ERPとは何かイマイチわからない人向け【ERP超入門ガイド】
ERPとは? 150文字でわかりやすく解説
ERPとは、企業の持つ資源=「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を一か所に集めて管理し、有効活用するという考え方、またはそれを実現するためのシステムを指します。ERPは「Enterprise Resource Planning」の頭文字をとっており、直訳すると「企業資源計画」となります。
ERPが必要な理由
企業の持つ重要な資源「ヒト」「モノ」「カネ」を一つのシステムで一元管理することで、情報の正確さ・タイムリーさが担保され、それぞれバラバラのシステムを使うよりも企業全体の効率化が可能になります。
ここからは、さらに詳しくERPについて解説していきます。
ERPの由来
ERP(Enterprise Resource Planning)は「Material Requirements Planning」(資材所要量計画)という生産管理用語から派生しています。生産管理における資材を、企業全体におけるヒト・モノ・カネといった経営資源に拡大した考え方がERPの本来の意味です。
ERPと基幹システムの違い
ERPと基幹システムの違いは、ざっくり言うと「目的」と「最適化の範囲」です。
最適化の範囲 | 目的 | |
---|---|---|
ERP | 企業全体 | 全体の情報を一元化し、タイムリーな経営に活かす |
基幹システム | 各部門 | 販売管理、人事管理など、部門業務を効率化する |
ERPは企業全体の資源を一元管理し、経営に活かすことを目的としたシステムです。経営情報が一つのシステムに集まることで、経営戦略を練る上で重要な「情報の整合性」と「タイムリー性」を担保します。
対して、基幹システムとは各部門の業務を効率化するためのシステムのことを指し、
- 販売管理システム
- 在庫管理システム
- 人事システム
- 財務会計システム
といった形で、それぞれが独立したシステムとして提供されています。
「基幹システム」については下記の記事で詳しく解説しています。こちらも併せてご覧ください。
ERPの主な機能
- 人事・給与管理
- 販売管理
- 生産管理
- 購買管理
- 会計管理
- 営業管理
ERPには上記のような機能が統合されていることが多いのですが、ERPベンダーによって得意としている業種・業界や、会社規模が異なるため、製品によって機能にも差があります。
例えばシステム開発業・コンサル業・クリエイティブ業など、「ヒト」「モノ」「カネ」の中でも「ヒト」の管理が肝になるような業種に特化しているERPの場合、「プロジェクト管理」の機能が充実しているなどの違いがあります。
ERPの種類
サーバーをどこに置くか、オーダーメイドで1から作るかパッケージングされた製品か、など、ERPにもいくつかの種類があります。
ここからは、ERPの種類について解説していきます。
クラウドERP/オンプレミス型ERP
まず、ERPのシステムをどこに構築するかの違いで、「クラウド型」「オンプレミス型」に分かれます。
-
- クラウドERP
- インターネット上にシステムを構築し、ユーザーがそこにアクセスする
-
- オンプレミス型ERP
- 自社のサーバー上に構築して利用する
クラウドERPのメリット・デメリット
クラウドERPはその名の通りクラウド上にシステムを構築します。そのため、自社でサーバーを保持する必要がなく、初期費用・ランニングコスト共に削減できるというメリットがあります。
クラウドERPのデメリットとしては、自社の基幹業務の情報をクラウド上にアップロードするため、サーバーが外部から攻撃される可能性など、セキュリティ面での不安が挙げられます。
ERPベンダーを選ぶ際にはセキュリティ面で信頼できるかどうかを確認しましょう。
オンプレミス型ERPのメリット・デメリット
オンプレミスとは、企業が情報システムの設備を自社内に保有し、運用することを指します。英語では「on-premise」と表記され、この時の「premise」は構内・店内といったような意味を表しており、「on-premise」は直訳すると「敷地内に」という意味になります。
クラウド型のサービスやシステムが登場し普及するまではオンプレミス型ERPが主流だったという経緯もあり、今でも多くの企業がオンプレミス型のERPを使用しています。
オンプレミス型ERPの最大のメリットはカスタマイズのしやすさです。自社環境にシステムを構築するため、既存のシステムとの連携が容易であることが、オンプレミス型が選ばれている理由の1つです。
その反面、初期費用や導入コストが多くかかるというデメリットもあります。
現在導入しているシステムとの兼ね合いや、長期的に見たコストパフォーマンスまで考えて、クラウド型ERPとオンプレミス型ERP、どちらを選ぶのかを考える必要があります。
ERPパッケージ/フルスクラッチ型ERP
前述の通り、"どこに作るか"がクラウド型/オンプレミス型の違いですが、"どのように作るか"がパッケージ型のERP/フルスクラッチ型ERPの違いです。スーツに例えると、ERPパッケージは完成した状態で紳士服売り場に並んでいるプレタポルテ(既製服)のスーツ、フルスクラッチ型のERPは生地やボタン選びから始めるオーダーメイドのスーツ、といったところです。
-
- パッケージ型ERP
- 必要であろう機能があらかじめパッケージングされたERP
-
- フルスクラッチ型ERP
- ゼロからすべてを作る受託開発型のERP
ERPパッケージのメリット・デメリット
ERPパッケージのメリットは、導入までの期間とコストを抑えられることです。一般的に必要とされている機能があらかじめ備えられており、開発期間が短くて済むことや、オーダーメイドで機能を作らなくて良い分コストを抑えることができます。
反対に、パッケージになっていることで、自社の独自の慣習や業務に対応しきれない可能性があることがデメリットとして挙げられます。
フルスクラッチ型ERPのメリット・デメリット
フルスクラッチ型のERPのメリットは、自社に合わせてオーダメイドのシステムを構築できる点にあります。日本の企業には独自の慣習が多くあり、パッケージ型のソフトウェアでは対応できないことが多々ありますが、フルスクラッチ型であればそのような心配がありません。
一方、オーダーメイドで設計から行う分、開発期間と費用の面でパッケージ型よりも多くのコストがかかるデメリットがあります。
昨今では日本製のERPパッケージも多く登場しており、日本企業独自の商慣習にも対応できる製品が多数あります。また、業務そのものが本当に最適な方法であるのか、ERP導入の際に省みて業務をパッケージに合わせるという方法もあります。こちらは後述のERP導入のメリットの章で詳しく解説します。
統合型ERP/コンポーネント型ERP
どこまでの業務を一元管理するかといった範囲によっても、「統合型ERP」と「コンポーネント型ERP」の2種類に分類されます。
-
- 統合型ERP
- すべての基幹業務を一元的に管理するERP
-
- コンポーネント型ERP
- 必要な機能(コンポーネント)だけを組み合わせて利用できるERP
統合型ERPのメリット・デメリット
統合型ERPのメリットは、ひとつのシステムで経営に必要な業務をすべてカバーできる点です。部門を問わず、社内のデータを統合して管理するため、自社の経営状況がタイムリーに把握でき、経営判断に役立てられます。また、様々な角度からの分析も可能になるでしょう。
一方、搭載する機能が多い分、導入にかかる時間や費用は増加します。そのため、統合型ERPを導入する企業は、ある程度規模が大きい企業が多く、中小企業などには適さないケースもあります。
コンポーネント型ERPのメリット・デメリット
コンポーネント型ERPは、営業、受注、購買機能といった、自社に必要な業務システム(コンポーネント)のみを組み合わせて使用することができます。そのため、自社の状況や予算に合わせた導入が可能です。さらに、既存システムと組み合わせたり、自社の成長や必要性に合わせて随時コンポーネントを追加したりといった柔軟性も持ち合わせています。
ただし、コンポーネントを追加していく中でシステムが複雑化し、メンテナンスの負担が増えてしまうということが考えられます。また、一部の業務のみで機能を使用することにより、ERPの本来の目的であるデータの一元管理を実現できなくなる点もデメリットと言えるでしょう。
ERPのメリット・デメリット
情報の一元化が可能になり、無駄な業務の削減やタイムリーな経営判断が可能になるという点で、ERPを導入することで得られるメリットは、デメリットよりはるかに大きいと言えます。ただ、ERPは決して安価なものではなく、選定や導入の過程での負担は小さくはありません。
ここではERPを導入するメリットと、導入までの障壁=デメリットをまとめてお話しします。
ERPのメリット |
|
---|---|
ERPのデメリット |
|
ERPのメリット
情報の一元管理が可能に
ERPは、従来のシステムでは業務ごとに分断されていたマスターデータ(製品や取引先など)や取引データ(各種伝票など)を、"統合データベース"という考え方での一元管理を実現しています。統合データベースでは、ある業務処理を実行するのと同時に、その業務に関連するデータがすべて更新されます。例えば、出荷の際には、関係している販売、在庫、会計などのデータが部門を横断して、すべてリアルタイムに更新されます。
このように、ひとつの動き(モノやカネ)に連動して、関連するデータがリアルタイムに更新され、整合性のとれた状態が担保されることによって、従来のシステム間・部門間の連携の悪さを解消できます。
リアルタイム経営の実現
変化の早いビジネス環境の中で、情報のタイムリー性は非常に重要です。経営の資源(ヒト・モノ・カネ)について「見える化」された最新情報を共有し、いつでも利用できることが、経営者の意思決定を支援し、また、企業全体の最適化を促進させます。
成功企業のベストプラクティスを取り入れられる
ERPパッケージのベンダーは、それぞれの業種において最も標準的で基準となるビジネスプロセスの知識・ノウハウを持っています。業種別のソリューション・テンプレートなど様々な形で蓄積されているノウハウは「ベストプラクティス」と呼ばれており、成功企業のベストプラクティスを自社に比較・活用できる点はERPソリューション導入の大きな目的のひとつでもあります。また多くの企業に導入実績のあるERPソリューションは成功企業の事例を生かした有効なサービスともいえます。
内部統制に効果を発揮
ERPを内部統制の角度から見ると、以下の2つがもっとも有効です。
- 統合データベースでの一元管理によるデータの整合性(重複処理や漏れ)
- 申請・承認の管理(アクセス権限、承認管理)
ERPを有効に活用することで内部統制が強力にサポートされます。
ERPのデメリット
システム選定の難しさ
ERPには日本国内だけでなく海外のベンダーも多くあり、価格や種類は多岐に渡ります。その中から自社に合ったシステムを選定するのは大変骨の折れる作業であり、そもそも何から手をつけたら良いのかわからず途方に暮れるのではないでしょうか。世の中にはERPの導入コンサルティングという職業もあるので、いかに専門的な知識が必要で難しい作業であるかがわかります。
導入・保守費用が高価であることが多い
世の中には大きなものから小規模なものまで色々なシステムがありますが、ERPは様々な業務をカバーする、規模の大きな部類のシステムです。そのため、初期費用として数百万円程度必要になるのが相場であり、導入後にもライセンス費用や保守費用、バージョンアップなどに費用がかかる場合があります。
なお、クラウド型やパッケージ型ERPの場合はバージョンアップや保守の費用が比較的抑えられる製品が多いです。
全社で活用されるための根回しおよび啓蒙が必要
新しくERPを導入しシステムを構築しても、社内ではこれまで使っていた何らかのシステムやツールがあるはずです。ERP導入の目的は、情報の一元管理による業務の効率化であることが多いかと思いますが、前提として社員一人ひとりが正しい情報を入力しなければ情報の整合性が担保できません。
日々の業務の中で慣れ親しんだ方法から新しいシステムに変える際には、社内で反発があったり、導入後もシステムの使い方などについて問合せの嵐が巻き起こるのが常です。
ERPの導入はトップダウンで行われることが多いですが、導入の矢面に立つ担当者の仕事として、ERP導入段階から現場社員を巻き込み、スムーズなローンチを目指す必要があります。各部署・部門での活用についてもベンダー側に知見がある場合が多いので、ベンダーの導入担当者やカスタマーサクセスと連携し、導入したシステムの最大限の活用を目指しましょう。
ERPの選び方
選定が難しいとされるERPですが、以下のポイントを押さえることで自社に適したERP選びが可能です。
まず始めに、システム導入によって解決したい社内の課題を洗い出しましょう。ERP導入自体が目的となってしまわないように、現状の経営管理や業務プロセス、現行システムの問題点を整理したうえで、導入目的を明確にすることが大切です。
そのうえで、
- 同業種・同規模の導入事例が多くあるか
- 自社に必要な機能を備えているか
- システムの設計思想やビジョンに共感できるか
- 効果に見合った導入コストであるか
を検討しましょう。
また、各部門の業務に必要なシステム・ツールと連携ができるかどうかも重要なポイントとなります。例えば、経理部門で使用する財務会計ソフトとスムーズな連携ができれば、より一層の業務効率化を図ることが可能です。
詳しくは、企業の人数規模別の選び方をまとめたこちらの記事をご覧ください。
ERP導入の流れ
ERP導入の流れは、自社の業務内容に合わせて構築する「フルスクラッチ型」と機能があらかじめ備わっている「パッケージ型」で異なりますが、今回はパッケージ型の導入に絞って解説します。
ERP導入におけるフェーズは、
- システムの検討や決定といった「導入序盤フェーズ」
- システムの切替準備、社内周知を行う「導入中盤フェーズ」
- システム切替やデータ移行を行う「導入終盤フェーズ」
- システム導入後のサポートを行う「システムカットオーバー」
の4つに大きく分かれます。
多くの場合、「導入プロジェクトメンバー」を選定し、プロジェクトを進めます。プロジェクトには、「プロジェクトの責任者」、「プロジェクトリーダー」、「ERPのモジュールの担当者」をアサインします。
導入時は、自社とシステムベンダーが連携を取りながら進めていくため、コスト面や機能について双方で認識の齟齬がないか確認を怠らないようにすることが重要です。フェーズが進むにつれて導入プロジェクトメンバーだけでなく、社内システム担当、社内展開のための各部署のキーマン、現場メンバーなど関わる人数が増えていきます。
導入のポイントや注意点など、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
まとめ
企業の運営は予測できない社会の動きに大きく左右されます。安定した経営の基盤を築き、継続的に企業を成長させていくためには、正確な企業情報を活用し、日々スピーディーな経営判断を下すことが必要です。
ERPの導入や刷新は企業の大きなターニングポイントになります。その分、システムの比較検討から安定稼働まで、さらには法改正や会社の成長にともない、いくつもの壁が立ちはだかります。この記事が最適なERPの導入、活用の一助になればと思います。