「上場ゴール」にならないための経営計画とは?
今回は「上場ゴール」にならないための経営計画とは、について説明します。
リアルタイムでの業績把握を
まず、デザインマンションの企画・開発・販売を行うディバロッパーである株式会社プロパスト(東証ジャスダック上場)での経営計画づくりで意識したことはいくつもありますが、一つには不動産業ですから、マンションやビルは金額が大きく、その引き渡し日が期中の3月になるか、翌期の4月になるかで業績が大きく変わってしまいます。
ですから、プロジェクトの進捗の把握は「週次」で見ていました。マンションの開発、契約状況、1棟売りビルやマンション、流動化させたビルやマンションなどの売上を週単位で全事業部から吸い上げて、社長、経営陣にフィードバックしていました。
週ごとに見直していますから、業績の着地があまりズレません。さらに、国内外の経済情勢など、外部環境の変化に速やかに対応することが可能になります。
経営企画部門としては、何かが計画からズレていたとしたら、何が想定内で想定外かを、きちんと把握することを心がけていました。良い想定外、悪い想定外、両方ありますが、いずれにせよ、想定外が多かったら速やかに修正を適時開示していくことを心がけていました。
不動産ですから、状況は刻々と動いていきます。ですから見通しを立てる時でも、我々の中で全てが期中に仕上がる楽観シナリオ、その逆の悲観シナリオ、中間の中立シナリオの三つを用意していました。
もちろん、これは1件あたりの金額が大きい不動産業だからこその話ではあります。月額の扱い金額が少ない業種などは週次での把握は必要ないでしょう。しかし、その場合でも考え方は同じで、期間を月次にするなどして該当期間での把握を行うことをお勧めします。
不動産会社ではなくとも、例えばIT企業であっても開発受託を主力事業としている会社など1案件の規模が売上に占める割合が高いような会社、そして一つの販売先への依存度が高い会社さんは、週次での把握が効果的です。個人的には、どちらかが売上の5%を占めるものが一つでもあれば行うべきと考えます。
もう一つ、プロパストでの経験では、事業部との連携が非常に大きかったと思います。週次で業務を把握するためには、各事業部の協力がなければ成り立ちません。事業部からスピーディーに、正確な情報が上がってくる仕組み、体制づくりが重要だということです。
こうした体制づくりにおいては、普段からのコミュニケーションが大切だというのは大前提ですが、組織において「どの部署に情報を集めるか?」ということとも密接に関連してきます。
プロパストでは、不動産の買い付け証明を出す時の決裁や建築確認の決裁などを含めた稟議書が、経営企画部門に回る形になっていました。それらの情報を部門として把握していたことが、事業部とのコミュニケーションがスムーズにいった要因ではないかと思っています。
会社によって、それが総務部だったりするのかもしれませんが、情報を一元化する機能を、組織のどこかに持たせることは必要かもしれません。特に不動産業はスピード感が重要ですから、業績とプロジェクトの進捗の情報が集まるような仕組みが必須でした。他方、一部門に業務がある程度集中する形になりますから、その緩和策も頭に置いておく必要がありそうです。
「千里の道も一歩から」
株式会社トランザクション(東証1部上場)は、セールスプロモーション用の雑貨を企画・製造・販売している会社で、扱っている製品も顧客の数も大変多く、非常に堅実なビジネスモデルでまさに「積み上げ」でした。
ですから、経費チェックは非常に細かく行っていました。しかも、持株会社体制でしたので会社は別々です。その会社ごとに勘定科目だけではなく、支払先ごとベースで、前年比でどうなっているかを全て洗い出していました。
部門は、どうしても予算を保守的に組みますから、費用は多めに出します。しかし、前年に使っていないようなものがあれば全てチェックして、少ない経費にコミットさせていました。それを統括していたのが、私が所属していた経営企画室です。
私自身、こうした細かいチェックは非常に重要だと考え、現在、ショーケース・ティービーでも、支払いベースごとに予算を組んで、その実績も会計ソフトで突き合わせる形で予実管理を行っています。
会社では全社員が集まって四半期に1回はキックオフ、毎月の全体会という会議を実施していますが、私はその席でも、業績達成や費用面に関して、厳しい状況にあること、楽観視はできない状況であることを発言しています。細かなことに思えるかもしれませんが、「千里の道も一歩から」と言われるよう、その細かな積み重ねが、確実に業績につながっていくと考えているからです。
ただ、成長途上のベンチャー企業は、人材を多めに採用する必要があったり、新たなプロジェクトのために外注業者や業務委託先と契約する必要が出てくるなど、今後様々な事態が起こる可能性があります。ですから、事業部の経費は筋肉質にしつつ、どこかで不測の事態に備えたバッファを用意してはいます。
経済環境が急激に悪化するリスクなども睨みながら、例えばまだ売上が上がっていない新商品や、不動産の場合にはまだ仕入れていない物件など、楽観的に見るのではなく、何が確度が高くて、何が低いのかを認識しておくことが重要です。
現実に合わないことはやらない
経営計画を策定する時に難しいのは、楽観と悲観の「さじ加減」です。私としては市場に開示する計画数値は悲観的で良いのではないかと考えています。誰にでも実現できる目標を外部、特に上場している場合には市場、投資家に説明するのは、ある意味で簡単と思われるかもしれません。そして「保守的過ぎる」と言われるかもしれませんが、上方修正をすればいいわけです。あとは、投資家なりアナリストが判断することだと思っています。
実現可能性の低い計画よりも、保守的と言われようとも、確度の高い計画を出すことが大事だというのが私の考え方です。そして、良い方でも悪い方でもそこにズレがあった場合には、適時開示を行う。そこで前述のように週次、月次で管理をし、状況を把握しておくことが大事になってきます。
私自身がどちらかと言えば慎重派の人間なので、余計にそう考えるのかもしれません。しかし、あくまでも「実現可能性」といった場合には、どんなにそれが高かろうとも実現はしていないわけです。人生においても、ビジネスの世界においても確実なものはありません。
不確実、不透明な世の中、ビジネスの世界で、まだ実現化していないものに関しては、自分達にとって最も着実だと思われる最悪を想定したものを、市場にコミットさせていただく。
もちろん、低い目標の達成だけでいいと言っているわけではありません。社内では高い目標を設定し、それを超えるべく、必死の努力を続けています。上場企業にとっては成長する姿を市場に示し続けることは極めて重要です。一方で市場に示すものは目標というよりはコミット、約束ですから意味合いが全く違います。
さらに言えば、着実に利益を上げることは上場企業として最低限の務めだと思います。そうでなければ、上場企業の資格なし、というくらいの覚悟が求められるのだと思います。
「薩長同盟」や「船中八策」により大政奉還のきっかけをつくるといった歴史的偉業を成し遂げ、「海援隊」を創設するなど先見性に富んだあの坂本龍馬でさえ、こう言っています。
「俺は着実に物事を一つずつ築きあげてゆく。現実に合わぬことはやらぬ。」