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早期かつ確実な決算であなたの会社の価値・利益も増加!決算早期化を達成するプロジェクト計画

2013/2/15公開2020/11/19更新

前回コラムでは、決算早期化を達成するためのプロジェクト計画の策定について説明をしました。その中では、決算早期化は、単に決算発表日を早めれば良いということではなく、経理業務を中心とする社内の業務が合理化された結果として、早期化されてこそ本当の意味で決算早期化が実現されるという点を強調しました。
今回は、決算早期化を実現し、早期に、かつ、確実にその効果を出すための具体的な方法論や進め方についてヒントになるような内容をご紹介していきます。

早期化を検討するための決算プロセスの区分

連結子会社がある上場企業を想定しますと、決算手続は、下図のように区分することができます。

前回のコラムでも説明していますが、決算早期化のために、例えば、毎月の売上確定を現状より3日早くすることを目的として、営業部門に売上データの集計方法の変更をお願いすることがあります。ここでいう営業部門による売上データの月次集計手続は、経営管理全般のために行われるものですが、その結果は、経理部門でも売上伝票の基礎資料とされたり、滞留売掛金のチェックをするために利用されたりと決算手続にも利用されます。

図の「A 単体業務プロセス」とは、上記の営業部門による売上データの集計プロセスのように業務の流れにおいて経理部門の上流で行われる業務プロセスのことを指します。また、「C 単体決算プロセス」とは、例えば、売上伝票の処理や滞留売掛金のチェックをして貸倒引当金を計算したりする経理部門における決算プロセスのことを指します。決算早期化を考える場合、「C 単体決算プロセス」を変更して早期化を実現することだけでは足りず、「A 単体業務プロセス」の変更について検討することが多くあります。また、「A 単体業務プロセス」は、「C 単体決算プロセス」の上流工程にありますから、二つのプロセスが円滑に流れるようにプロセス(B)の改善を検討することも必要です。

また、連結子会社がある場合、単体決算は早く締まっているが、子会社決算が遅れて、早期化が阻害されているということもあります。その場合、単体のプロセスと同様に「A' 子会社業務プロセス」や「C' 子会社決算プロセス」の変更、また、両者の流れ(B')の改善が必要なことがあります。

さらに、決算プロセスについては、単体も子会社も早期化を阻害していないが、連結決算プロセスが遅いため、決算発表が遅いという場合もあります。その場合には、「E 連結決算プロセス」を改善したり、単体決算や子会社決算の結果を連結決算に流すプロセス(D/D')を改善することもあります。

このように、決算早期化を考える場合、どこに早期化の阻害要因があるのかを正確に理解するため、決算を完了させるまでに至るプロセスを区分して整理する必要があります。また、A~Eまでのどこに阻害要因があるのかを特定できたとしても、特定した阻害要因を取り除くのに想定以上のコストがかかる、あるいは、改善に長い時間を要するなど、早期化のための課題も体系的に洗い出すことができます。決算早期化を短期的に実現するためには、コスト、時間なども考慮して、どの阻害要因を取り除くのかきちんと判断したうえで、取り組むことが早期化プロジェクトを成功に導くためにとても重要です。

以下では、それぞれのプロセスで、どのようなことに留意して早期化に取り組むべきかについて順に説明をしていきます。

業務プロセスの改善方法

業務プロセスは、膨大な取引数を正確に処理するために構築されるため、一旦プロセスが決まり安定運用が開始されると抜本的な改善や合理化を実行しづらいという面があります。しかし、そのことは、業務プロセスの改善によって大幅な業務の効率化を実現できることがあることを示しています。

業務プロセスを短縮化する方法は数多くありますが、ここでは二つに絞って説明します。

(1)システムの改善

決算早期化のための業務プロセスの改善を考える場合、システムの改善を試みることが多いと思います。確かに、システム化は、今まで手作業で行っていたプロセスがシステムにより行われるプロセスに置き換えられるため、当該プロセスの早期化が実現できるでしょう。

例えば、上記の例で言えば、今まで、販売管理システムで集計可能な取引先別の売上データを、経営管理や決算プロセスに利用するために、事業セグメント別に再集計する、あるいは、売掛金の年齢表を作成するために期日別データに再集計するといった手続を毎月次決算ごとに販売管理システムからデータを抜き出して、表計算ソフトで加工していた場合に、これを予め販売取引データに事業セグメントコードを持たせたシステムに変更する、また、毎月売掛金の年齢表をシステムで自動集計するように変更するなどすれば、決算は今までよりもスムーズになることは明らかです。

ただし、決算早期化のために、このようなシステムの変更を検討する場合には、いくつか注意点があります。例えば、販売管理システムを利用しているが、実はシステム外で管理している販売データが少なくない場合には、販売管理システムを改善しても、結局部分的に手管理が継続してしまう場合があります。その場合には、システムを改善する前に、何故、販売システム外で管理されているデータが存在するのか、それは本当に販売システムで管理することができないのかを検討すべきです。また、システムの改善を行った結果として、どれくらいの時間が短縮できるのかを明確にしておくことも必要です。多額な投資をしてシステムを変更した結果、たった一日しか早期化できないといったことでは費用対効果が合わないことになります。

(2)複数の類似情報の一本化

企業では、営業部門、購買部門、人事総務部門など経理部門以外でも決算に必要な様々な情報が作成されています。また、決算のために作成する情報とは別に経営管理のための情報も多く作成されています。こういった情報が別々に作成されている場合、これらを出来る限り一本化することで、全社レベルで大幅な業務の合理化を実現できることがあります。

情報の一本化を進めるためは、関係部署が必要な最大公約数的な情報として集約して新しい資料のフォーマットを作成する方法もありますが、その場合、さらに作成する情報量が増えてしまい逆効果となることがあります。現状作成されている資料の洗い出しをして、その全体数を把握し、例えば、資料の種類を30%減らすという目標を持って取り組むことは、社内業務の大幅な合理化を実現させるはずです。それには、一つ一つ、それは本当に必要な情報なのか、他の情報でも代替可能ではないかを検証することがとても大切です。

また、経営マネジメントのための管理資料のフォーマットが経営陣の要求によってよく変わってしまうという企業もあります。経営者のニーズに適時・適切に対応することはとても大切なことですが、時に管理資料の様式の変更が多すぎて過去と現在の企業情報の比較ができず、結果として経営管理に役立たない資料をなっている場合などもあります。やはり、経営上の戦略や経営陣のニーズを正確に把握し、中長期的に利用可能な情報が何かを特定することが重要です。

決算プロセスの改善方法

業務プロセスの改善による決算早期化を実現する企業がある一方で、決算プロセスの改善によって大幅な決算早期化を実現している企業も少なくありません。この方法は、たいていの企業において、コストをそれ程かけずに大きな成果を生み出しています。

決算プロセスを短縮化する方法は数多くありますが、ここでは2つに絞って説明します。

(1)決算プロセスの細分化・標準化

まず、決算プロセスの改善を考える場合、決算プロセスの細分化と、細分化されたプロセスにそれぞれどれくらいの時間が必要であるのかを細かく分析することがとても大切です。売上高の確定手続と貸倒引当金の計算に概ね一日といった計画しかない状態では、決算早期化を考えることはできません。

また、細分化されたプロセスを経理部門のどの担当者がどのように分担しているのかを正確に把握することも重要です。よく決算早期化の阻害要因として経理部門の人材不足という課題が出ることがあります。分担しようにも、決算手続は複雑で、ある一人の熟練した経理マンしか数多い決算プロセスを限られた時間内に同時並行的に進めることができないといった状態に陥っている場合です。しかし、よくよく調べてみると、本当にその熟練経理マンでしかできないプロセスはそれほど多くないことが分かることがあります。熟練経理マンしか出来ないのは、本当は経営目線での会計上の判断や対外的な開示上の判断の部分ですが、その判断をする前の段取りまで抱え込まざるを得ず、決算プロセスのボトルネックになっているということさえあります。

こういった課題を解決するには、複雑な決算プロセスをできるだけ細分化し、それぞれのプロセスを標準化することが大切です。標準化は、各プロセスを予めテンプレート化しておくことによって、複雑な決算プロセスを単純化することで実現可能です。そして単純化されたプロセスは、必ずしも熟練経理マンが行う必要はなく、作業を分担することで全体プロセスの早期化が実現できます。

(2)決算プロセスの前倒し

もう一つ、決算プロセスを短縮化するために効果的な方法があります。それは、四半期ごとの決算プロセスをなるべく月次手続の中に組み込んでしまい、決算プロセスを前倒しで行ってしまう方法です。何でもそうですが、仕事は後回しにすると余計に時間がかかるものです。上記のように決算プロセスを細分化したら、これは本当に四半期ごとの決算時に行わなければならないのかを検証します。もし、月次でもできる、かつ、比較的単純なプロセスであれば、これを月次決算のプロセスに含めてしまいます。この方法は、なかなか取り組みづらいのですが、とても効果が大きいので、一度、決算プロセスを月次決算として前倒ししてしまう方法について検討することをお薦めします。

前回のコラムでも触れましたが、決算早期化を実現するために、時として決算早期化のコンサルティング会社の力を借りることがあります。早期化を専門とするコンサルティング会社は、決算プロセスの標準化のためのテンプレートを数多く持っていますし、熟練経理マンに集中したプロセスを細分化し、他の経理担当者に受け渡していくための助言をしてくれます。社内での仕事の再分配は、外部の助言が有効な場合が多いのです。

連結プロセスの改善方法

連結決算のプロセスは、新しい子会社、事業、取引が生じなければ、もともと標準化された手続と考えられます。子会社から入手した連結パッケージ(=注記を含む連結財務諸表を作成するために作成される子会社の決算情報に関するデータパッケージ)の検証をして、親子会社間や子会社間取引の照合をして相殺消去等の手続を進めることになります。

こういった一連の連結プロセスは、親会社が中心になって行うものですが、このプロセスが上手く行っている会社であっても、連結パッケージの作成プロセスを行う子会社側から見ると非常に煩雑となっている場合が多くあります。親会社は、連結財務諸表を正しく作成するために、様々な情報を連結パッケージとして子会社に求める必要がありますが、子会社では、上場会社レベルの経理人員が確保できないことが多く、連結パッケージに記載すべき情報の意味さえ分からないことが多くあります。時として、子会社側で連結パッケージの理解が不十分であるために、間違った報告をしてしまい、連結プロセス上、後で大きな手戻りが生じるケースは多く、これが決算早期化の阻害要因になっていることがあります。

連結ベースで決算の早期化、あるいは、合理化を考えた場合、連結パッケージの単純化による利便性の向上と子会社への指導の徹底は、非常に有効な方法と考えられます。過去から利用してきた連結パッケージを現状のビジネス、現状の会計基準に当てはめ、本格的なメンテナンスをすることによって、子会社における連結パッケージ作成プロセスや親会社の連結プロセスの早期化が実現できるはずです。

以上が筆者の考える決算早期化を実現し、早期に、かつ、確実にその効果を出すための具体的な方法論や進め方です。決算早期化を通して、企業全体の業務の合理化を実現できれば、決算から企業価値を向上させ、企業に利益を生む活動ができるはずです。会社ごとに異なる事情を抱えているとは思いますが、どんな場合でも共通するのは、決算早期化を実現するために、現状の決算プロセスを一つ一つ見つめ、一つ一つ見直して行くことが最も重要なのだと感じます。決算早期化を本気で目指し、どのように実行していこうかと考えていらっしゃる方々にとって何らかのヒントになれば幸いです。

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この記事の筆者

太陽ASG有限責任監査法人 代表社員 公認会計士

柴谷 哲朗

平成3年中央大学商学部卒業。平成10年公認会計士登録。大手監査法人を経て現在、太陽ASG有限責任監査法人の代表社員として活躍中。ソフトウェア、コンテンツ等の会計実務を専門とし、著書には「ソフトウェアビジネスの会計実務」(中央経済社)などがある。

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