしょう。その中でも特に、医療・介護分野での労働力不足は深刻とされています。労働力不足がこのまま進めば、国民は十分な医療・介護サービスを受けられなくなる恐れがあります。

もしも高齢者が健康を損い、十分な医療サービスを受けらない場合、その家族が自宅介護のために休職・退職を余儀なくされるという、さらなる労働力の減少につながる可能性も考えられるでしょう。

社会保障制度の継続危機

労働力が減少し、GDPが低下することによって、財源も縮小していきます。一方で、年金や医療費など社会保障を受ける側の高齢者は増加します。高齢者は若年者と比較して入院や通院の機会や回数が増えるとともに、医療費の自己負担額は75歳以上で1割、70歳~74歳で2割、70歳未満は3割と高齢者が増えるにつれて国が負担する医療費は増えることとなります。社会保障費が増大した結果、社会保障サービスの維持が困難になり、最悪のケースでは破綻する可能性があります。

高齢者1人を支える生産年齢人口が減っているため、現役世代の1人あたり社会保障費負担額が増えることも予想されます。若者の貧困が取り沙汰されている現在より、さらに厳しい状況となるでしょう。

IT人材の不足

経済産業省によると、2030年には最大で79万人のIT人材が不足するとされています。この数字は、IT人材の需要と供給のギャップを表しており、IT需要の伸び率と生産性の上昇率によって予測値は変化しますが、低位シナリオでも16万人が不足するとの試算です。

IT人材は、従来型システムの受託開発、保守・運用などに関連する「従来型IT人材」とIoTやAIを利用するサービスに係る「先端IT人材」と大きく2つに分類されます。先端ITの市場ニーズが高まるにつれ、先端IT人材の需給ギャップはより顕著になるでしょう。そのため、従来型IT人材から先端IT人材に転換するといった対応も必要です。

AI分野をはじめとした先端IT人材の育成に積極的な企業も増加していますが、社内において古くなったシステムを運用・保守するだけで精一杯の企業や、担当者が不在もしくは不足している企業も少なくありません。そのような場合、先端IT人材の教育まで手が回らず、IT戦略を進められないといった可能性も出てくるでしょう。

2030年問題が企業にもたらす影響

次に、2030年問題によって企業にどのような影響がもたらされるのか見ていきましょう。労働力が減少し、各社人手不足が起こることで、以下のような問題が起こると考えられています。

個人の業務負担が増加

働き手となる生産年齢人口が減ることで、企業は人材不足となり、1人あたりの業務量が増加するでしょう。業務の負担が増えれば、それだけ働く時間も長くなり、心身の負担が大きくなると懸念されます。

人件費の増加

人手不足になれば採用においては働き手優位な売り手市場となるため、人件費が高騰する可能性があります。他社との間で人材の取り合いが激化し、採用コストが膨らむことも考えなければなりません。

企業の費用負担が大きくなるため、場合によっては人材の確保がうまくいかないまま、経営が立ち行かなくなる企業も出てくるでしょう。

人材の流出

高齢者の自宅介護が増えると予測され、それによって仕事との両立が困難になり、退職してしまう人が増える恐れもあります。現在もすでに同様の問題はありますが、介護だけでなく育児もある場合、それらの両立ができないという理由で退職せざるを得ない人も出てくるでしょう。

企業側が人材不足解消のために誰かれ構わず雇用してしまえば、結果的にニーズが合っていない人材は流出してしまう可能性があります。

2030年問題解決のカギとなるDX

2025年の崖でもカギとなっているDXは、その先の2030年問題や2040年問題にも欠かせないものです。働き手の減少は免れないとしても、DXを推進することで課題解消につながる可能性があります。ここでは、DXによってもたらされる具体的な効果を紹介します。

DXとは

DXとは、「Digital Transformation」を表す略称です。デジタル技術を駆使して、経営のあり方やビジネスプロセスを再構築するという概念をDXと呼びます。広義では、社会や人々の生活をより良く変革することと定義されています。IT化と混合されがちですが、IT化は業務の効率化を目的としており、DXの手段のひとつであると言えます。DXにおいて重要なのは、単純にITツールやAIを利用して業務フローを改善するだけでなく、レガシーシステムから脱却して企業風土やビジネスの仕組み自体を変革することです。

DXを推進することで得られる効果

DXを推進することで、利益や生産性の向上など様々な恩恵があるとされています。経済産業省が発表している「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題に向けての検討」内における「DXの恩恵に関するアンケート調査」(*5)でも、多くの企業がDXによる効果を得ていると回答しています。ここからは、DXによってもらたらされる主な効果を紹介します。

コスト削減

DXによってスムーズな業務遂行が実現することで、コスト削減の効果も期待できます。たとえば、アナログ作業にかかる時間が減れば、人件費が削減できたり、業務フローを見直す中でムダな経費やプロセスを発見したりできるでしょう。

コストが削減できれば、自ずと利益の向上につながります。人手不足の中で継続して業績を伸ばし続けることは難しいことでもあります。そのような状態の中でも、コスト削減に注目することで、安定した利益を生み出すことが可能です。

生産性向上

DXを推進していく中で、現状の業務プロセスの「ムリ・ムダ・ムラ」を改善され、企業全体の生産性が高まります。たとえばITツールの導入により、アナログ作業などの非効率を解消できるようになります。

処理速度が向上するうえ、タイムリーな情報把握や短時間でのデータ集計・分析が可能になり、意思決定スピードも向上します。効率的に業務を進められるようになれば、少ない人員でも従来と同等もしくはそれ以上の成果が見込めるでしょう。

付加価値の創出

DXによるビッグデータの活用で、これまで見えなかったニーズを把握したり、ニーズの変化に柔軟に対応できるようになったりといったことも可能になります。顧客が求めるものにより適したサービスを提供できれば、顧客満足度の向上が見込めます

また、業務効率化によって生み出された時間を、たとえば新たなサービスの立ち上げのために使うことでも、付加価値を創出できるでしょう。

モノやサービスにあふれている中、顧客のニーズを的確に読み取り、自社ならではの付加価値を生み出すことで、他社と差別化し、自社の価値を高めることにつながるのです。

多様な働き方への対応

人材の流出を防ぐためには、介護や育児と両立できるよう多様な働き方への対応が重要です。加えて、若年層は地方から都心へ流出していることも、社会問題になっています。地方でも働きやすい環境を作ることが、地方企業における人材不足解消の一手になるでしょう。

具体的には、リモートワークやフレックス制度などを取り入れ、場所や時間に縛られず働けるように改革することが人材確保と流出防止につながります。DX推進により、このような自由度の高い働き方を実現できるようになるのです。

DX推進における情シスの役割

情シスはIT人材が担い、企業のデジタル化やIT活用を支えています。日々の業務の中でDXを推進するため、情シスがどのような役割を担うべきか見ていきましょう。

情報収集

IT業界は変化が激しく、常に情報収集していなければ流れに乗り遅れてしまうものです。そこで情シスは、新たな技術・サービスの動向やITの情報をキャッチし、社内で活用できるものはないか検討することが求められています。

また、社内のシステム利用者に対して、問題や改善点がないかヒアリングすることも大切です。ITの観点から自社ビジネスの課題を見つけ、解決に必要な情報をいつでも使えるようにしておく必要があります。

最近では、自社ビジネスの課題を見つけるのに有効なツールが多くあり、そのようなツールを活用することで情シスの負担を軽減できます。例えば、株式会社オロが提供するSaaS管理ツール「dxeco(デクセコ)」なら、社内に散在しているSaaSとその契約情報を一元管理することが可能です。社員一人ひとりに都度ヒアリングすることなく、SaaS情報の集約ができるため、コストやセキュリティリスクの管理が容易になります。

IT環境の整備

社内で利用するシステムやITツールの選定や導入も、情シスの重要な役割です。DXに必要とされるビッグデータを構築し分析に使用できるようにしたり、従業員がシステムやITツールをスムーズに使えるようにしたりといった環境整備を行います。

システムを導入する際は複数のシステムを比較したり、自社の業務内容に合ったシステムを導入・開発するための要件定義を行います。また、リモートワークの環境整備においても、情シスの存在は大きいでしょう。スムーズな業務遂行だけでなく、機密管理上も問題が起こらないようなルールや環境を整備することが重要です。

既存業務の見直し

DXでは、業務プロセスを抜本的に見直し、効率化を行うだけでなく業務そのものを改革する必要があります。そのため、既存の業務を洗い出し、課題や改善点を抽出するといった作業を行わなければなりません。

社内のITを担う情シスだからこそ、システムやツール活用による業務改善を提案できると言えます。場合によっては、システムに合わせて業務プロセスの再構築を行うことになるでしょう。

システムの活用促進

すでに導入しているシステムをさらに有効活用できるよう、社内で啓蒙活動を行うのも情シスの役割です。慣れないシステムに対して抵抗を感じている従業員や、使い方がわからず困っている従業員などに、使い方の解説やサポートを行なって活用促進を図りましょう。

具体的には、使い方のナレッジを社内で共有することや、各人でナレッジ共有が可能な環境を整備することなどが考えられます。また、DXの必要性を各従業員に理解してもらうことも重要な役割です。

これからの情シスのあり方とは

従来の情シスは、トラブル発生時や問い合わせがあった際に対応する「相談窓口」的な役割を担っていたと思います。システムやインフラの保守運用といった、現状を維持するための業務も多かったはずです。

しかし今後、DXを促進するためには、情シスもより能動的に働きかける必要が出てきます。積極的に情報収集したり業務の課題を探したりして、システムやITツールで改善できないか常に考え、提案することが求められています。そのためには、経営者と同じ目線で業務を俯瞰し、改革の道筋を考えることが重要です。

それと同時に、現場からの意見を吸い上げてDXを推進することも大切だと言えます。なぜなら、トップダウン方式でDX推進を行うだけでは、スピード感はあるものの社内の反発を受けかねないからです。適宜ボトムアップ方式で現場の意見を吸い上げ、バランスを取ることも情シスの大事な役割です。

社会全体としてDX推進が叫ばれる中、主体的にDX推進を行える情シスの市場価値は高まっています。情シス自らが「先端IT人材」として、既存の技術に加えて新たなスキルを身に付けられれば、キャリアパスが広がるといったメリットも得られます。

このような情シスの変化は、DXを推進したい企業にとっても、キャリアを広げたい情シスにとっても今後必要とされるでしょう。

まとめ

目前に迫った2025年の崖から2030年問題、2040年問題と事態は深刻化していくことが予想されています。労働力が減ることで、企業では人件費の高騰や人材流出が起こり、社会全体では社会保障の継続が困難になる恐れがあります。

これらの問題を解決するため、社会全体としてDXを推進していくことが重要です。企業においては、ITに明るい情シスがDXを牽引していく必要があります。DXが進めば、業務効率化、自動化、標準化による生産性向上を図れたり、多様な働き方を実現できたりするでしょう。

情シス担当者はぜひ今日からでもDX推進の取り組みを始め、2030年問題に不安のない企業体制を整えていきましょう。

参考

*1:令和4年版高齢社会白書|内閣府
*2:参考資料 (IT人材育成の状況等について)|経済産業省
*3:人口推計- 2022年(令和4年)1月報-|総務省
*4:令和2年版厚生労働白書|厚生労働省
*5:デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討|経済産業省

Q
2030年問題とは?
A
2030年に日本国民の3人に1人が65歳以上となり、それによって起こると考えられるさまざまな問題のことです。詳しくは2030年問題とはをご覧ください。
Q
2030年問題の対処方法は?
A
情シスが主導して企業のDXを推進し、効率的かつ多様な働き方ができるよう既存業務の抜本的な見直しや環境整備を行っていくことで対処できると考えられます。詳しくは2030年問題解決のカギとなるDXをご覧ください。

DXレポートに載っていない新たなリスク

DXレポートで2025年の崖の存在が指摘されてから数年経ち、様々なリスクが浮上しています。
迫りくる危機を回避するために、企業が今できる備えをチェックリストにまとめました。

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この記事の筆者

ライター

矢野 由起

製造業のエンジニアとして9年半勤めた経験を活かし、現在はフリーランスのライターとして活動中。職場の生産性や働き方改革、クラウドツール活用、複業などに興味があり、人事領域に関する記事なども手掛けている。

この記事の監修者

株式会社オロ クラウドソリューション事業部 マーケティンググループ コンテンツマーケター

犬塚 菜々美

2012年からシステムエンジニアとしてERPパッケージソフトの開発に3年半従事。その際に身につけた業務知識やERPの知識を活かし、株式会社オロではクラウドERP「ZAC」のマーケティングチームの一員として活動。WebディレクターやSEOコンサルティングの経験を持ち、オウンドメディアの運営やホワイトペーパーの制作、セミナーの運営を担当。

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