経営計画の実現性とは?
今回は経営計画の現実性とは?について説明します。
実現性の高い経営計画
上場企業が公表する業績予想の根底となる経営計画には、一般的に3年スパンで策定する「中期経営計画」と、1年スパンで策定する「年度予算」があります。ここでは、中期経営計画および年度予算の総称として、「経営計画」と呼ぶこととします。
経営計画の実現性評価とは、損益計算書や貸借対照表を主とした財務目標を達成するために、経営計画に盛り込まれている戦略や戦術に妥当性があるか、達成可能性は十分か、現実的にはどの程度の達成レベルになりそうかを評価することです。
実現性の高い経営計画は、次のような特徴があります。
- 理念、ビジョン、戦略に基づいた具体的な計画となっている。全社計画が部門計画から社員一人一人の具体的な活動計画にまで落とし込まれている。
- 具体的な活動計画に落とし込まれているとともに、その目標レベルが明示されている。さらに責任者やスケジュール、期限が明確である。
- 計画の前提条件としてフレームワークに基づいた分析がなされている。事業リスク分析とその対策案も講じられている。
- 市場規模や成長率の見方・捉え方に慎重である。積算の前提条件は算定根拠をしっかりと持ち現実を踏まえている。
このように目標水準の算定に現実味がある計画の場合は、目標を達成できる可能性が高いと思います。
実現性の低い経営計画はこの逆で、目標が不明確で施策とリンクしておらず、誰が何をどのように、いつまでに実行するか具体的な活動計画に落とし込まれておらず、計画の前提となる外部要因の見方が楽観的で事業リスクを踏まえておらず、算定根拠がない計画です。
また、しっかり策定していても、そもそも実行できるレベルに落とし込まれていない計画であったならば、おそらく実行できないと考えるべきです。
この観点から、コーポレート部門は、M&Aのデューデリジェンス(資産査定)と同様、客観的な見地から各部門の事業計画、会社全体の経営計画を評価し、経営陣や事業責任者と膝を突き合わせて実現可能性を話し合い続ける必要があります。
「中庸」の教え
その際に注意しなければならないのは、経営計画の蓋然性を高めるために、単純に目標値を下げるやり方です。ここはコーポレート部門の腕の見せ所ですが、現実的なラインを見せて終わりにするのではなく、いかに策を練って当初目標にまで積み上げさせるかが重要です。
パナソニック創業者の松下幸之助さんは、「人と比較をして劣っているといっても、決して恥ずることではない。けれども、去年の自分と今年の自分とを比較して、もしも今年が劣っているとしたら、それこそ恥ずべきことである」と言っています。法人も個人と同様で、特に上場企業としては、少なくとも前期比でそれなりの成長が求められてしかるべきです。
そこで、実際の場面では、実現性の低い施策についても、いくつかチャレンジ目標として計画に入れ込むことになります。
重要なのは、何が実現性が高く、何が低いのかをきちんと理解した上で計画を策定することです。無理はしても無茶をしてはいけない、それを念頭の上で、落としどころを決めるのが最もベターな経営計画になるものと思います。
その際には、計画を2パターンないしは3パターン策定しておくのが良いと思います。
実現性が低いものは省いたミニマム目標である「コミット予算」、実現性の低いものも入れたマックス目標である「ターゲット予算」、そしてその中庸目標の「ミディアム予算」を策定しておき、公表するのは「コミット予算」もしくは「ミディアム予算」、社内での目標管理は「ターゲット予算」で行うやり方をした時もありました。
コミット予算は超コンサバに、最悪のシナリオを想定し策定しておきました。最悪を想定しておけば、実行前段階で安心感が出てきますし、精神衛生上も良いものと思います。
栃木県足利市の足利学校に「宥座の器(ゆうざのき)」というものがあります。「宥座(ゆうざ)」とは、常に身近に置いて戒めとするという意味で、孔子の説いた「中庸」ということを教えるものです。
壺状の器に水が入っておらず空の時は傾き、ちょうど良いときはまっすぐに立ち、水をいっぱいに入れるとひっくり返ってこぼれてしまいます。
『論語』で有名な孔子は、「いっぱいに満ちて覆らないものは無い」と慢心や無理を戒めました。
「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」
そして実行局面において重要なのは、実現性に応じた優先順位づけや軌道修正を行うことです。実行してみて予想外に伸びるもの、予想外に伸びないもの、想定外は必ず出てきます。その上で経営計画を達成するための効率的な経営資源配分を行う統制活動を実施していけば、計画の実現可能性は高まるものと考えます。
戦国時代のような古来の戦争における実際の戦闘は、地理的条件や気象条件といった先の読めない環境条件であることはもちろん、相対する敵はどう動いてくるかわからず、未来の予測が極めて立てにくい状況にありました。
そのような状況下、兵法書である孫子には「勢とは利に因りて権を制するものなり」といったものがあります。これは、その時々の状況に即して、臨機応変に動くことが「情勢に対処する」ことなのだという意味だそうです。
しかし、このような状況下において、事前の計画や予測が無用の長物なのかと言えば、そんなことはないと思います。前述のとおり「事前に起こりうる最悪の状況をしっかりと考えに考え抜いておき、その対処法も複数案準備しておく」ことはナポレオンも行っていた方法と言われています。
いくら先が読めない状況下にあるとは言え、起こりうる最悪の状況ならば事前に考え抜けるはずです。「備えあれば憂いなし」ではありませんが、その準備さえ万全に行っておけば、少なくとも不敗は維持できると思います。
ただし留意すべきは、人間というのは不思議なことに、計画と臨機応変のどちらかに偏り過ぎる面があります。「会社の数値を詳細に把握して、しっかりと経営計画を策定すれば外すことなんかないはずだ」という社長と「数値や計画なんてあてにならない。あくなき高みを目指するためには計画なんかに囚われるよりも経験から研ぎ澄まされた直感やセンスが重要だ」と言ってしまう社長の対比かもしれません。
確かに、戦いにおいては、情報の質によっても、そもそも計画できる部分とできない部分があります。計画できる部分は徹底して計画を詰めて、計画の立てられない部分に関しては臨機応変に対応することが成果をあげるカギになると言えます。
また、孫子の有名な格言に「彼を知り己を知れば百戦して殆うべからず」の中で、「彼」とは、目先の敵を含む周辺のライバル全てという意味であるらしく、第3の動きまで目配りしなければならないという意味合いと聞きました。
まず、自分自身の努力で維持・構築できる不敗の態勢を守っておき、敵や環境がチャンスを見せたら勝ちを目指すことです。不敗な態勢を築けるかどうかは自軍の努力次第によるが、勝機を見出せるかどうかは敵の態勢如何にかかっています。不敗を守っておいて勝利を目指すという精神がやはり、いつの時代でも必要と言えます。
徳川家康も不敗を守って、敵と己を客観的に評価した上で、己よりも力がある信長から息子信康の切腹を命じられたり、秀吉から先祖伝来の三河から離れ江戸に転封を命じられたりという理不尽な要求にも従って傘下にいたからこそ、天下を獲得出来ました。
また、京セラ創業者の稲盛和夫さんも次のような言葉を残しています。
今回は経営計画の現実性とは?について説明します。
「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」ことが物事を成就させ、思いを現実に変えるのに必要なのです出典:『生き方』(サンマーク出版)
会社の中で中長期的な視野と短期的な視野を併せ持つ。また、楽観さと悲観さ、大胆さと慎重さを常に併せ持つ。これは、相反することでなかなか難しいことではありますが、これらを心掛けて仕事を進めていくことで成長しながらも、足元をすくわれず、危機管理能力を併せ持つことができるようになるのではないかと思います。
先の見えないビジネス社会において、そしてこの業績予想という極めて不確実性の高い事柄に対しては大いに考慮すべき考え方であると思います。そして外部環境に大きく影響されない強固な企業体を作り上げられるのではないかと考えます。