実現すればIPO促進効果も 「日本版JOBS法」構想の行方

2013/2/28公開

ここ数年低迷が続いてきた新規上場(IPO)市場がようやく復調の兆しを見せ始めているが、2000年の203社、2005年の160社、2006年の188社など、新規上場社数が200社前後あった頃を思えば、まだ物足りないと感じる関係者は多いことだろう。

もちろん、新規上場社数は株価や景気・企業業績動向に大きく左右されるが、それと同時に、上場を巡る制度面が与える影響も決して無視できない。

特に平成20年4月1日以後開始事業年度から財務報告に係る内部統制報告制度がスタートして以降、上場コストへの負担感が、ベンチャー企業家達の上場マインドを冷やしてきた感は否めない。

こうした中、上場のハードルを大幅に引下げ、新規上場社数の増加につながる可能性のあるアイデアが政府内にある。それが"日本版JOBS法"構想だ。

内部統制監査報告を一定期間免除

JOBS法とは、米国の新興成長企業起業促進法(Jumpstart Our Business Startups Act)の略称であり、米国では、2002年のSOX法の導入に伴う内部統制コスト負担増加をきっかけにIPOが減少したことを受けて導入が検討され、昨年(2012年)4月から施行されている。

具体的には、年間総売上10億ドル未満の新興成長企業が資本市場に参入しやすくするよう、内部統制監査報告書の提出免除、発行開示義務の緩和(提供を求める監査済み財務諸表を「直近5年間分⇒直近2年間分」に)、継続開示義務の緩和(事業年度末時点において、1,000万ドルを超える資産保有者について、株主が2000人(従来は500人)に至るまで継続開示義務の対象外)、年間総額5,000万ドル未満の募集の登録免除などが実施されている。

一般メディアではほとんど報じられていないが、実はこの米国JOBS法を参考にした"日本版JOBS法構想"が日本政府内にも存在している。

"日本版JOBS法"構想の最大のポイントは証券規制の緩和だ。

まず注目されるのが、内部統制監査報告書の提出義務を一定期間免除する案。

内部統制監査は新興上場企業にとって大きな負担となり、米国と同様我が国においても新規上場企業数減少の一因となってきたと言われるだけに、もしこれが実現すれば、上場を目指す企業にとっては大きなインパクトがある。

また、有価証券の募集・売出しに関する規制緩和も盛り込まれている。

これは、現行制度上、有価証券の募集・売出しの際に提出が求められる有価証券届出書には「直近5年間分の財務諸表及び主要な経営指標等」を記載しなければならないところ、これを「直近2年間分」に短縮するというもの。実現すれば、上場準備期間の大幅圧縮が可能になるはずだ。

さらに、有価証券の募集・売出しの際に少額募集として簡易な様式による届出が認められる要件も、現行の「売出し価額の総額が5億円未満の場合」から「50億円未満」へと緩和する案もある。

このほか、上場前の引受幹事によるアナリストレポートの公表・配布や、有価証券が適格機関投資家及び特定投資家に販売される場合における一般的勧誘・広告は「有価証券の募集・売出し」には該当しないこととする案、現在禁止されている証券アナリストと上場を目指す企業・新規上場に関する投資銀行との接触を解禁する案も出ているようだ。

証券規制の緩和以外では、有価証券報告書等の重要な事項について虚偽記載等があった場合に書類の提出者(通常は社長)が有価証券の取得者(募集・売出しによらず有価証券を取得した者)に対して負うこととなっている無過失損害賠償責任を「過失責任」へと軽減する案、また、インサイダー取引をはじめとする課徴金の対象となる事件の調査過程において、自己負罪拒否特権および顧客秘匿特権を法律上認める(現行制度上は調査の過程で検査官の質問を拒めば罰金が科されるほか、資料の提出を拒否することもできない)案が浮上している。

注目される自民党政権の対応

もっとも、"日本版JOBS法"構想は、民主党政権時代に"事業仕分け"で有名になった「行政刷新会議」の中で検討が始まったものであり、自民党政権誕生に伴い行政刷新会議自体が廃止された今、同構想がそのまま立ち消えになることも懸念される。

民主党政権下では、「行政刷新会議」の中の「規制・制度改革委員会」に設置された「経済活性化ワーキンググループ」が"日本版JOBS法"構想を担当しており、同ワーキンググループは民主党政権末期の昨年10月下旬から数回の会合を重ねたうえで、1か月後の11月26日には"日本版JOBS法"構想を含む「経済活性化のための緊急提言」をとりまとめている。その内容は、同日に政府が閣議決定した経済対策「日本再生加速プログラム」の中にも盛り込まれており、一応「政府としての合意事項」ということにはなっている。

  1. 経済活性化のための緊急提言(2ページ「証券市場の活性化」参照)
  2. 日本再生加速プログラム(13ページの「証券市場の活性化」参照)

問題はこれを自民党政権が引き継ぐかどうかだ。この点、自民党の政権公約には「不断の規制改革」「アジアNo.1の金融・資本市場の構築」「ベンチャー事業等の創造・活路支援」などが盛り込まれており(2013年02月28日時点)、これらの公約実現の一環として"日本版JOBS法"の議論が進む可能性は十分にあると言ってよいだろう。(自民党政権公約6、7、9ページ参照)

IPO市場の本格回復に向け、自民党政権が"日本版JOBS法"構想実現に本気で取り組んでくれることを大いに期待したい。

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この記事の筆者

株式会社上場ドットコム 代表取締役

原田 清吾

法学修士(筑波大学)、経営学修士(英国リバプール大学)。法律系雑誌の記者を経て、2006年、株式会社上場ドットコムを設立。事業のさらなる飛躍のためにIPO(株式公開)を選択肢として考えはじめたベンチャー経営者からIPO実務の担当者までを対象に、IPOに関する実務情報を無料で提供している。2007年に設立された日本IPO実務検定協会の理事を兼任。著書に「企業法学」(商事法務研究会 共著)、「担当者別株式公開マニュアル」(同友館 共著)、「IPO実務検定公式テキスト」(中央経済社 共著)がある。論文「インセンティブ型報酬制度拡充の必要性と課税上の問題点」で日税研究賞受賞。

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