残業削減を推進する5つの方法。成功事例とメリットも紹介
残業削減が推進されている背景
企業がコストを削減するためだけでなく、日本社会全体として残業削減が求められています。
働き方改革による残業規制が設けられた
政府が推進する働き方改革によって、2019年4月より大企業は残業時間に上限規制が設けられました。中小企業には猶予があり、2020年4月より適用されています。
さらに2023年4月から、中小企業における月60時間を超える残業代の割増賃金率も、大企業と同様の数値へ引き上げられています。このことから、大企業だけでなく中小企業にも残業削減の波が及んでいるのです。
時間外労働時間の上限規制
時間外労働の上限規制とは、時間外労働を原則月45時間、年間360時間までとし、臨時的な特別の事情がない限りは超えられないとしている規制のことです。なお、臨時的な特別の事情があり、労使の合意が得られたとしても、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満に抑えなければ罰則が科されます。
従来は法律による上限規制がなかったものの、2019年4月より法規制が敷かれ、働き方改革が推し進められています。
時間外労働の上限規制について、詳細はこちらの記事で解説しているので参照ください。
中小企業も対象。時間外労働の割増賃金率の引き上げ
時間外労働に対して月60時間を超える場合は、別で割増賃金率が設定されています。2023年3月31日までは大企業で50%、中小企業で25%だったところ、2023年4月以降は中小企業も50%へ引き上げられる(*1)こととなりました。
さらに、深夜や休日に行った時間外労働に対しては、50%以上の率で割増賃金を支払う必要があります。
日本全体の労働生産性向上が求められている
残業を削減することは、労働生産性を向上させることにもつながります。日本の労働生産性は今、他の先進諸国より低く、先進国内で最下位という状況です。労働人口が減っているなか、日本がGDPを上げるには労働生産性を向上させることが必須です。そのためにも残業削減が推進されています。
日本の労働生産性については、詳細はこちらの記事で解説しているので参照ください。
残業削減のメリット
残業削減は国が推進しているだけでなく、個々の企業にもメリットをもたらす施策です。具体的に挙げられるメリットを解説します。
離職率の低下
残業が少なることで、心身ともに健康な状態で働けるようになれば、従業員の離職率低下につながるでしょう。残業が多く時間的にも精神的にも余裕のない先輩社員が多ければ、せっかく入った新入社員を適切に教育できなかったり、悪影響を及ぼしたりする恐れもあります。
今いる従業員とこれから入ってくる従業員が長く働ける環境づくりのためにも、残業削減は有効です。
コストの削減
残業が減ればその分の経費(残業代)が減るため、企業としてコスト削減できるという経営的メリットが得られます。会社に滞在する時間も減るため、光熱費の削減も見込めるでしょう。
また後述するように、残業削減は採用活動にプラスになることもあり、採用コストが下がることも大きなメリットです。
社内の生産性向上
残業削減によって定時内で業務を行うことが常態化すれば、従業員も効率よく業務を進めようとするため、生産性向上につながります。逆に残業が多い企業や職場では、残業を前提とした働き方が蔓延し、生産性の低下が懸念されます。
定時内に業務を終わらせるための改善提案が生まれたり、社内の協力体制も強化されていくといったメリットも得られるでしょう。
健康経営の実現
経済産業省が推奨する健康経営(*2)とは、従業員の健康を維持・増進することが企業の収益性等を高めるものと考え、戦略的に健康管理を実施することです。健康経営を行えば、従業員の心身の健康を維持できる可能性が高く、病欠や離職のリスク低減が見込まれます。
さらに、企業としての価値や評価が上がることもメリットです。ワークライフバランスが取れる企業と見なされ、採用活動にもプラスになると考えられます。
残業が常態化する要因
上記のようなメリットがあるにもかかわらず、残業が常態化している企業は少なくありません。ここからは、残業が常態化する要因について解説していきます。
業務量が多い
一人当たり、もしくは時間あたりの業務量が適正でなく、常に残業しなければスケジュール通りに業務を遂行できない状況に陥っている可能性があります。
業務にかかる時間を正確に見積もれていない場合や、そもそも見積もり自体が行われていない場合に発生しうる状態です。
業務が属人化している
属人化とは、ある特定の従業員だけに業務の知識・ノウハウが蓄積し、他の人がその業務を代われない状態になることです。業務が属人化している場合、業務負荷が偏ってしまうため残業せざるを得ない状況が生まれるでしょう。
属人化した業務の担当者がいないと他の人の業務も進まなくなり、結果的に残業しなければスケジュールに間に合わないといった状況も起こってしまいます。
属人化について、詳細はこちらの記事で解説しているので参照ください。
精緻な勤怠管理ができていない
従業員の実労働時間のみを管理するにとどまり、誰が、いつ、どのような業務で、どれほど残業をしているのかがわからないことで、いつの間にか残業過多となってしまう可能性があります。
また、複数の事業を展開していたり、少ない人員で多種多様な業務を行ったりしている場合には、1人に多数の業務が集中してしまい、結果として残業につながることも考えられます。
リソース管理ができていない
個人の能力に見合った業務量が割り当てられていなかったり、マネジメント層が把握しているスキルと実情との乖離から業務遂行が難しかったりといった、リソースの管理不足も残業常態化の要因です。
業務量や難易度に対して適正な人員を確保できておらず、少ない人数で残業して進めなければならない状況になっている可能性もあります。
ひとつの業務にどれだけの工数がかかっているのかを把握できていないため、見積もっていた工数との差を比較したり、次に同じような業務を行う場合に負荷を見積もったりすることもできません。また適切なリソース管理ができていないことで、繫忙期の一時的な業務増加に対しても、従業員の残業に頼るしかないケースがあります。
残業が良いとされる社内文化がある
必要性や緊急度にかかわらず、残業や早出をして長時間勤務することを良しとする企業文化があると、本来は定時内で終えられる業務をあえて長引かせてしまう可能性があります。
実際の評価にまで響かなくとも、「残業している=頑張っている、仕事熱心」と捉えてしまう風土があれば、周囲からの印象を良くするために、本来ならば定時内で終わらせられる業務であっても残業してしまうケースもあるでしょう。
残業を減らすための5つの方法
従業員の心身の健康を守るという企業の生存戦略のため、ひいては日本の経済成長のために、残業削減は欠かせません。そこで、残業を減らすための具体的な方法を5つ紹介します。まずは取り入れられるものから実践してみてください。
勤怠管理の見直し
まずは、現状どのくらいの残業が行われているのかを精緻に把握し、それらを管理できる勤怠管理制度への変更が大切です。勤怠管理システムを導入したり、残業する際は申請する仕組みを設けたりといった施策が有効だと言えます。
あわせて、ノー残業デーを作って残業ゼロの日を設けることも、残業削減につながります。
業務の標準化
業務標準化とは、誰もが同じ成果を出せるよう業務の手順を整理し、設定したルールに沿って業務を行えるようにすることです。手順を統一することで、経験値の差に関わらず、誰もが円滑に業務を行える体制作りにつながります。また、属人化による残業の常態化防止も期待できます。
業務標準化については、詳細はこちらの記事で解説しているので参照ください。
ヒアリングやコミュニケーションの実施
なぜ残業が必要なのか、残業しないことに対してどのような心理的ハードルがあるのかは人によって異なります。どのような施策を打っても、現状を知らなければ的外れになりかねません。
遠回りのように見えますが、現状把握のためにマネジメント層が率先して従業員とコミュニケーションをとり、懸念事項などをヒアリングしていくことが残業削減の第一歩です。
ツールや外部サービスの導入
従業員同士の予定表を共有できるツールや、チャットツールなどの外部サービスを導入し、業務を効率的に進めることも有効な手段です。予定表が見えれば、会議設定が効率化できたり、予定の詰まり具合から一部の人に負荷が偏りすぎていないか確認できたりと、残業を減らす取り組みが可能となります。
また、社内外から同じような問い合わせが続く場合、botツールを活用して対応にかける時間を減らすこともできます。
残業削減を評価につなげる
残業が良いとされる文化がある場合、まずは成果(生産性)で評価する制度をつくることが大切です。残業削減や業務効率化は企業のコスト削減に貢献しているのだと従業員に周知したうえで、それらを具体的な評価につなげる制度へと変更しましょう。
業務改善提案・実行を積極的に募集したり、出された提案の中から優れたものを表彰したりして、「時間を効率的に使うことが良い」とする文化を醸成していくことがポイントです。
残業削減の成功事例4選
ここでは、厚生労働省発行の時間外労働削減 好事例集(*3)と本ブログを運営する株式会社オロ(以下、オロ)が提供するクラウドERP「ZAC」の導入事例より、残業削減に成功した好事例を4つ紹介します。
①事前申請による残業のスリム化
まずは、業務の繁閑があり、繁忙期に人員が不足するため残業が増えてしまう状態にあったという企業の事例(時間外労働削減 好事例集のCase1)です。
この企業では、始業時と就業前に行なっているミーティングで、管理職がメンバーの残業予定と業務内容、退勤予定時間を確認するようにしました。場合によっては業務を他のメンバーに振り分けたり、翌日に行うよう指導したりして、残業時間を少なくできるよう調整しているといいます。
残業実績は月に2回管理職が集計し、管理部門へ報告する仕組みへと変更。なぜ残業が多いのかの理由も報告し、不要な残業が行われにくい体制へ変更したことで、残業を削減できたそうです。
②管理職の人事考課に部下の残業削減の項目を追加
取引先からの注文量の増減によって業務負荷が変動するため、残業管理が難しいと考えられていた事例(時間外労働削減 好事例集のCase4)では、トップダウンで残業削減の取り組みを行なったといいます。
具体的には、残業を日々事前申請することに加え、管理職の人事考課項目に「部下の時間外労働」を組み込みました。その結果は賞与や翌年度の給与に影響させることで、マネジメントの面からも積極的に残業抑制できている管理職を評価する土台ができあがりました。
さらに時間外労働が多い場合は、管理部門から管理職に対し改善措置指示が出されます。そのため、管理職は部下の時間外労働を把握するだけでなく削減に取り組むようになったという事例です。
③業務可視化による働きすぎの防止
イベント展示やオフィスや店舗の内装を行う中央宣伝企画株式会社様では、クリエイティブワークが中心のため裁量労働制を取り入れているものの、働きすぎが課題となっていたそうです。
そこで、ZACを導入し、従業員の日々の勤怠情報と業務内容を工数データで把握できるようにしました。 その結果、必要に応じて従業員の働き方を調整するリソースプランニングが可能になったといいます。業務の可視化によってワークシェアリングが実現でき、働きすぎを防げるようになった好例です。
④システムのアラート機能を活用した残業抑制
教育・研究フィールドで事業を展開する株式会社早稲田大学アカデミックソリューション様では、ZACを導入して従業員の時間外労働を週次ベースで見える化する仕組みを構築しました。
もともと勤務の長時間化に課題を感じていたため、社会全体の働き方改革の流れに乗って解決に動き出したそうです。まずはZACのカスタマイズを行い、勤怠の週次締めを実施。これにより、月末にまとめて勤怠登録をすることができなくなったため、より正確な勤務状況をタイムリーに把握できるようになりました。
加えて、「勤怠アラート」機能を用いて時間外労働や期限の迫った振替休暇、有給休暇の取得日数などに関して、該当する従業員とその上司にアラームを表示させるよう設定しています。その結果、法定時間外労働を前年度比約2,990時間削減するといった劇的な効果が得られました。
残業削減には勤怠管理システムの活用がおすすめ
紹介した残業削減事例からわかるように、残業時間をタイムリーに把握することで、事前に業務を調整したりリソースの再配分を行ったりする対策が実施できます。そのためには、口頭や紙で残業時間を事前申請することも有効ですが、勤怠管理システム上でデータ化・可視化すると効率的に管理可能です。
たとえば、「ZAC」の勤怠管理機能では、残業時間を管理できるだけでなく、設定したしきい値を超えるとアラートで知らせる機能があります。「いつの間にか時間を超えてしまった」という事態を防げるのです。
また、残業時間や出退勤情報を集計してレポート化もできます。さらにZACは工数管理機能もあり、勤務時間と業務にかかった工数が連動しているため、時間がかかっていて負荷が高い業務はどれなのかがわかる仕組みなのです。
このように、勤怠管理機能を持つシステムを活用することで、これまで見えていなかった現状を把握し、残業削減を図れます。
まとめ
労働人口が減少している今、働いている従業員の離職を防いで健康経営を実現するために、残業削減が直近の課題となっています。残業が減らせない理由としては、業務量が多すぎることや業務が属人化していること、勤怠管理による適正なリソース配分ができていないことなどが考えられるでしょう。
そこで有効な策が、勤怠管理の仕組みを見直すことや、業務標準化、ツールの導入などです。特に、残業時間をデータ化できる勤怠管理システムやツールの導入によって現状を見える化することで、効率的な残業削減の取り組みが可能になります。
同時にメンバーへの丁寧なヒアリングでボトルネックを探ることや、残業削減を進めている従業員の評価といった地道な取り組みも大切です。まずはできる範囲から残業削減の取り組みに着手していきましょう。
参考
*1:月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省
*2:健康経営|経済産業省