人件費削減の5つの方法。人手不足に陥らないためのポイントとは?
人件費とは
人件費とは、企業で働く従業員に関わる費用のことです。給与や賞与だけでなく、社会保険料や福利厚生費など「人」に支払う費用はすべて人件費となります。業種によって人件費が売上に占める割合は異なりますが、一般的に大きなウェイトを占め、かつ毎月発生する費用です。
人件費の種類
人件費は、主に以下のような種類に分類されます。
- 給与・各種手当
- 賞与
- 役員報酬
- 法定福利費
- 福利厚生費
- 退職金
自社の人件費が適切かを図るには
費用のなかでも大きなウェイトを占める人件費だからこそ、まずは自社の人件費が適切であるかどうかを把握する必要があります。自社の人件費が適切かどうかは、売上に対する人件費の割合を表す「人件費率」や、付加価値に対する人件費の割合を表す「労働分配率」などを算出して図ります。
どちらも業種によって大きく異なる数値であるため、業種平均と自社の数値を比較したうえで改善の必要性を判断することが重要です。 人件費率と労働分配率について、くわしくはこちらの記事をご覧ください。
削減しやすい人件費・できない人件費とは
人件費の適正化を図るためには、不要なものを削減しなければなりません。しかし、人件費にはさまざまな種類があり、その特性上、削減しやすいものと削減できないものとが存在します。どのような人件費が削減しやすく、逆に削減できないのか見ていきましょう。
削減しやすい人件費
削減しやすいのは、企業が金額をコントロールできるタイプの人件費です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 給与(時間外労働の削減による効果)
- 教育研修費
- 人材採用費
基本的に、所定時間内賃金や所定時間外賃金として定めているものを引き下げることは難しいでしょう。しかし、残業や休日出勤などの時間外労働を減らすことで給与にあたる人件費を削減できます。また、従業員の教育や採用にかかる費用も人件費であるため、これらも本当に適切に活用されているかを精査することで削減可能です。
必要な費用であっても、たとえば外部セミナーを減らして社内で研修を行ったり、採用エージェントの利用を減らしてリファラル採用を強化したりといった工夫で削減することも考えられます。ただし、いずれの場合も企業の今後を考えたうえで、本当に削減しても問題ない費用なのか熟考しなければなりません。
削減できない人件費
逆に削減できない人件費とは、厚生年金保険料や雇用保険料などの社会保険料、労働保険料といった従業員を雇用している限り決められた金額がかかる費用です。これらは法律で料率が決まっているため、企業側でコントロールできません。
人件費を削減するメリット
人件費を削減することで、直接的なコストカットのほかにも、以下のようなメリットが得られます。
人件費に関連する間接コストも削減できる
1つ目のメリットは、人件費と比例して増える間接コストも同時に削減できる点です。たとえば、業務の効率化によって普段から長時間残業が当たり前となっている従業員やチームの残業時間を削減できれば、人件費だけでなく、残業時にかかるオフィスの水道光熱費も削減できます。
また、繁忙期には残業を増やしたり新たな人員を補充したりするのではなく、アウトソーシングという手段をとることもひとつの手です。従業員の給与や社会保険料といった人件費を抑えつつ、一人あたりに必要な備品のコストなども減らせるでしょう。
新事業や新設備に投資できる
削減できた人件費分の金額を、新たな事業や設備購入といった投資に活用可能です。たとえば、老朽化した設備からより高性能な設備へと買い替えた場合、その後の業務効率を底上げできるでしょう。新事業への投資を行うことで、企業全体の売上アップや安定した経営基盤の構築にもつながります。
融資が受けやすくなる
事業拡大や設備投資のために資金調達を考えている場合、人件費削減が有効に働く可能性があります。なぜなら、売上高が同じでもコストである人件費が削減できれば、その分利益を確保することにつながるからです。赤字から黒字へ転換、もしくは黒字であってもさらに経営状況を改善させられるため、金融機関からの融資を受ける際の評価に好影響を及ぼすと考えられます。
人件費を削減するデメリット
人件費の削減によってさまざまなメリットを得られる一方、不用意な削減を行うとデメリットが生じる可能性もあります。そのため、人件費削減が及ぼす影響を正しく理解しておくことが重要です。具体的には、以下のようなデメリットやリスクが考えられます。
人材不足の原因となる
残業を削減したり、人材採用を抑えたりして人件費を削減した場合、行うべき業務量に対して労働力不足となる可能性があります。また、人員整理や給与の削減によって人件費を削減した場合、削減効果は大きいものの、「人件費以外に削減できるものがない経営状態の悪い企業」と評価されたり、転職市場などで「給与が低い企業」として敬遠されたりするリスクも考えなければなりません。
一度企業のイメージがダウンすると、後々採用を強化したくとも人材が集まらず、採用がうまくいかないといった影響が出ることも考えられます。さらに、人件費を削減するために採用を控え続けた場合は中長期的な育成計画が立てられず、数年後に必要な能力を備えた人員が不足する事態にも陥りかねません。
社員のモチベーション低下につながる
本来必要だった人件費まで削減した場合、従業員のモチベーション低下につながる恐れがあります。たとえば、これまでもらえていた手当が減らされたり、人員不足で無理な働き方が続いたりすれば、離職を考える従業員も出てくるでしょう。
給与に対して業務量が多いようであれば、従業員が疲弊して生産性が低下することも考えられます。会社に対するエンゲージメントや業務効率が低下し、その結果経営に悪影響を及ぼす可能性があることを念頭においておきましょう。
一方的な人件費削減は違法リスクとなる可能性も
人件費削減を行ううえで特に注意しなければならないのは、企業側の一方的な人件費削減が違法となってしまう点です。労働契約法第9条には「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」とあります。(*1)つまり、一方的に給与や手当を削減することはできません。
もし給与規定などの就業規則を変更したい場合は、あらかじめ従業員に変更内容とその影響を周知したうえ、妥当かつ合理的だと判断できる内容でなければなりません。また、従業員に退職を促すことも、「退職の強要」と考えられるような方法であればパワハラに該当することもあるため注意が必要です。(*2)
人件費を適切に削減する5つの方法
やみくもな人件費削減は、上述したようなデメリットが生じてしまいます。では、どうすればリスクを回避しながら適切な削減ができるのでしょうか。具体的な削減方法を紹介していきます。
業務フローの見直し
削減しやすい人件費のひとつが残業代です。繁忙期など一時的に業務量が増える場合は必要なコストといえますが、必要以上に残業が発生していないか確認して改善に努めることが重要です。
日常業務でムダが生じていないか、業務フローを見直して効率化し、労働時間の削減を行います。社内のやり取りでムダな工程が生じていたり、部門間で作業が重複したりしている可能性もあるため、全社で細かい作業までひとつ一つ洗い出して、改善できるポイントがないか検討するといいでしょう。
人員配置の最適化
業務を効率的に進めるには、従業員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう配置することも重要です。従業員の適性やスキル、経験などから、適した業務ができる部署に配置転換することで業務の効率化を図れます。加えて、人員配置に偏りがないかを業務単位で確認することも重要です。もし特定の案件に必要以上の人員を割いている場合、手持ち無沙汰になっている人がいたり、別の案件で人手不足が発生していたりする可能性があります。
適正な人員配置を行った結果、業務が効率化されることで生まれた時間を、新たな事業や施策に投入できるようになるのです。
アウトソーシングの利用
業務の一部を切り取って依頼できるようなら、アウトソーシングの利用もおすすめです。たとえば繁忙期のみ人手が必要な場合、従業員を新たに雇用すると人件費が固定でかかってしまいます。特に業務が専門的であればあるほど、採用や教育にかかる費用は増加するでしょう。しかし、業務の一部をアウトソーシングすれば、一時的な支出に抑えることが可能になります。固定費となる人件費をできるだけ削減し、企業側がコントロールできる費用にしておくことが人件費削減のポイントです。
ITツール・システムの導入
業務フローの見直しとも関連しますが、現在手作業で行っていて効率の上がらない業務があれば、ITツールやシステムを導入して効率化を図るのも一つの手段です。業務を効率化することで、人員不足をカバーでき、人件費の増加を抑えられます。
具体的には、RPAの活用で業務を自動化することや、オンライン会議ツールの導入で出張の移動時間を減らすことなどが考えられます。紙の書類による申請や承認に時間がかかっているようなら、システムを導入してオンラインで完結する仕組みを構築するといいでしょう。ITツールやシステムを活用して業務を自動化する方法については、こちらの記事でくわしく解説しています。
より精緻な工数管理を行う
業種によっては、精緻な工数管理が人件費削減の鍵となる場合があります。たとえばソフトウェア開発業、広告業、士業といったプロジェクトごとに業務を進める業種において、原価の多くを占めているのは人件費です。従業員ごとの作業内容や業務にかかった工数を正確に把握し、予定より多くかかっている業務があれば改善を行うことで、残業削減につながり、ひいては人件費削減を実現できます。
また、精緻かつタイムリーに工数管理ができていれば、リアルタイムで工数がオーバーしている工程を見つけられ、対策が可能となるのです。
システムの導入で人件費削減に成功した事例
上述した人件費削減方法のうち、システムの導入によって削減に成功した事例を紹介します。ここで紹介するのは、本ブログを運営する株式会社オロのクラウド型ERP『ZAC』を導入したことで、人件費削減に成功した2社の事例です。
株式会社早稲田大学アカデミックソリューション様
大学や大学職員に向けて大学運営に必要なソリューションを提供し、新たな価値創出の支援を行っている株式会社早稲田大学アカデミックソリューション様。同社では働き方改革の一環としてZACを活用し、週次ベースでの勤怠状況を可視化されました。
従来、勤怠実績は月次で締めていたためにタイムリーな労働時間の把握ができず、長時間労働の要因となっていたそうです。そこでZACを導入し、週次で勤怠を管理することで、1週間ごとの勤務時間を正しく把握できるようになりました。その結果、管理者と部下の間でその週の業務量を調整するといったコミュニケーションが可能になり、残業時間を前年比約2,990時間削減することに成功。有休取得率も約10.2%上昇し、適切な勤怠・工数管理により、人件費の削減に成功しています。
一般社団法人電線総合技術センター様
電線・ケーブルに関する技術専門機関である一般社団法人電線総合技術センター様。受注管理や会計、工数管理などの各システムが社内に分散していたことで財務データの分析が思うようにできなかったことから、システム統一と業務標準化を図るためにZACを導入されました。同時に、正確な工数管理ができておらず、データそのものの精度の低さも課題だったそうです。
以前は出退勤時間を記録する勤怠管理用Excelと、業務内容の内訳を記録する工数管理用Excelの2つがあり、1カ月単位で「どの事業部の仕事に何%時間を投入したか」というアバウトな割合で集計をしていたといいます。ZACでは出退勤時間と工数の管理を一元化でき、15分単位で工数登録が可能です。精度の高い工数管理が実現したことで、もともと時間外労働が多かった従業員や業務負荷が多かった従業員へのフォローができるようになり、ワークライフバランス改善にもつながっています。
まとめ
企業の固定費として大きなウェイトを占める人件費は、削減することでさまざまなメリットを得られます。しかしその一方で、従業員のモチベーション低下や人員不足といったデメリットにもつながる、非常にセンシティブな費用だといえます。そのため、業務フローの見直しから業務効率化を図ったり、ZACのようなシステムを導入して緻密な工数管理を行ったりすることで、企業からの一方的なコストカットとならないよう人件費削減を実践していくことが重要です。
まずは既存の業務の工数削減に努めることをおすすめします。工数削減の実践にあたっては、下記よりダウンロードできる「工数管理実践BOOK」も参考にしてみてください。
参考
*1:労働契約法 | e-Gov法令検索
*2:職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!|厚生労働省