後継者育成の課題と解決事例。社員の経営者意識がポイント
後継者育成とは
後継者育成とは、未来の企業経営者となりうる候補者を見つけて、事業を承継するにふさわしい人物へと育てることです。人事用語では、後継者育成の計画をサクセッションプランとも呼びます。
後継者となるのは一般的に、経営者の親族か企業内の役員・従業員です。それが難しければ、M&Aなどを行い社外へ承継することになります。どのような企業でも、現役経営者の引退は必然です。またそのタイミングは突然訪れることもあるでしょう。そのような場合に後継者がいなければ事業継続は難しく、企業経営の危機に陥りかねません。
後継者に引き継ぐべきことは目に見える資産から目に見えない資産まで多岐に渡り、時間もかかります。そのため、早い段階から後継者育成を進めておくことが重要なのです。
後継者育成にかかる期間
独立行政法人中小企業基盤整備機構が中小企業向けに行った後継者育成に関する調査(*1)によると、育成に必要な期間は5〜10年くらいという回答が最も多い結果となりました。加えて、経営者の年齢は60代以上が約半数と、高齢化の傾向にあります。年齢とともに病気リスクや家族の介護の機会も増えるため、交代すべきタイミングをいつ迎えてもおかしくないでしょう。
経済産業省では「60歳を過ぎたら事業承継の準備を」と推奨しています。このような理由から、後継者育成に向けて早めに動き出すことが大切だと言えます。計画的に育成することで、十分な準備ができ、企業にとって都合のいいタイミングで事業承継ができるのです。
後継者が育たなければ休廃業や解散も
後継者育成が適切にできていない場合、事業承継後、急激に企業競争力が低下して売上が下がったり、経営への不信感から離職者が出たりといったリスクが考えられます。最悪のケースでは、後継者に承継したにもかかわらず休業や廃業になることもあるでしょう。十分な育成期間を設け、適切な状態で後継者へ引き継ぐことが重要です。
後継者育成における課題
上述の調査によると、先代経営者から事業承継するにあたり、「経営力の発揮」で苦労したと答えた人が最多でした。このように、早期から後継者育成を行わなければ、後継者が事業を承継したものの経営不振に陥る恐れがあります。企業の存続や事業の長期的繁栄のためには後継者育成が重要です。
しかし、後継者育成には課題も多く、必ずしもすべての企業でスムーズに実行できるわけではありません。以下の2つが、主な課題となっています。
人材不足
中小企業庁の調査(*2)によると、後継者不在率は全国で6割を超えており、事業を承継できる後継者の不足が明らかになっています。かつては親族内で承継することが多かったものの、近年は子どもの意思を尊重して無理に継がせないという経営者も少なくありません。従業員の中から選ぶにしても、働き手不足が根底にある場合も多く、経営者意識の高い人材が見つからないケースもあります。
事業承継に向けた準備が大変
事業承継にはさまざまな準備が必要です。後述する後継者育成の流れの項でも解説しているように、まずは経営状況を見える化しなければなりません。財務状況だけでなく、事業の強み・弱みや目に見える資産・見えない資産をすべて明らかにしなければならないのです。
経営状況が見える化できたら、次は事業をより魅力的にブラッシュアップする必要があります。事業や働き方の課題を解決し、今よりいいものへと改善していくということです。同じ事業や働き方を長く続けていればいるほど、容易なことではありません。
このように、承継までの準備に労力がかかることも課題となっています。
後継者育成の課題解決のポイント
課題があるからといって、後継者育成を進めないわけにはいきません。経営に明るい人材を社内で増やし、後継者候補になりうる人材のプールを作っておく必要があります。そのためにはまず、下記①〜④に取り組むことが有効です。
①経営数値を社内に公開する
経営上重要な数値を社内に公開することで、社員に採算意識が芽生えます。たとえば「利益率」を公開してKPIに設定した場合、社内のマネージャーにも利益率目線で仕事をするという考えが根付くでしょう。利益への貢献度を感じにくい間接部門も、コストや業務時間を削減して利益率に換算することが可能です。
また、残業時間が長くても利益につながらなければ評価されなくなるため、社員にとって納得感のある人事評価ができるようになります。
②さまざまな部門や役職を経験させる
企業に存在する複数の役割を幅広く経験させることで視野を広げ、経営者目線を手に入れられます。多くの企業で実施されているのは、部門間ローテーションです。一つの部門を一定年数経験したら、次は畑違いの部門を経験させ、企業がどのような仕組みで運営されているのかを学ばせる手法です。
役職も複数経験させることで、あらゆる立場の社員の気持ちを理解できるようになり、社員から慕われる経営者へと成長できます。他社への短期出向を行い、自社にない経営手法を学ばせることも有効です。
③ミドルマネジメント層への経営権限の譲渡
ミドルマネジメント層に対し、経営上の一部の意思決定権を与えることも、後継者育成には有効な方法です。経営者目線で物事を考えて事業を運営するため、社内体制強化やリソース管理など社内のことだけでなく、ステークホルダーとの良好な関係構築、リスクマネジメントなど、経営者に必要とされているさまざまな素質を磨けます。
そのために部門別採算制を取り入れるのも一つの手段でしょう。部門別採算性は、部門・事業部ごとに切り分けて一つの企業のように独立させ、それぞれで利益を生み出させる経営方式です。部門ごとに収支が明確になるため、ミドルマネジメント層も各部門のメンバーも、コスト意識を持つようになります。部門別採算性について、詳しくはこちらの記事を参照してください。
④M&Aを検討する
どうしても社内に後継者人材がいない場合には、M&Aも検討しておく必要があります。M&Aの場合、会社もしくは事業を外部に販売することになるため、事業承継と同時に利益も得られる点がメリットです。
ただし、必ずしも買い手がつくとは限りません。事業が魅力的かつ持続可能であることが大切です。また、後継者によっては経営理念や企業方針を変更し、従業員の負担が増す可能性もあります。事前に経営方針についてしっかり認識合わせをしておくことも忘れてはなりません。
M&Aの相談を受けてくれる組織もあるので、早めに相談し、承継までにやるべきことを明確にしておきましょう。
後継者育成の流れ
課題解決のためのポイントを押さえたうえで、後継者育成の計画を立てていくことになります。ここでは、数ある計画作成手法の中から、中小企業庁の事業承継マニュアル(*3)に沿って、どのように計画を作っていくのかご紹介します。
①事業承継に向けた準備の必要性の認識
事業承継は経営者が変わるだけでなく、周囲との関係性などさまざまなところに影響が出るものです。与える影響を鑑みた準備を行わなければ、承継後のトラブルにつながりかねません。スムーズな事業承継には十分な準備が必要であり、時間もかかることを認識しておくことが重要です。
事業承継の支援機関や税理士、弁護士に相談して、どのような準備をどれだけの期間かけて行うべきか知っておくこともおすすめです。
②経営状況の把握
次に、現在の経営状況を把握しましょう。ローカルベンチマークや管理会計システムなどの経営状況把握ツールを活用し、経営の見える化を行います。事業の強み・弱みや経営資源、財務状況が明らかになるため、今後解決すべき課題も見えてくるはずです。後継者の不安払拭や取引先からの信用にもつながります。
③経営改善
承継する未来を見据え、事業の価値向上や企業の競争力強化など、後継者が魅力を感じられるような改善の実施も重要です。M&Aを行うことになった場合に、譲渡先を見つけやすくしたり好条件で譲渡できたりするよう、価値のある企業へとブラッシュアップすることが欠かせません。
生産性を上げたり、弱みを強みに転換したり、従業員のモチベーションやエンゲージメント向上策を実施したりと、さまざまな視点から経営改善を行いましょう。
④後継者と事業承継計画を策定する
事業承継に向けて実施すべきことが明らかになったら、次は後継者とともに事業承継計画を策定します。スムーズに承継するには、具体的なステップと時期を見える化し、必要な作業を抜け漏れなく実施していく必要があります。ここでは、後継者自身も計画策定に関わって当事者意識を持てるように進めていくことがポイントです。
スムーズな事業承継が出来た事例
実際に事業承継をスムーズに行えた事例があります。それは本ブログを運営する株式会社オロ(以下オロ)のケースです。
株式会社オロの事例
オロが提供する事業の一つ、クラウドソリューション事業部において、事業承継をスムーズに行えたポイントは大きく3点あります。
- 事業部のKPIが定着していた
- 業務フローが整備されていた
- 後継者がその部門の業務に精通していた
後継問題の概要から経営意識の高い社員が育つ仕組みまで、「後継者育成」についてわかりやすくまとめた資料『後継者育成の最短ルート 社員の経営者意識を育てる2つの方法』でそれぞれのポイントについて詳しくまとめています。
まとめ
経営者の高齢化が進む今、事業承継のタイミングはいつ訪れるかわかりません。もし後継者不在であれば、事業の継続は困難であり、休廃業や解散の恐れもあります。一方、事業を承継する後継者育成には5〜10年かかるのが一般的です。そのため、早い段階から事業承継を念頭にした後継者育成に取り組むことが大切だと言えます。
後継者育成には人材不足や準備の大変さなど壁もありますが、経営数値の公開や業務ローテーションなどの取り組みで人材を育てることは可能です。早期から後継者育成を進め、いざとなったときに慌てず事業承継できるよう備えておきましょう。
参考
*1:事業承継実態調査 報告書