会計のプロが語るIFRSの本質とは?第3回~IFRSと株主構成~

2011/11/24公開

 前回のコラムでは、「IFRS導入とその目的意識」と題し、IFRSの大きな特徴である原則主義から、IFRSを導入するうえで持つべき意識について解説いたしました。
 今回のコラムでは、「IFRSと株主構成」と題し、IFRS導入と投資家との関係性について解説いたします。
 導入にかかる労力や難しさばかりが取り沙汰されがちなIFRSですが、IFRSを導入することにより、株主政策の面において企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

IFRS導入により効果的な安定株主政策が実現

 IFRSには、長期投資家向けの情報提供という目的が内在しています。IFRSの二本の柱のうちの一つである「原則主義」の背後にある、マネジメントの姿勢を示すという要請は、そのことを示します。そして、原則主義は、数値そのものに捉われた規則主義とは、対照的な存在となります。

 一株当たりの利益の比較で、株の売買を行う、あるいは、経常利益率の趨勢を見ながら、株の売買を行うような投資家にとっては、数値は全企業共通の方法で算出される必要があります。そのため、規則主義では、膨大な実務指針、Q&Aの類が必要となります。「会計監査六法」の厚さ、大きさを見れば、一目瞭然です。このような投資家は、株価、会計数値の変動で、短期的な売買を行い、長期安定株主にはなりえません。

 これに対して、原則主義では、利益そのものよりも、利益を生み出す源を知りたいという投資家の目線が反映されています。そのため、経営そのものの情報が必要となるのです。そして、利益を生み出す源を反映するのが、経営の成果としての企業価値です。このため、キャッシュフローが重視されます。ただし、一般的には、キャッシュフロー重視という表現ではなく、BS重視という表現に置き換わっています。この言葉が、IFRSの二本目の柱で、やはり、長期投資家向けの情報です。

 このような投資家は、長期的に株式を保有し、株価の変動を睨みながら売買するようなことはしません。魅力のある経営が続く限り、企業価値の増大が期待できますので、株式を保有し続け、必要に応じて、経営に物申すという姿勢をとります。

 したがって、IFRSの要請に応える開示を行えば、長期投資家の割合が増えるということになります。安定株主政策としては、この上ないことです。これまでの我が国においては、安定株主政策と言えば、企業間の持ち合い、取引金融機関による保有等が、主たる方法でしたが、金融機関による保有株式の放出など、その状況には大きな変化の波が押し寄せており、各企業は、株主構成の見直しが求められています。

IFRS導入にはIRの観点を

 これまで、長期投資家による株式保有の促進ということは、あまり考慮されませんでした。
 しかし、IFRSの時代には、長期投資家にとって、魅力ある企業にならなければなりません。IR活動の必要性が一層高まるというのは、従来眼を向けなかった長期投資家へ向き合わねばならないからです。そうなると、IFRSの導入過程においても、IR目線を織り込む方がよい、と考えるのは当然でしょう。しかし、残念ながら現状において、このような考えの基、導入準備が行われているところは、ほとんどないようです。

 その上、IFRSによる情報を必要とする長期投資家は、日本国内にどの程度存在するのかという問題もあります。主な長期投資家は、海外に存在します。日本においても、企業での導入準備も重要なことですが、長期投資家を育成していくことも大きな課題ではないでしょうか。

INDEX : IFRSアドバイザリーが語る、IFRS導入ポイントと最新ニュース解説

この記事の筆者

監査法人A&Aパートナーズ パートナー 公認会計士

進藤 直滋

1948年、新潟県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、1975年に監査法人中央会計事務所に入所。1990年から1992年までロサンゼルス事務所に駐在。その間、同法人の日系ビジネス北米統括担当。帰国後は監査業務と法人部門管理業務を兼務。2007年に監査法人A&Aパートナーズの代表社員に就任。公認会計士。主な著書に『明解連結会計』(TAC出版社)、『退職給付会計実務のすべて』(日本経済新聞社)。

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