モダナイゼーションとは?代表的な手法や進め方をわかりやすく解説
モダナイゼーションとは
モダナイゼーション(modernization)とは「近代化」という意味の言葉です。企業のソフトウェアやハードウェアなど、稼働しているIT資産を活かしつつ、古くなったシステムを最新の製品・サービスなどに置き換えることを指します。
長年同じシステムを使い続けている場合、システムが老朽化し、業務効率の低下を引き起こしたり、実際の業務プロセスにシステムが対応できなかったりといった問題が発生します。 そのような問題を解決する手法の1つがモダナイゼーションです。
混同しやすいマイグレーションとの違い
モダナイゼーションと混同されやすい言葉として、マイグレーションがあげられます。
モダナイゼーションは、既存のIT資産を活かして新しいシステムを作ることです。企業内にあるハードウェアやソフトウェアなどを最新化した上でシステムを構築するため、機能や性能が最適化されます。
一方のマイグレーション(migration)は「移行」という意味を表し、既存のシステム構造を新しいシステムで1から再現することです。ハードウェアやソフトウェア、業務データなどを完全に別の環境に移行することで、既存システムと変わらない機能を利用できます。
モダナイゼーションが注目されている背景
モダナイゼーションが注目されている背景には、経済産業省が「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(*1)で「2025年の崖」について言及したことが関連しています。2025年の崖とは、IT人材の不足や、レガシーシステムを長年使ってきたことによって引き起こる経済損失やリスク等を表すために、上記のレポート内で使われている言葉です。 2025年までにレガシーシステムの刷新を進められなかった場合、日本は国際的な競争力を失い、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じると言われています。
2025年の崖、レガシーシステムについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
日本企業では、レガシーシステムを使っている企業も少なくありません。レガシーシステムを使い続けることで、システムの詳細や当時の開発言語をよく知る人がいなくなったり、使われている技術が古くなることで新技術と比較して生産性が下がったりするため、カスタマイズコストや人員コストがかさみます。また、最新のデジタルテクノロジーとの規格が合わなくなる可能性もあるでしょう。
レガシーシステムから脱却し、2025年の崖を乗り越える手段の1つとしてモダナイゼーションが注目されているのです。
モダナイゼーションによって期待できる効果
モダナイゼーションにより、古くて効率が悪くなっているシステムからより高機能なシステムに移行することで、業務を効率化でき、生産性の向上が期待できます。また、最新システムを導入することでセキュリティも強化でき、サイバー攻撃やウイルスへの対策を強化できるでしょう。
モダナイゼーション実施の際には、企業内のソフトウェア・ハードウェアなどのIT資産を可視化する必要があります。無駄な機能やコストを明確にし整理することで、インフラ・コストや業務コスト、ソフトウェア保守コストなど、長期的にかかるコストの削減も期待できます。
モダナイゼーションの代表的な方法
モダナイゼーションの代表的な方法は以下の5つです。
- リプレイス
- リライト
- リホスト
- リファクター
- リドキュメント
それぞれの方法の特徴、メリット・デメリットについて解説します。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
リプレイス | 目指すビジネスモデルに合うシステムを導入できる | コストや作業負荷が高い |
リライト | 現行システムをそのまま利用できる | 書き換える前のドキュメントがしっかりと管理されていなければならない |
リホスト | 迅速な移行ができる | 最新テクノロジーへの対応が難しい |
リファクター | コード内容を整理・刷新できる | コード内容が既にレガシー化している場合には適さない |
リドキュメント | 属人化を防げる | レガシー化のリスクは残る |
リプレイス【システム刷新:コスト大】
リプレイスとは、既存システムから最新のパッケージシステムなどに移行する方法です。抜本的な業務改革を図る際に適しています。
リプレイスの場合、業務プロセスを根本的に改善・改革することで、企業が目指しているビジネスモデルや業務プロセスに合うシステムを導入できる点がメリットです。自社の業界向けに最適化されたパッケージシステムなら、業務に必要な標準機能が揃っているため、スクラッチ開発と比較した場合、導入にかかるコストは抑えられるでしょう。最新のシステムに移行することで、生産性向上や業務効率化などの効果が期待できます。
リプレイスのデメリットは、システムを総取り換えしたり、業務プロセスを見直したりすることによって、コストや作業負荷が高くなる点です。そのため、移行期間が長期化するケースも多く見られます。
リライト【ソフトウェアサイド:コスト中~大】
リライトとは、古い開発言語で書かれたコードを、新しい開発言語で書かれたコードに書き換える方法です。
現行システムの機能をそのまま利用しつつUI/UXの改善を図れるため、ユーザーにとっての使いやすさがメリットとなります。また、新しいプログラム言語ならばライブラリが豊富にあるため、1からシステムを開発するよりもスムーズにコードを書くことができるでしょう。
適切にリライトを進めるためには、書き換える前のドキュメントがしっかりと管理されていなければなりません。そのため、システムの初期導入・カスタマイズなどに携わったエンジニアの協力が必要なケースもあります。その人物が既に社内にいない場合、リライトを進めるのが困難になる点がデメリットです。
リライトは言わばスクラッチの作り直しと言えます。システムの規模や形態によっては、パッケージにリプレイスするよりもコストがかかってしまう点も考慮しましょう。
リホスト【ハードウェアサイド:コスト中~大】
リホストとは、仮想化技術などを使い、既存システムのハードウェアやOSなどを最新のプラットフォーム上で再現する方法です。
システムを構築するプラットフォームは、大きく分けてクラウドかオンプレミスの2つです。クラウドの場合、システムをスピーディーに構築でき、初期費用を抑えた上で導入できる点がメリットになります。オンプレミスの場合、初期費用は高くなりますが、ハードウェア・ソフトウェアを自由にカスタマイズできたり、高いセキュリティを実現できたりする点がメリットです。
具体的には「既存業務を標準化して、安価に運用したい」という場合、クラウドシステムの採用が適しています。「自社の独自業務に合わせたカスタマイズをしたい」という場合には、オンプレミスによるシステム構築が合うでしょう。
近年では、リホストの際はクラウドサービスを利用することが一般的です。システムの保守サポート期限が迫っている場合の延命処置としても利用されます。ただし、システムのソフトウェア部分の機能・仕様はそのまま残されるため、最新テクノロジーへの対応が難しくなります。
リファクター【ソフトウェアサイド:コスト小~中】
リファクターとは、複雑化したソフトウェアのコードにアプローチし、内部構造を現在の状況に対応できるように最適化することです。具体的には、コード内容の整理・刷新を行い、システムをより効率的に動かせるようにします。「リファクタリング」とも呼ばれています。
無駄なコード読み込みをなくすことで、プログラムの実行速度を高めたりメモリ容量を削減したりすることが可能です。さらに、バグが起きた際の原因特定が容易になり、システムの改修・機能追加もスムーズにできるようになります。
リファクターは、コード自体の不具合の解消・機能追加などの作業は含まれないため、コード内容が既にレガシー化している・欠陥がある状態の場合には適していません。
リドキュメント【ソフトウェアサイド:コスト小~中】
リドキュメントとは、ITシステムの基本仕様や構築方法などの情報を関係者から収集してドキュメント化する方法です。直接システムに手を加えるわけではありませんが、既存システムのノウハウを社内で共有したいときに有効です。
ドキュメントの内容を共有することによって、特定のメンバーのみがシステムの概要・操作方法を把握しているという事態を防げる点がメリットになります。
既存システムに手を加えないため、レガシー化のリスクは残ったままになる点がデメリットです。
モダナイゼーションを実施する手順
モダナイゼーションを実施するためには、以下の手順で進める必要があります。
対象・スコープ・予算を決める
はじめに社内のIT資産を可視化し、システムの現状を把握します。IT資産をリストアップし、資産ごとにどのような業務で利用しているのかや、構築場所(オンプレミス・クラウド)などをリストに記入しましょう。
システムの現状を把握できたら、業務への影響度を考慮し、システムの中で「変えられる部分」と「変えられない部分」に機能を分けます。その上で「どこを変えるべきなのか」「どの部分を優先して変えるべきなのか」を検討しましょう。
変えるべき部分が明確になったら、課題の大きさに応じて予算・適応範囲を決めていきます。
どの手法でシステム移行するかを選択する
次に、どの手法でシステム構築を行うかを選択します。
モダナイゼーションを進める手法は様々であり、それぞれにメリット・デメリットがあります。また、リプレイスを行う場合は、どのシステムに置き換えるかどうかも検討する必要があるでしょう。パッケージを導入するのか、オンプレミスで構築するのかでも、移行の流れは大きく変わります。
前述した5つの手法から1つだけ手法を選ぶよりは、それぞれを組み合わせながらモダナイゼーションを行うことが少なくありません。自社のシステムの規模や課題、予算などを考慮した上で、適切な手法を選ぶようにしましょう。
移行計画を立てる
次に、システムの移行計画を具体的に立てます。
選んだ手法によって、対象システムすべての刷新を同時に行うのか、スモールスタートで段階的に行うかが変わってきます。いつまでにモダナイゼーションを完了させたいのか、ゴールを見据えたうえで、どのタイミングで何をすべきか明確にすることが重要です。
このとき、旧システムから新システムへの移行期間も設定しましょう。移行中、業務にどのような影響があるのか、影響に対してどのように対処するのかも具体的に決めておきます。例えば、一括でシステム移行を行う場合、移行期間中はシステムを一時的に停止する期間が必要になります。システムを停止できない場合は、旧システムと現行システムを並行運用する方法もあります。自社で無理なく進められる方法を選ぶことが非常に大切です。
必要な人員を決める
各工程の作業量や内容に応じて、必要な人数と、どのようなスキルを持った人が適任なのか等を決めます。予算と合わせて考えなければならないため、場合によってはスケジュールの調整や、予算自体の調整を行う必要も出てくるでしょう。
必要な人員が明確になったら、実際にメンバーをアサインしていきます。
計画を実行する
最後に立案した計画を実行します。新システムへ移行した後は、他の社内システムに不具合が出ていないかを確認します。
新しいシステムと既存システムを連携する際は、必ず単独で動作確認を実施した後に連携します。単独で動作確認をしておかないと、連携が上手くできなかった際に、どちらのシステムに原因があるのかを把握しづらくなるためです。
新しいシステムへの移行が完了したら、旧システムを凍結する流れになります。
モダナイゼーションを成功させるポイント
最後に、モダナイゼーションを成功させるポイントについて解説します。
業務の見直しを実施する
モダナイゼーションを成功させるためには、業務の見直しも並行して実施することがポイントです。従来の業務フローを見直してムダを削減することで業務の効率化ができ、同時にシステムの最適化が図れます。
また、既存業務にシステムを合わせるのではなく、システムに合わせて業務を変えていくという方法も1つの手です。例えば、パッケージシステムに自社の業務を合わせれば、自ずと業務が標準化されます。ただし、これまでの業務のやり方を変更することは、現場にとっても大きな影響があります。モダナイゼーションによって実現したいことや解決したい課題と合わせて、どの方法を取るのかを検討することが重要です。
業務を行うフロントサイドに対してヒアリングを行う
業務を行うフロントサイドに対して、ヒアリングを行うこともポイントです。
実際に業務を行う現場の人たちの意見を吸い上げることによって、実用的なシステム設計と現実的な移行計画の立案ができるようになります。 現場にとって不要な機能ばかりをモダナイゼーションしていても、コストばかりがかかってしまい効果的ではありません。現行システムの課題を洗い出すフェーズでは、現場のメンバーにも参加してもらうことが、モダナイゼーションの成功には欠かせないでしょう。
無理のない計画を立てる
モダナイゼーションを実施する上で、無理のない計画を立てることも大切なポイントです。モダナイゼーションを早急に成功させたいがために無茶な計画を立てると、担当社員に負担が掛かったり、想定よりもコストが増加したりします。結果的に途中で頓挫する可能性が高まるのです。
社内のリソース状況を見て、バッファを持たせたスケジュールを立てたり、リホストなどで段階的に刷新を進めたりと、無理のない計画を立てて着実に実行するようにしましょう。
まとめ
モダナイゼーションを実施するためには、まずは自社のシステムの課題を可視化し、課題解決に有効な手段を選ぶ必要があります。そのためには、業務に合わせたシステムを構築する方法のほか、システムに合わせて業務を変えていくという方法も検討するといいでしょう。あらかじめ業務が標準化されたパッケージシステムなら、煩雑化した業務フローを最適化できます。
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また、モダナイゼーションを成功させるためには、現場社員へのヒアリングを念入りに行い、無理のない計画を立てることもポイントです。
モダナイゼーションは、業務を効率化するだけでなく、インフラやソフトウェア保守などのコスト削減効果も期待できます。本記事で紹介したモダナイゼーションの手法や実施手順をぜひ参考にしてみてください。