【特別対談 エクス抱社長×オロ藤崎常務】成長の裏に"方針転換"あり パッケージベンダー2社が語る「急成長のきっかけ」
オロは受託開発のノウハウを、エクスは前職での経験をパッケージ化
── 最初はプロダクトの立ち上げ期について伺います。オロがZACをパッケージ製品として販売していくと決めたのは何年頃ですか。
藤崎: 2006年頃です。初めはパッケージ開発をすることは一切考えていませんでした。1999年の創業から7~8年間はずっと受託開発を手がけており、どのような業種のお客様からでも仕事をご発注いただいていました。
── 一方のエクス様は創業が1994年で、1年後には「電脳工場 for Windows」(現・Factory-ONE 電脳工場)のVer.1を販売開始しています。最初からパッケージ開発を決めていたのですか。
抱様: そうですね。私は前職で大企業向けの生産管理システムの開発に関わっていたのですが、製造業の企業数でいうと、99.7%は中小企業です。
当時非常に高額だった生産管理システムを数多くの中小企業に何とかして広めたいと考えたときに、2つの転機がありました。1つは「クライアントサーバ」の登場で、つまりハードにお金をかけずに処理能力を増やせる仕組みが世に出てきたこと。もう1つが「パッケージ」で、今後はフルスクラッチではなく業務そのものをパッケージ標準に合わせていく風潮が出てきたことです。「1億円を出して80%の満足を得るよりも、2,000万円で65%の満足を得て、残りの35%は業務そのものを変えていこう」という概念が生まれてきました。
そこから99.7%の市場に見合うパッケージ製品を作ろうと心に決め、会社を作る前も含めて最初の1年間は開発のみ行っていましたから、その間は売上ゼロでした。
── 実際に売れるまでは大変でしたか。また、どのくらいまでは売上が立たなくても頑張ろうと考えていましたか。
抱様: 1994年の初めから1年かけて開発する想定で、キャッシュフロー上は私の持ち出しも含めて1995年3月までは頑張れる計画でした。
予定通り1995年1月8日にプレスリリースを出して、注文の引合も来まして。そこまでは予定通りだったのですが、その1週間後に阪神大震災が起きました。社員も被災するし、いただいた注文は全部キャンセルになるし、この時ばかりは私には起業という天命はないのかなとさえ思いました。
── パッケージ開発をゼロから行う場合、そもそも「パッケージが解決する課題をお客様・市場が持っているか」が一番不安なポイントだと思います。そこはどのように乗り越えましたか。
抱様: 私も創業メンバーも前職で生産管理に携わっていましたので、その当時から「こういうものがあるといいよね」「中小企業だとここまでは無理だよね」と話をしていました。肌感覚で掴んでいた市場ニーズを形にしたものこそが「Factory-ONE 電脳工場」だったのです。
一般にパッケージ開発とは、特定の企業向けに一度つくったものを汎用的に改造し、パッケージとして再販するのが低コストで王道のパターンです。しかし私たちは99.7%の製造業全体を相手にするのに、どこかの企業の特色が残った製品では難しいと思ったので、最初から自分たちが理想とする「工場の理想像」に必要なシステムをゼロベースでコンパクトに作りました。
── 一方、オロは受託開発をずっと請け負っていたと。
藤崎: はい。どの業種の案件でも断らずに作り続けていた中でも、特にイベント業・広告業のお客様から多くの引合がありました。作ってはまたゼロから作り直すことを2~3回繰り返すうちに、比較的よさそうな業種特化のシステムができたので、納入先の社長様に「パッケージとして販売したい」と率直にお願いしました。そのときは市場があるかを考えたわけでは全くなく、快く承諾して頂けたので販売を開始した、というのがZAC誕生の経緯です。「受託開発で貯めたノウハウ」を製品にしたので、パッケージ開発のための研究開発は一切せずに売り出しました。
抱様: まさに対照的な成り立ちですね。
「専任営業マン」を採用してから軌道に乗ったZAC
── ZACの成長期はどのタイミングで来ましたか。
藤崎: 少し軌道に乗り始めてきたのは専任の営業マンを置いてからです。初めはお客様からの案件紹介に頼っており、年に1~2本しか売れていませんでした。営業マンもいなかったですし、マーケティングも全く行っていません。しかし専任の営業マンが1人増え、2人増え、営業のノウハウが徐々に蓄積されていく中で、年間5~10件の受注が出来るようになりました。
また当初は市場ニーズを何も分からないまま販売開始したものの、受託開発を7~8年続けてきた経験から「パラメータ設計」を考えていました。つまり、受託開発のように過去作ったような機能をお客様ごとに毎回ゼロから作り直すのではなく、要望を受けてカスタマイズ開発した機能を汎用化・部品化してパラメータにし、他のお客様にも提供することを目指しました。当時は研究開発費をとって新機能をつくる資金的余裕もなかったことも背景にあります。この設計は受注が伸びてきてから功を奏しました。
── 成長期と部門ができていく時期は同時期でしたか。
藤崎: 組織づくりは成長期よりずっと後です。成長期は全員プレイングマネージャーで、マネジメント専任の者は誰もいませんでしたし、私自身も開発と導入支援の両方を担当していました。
── その後、部門が設立されてくると「各部門のマネジメント」が重要になると思います。どのような管理を行っていましたか。
藤崎: 弊社の特徴は「KPI管理」です。受託開発で様々な基幹業務システムを開発しながら、結果的に多様な管理会計の仕組み・KPIに触れさせていただきました。その経験から私が良いと感じた「1時間あたりの営業利益(時間あたり利益)」というKPIを最重視しており、今でもこれを軸に各機能組織を管理しています。
── 時間あたり利益は各部門のマネージャーに提示するのですか。
藤崎: グループ長レベルのマネージャーには提示して議論します。よくある活用ケースは、各部門から「人手不足なので採用したい」と言われたときです。もし部門の時間当たり利益が赤字であれば、まずは今いる人員で工夫するよう伝えていますし、一方で黒字がしっかり担保されていれば自由な採用を認めています。
こうした管理の前提として、弊社の積算部門が営業部門・開発部門のどちらからも独立しているのがポイントです。「積算部門は営業とも開発とも利害関係がないので、そこで行われる値付けは絶対的に正しい。ゆえに利益創出は各部門の責任だ」というロジックで組織を束ねています。
「経営方針の変更」により、会社もパッケージ製品も急成長
── エクス様は当初4名で創業されていますが、部門ができてきたのはいつ頃ですか。
抱様: 5~6年目ですね。ちょうどパートナー企業が自社製品より先に「Factory-ONE 電脳工場」を提案してくれるようになった頃です。
当初はコストリーダーシップ戦略を採り、「センセーショナルな値段では足りない、エキセントリックな値段でどこよりも安く提供する」と決めていました。ライバル会社のパッケージ本体が1,000万円を切ったと話題になったときに「半額だとセンセーショナル止まりだが、4分の1ならエキセントリックだろう」と読み、250万円で売り出したのです。これならウケると思ったら、安すぎてパチモンだと言われる始末で(笑)。
そんなこともありましたが、おかげ様で名前が知れてきて。最初は直販でしたが、代理店の案件でも受注実績が増えるにつれて、様々なパートナー企業が担いでくれました。
その頃に組織づくりを始めて、営業・開発・SI・研究開発の分業体制を整えました。倍々ゲームで業績が伸びていく中で全く人手は足りない状態でしたが、当初は小集団高収益企業をコンセプトに、あえて会社を大きくしない経営をしていました。関西だけで30人ぐらいで仕事して、得られた利益はほぼ全て分配する"面白い企業"にしようと思っていたためです。
成長期はユーザーが200〜300社ぐらいの頃で、ちょうど会社に求められるものが変わってきたタイミングです。面白い企業もいいけれど、人数を増やして体系立った製品開発をやってほしいとか、関西以外からの引合にも断らず対応して欲しいとか、むしろそうでないと困ると言われるようになりました。 ユーザーのニーズに答えるべきか、初志を貫徹し小集団高収益でやっていくべきかを当時20人くらいの社員に聞いたら、「製品やサービスには自信はあるし、お客様のニーズに応えることの必要性は社長がいつも言っていることだ」と答えてくれまして。
そこから方針を変え、数年で全国規模に展開すべく一気に4億ほど増資をして、広島・名古屋・東京・福岡に支社を置き、沖縄と大阪に子会社を作るまでを2年で行いました。本当の意味で社会に応えていくと経営方針を変えたときに、急拡大期がやってきたわけです。
顧客感動の追求を掲げ、業界初の「ソースコード公開」を決断
── お客様の要望に応えることが一番だったと。
抱様: そうです。顧客満足という当たり前の先にある「顧客感動」を今でも追求しています。 100円で頼まれて100円分の価値を納めたら、もちろん顧客は満足する。それを例えばオフショア拠点を使って95円でやります、と言ってしまうとコモディティ化に巻き込まれます。しかし私たちは、100円で頼まれたら110円分の価値を納めていくのです。上乗せした10円分の価値には顧客満足を超えた顧客感動が詰まっていて、長期的に見たらこれがロイヤリティ向上に繋がると考えています。当社は生産管理に特化してきたので、ユーザーの声に応えていけば、自然とユーザーが知らないことを気付かせられると思っていました。
関連して「Factory-ONE 電脳工場」が伸びた要因のひとつは「オープンソース」だと思います。業界唯一のソースコードの公開に踏み切ったのですが、これは小さな会社に生産管理というコア業務を預けるのが不安というお客様に担保としてソースコードを公開したのが始まりです。 重要なのは「ゼロベース開発」と当社が呼んでいる部分でして、ソースコードを公開したところ、気のいいお客様が「自分たちでこんな機能を作りました」と見せてくれるんです。それがまた良い機能なのですが、「製品に組み込んでいいですか?」と聞くと快諾してくれるので、テストだけしっかり通ったら実際に機能として加えます。 そうすると、お金も掛けずに機能強化が実現して、ノウハウも吸収できて、なおかつ「僕も一緒にパッケージを作っている」と感じたお客様のロイヤリティが高まるのです。
もちろんソースコードの公開は社内のSEと論争になりました。しかし私は、顧客感動を生み出すことこそが大事で、ソースコードに価値があるなんて全く思わないのです。パクられたらパクられたでいい、しかし他所の会社にはプラスの10円分の価値を積むだけのノウハウはない。だからソースをパクられても何も怖くない、と考えていました。
── ZACのソースコード公開を考えたことはありますか。
藤崎: お客様から言われることはありますが、考えたことはないですね。不具合が起きた際の原因の切り分けや責任の所在が不明確になるのを避けるためです。ただ最近は色々なシステムとの連携ニーズが一気に増えていますので、APIはどんどん公開しています。
研究開発投資をどのように考えるべきか?
── 今後の課題・取り組みについて伺います。マーケティング活動や研究開発にどれだけの資金を投下すべきでしょうか。
藤崎: 弊社は売上高に対する一定の割合を研究開発費の上限と決めています。弊社の代表が堅実なタイプなので「赤字覚悟でもいいから作る」ことは避けて、利益をしっかり残した上で研究開発を進めています。
── オロは利益を確保しつつ、余裕の部分で投資をするという考え方ですが、エクス様はどのような考え方でしょうか。
抱様: 私たちは気合ですね。赤字は何年で回収できるのか、など販売計画は求めるのですが、会社の利益がマイナスにならない限りはギリギリまで行けと平気で言います。研究というのは製品開発以外にも、技術習得であったり、モチベーションの向上であったり、意識改革だったりと、「見えない価値」も付随して生まれるのが良いのです。
たとえば当社では「ダーウィン」といって小さなプロジェクトをたくさんやらせて、事業化できそうなものに2次投資をしています。社内でビジネスコンテストやったり、IoTやAIだったり、ドローンを飛ばしたり、ちょっとした遊び感覚で小さく始めたことに、ベトナムのオフショアを使ってプロトタイプをリリースして、それが10個集まったら適者生存で残るものに2次投資をする。100万くらいで始められそうで面白そうなものは出来るだけ数やって、その代わり見切りも早くつけています。
またダーウィンでは意見を常に部下に求めるのもポイントです。やりたいテーマの知見を深めるために、対外的な接触を強く求めます。セミナーへの参加はもちろん、勉強会の主催やエバンジェリストとしての情報発信、本の執筆などもすべて仕事にしたらいいと考えています。そうして対外的な接点をたくさん作ってもらうことで、社会にニーズを求めて、新しい視点を獲得し、生産管理や製造関係で我々なりのクロステックを生み出そうとしています。
退職者のカムバック制度で「働くこと自体」の改革を目指すエクス
── オロはエクス様の取り組みに対してどういった印象をお持ちですか。
藤崎: 弊社は新規事業コンテストのような形で社員がトライできる環境を用意しています。2018年は、社員も会社も出資する新設子会社で新規事業に挑戦し、もし新会社が大きくなったら新規事業担当者が資産を得られる仕組みをつくりました。背景には、社内で新規事業をやるのではなく起業して辞めていく社員の流出を食い止める目的もあります。
抱様: それに関して言うと、当社はIT業界で例の少ない退職者のカムバック制度があり、平たく言うと出戻りOKにしています。自分で会社をやってみたいとか、他のパッケージを売ってみたいとか、パティシエになってみたいとか、何でもよいのですが「あの時やったらよかった」「あの時勝負すればよかった」と過去を後悔することのないよう、常に思い切って勝負してもらうための制度です。
私は企業の中にエンジニアや営業を閉じ込めておくよりも、出入りをしていくことで人としての企業ブランド形成にもなっていくと考えています。これからは間違いなくフリーランスの時代。本当に優秀な人がフリーランスになって多目的に動くようになると、当社もフリーランスを活用してリソースを最適化しながら、一番良い人と技術を持ってきて一番最適な工数で一番いいシステムを作れます。
そうしたことにポジティブになれるよう、まずはカムバック制度やダーウィンで社内の体制を作ろうとしています。この取り組みを通じて、働くこと自体を改革し、社員一人ひとりの能力をより引き出して結果的に生産性向上を実現したいと考えています。
──オロでは働き方改革・生産性向上に向けてどのような取り組みを行っていますか。
藤崎: 弊社にも出戻りの社員はおりますし、2018年から副業もOKになっていますが、それには「自社員の給料が市場価値と同じであること」が非常に重要な前提だと考えています。副業含めて社外でチャレンジした人に市場価値と同等の給料を払えることが、挑戦の後押しと人材の確保を両立させられる条件だと思うので、そのためにも生産性を高めて同業他社の給与体系以上にしていこうと取り組んでいます。
生産性向上のためには、先ほど紹介した「時間当たり利益」を活用しています。このKPIではいかに労働時間を減らすかを考えざるを得ないので、KPIを高めていけば自動的に労働時間削減と生産性向上は両立できると考えています。
「時間当たり利益」によるKPI管理で生産性向上と働き方改革を両立
── 時間当たり利益は、具体的にはどのように活用していますか。
藤崎: 時間当たり利益は四半期ごと・部門ごとのモニタリングで活用しています。しかし時間当たり利益だけだと詳細な要因分析ができないので、ZACから出力した数字を様々に組み合わせた帳票を見ながら、各部門の生産性向上のドライバーを探っています。
例えば営業部門は受注に責任を負っているので、マーケティングチームが獲得した見込み顧客数から計算した受注確率を社員別で取ったり、チャネル別の受注確率を見たりと、あらゆる角度で受注確率を分析します。直近1年間の数値を常に更新しながら、各営業チームの受注確率をしっかり管理することで、急速に数値が落ち込んでいるチームがあれば原因の早期発見と対策が打てるようにしています。他にも受注確率別の引合案件数や、営業担当者の訪問件数もモニタリングしています。
もう一つの例として、保守部門では問い合わせ件数やクライアント別の保守対応にかかった時間をチェックしています。どのクライアントに何時間対応したかをモニタリングし、異常に保守対応が長引いているクライアントについては何がトラブルになっているかを確認しています。
抱様: モニタリングする項目が非常に多いですが、この帳票は毎日チェックしているのですか。
藤崎: 日次で確認するものもありますが、週次や月次、四半期単位のものもあります。
──データの更新はいつ行っていますか。
藤崎: 日次で確認しているものや、ZAC上の数字が前日と比べて大きく変わっている場合は原因分析のためにデータを洗い替えています。
私はあえて手作業で洗い替えて、どの数字が何に影響するのかを肌感覚で掴むようにしています。しかし最近では他社製のツールで帳票作成やデータ更新を自動化しているお客様が非常に増えていて、弊社からもご提案する機会が多いです。
抱様: こうした細かな管理は、始めた当初は社員の方から抵抗があったと思います。でも、これだけこまめにメンテナンスして管理しているなら公平感に繋がるし、マネージャーにとっても見るべきポイントが分かりやすく、重宝しているだろうと感じました。
──本日はありがとうございました。
KPIマネジメントを実現するならZAC
「時間当たり利益」や「プロジェクト別の営業利益率」など、ZACなら生産性を様々な角度から見える化できます。システム開発業・広告業・コンサルティング業など受託請負型サービス業に特化しており、販売・購買・工数・経費などの業務データをプロジェクトごとに集約。日々入力されるデータは瞬時にプロジェクト損益への反映され、部門別・担当者別・クライアント別などの集計も行えるため、タイムリーなデータに基づく経営判断を支援します。
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生産管理の見える化を実現するならFactory-ONE 電脳工場
製造業における生産計画、進捗、原価管理はもちろん、受発注や在庫、債権・債務管理まで、工場経営に必要な情報を一元管理し、見える化を実現するのがFactory-ONE 電脳工場です。さまざまな業種、繰り返し生産や一品個別生産といった業態に対応しています。また、クラウド型EDIサービス『EXtelligence EDIFAS』と連携することで、得意先・仕入先を含めたサプライチェーンマネジメントが可能となり、更なる生産性向上を図ることができます。
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