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【中堅・中小企業】ERP選び方完全ガイド

2020/4/02公開2024/2/26更新

全社を最適化する統合型基幹業務システム(以下、ERP)の導入は、トップマネジメントにとって大きな決断である。
全社で使用するシステムともなれば初期導入や運用に要するコストの大きさはもちろん、今後数年の業務フローをシステムで規定することにもなり、自社の成長・生産性向上といった将来に直接影響するからだ。
「そんなERP導入プロジェクトは失敗したくない」、というのがトップマネジメントおよびプロジェクト推進者の本音であろう。
今回はERP選び方完全ガイドと称し、注意したいポイントを従業員規模や課題別に取り上げ紹介したい。

ERPを導入するメリットとは

そもそもERPを導入することでどのようなメリットが得られるのか、具体的に理解しておく必要がある。

まずERPの大きなメリットが情報の一元化である。会計データや人事データ、販売データといった部門ごとの情報をひとつのシステムにまとめることができる。従来であれば部門ごとに異なるツールで管理していた情報も、ERPによって瞬時に共有できるようになる。その結果、業務を効率化できるというメリットも生まれるのだ。

さらに、ERPは売上データや営業実績、在庫状況など経営に関する情報を管理するだけでなく、いつでも可視化できる。現時点でのタイムリーな経営状況を把握できれば、それは経営判断のスピードアップにもつながるだろう。変化の激しい今の時代、スピーディーな経営判断をすることは企業競争力を高めることにもなる。

ERPによって情報を一元管理・可視化できるということは、情報に関する不正が起きにくくなるということでもある。部署ごとの独自ルールも通用しなければ、不要な書き換えもできない。企業としてのガバナンスやセキュリティの強化にも、ERPは効果的なのである。

そして、IT活用による人件費削減を図ることができる点も忘れてはならない。ERP導入には当然費用もかかるが、必要な情報にアクセスしやすくなったり、データ分析しやすくなったりと、工数削減につながるのだ。システムがひとつであれば、データ入力の重複といった無駄も起こりづらい。

ERPについて、より詳しくはこちらの記事をご覧ください。

選定前の心構えが非常に重要! システム導入初心者が陥りやすい落とし穴

上記のように、ERPを導入することでさまざまなメリットを得られるが、重要なポイントは選定の前段階に潜んでいる。それは、システムによる全社最適化で解決したい課題は何であるのかを洗い出すことだ。

つまり、現状の経営管理や各業務プロセス、および現行システムの問題点を整理したうえで、システム構築の目的を明確化することが非常に重要となる。あくまでERP導入は経営戦略を実現するための手段であって目的ではないからだ。

大切なのは、「現在の組織がどういう状態で、今後のビジネス拡大のために何が求められ、それによってどのような目指す姿への変革を実現できるのか」という将来を見据えた視点である。企業が抱える課題は千差万別であり、課題が異なれば必要となるツールも異なる。最近のクラウドサービスのような、まず機能検証から始めるのとは違ったアプローチがERP導入には必要だ。

トップマネジメントが活かすべき、ERP導入による「チャンス」

このようなアプローチで統合型基幹業務システムとしてのERP導入を考えると、トップマネジメントにとってひとつの大きな特徴が浮かび上がってくる。それはずばり、「全体的視点に立った業務フローの再設計」のチャンスに他ならない。ERPを導入することで、属人化した業務の標準化や部門最適に留まらない全社最適な業務設計が可能となる

ここまでを整理すると、重要なことは下記の2点になる。

  • システム導入の目的を明確化すること
  • ERP導入を機に全体的な業務フローの再設計・最適化を心掛けること

逆を言えば、将来を見据えたERPの明確な導入目的と業務フローの再設計が前提にないERP・SaaSの導入は失敗パターンに終わる可能性が非常に高い

では、どのようなことを意識して業務フローを再設計すればよいのか、また、その前提となる自社の業務課題は何であるのかを探っていく。トップマネジメントが抱くニーズや業務課題は多岐に渡るが、今回は一例として、

  • 従業員50名前後の成長企業
  • 従業員100名~300名規模の中小企業
  • 300名を超える規模の中堅企業

それぞれの「経営管理の課題あるある」を見てみよう。

従業員規模別・経営管理の課題あるある

従業員50名前後の成長企業が抱える課題

50名くらいの成長企業においては、管理部門の人員は少ない傾向にある。業績は好調なため事業部門を中心に人材採用が進む一方、システム導入や部門単位での業務改善活動が起きにくい、またその時間やお金もない、というのが現状ではないだろうか。

具体的には、管理部門の担当者は事業部門とのやり取りを繰り返しながらExcelに情報を集めるなど、正確な実績数値の集計に奔走している。加えて、新たに生じる業務課題にはパッチワーク的に対応しているため、業務の属人化が日常的に進行する傾向も強い。

肝心のシステムはというと、会計ソフトなどの業務システムがごく部分的に導入されているような段階だ。

複数のExcelを複雑な数式で照らし合わせるなど、"Excel職人"に依存した業務が点在

次に、100~300名規模の中小企業が抱える課題について考えてみよう。

従業員100名~300名規模の中小企業が抱える課題

この規模でシステムが何も入っていない企業はほとんどない。販売管理や勤怠管理、経費管理、財務会計など、個別の業務ごとに最適化が進んでいるケースがほとんどである。

こうした部分最適の背景には、「単一機能特化型」のクラウドサービスの登場が挙げられる。システムの利用範囲を自由に選択・拡張しやすいSaaS型のクラウドサービスはミニマムスタートを切りやすいため、部門や機能単位での導入が進む傾向にある。

中小企業が抱える課題としては部門別やプロジェクト別のP/L数値の把握である。いわゆる管理会計の仕組みだ。前述の50名規模の企業では、「正確な」実績数値の集計に四苦八苦するため、そもそも全社的なP/Lの把握が課題であった。一方、100名を越す規模の企業では、システム内に実績数字はデータとして存在する。

問題は、ミドルマネジメントが自部門やプロジェクトのP/Lを把握したいが、そのためには各システムに散在するデータを集約・加工し、帳票にまとめる手間がかかっていることだ。こうした課題を解決するには、機能横断的・全社的な業務プロセス設計や改善活動・効率化が必要である。

昨今は単一機能特化型SaaSベンダーの参入が活発であり、API連携によるシステム間統合が宣伝文句としてよく謳われている。しかし、API連携はあくまでシステム間データ連携の自動化によって集計作業の手間とミスを減らすため、つまり効率化と精度向上を実現するためのツールとしてのメリットが主となる。

そのため、システムで管理していない粒度でのデータ分析、具体的には部門単位よりも細かな「プロジェクト単位での損益」を可視化したい場合には、どうしても一度Excelなどに情報を集約する必要が残ってしまう。

事業部全体では黒字だが、プロジェクトごとで見ると...?

売上だけを見るとプロジェクトBが好調だが、利益率を見るとプロジェクトCが勝る

つまり「管理のための管理」ともいえる集計作業は不可避となり、クラウドサービス間のAPI連携が実現しても業務フローがシームレスで最適化されているとは言い難い。また、共通費や販管費といった、プロジェクトに直接紐づかない間接費の配賦も含む高度なプロジェクト別原価計算を実現するとすれば、やはりERPを活用した全社の業務管理の最適化が必須である。

次に、従業員が300名を超えるような中堅企業について確認する。

300名を超える規模の中堅企業が抱える課題

一概には言えないが、この規模になると上場企業やグループ子会社を擁する親会社など、組織形態も複雑な企業も多い。既に統合ERPを導入している企業も多いのではないだろうか。こうした企業において社内の基幹システムはオンプレミス形態のスクラッチシステムであることがほとんどで、サーバーなどハードウェアから全てを自社で保有している。

問題は、導入当時からビジネス環境が大きく変わってしまっていることだ。環境変化によって業務フローとシステムフローに乖離が生まれ、結果としてシステム外での手作業など「業務の非効率」が課題となる。トップマネジメントとしては、基幹システムのリプレイスを一刻も早く進める必要性に駆られている。

ここまででいったん企業規模別によくある経営管理課題について述べた。さて、いよいよ本題の「ERP選び方」について述べていく。

自社に適したERPの選び方とは

いよいよシステムの選定におけるポイントについて述べていくが、基本的には規模に関わらず、全てのフェーズの企業で課題整理と要件定義が重要なことに変わりはない。

全社的に統合ERPを導入するとなると、基本的には基本構想策定から始まり、システム化計画に進んでいく。「基本構想策定」は、分かり易く言えば「システム導入目的の明確化」と「最適業務フロー設計」である。

一方で「システム化計画」とは、システム構築の是非をトップマネジメントで最終決定し、開発ベンダー・パッケージを選定する段階のことである。具体的には、課題の詳細化(実現する標準業務やシステム機能の明確化)、スケジュールや予算の策定である。同時並行で対象ベンダー各社への提案依頼もしていく。

対象ベンダーやパッケージの選定におけるキーポイントは大きく下の4つである。

  1. 自社はそのシステムのターゲット企業に当てはまるか
  2. 自社に必要な機能を備えているか
  3. システムの設計思想やビジョンに共感できるか
  4. 効果に見合った導入コストであるか

①自社はそのシステムのターゲット企業に当てはまるか

統合ERPには大きく、SAP社やOracle社が提供するような「上位製品」と、近年クラウド化が進む「中位製品」が存在する。日本の場合、中小企業が全体の99%を占める。また、上場企業は全体の0.1%しか存在しない。上場企業が導入するような「上位製品」ERPは、中小企業にとって高価格であり機能過多なものであるケースも多い

一方、同規模同業種の企業が使っている「中位製品」ERPは、上場企業では内部統制の面から機能不足で採用できない、といった可能性もあるので注意が必要である。

②自社に必要な機能を備えているか

「上位製品」の特長としては、ライセンス費用が高い一方、もともと備わっている機能が豊富であったり、アドオンによる拡張性が高く、各企業の個別要件に対応しやすかったりするという点がある。

一方、「中位製品」はライセンスコストが比較的安価である。機能数は相対的に少ないが、その分だけ設定に必要な期間が短く、導入費用は総じて安くなる。特にクラウドサービスは基本的にはあまり多くのカスタマイズを行わない前提であるため、製品機能でカバー出来ない複雑な要件には、システム外で対応することになる。

よって、クラウド型ERPパッケージであるにも関わらず、特殊な運用方法が必要だったり、個別カスタマイズが多い場合は、自社が製品にとってのターゲット企業でない可能性が高いので注意が必要である。

「機能数が相対的に少ない」という点に関して補足すると、同業他社での導入実績が豊富なシステムであれば、基本的に必要な機能は十分に備わっていると判断してよいだろう。なぜならば、多くのクラウドサービスは他社のベストプラクティスを形にしているものだからだ。

当社製品のZACは「中位製品」のクラウドERPに位置するが、プロジェクト型ビジネスを行う業種に特化しているため、広告業・IT・コンサルティング業といった業種には親和性の高い機能を多く保有している。一方、業種に特化しない水平型の「上位製品」ERPや「単一機能特化型」のSaaSは、平均的に全業種に対応できる機能を保有・拡張する傾向にある。

③システムの設計思想やビジョンに共感できるか

クラウドサービスは継続的なバージョンアップや機能拡張・追加が良い点であるが、良くも悪くも、成長の方向性はシステムの思想やビジョンに沿って決まる。

「ツールの成長」という意味では、例えば、他ツールとの連携強化に向かうものと、ツールそのものの機能強化を目指すものなど、ビジョンによって向かう方向は少々異なる。

さらにERPに限って言えば、「全従業員が使うもの」という前提があるため、機能性だけでなくUI/UXの設計(ストレスにならないシンプルで分かりやすい画面構成かどうか)やバージョンアップの頻度は意識したい点である。また、使用する機能の範囲やライセンス数が従業員数に応じて増減する場合は、ユーザーライセンスなどの価格体系も正しく把握しておきたい。

④効果に見合った導入コストであるか

上記の①~③を満たしていたとしても、導入コストが効果に見合っていないようであれば導入を考え直したほうがいいだろう。コストが見合っているかどうかを判断するためには、まずERP導入によってどのような効果を得たいのか明確にしておくことが大切だ。

上述したように、機能豊富な「上位製品」を中小企業が導入しても、活用できる機能は限られている。つまり、得られる効果の割にコストが高くなってしまうのだ。自社がERPに求める効果と、それを得るための適正なコストをチェックしておくことは、ERP選定において欠かせない。これら4つのポイントを押さえたうえで、自社に適したERP選定を進めてもらいたい。

従業員規模別に特に意識したいポイント

従業員50名前後の成長企業

おそらく統合ERPの導入における至上命題は、正確な情報のデータ化・ログ化であろう。

注意したいのは、「抽象的な導入目的を設定する」ケースだ。企業規模もまだ小さいため、導入プロジェクトの進行は比較的容易だが、抽象的な目的であれもこれも実現しようとすると、溜まったデータ活用・帳票作成といった「管理のための管理」「新たな属人的業務の産出」という結果を招く。業務フローを再構築するうえで意識すべきは、やらないことを決めることだ。

データの入力行為は人が関わるので最もミスが起きやすい。なるべく手動での入力は少なくし、実際の業務に沿ってシステムのデータ入力や処理が進むような設計としたい。

パッケージであれば、導入するだけで一定の業務標準化のメリットが得られるだけでなく、システム上にデータという資産をインプットするという文化がスタートしていくことになる。

従業員100名~300名規模の中小企業

トップ・ミドルマネジメントが見たい帳票を、情報鮮度を失わずに作成するためには、より全体的視点に立った業務改善活動が必要である。特に実績の分析だけでなく、予算管理や当初予定との差異分析を構築する場合、日次や月次で何度も各現場担当による情報の更新が行われるので、システム外を含む業務・管理プロセスを明確に決めておくべきだ。

具体的には、社内の情報流の最下流工程にある経理財務部門までを意識し、後続プロセスの効率性を踏まえて業務設計を進めないと、全社最適化が実現しないことは言うまでもない。

従業員300名を超える規模の中堅企業

中堅規模以上の企業において、基幹業務システムの導入は非常に難化する。外部のコンサルタントによる業務設計支援をはじめ、プロジェクト関係者は増大し、期間も伸びるからだ。

その際、ERPベンダーが自社の求める品質レベルで、その業務を主体的に担う能力を有しているかを検証することも重要になってくる。これにはシステム自体のセキュリティや品質だけでなく、プロジェクトマネジメント力や、システム稼働までベンダーが伴走してくれるか、といった信頼関係なども含まれる。

ERPも「クラウド」がトレンド。クラウドERPの可能性とは

ここまで企業フェーズ・規模別にどうやって適した基幹業務システムを選定するか、について述べた。最後に、最新トレンドから見るクラウド型ERPについて述べる。

従来の大規模な会社はSAP社やOracle社の「上位製品」の統合ERPを導入してきた。ここには、人為的ミスが起きやすい複雑な手作業として「システムやツールをまたがった処理」が存在したという背景がある。その対策として、個社特有のカスタマイズ機能をERPのアドオンとして開発するという手段がとられてきた。

しかし昨今はAPI連携やRPAといった技術の発達で「自動化」が進んでおり、柔軟なカスタマイズ性が魅力の上位製品でなくとも業務運用が可能となりうる。そうすれば、比較的ライセンス料が安く、バージョンアップも可能で長く使いやすいクラウド型のERPも選択肢となってくるため、特に中堅・中小企業での導入や子会社展開の柔軟性はさらに高くなる。

まとめ:重要なのは、課題整理と要件定義

最後にまとめとなるが、大切なのは話題のツールを使っているということではなく、将来のオペレーティングモデルをどう変革していくかを考えておくことである。何度も繰り返してきた「課題整理」と「要件定義」が大切だ

クラウドERPや自動化ツールは、将来の企業の業務プロセスを規定し、人の働き方を変えていくパワーがある。トップマネジメントはこれをチャンスと捉えて、社員の働きやすさを高めつつ、自社の経営管理レベルを底上げし、継続的な生産性向上を実現してほしい。

自社の目指す姿を実現する「経営インフラ」としての統合ERP選定に関し、本記事が役に立てば幸いである。

Q
ERP選びのポイントは?
A
システム選定の前段階における「システム導入目的の明確化」と「最適業務フロー設計」がポイントです。そのうえで自社に合ったシステム選定を行うといいでしょう。詳しくは自社に適したERPの選び方とはをご覧ください。
Q
クラウドERPのメリットは?
A
クラウドERPは比較的ライセンス料が安く、バージョンアップも可能で長く使いやすい点がメリットです。詳しくはERPも「クラウド」がトレンド。クラウドERPの可能性とはをご覧ください。

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この記事の筆者

ZAC BLOG編集部

クラウドERP開発・導入の経験から蓄積された知見に基づき、業務効率化・管理会計・原価計算・ERPに関するテーマを中心に、生産性向上に役立つ情報をお届けします。

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