過去の傾向から読み解く2012年IPOの現状
本コラムは、基本的にはIPO実務という各論ベースでの内容を予定していますが、今回はIPOの現状について、総論ベースで以下に話をしてみたいと思います。
リーマン・ショック後、想像以上の長期低迷が続く
下記のグラフは、一度は目にされたこともあるとは思いますが、1999年以降の新規上場会社数の推移です。1999年は、東証マザーズが創設されて新興市場が整備され、多くの成長途上にあるベンチャー企業がIPOを果たす契機となった年であり、その後の推移を見る上でも基点となる一年としてグラフ化しています。
2000年には短期間で急激に拡大した反動でITバブルの崩壊が起こり、更に新規上場会社の不祥事が多く発生したことを受け、2002年、2003年には120社程度に留まりました。2004年以降は、回復傾向にあったものの、2008年のいわゆるリーマン・ショックの影響を受けて激減し、かつてない低迷の状況がここ数年は続いております。
これは単純にIPO業界だけの問題でなく、景気の悪化や成長資金の供給元である投資家やVCの投資の手控え等の外部要因やIPO予備軍といわれる企業の業績悪化、企業成長におけるIPOメリットの期待度の低下等の多くの要因が重なり合った結果といえます。
IPOの好不調は、5年サイクルで繰り返す いよいよ本来的なIPOの復活へ
これまでの経験からすれば、第○次ベンチャーブームとか、○○ブームという言葉が聞かれるようになるとIPOの門戸は大きく開かれるようになり、その後、業績の悪化や不祥事が発生してくると急激に門戸が閉ざされてしまいます。これを5年くらいのタームで繰り返しているように思えます。起業してから1年以内で多くの企業が廃業するといわれます。また、投資家が投資した未上場企業で、成功する企業は1,000に3つともいわれます。それ程、企業が成長していく過程において多くの淘汰がなされており、本来的にはIPO市場も多産多死型の市場を前提とすべきであると思います。
新興市場の企業の不祥事が発生した時に上場責任という言葉がよく聞かれます。私の知る限りにおいては、上場準備や上場審査の過程は可能な限り適切に実施されており、新規上場制度は適切に運用されていると思えます。結果責任と言われればそうですが、投資家のマインドも一気に冷え込み、それに合わせるようにIPO関係者全体も慎重な態度に急変してしまう傾向があります。
一方で、景気の低迷という大きな経済要因はありますが、IPO予備軍といわれる企業にとっても、IPOによる大規模な資金調達や創業者利潤の獲得が以前ほど期待できなくなったことや、上場後のコスト負担が増大していることなど、企業からすれば、積極的に推進する理由や魅力が感じられなくなっていることがあげられます。
資本市場に新しい産業や事業、業態を運営する企業が株式を上場することにより、市場の新陳代謝が進められます。結果として、産業の活性化が図られ、雇用の拡大、景気の回復等が期待できます。そして、上場会社がリーダーとして、全体を引っ張って行く構造は今後も変わらないと思います。
IPOのメリットとして、資金調達や創業者利潤の獲得等の金銭的なメリット(IPO自体の目的化)を強調し過ぎていなかったか?IPOに携わってきた者としての反省点でもあります。競争を勝ち抜いた上場企業の歴史の中ではIPOは一通過点に過ぎません。また、どの企業でも挑戦できることではありません。
企業成長のタイミングとIPOを行うタイミングが合致することが重要です。現在、IPO市場の門戸は大きく開かれており、IPOに挑戦するには絶好の機会と思います。IPOのメリットは、準備や審査の過程を通じて、これまで積み上げてきた企業の全容を、外部の視線で見つめ直すことで、経営者が新たな企業成長のストーリーを考える機会を得ることだと思います。そして、IPOを通じて一番変わるもの、それは経営者自身であり、企業そのものであると思います。
「たかがIPO されどIPO」です。
次回以降、IPOの実務を説明していく中で、経営者として、どう考えていくべきかを書いていきたいと思います。