年次有給休暇の基礎知識。管理方法や付与日数など押さえるべきポイントを解説
年次有給休暇とは
年次有給休暇とは、労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的として、雇用主から賃金が支払われる休暇日であり、1年ごとに毎年一定の日数が付与されています。有給休暇、年次休暇、年休、有休とも呼ばれることがあります。
【年次有給休暇の付与対象条件】
- 雇入れの日から、6ヵ月継続して雇われている
- その6ヵ月間の全労働日の8割以上出勤している
この2点を満たしていれば、年次有給休暇を取得することができます。契約社員やパートタイマーなどの有期契約労働者をはじめ、いわゆる管理職と呼ばれる管理監督者も対象に含まれます。
【年次有給休暇の付与日数】
雇用主は、前述の条件2点を満たしている労働者に原則として10日の年次有給休暇を与えなければなりません。年次有給休暇の付与日数は、継続勤務年数により異なります。
年次有給休暇の取得率
厚生労働省によると、令和4年の1年間に企業が付与した年次有給休暇日数は、労働者1人平均17.6日、そのうち労働者が取得した日数は10.9日、取得率は62.1%であり、昭和59年以降過去最高となっています。
取得率を企業規模別にみると、「1,000人以上」が65.6%、「300~999人」が61.8%、「100~299人」が62.1%、「30~99人」が57.1%と、どの規模でも平均取得率が50%を超えていています。特に、30~99人規模の企業においては2017年時点の取得率が44.3%であったことと比較すると、10%以上の上昇が見られます。これは企業全般において、消化推進の取り組みが行われていたり、制度が整備されたことが影響していると考えられるでしょう。
また、有給取得率を産業別にみると、「複合サービス事業」が74.8%と最も高く、「宿泊業,飲食サービス業」が49.1%と最も低くなっています。一般的に、法人向けの産業は個人向けの産業と比べて年次有給休暇の取得率が高い傾向にあります。
年次有給休暇取得の義務化
法改正以前は有給休暇の取得率が低いことが問題でした。例えば2017年の年次有給休暇の取得率は、全体の約5割と低い傾向にありました。このような事態を改善するために実施されたのが、労働基準法が改正です。年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日については、労働者が時季を指定して取得させること(年5日の年次有給休暇の確実な取得)が義務付けられました。
年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合には、30万円以下の罰金が科されることがあります(労働基準法第120条)。厚生労働省では、年5日の年次有給休暇の取得はあくまで最低限の基準と定めており、労働者がより多くの年次有給休暇を取得できるように労働環境を整備することを推奨しています。
有給休暇FAQ
ここまで年次有給休暇の基礎知識をご紹介してきました。現在の有給休暇は、1日単位の休暇以外の形で取得することが可能になり、より柔軟な働き方に対応しています。ここからは、「有給は時間単位で消化できるのか」「有給は買取ってもらえるのか」など多くの労働者が気になる有給休暇についての疑問をまとめます。
有給取得の理由
不要です。
労働基準法では、年次有給休暇は労働者が請求した時季に与えることと定められているため、理由に関係なく有給を取得することができます。申請書やシステムの都合上、有給取得の際に取得理由を記載しなければならない場合には、法律上は「私用のため」という回答で問題ありません。
時間給取得の制限
時間単位の有給休暇の取得には制限はありますか?
制限があります。
もともと年次有給休暇は、1日単位で取得することが原則とされているため、まず、雇用主と労働者の間で労使協定を締結することで、時間単位の有給休暇の取得が可能になります。その上で時間単位で取得できる有給は年に5日分が上限となっています。
種類 | 内容 | 労使協定の締結 |
---|---|---|
計画年休 | 会社が予め取得日を定めて年次有給休暇を与えることが可能な制度です。ただし、労働者が自ら請求・取得できる年次有給休暇を最低5日残す必要があります。 | 必要 |
半日単位年休 | 労働者は年次有給休暇を1日単位で取得することが原則ですが、半日単位での取得を希望して時季を指定し、会社が同意した場合であれば、1日単位での取得の阻害とならない範囲で、半日単位で年次有給休暇を取得することが可能です。 | ‐ |
時間単位年休 | 年次有給休暇は1日単位で取得することが原則ですが、労働者が時間単位での取得を請求した場合には、年に5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を取得することが可能です。 | 必要 |
特別休暇 | 年次有給休暇に加え、休暇の目的や取得形態を任意で設定できる会社独自の特別な休暇制度を設けることが可能です。 | ‐ |
有給の前倒し取得
有給休暇を前倒しで取得することはできますか?
企業の方針によっては可能です。
企業によっては、法定の基準日(雇入れ日から6か月後)より前に、年次有給休暇を付与している場合があります。例えば入社日と同時に年次有給休暇を10日付与された場合は、6ヵ月後を待たずに前倒して有給休暇を取得することが可能です。
有給の使用期限
有給休暇の使用期限はいつまでですか?
2年間と定められています。
年次有給休暇の請求権の時効は2年と定められており(労働基準法第115条)、前年度に取得しなかった年次有給休暇は翌年度に持ち越すことが可能です。
有給取得奨励日とは
有給取得奨励日とは何ですか?
企業が労働者に対して、有給休暇の取得を推奨している日のことです。
あくまで企業側が推奨しているものなので、法的な強制力はありません。
具体的には年末年始やGWなどの大型連休の間にある数日を有給取得推奨日として定め、労働者が連休を取得しやすい環境づくりのために設定されていることが多いです。
有給の買取
有給休暇の買取ができるって本当ですか?
原則、有給休暇の買取は違法とされています。ただし例外的に認められる場合もあります。
本来、有給休暇は労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的に「休暇」として取得するべきものです。休暇の代わりに金銭を支給することは、本来の目的に反しているため、「使用者は、その雇入れの日から起算して6ヶ月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10労働日の有給休暇を与えなければならない」と規定された労働基準法第39条に違反する可能性があります。
例外となるのは下記の3つの場合です。
- 企業が労働基準法で定められた有給休暇の日数を超えて有給休暇を付与している場合
- 2年の時効で有給休暇が消滅した場合
- 退職時に残ってしまった有給休暇
このような場合は企業の規定に則って買い上げることが認められています。しかし、いずれも義務化されていないため、企業の方針により買い上げが認められない場合もあります。
労働者側では自社の就業規則に則りより多くの有給休暇を取得できるよう、普段の業務量の把握はもちろん、自身の年次有給休暇の残数や時間単位で取得できる有給の上限を常に把握する必要があります。一方で雇用主となる企業側には、時間給や年次有給休暇の適切な管理が求められています。
この次の章、「年次有給休暇の管理について」「年次有給休暇の管理は勤怠管理システムで」を参考に、すべての労働者が気兼ねなく有給休暇を取得・管理できる環境を整えましょう。
年次有給休暇の管理について
法改正以前は、年次有給休暇の管理を残日数で管理している企業がほとんどでした。しかし、残日数の管理だけでは年度別の取得状況を正確に把握することが難しく、年次有給休暇の管理方法の改善が求められました。
2019年4月以降、雇用主となる企業は、年10日以上年次有給休暇が発生する労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」と呼ばれる帳票を作成し、3年間保存しなければならなくなりました。(労働基準法第24条)この帳票は、必要なときにいつでも出力できる仕組みであることも重要視されています。個人事業主は労働基準法の対象外ですが、個人事業主の従業員は労働基準法の対象となります。
【年次有給休暇管理簿とは】
年次有給休暇を与えた労働者ごとに、
- 時季(有給休暇を取得した年月日)
- 日数(有給休暇の取得日数)
- 基準日(有給休暇が付与された日)
を明らかにした書類のことです。
社員数が少なく基準日が一定である場合には、Excelや紙帳票などで作成することも難しくはないでしょう。しかし、企業規模の拡大につれて年次有給休暇管理簿をアナログな手法で作成する難易度は上がり、管理者の負担となる可能性があります。
例えば、年次有給休暇の基準日は入社日(雇入れ日)が軸となるため、従業員によって有給を取得しなければならない期間が異なる場合がほとんどです。「誰がいつまでに有給休暇を5日取得しなければならないのか把握しづらい」といった課題があり、有給休暇の管理が労務担当者の負担になっている可能性があります。これらの課題は、多くの場合、年次有給休暇を勤怠管理システムで管理することで解決します。
年次有給休暇の管理は勤怠管理システムで
年次有給休暇を適切に管理したり、年次有給休暇管理簿の作成の手間を削減するために、積極的に活用していきたいのが勤怠管理システムです。年次有給休暇管理簿は、必要なときにいつでも出力できる仕組みとした上で、システム上で管理することも認められています。
勤怠管理システムで有給管理をするメリット
有給管理に勤怠管理システムを活用することで、下記のようなメリットが享受できます。
- 個人が自分のシステム画面上から、有給休暇の申請、取得状況の確認ができる
- 有給休暇の残日数、期限日、使用日などを一覧で確認可能になる
- 「気付いたら有給休暇の期限が切れていた」といった危険性が減る
- 勤怠管理システムの中には、入社時に労働者ごとの有給休暇の付与・失効条件を設定することで、翌年以降の有給休暇は自動的に付与・失効されるといった便利な管理機能も
- バースデー休暇など会社が設定した特別のオリジナル休暇を追加できる
- 勤怠管理システムで休暇管理を行う場合、前述の年次有給休暇管理簿としての機能を持つため、労務担当者の業務の負担軽減が期待できる
年次有給休暇管理簿としての機能を持つ勤怠管理システムの一例
株式会社オロが開発・販売を行うクラウドERP「ZAC」の勤怠管理機能画面
そのほか、会社全体の有給休暇の取得率を集計する機能、有給失効日前にアラート通知する機能などが付随する勤怠管理システムもあり、積極的にシステムを活用することで有給取得率向上が期待できると言えます。
まとめ
2019年の労働基準法改正から有給休暇の取得率が高まり、有給休暇の管理方法を見直す必要性がますます高まってきています。勤怠管理システムを使って有給休暇の管理を効率よく行うことで、社内体制の改善を図ってはいかがでしょうか。ZACのようなシステムの力を上手く利用しつつ、働きやすい会社を目指しましょう。下記の資料にはシステムを活用し、勤怠管理を効率化した事例をまとめています。ぜひご覧ください。
<参考記事>
※1...年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
※2...令和5年年就労条件総合調査の概況(厚生労働省)
※3...改正労働者基準法(厚生労働省)
※4...数値目標(内閣府)
有給を取得する際に、会社に理由を伝えないといけませんか?