フリーランス新法はいつから?概要と下請法との違いを解説
フリーランス新法とは
フリーランス新法とは、発注者とフリーランス間の適正な取引と、安定した労働環境を整備するために新しく設けられた法律です。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)であり、2024年11月1日に施行されます。
フリーランスという働き方自体を保護する法律はこれまでなく、フリーランスが力関係で弱者になりがちであった背景から、2023年4月28日に成立し、5月12日に公布されました。この法律では、フリーランスと取引を行うすべての事業者・業務委託者に対し、取引条件の明示や報酬の支払い、ハラスメント対策などを規定しています。
中小企業も対象となるほか、施行までの間に規制追加が行われる可能性もあるため、今後の情報に注意が必要です。
フリーランス新法が発足した背景
フリーランス新法の背景には、フリーランスの就業環境への課題があります。2020年に内閣官房らが調査したところ、フリーランス人口は462万人にのぼっています。(*1)フリーランスという働き方が広がる一方、取引の一方的なキャンセルや報酬不払いといった不当な扱いを受けた経験があるフリーランスは約4割と、弱い立場に置かれやすい状況が判明しました。
また、2022年に行われた調査によると、取引条件が後から変わった経験がある人は約20%、取引条件が明示されていなかった人は23%、ハラスメントを受けたことがある人は約10%という結果が出ています。 (*2)
このような状況に鑑みて、フリーランスとの取引適正化と就業環境改善を図ってフリーランス新法が発足しました。
フリーランス新法の適用対象
フリーランス新法が適用されるのは、フリーランスと、フリーランスへ業務を依頼する発注者による取引です。法律上、以下のように表現されている二者間での取引が対象となります。
- 特定受託事業者(=フリーランス)
- 特定業務委託事業者(=フリーランスへ業務を依頼する側)
聞きなれない言葉ですので、それぞれの言葉の定義について詳しく解説していきます。
フリーランスの定義
フリーランス新法における「特定受託事業者」とは、従業員を使用せずに業務を遂行する個人と定義されており、フリーランスのことを指しています。1人で業務を受けて遂行する人のことです。
ここでいう従業員とは、週20時間以上労働し、かつ31日以上雇用の見込みがある人に限定されるため、それより短い労働時間や短期雇用の場合は従業員に含まれません。
発注事業者(法人・個人事業主)
「特定業務委託事業者」とは、フリーランスに業務を発注する事業者のことです。特定業務委託事業者には、従業員を使用して組織で事業を行う法人または個人事業主が含まれます。ここでいう業務委託には、一時的なものと継続的なものの両方が該当します。
対象となる取引
フリーランス新法で対象となるのは、フリーランスと発注事業者によるBtoB取引です。
具体例を挙げると、企業がフリーランスに業務委託する場合は対象となりますが、一般消費者からの依頼を受けてフリーランスが業務を遂行する場合は対象外です。また、フリーランスが自分の能力を活かして制作した成果物の売買も、この法律の対象となりません。
フリーランス新法で義務付けられること
フリーランスに業務を発注する事業者の条件 |
適用される義務項目 |
---|---|
従業員を使用していない (フリーランス含む) |
① |
従業員を使用している |
①、②、④、⑥ |
従業員を使用している、 かつ継続的に業務委託している |
①、②、③、④、⑤、⑥、⑦ |
フリーランス新法では、フリーランスへ業務を委託する発注事業者に対しての義務が定められています。(*3)義務項目は7つあり、発注事業者の従業員の有無や委託の期間によって遵守すべき義務が異なります。具体的な義務の内容について見ていきましょう。
①取引条件の明示
業務委託の取引条件は書面またはメールなど電磁的方法で明示することが義務付けられます。これは、従業員を使用していないフリーランスからフリーランスへの依頼であっても対象となる義務です。
具体的には、以下の内容等を明示する必要があります。
- 委託する業務内容
- 報酬額
- 支払い期日
さらに詳細な明示事項は公正取引委員会規則によるため、詳細な情報が公表され次第、確認が必要です。
②60日以内の支払い
発注事業者は、フリーランスから成果物を受け取った日より60日以内に報酬支払い日を設けて、その期日までに支払わなければなりません。たとえば、4月5日に成果物を受け取った場合、翌々月末の6月30日を支払い期日にすると、60日を超えてしまいます。そのため、当月末までに受け取った成果物の支払いは、原則として翌月末を期限とするとよいでしょう。
ただし、フリーランスに委託する業務が、発注元からの再委託であった場合、発注事業者が発注元から支払いを受けた日から30日以内に支払うことになっているため、成果物の受け取りから60日を超えるケースが認められます。
どちらのケースであっても、お互いの信頼関係構築のためには、定められた期間内で可能な限り早く支払うことが大切です。なお、フリーランス同士での取引の場合、この義務は生じません。
③7つの禁止事項の遵守
フリーランスが不当に不利益を被らないよう、発注事業者はフリーランスに対して以下7つのことを禁じられています。(*4)ここでいう発注事業者は、継続的に業務委託をし、かつ従業員を使用する事業者が対象です。
- フリーランスに責任がないにもかかわらず成果物の受領を拒否すること
- フリーランスに責任がないにもかかわらず報酬額を減らすこと
- フリーランスに責任がないにもかかわらず成果物を返品すること
- 相場に比べて著しく低い報酬額を不当に設定すること
- 正当な理由なく、発注事業者が指定する物品の購入やサービスの利用を強制すること
- 発注事業者のために金銭やサービス、経済上の利益を提供させること
- フリーランスに責任がないにもかかわらず成果物の内容変更またはやり直しを命じること
④募集情報の的確な表示
フリーランスに対する業務の募集情報を広告などへ掲載する際、虚偽の情報や誤解を与える表示はしないこと、また内容は正確かつ最新であるよう維持することが義務付けられています。この義務は、従業員を使用している事業者すべてが対象です。
⑤育児・介護に対する配慮
フリーランスに継続的な業務委託を行う場合、フリーランスが育児や介護と業務を両立できるような配慮が義務付けられます。具体的には、妊婦健診のための時間を確保したり、育児・介護と両立できるよう就業日の調整を行ったりといった配慮が必要です。
⑥ハラスメント対策に関わる体制整備
フリーランスに対してハラスメントが起こらないよう、組織内でハラスメント研修を行ったり、ハラスメントに関して相談できる窓口を設置したりといった体制整備が義務付けられます。また、フリーランスがハラスメントについて相談した際、不利益が生じる扱いを禁止し、ハラスメントが発生した際に迅速かつ適切に対応することも義務付けられています。この義務は、従業員を使用している事業者すべてが対象です。
⑦中途解除等の事前予告・理由開示
フリーランスに継続的な業務委託を行っていた場合、中途解除や継続更新を行わない旨は、解除等の30日前までに予告する必要があります。また、その理由を開示することも求められます。
違反した場合の罰則
上述したフリーランス新法における7つの義務を守らなかった場合は、発注事業者に対し、公正取引委員会や中小企業庁長官または厚生労働大臣による助言、指導、立入検査、勧告が行われます。(*4)
勧告に従わない場合は命令や公表が行われ、さらに命令に違反した場合は50万円以下の罰金が課されるため注意しましょう。違反した発注事業者の従業員と法人の双方が罰せられ、企業として大きなペナルティを負うことになるという意識が必要です。フリーランスと取引を行う場合は、法律の理解と十分な体制づくりを行いましょう。
フリーランス新法と下請法との違い
フリーランス新法 | 下請法 | |
---|---|---|
規制対象 | フリーランスと取引する事業者 | 資本金1,000万円以上の事業者 |
保護対象 | 従業員を使わない個人事業主 (フリーランス) | 資本金1,000万円以下の下請事業者 |
義務内容 | 取引条件明示、報酬支払い60日以内など | 取引条件明示、報酬支払い60日以内など |
禁止事項 | 成果物の不当な受領拒否、報酬の不当な減額など | 成果物の不当な受領拒否、報酬の不当な減額など |
罰則 | 50万円以下の罰金 | 50万円以下の罰金 |
フリーランス新法は、弱い立場に置かれがちなフリーランスを守るための法律です。報酬支払いの期限や禁止行為がある点において、下請法と似ているように思われるかもしれません。しかし下請法とは異なる法律なので、その違いを理解しておきましょう。
大きく異なるのは、保護される対象者と規制を受ける側に資本金区分が設定されているかどうかです。フリーランス新法は従業員を使用せずに業務を遂行する個人のフリーランスを保護する法律であるのに対し、下請法は資本金1,000万円以下の下請事業者を保護対象としています。
また、下請法では資本金1,000万円超の事業者が規制を受ける一方、フリーランス新法では資本金関係なく、フリーランスに業務委託する事業者はすべて規制対象です。これまで下請法では規制対象となっていなかった中小企業も適用される点に注意しましょう。中小企業や小規模企業との取引でトラブルや不当な扱いを受けたフリーランスも、フリーランス新法によって保護されるようになります。
独占禁止法、労働関係法令との関係
他にもフリーランスに関係する法令として、独占禁止法と労働関係法令があります。独占禁止法は、不公正な取引や私的な独占行為を禁止しており、事業者との取引全般が対象です。そのため、フリーランスと事業者との取引すべてに独占禁止法が適用されます。(*5)
労働基準法などの労働関係法令は、企業に雇用される労働者に関する法律であるため、フリーランスは対象外です。ただし、業務実態によっては労働者と判断される場合もあり、対象となる点に注意しなければなりません。
労働者となるかどうかは様々な要素から複合的に判断されます。たとえば、フリーランスでも、業務場所や時間が指定・管理されている場合や、他の業務の遂行が制限される場合などは、労働者として認められるケースがあります。
企業が注意すべきポイント、必要な準備
フリーランス新法の施行に向け、フリーランスと取引を行っている企業が注意すべきポイントを紹介します。施行前までに準備しておくべきものも紹介しますので、参考にしてください。
取引先が保護対象かを確認
まずは、今取引を行っている取引先がフリーランス新法における保護対象かどうかを確認しましょう。取引当時はフリーランスだったとしても、途中で従業員を雇用するようになった可能性があります。取引しているすべてのフリーランスに実態をヒアリングし、保護対象がいれば適切な対応を行わなければなりません。
社内ルールの整備、周知
取引先に保護対象がいるならば、社内のルールや体制の整備、また社員に対してフリーランス新法の周知徹底が必要となります。フリーランス新法で規制されている事項について社員へ教育すると同時に、発注書の送付や支払い期日の厳守のために社内フローを整えることも重要です。
違反した場合の罰則も周知し、守らなければならないという意識づけも行いましょう。また育児や介護への対応をどうするか検討し、ハラスメント相談窓口を設けるといった社内体制の整備も必要です。
契約書・発注書の見直し
フリーランス新法では、業務委託時に取引条件を明示することが義務付けられています。新たにフリーランスと業務委託契約を結ぶ際、使用する契約書や発注書はフリーランス新法で義務付けられた内容を織り込んだものとしなければなりません。現在使用しているものを見直して、不備があれば修正を行いましょう。
支払い期日の管理
フリーランス新法では、下請法と同様に発注事業者が成果物を受け取ってから60日以内に支払いを行うよう義務付けられています。そのため、支払い期日を超えないよう、社内で管理を徹底しなければなりません。
もし今、支払い期日管理が適切に行われていなければ、まずは支払うべき相手と金額、期日を表にまとめてチェックできるようにします。抜け漏れや重複がないよう、表自体の管理体制も整えましょう。件数が多く、手作業のチェックが難しい場合は、ツールやシステムを使用するのも一つの手です。
まとめ
フリーランス人口が増えている今、フリーランス新法の対象となる企業は多いでしょう。すでにフリーランスと取引を行っている企業や今後取引の予定がある企業は、2024年11月のフリーランス新法施行に向けて備えておく必要があります。
フリーランス新法では、取引条件の明示や支払い遅延防止といった、社内でのルールづくりが肝要です。取引するフリーランスの人数が多ければ多いほど、発注や支払いの管理は煩雑になります。特に支払いサイクルは、下請法と同じで60日以内となるため、そのルールづくりから行っていくことが大切です。
フリーランス新法に向けた体制づくりを行う際、ERPなどのシステムを利用することで、手作業での管理によるミスを削減でき、対応を効率化できます。たとえば、本ブログを運営する株式会社オロのクラウド型ERP『ZAC』なら、下請法に対応しているため、フリーランス新法を遵守した支払い期日の管理が可能です。さらに、アラート機能で支払い遅れも防げます。
このようなシステムの活用で、フリーランスとの取引をよりスムーズかつ正確に行えるようになるでしょう。フリーランス新法への対応が必要な企業は、この機会にシステムを検討してみてはいかがでしょうか。
参考
*1:第1部~フリーランスの実態、新法制定の経緯と趣旨|厚生労働省
*2:令和4年度フリーランス実態調査結果|内閣官房
*3:フリーランスの取引に関する新しい法律ができました|公正取引委員会
*4:特定受託事業者に関わる取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)の概要 (新規)|内閣官房
*5:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン|厚生労働省