上場準備とIPOチーム結成で企業のスキルアップへ

2012/11/28公開

今回のコラムより、いよいよIPO準備での各論に入っていきます。IPOの準備の着手に当たって、主幹事証券会社や監査法人から、最初にIPO準備に関する整備事項の大枠、スケジュール等を提案されます。それに基づいて、IPOに向けた社内体制作り(チームIPOの結成)がなされます。

では、皆さんは「IPO準備の仕事量」のイメージはできているでしょうか?当然ながら、初めての取組みになるため、当初の時点では具体的なイメージはできていないでしょう。経営者が十分理解できているかどうかによって体制作りが大きく変わってきます。

今回は、「IPOの仕事量のイメージを作ること」、そして、「IPOに向けた社内体制構築」について、説明を行ってみます。

IPO準備その1 「仕事量イメージ」

下記に、IPO準備の仕事量のイメージ図を作成してみました(過去約20年間IPOに携わってきましたが、把握する限りにおいては、仕事量のイメージについては、作成したことも見たこともありません。初公開です。)。青色の実線が仕事量の推移を表しています。現在の位置が、直前々期よりも前の期間にある会社を前提としています。もし、直前々期であれば、準備期間の仕事量も期間に対して増加することになります。赤の点線は、ルーティンワークの増加をイメージしたものです。

IPO準備の仕事量イメージ

ご覧のように、仕事量はIPOの時期に向けて増減を繰り返しながら、増加していきます。最終的には、上場会社として必要な業務がルーティンワークとして残ります。個人的なイメージで言えば準備着手前のルーティンワークに対して約3倍程度になると思います。これに個人の能力のアップと組織的能力のアップで対応することになります。

上場準備は、「上場会社として必要な制度や機能の構築、整備及びIPO審査等に係わる仕事」と「上場後もルーティンワークになる仕事」に大きく大別されます。
以下に上記のイメージ図との関連を説明します。

(1)IPO準備と審査に関わる準備内容

上記のイメージ図では、「A~Eの赤色の円」の部分が該当します。各時期の具体的な内容は以下のとおりです。

具体的な実施内容
A 上場会社としての骨格を形作る期間であり、経営者の判断が必要であり、質的な重要性の高い仕事となります。具体的には、資本政策の立案、特別利害関係者等の取引整備、関係会社整備、事業セグメント等の決定、財務会計への移行、情報システム化の導入検討等です。
A~B この期間は、各種制度導入、構築を行います。
ここでは、IPO準備推進のための経営者のバックアップが重要です。
具体的には、予算管理制度、内部監査制度の構築、規定集・フローチャート、株式・株主事務の整備、監査法人の指導事項の改善等を行っていきます。
B 上場直前期の中頃、準備が概ね整ったと判断された場合、IPO審査の開始時期が証券会社より明示されます。審査に必要な資料準備(Ⅰの部、Ⅱの部、規定集、議事録、審査関連資料)を進めます。
C 中間(前例、事前)審査への対応
提出した資料を基に、数百問の質問が提示されます。約1ヶ月間で回答書の作成と添付資料準備し、ヒアリングが実施されます。
D 最終審査への対応
上場申請期に入り、直前期の決算が固まり、業績に問題が無かった場合、最終審査が開始されます。
約百数十問の質問が提示されます。約2週間程度で回答書を作成、添付資料準備し、ヒアリングが実施されます。また、経営者面談、監査役面談、会計士面談も実施されます。
E イメージ図を見るとびっくりするかもしれませんが、既に体制ができており、上場スケジュールが見えていることもあって、仕事量が多い割には、対応は十分可能です。
具体的には、上場申請準備、取引書審査対応、引受審査対応、財務局対応、株価水準決定、引受証券会社決定、IR対応等を行います。

(2)上場後もルーティンワークになる準備内容

上記のイメージ図では、「Fの赤色の点線円」の部分が該当します。図上に3ヶ所記載していますが、仕事量の水準は、同じに位置にあると思います。上場後もルーティンワークとして同じ仕事量をこなしていくことになります。IPOの準備期間に制度構築を行い、仕事量を把握して効率化を進め、社内の対応、定着を進めていくことが重要になります。

具体的な実施内容
F 具体的には、予算編成、中期経営計画の見直し、財務会計による決算実施、Ⅰの部(有価証券報告書)作成、監査対応、開示体制、IR対応、内部統制実施手続、株主総会事務等になります。

IPO準備その2 「チームIPO結成」

IPO準備の仕事量は把握できたでしょうか?具体的なIPOの準備は、企業と主幹事証券会社と監査法人の三者によって進めていきます。 以下に上場準備に向けた社内体制作りについて説明します。

前回のコラムで書きましたが、上場審査は企業を理解するために行います。また、上場会社は、金融商品取引法により有価証券報告書の提出等の法定開示も求められています。

企業規模によって、IPO準備に振り向けられる人員数は限られてくると思います。経営者にとっては、なるべく少ない人員で効率的に対応したいと考えるでしょう。最初から十分な体制を構築できれば問題はないですが、順次対応を図っていく必要があります。IPOの推進体制は遅くとも直前々期中には整備しておく必要があります(直前期に入ると審査が開始されます。その時点での人員補充はIPOに関する理解ができていないため、役割を十分に果たせない可能性があります。)。

チームIPOの役割・業務内容


上記のメンバーを社内の人材で選任できれば問題はありませんが、適切な人材がいない場合は、社外から補充する必要があります。証券会社や監査法人の方々と相談の上、適切な人材を補充する必要があります。

IPO担当者や各部門担当者は、可能であれば、人材育成面から選任することも重要と考えます。

経営者にすれば、最少メンバーで効率的にIPO審査に対応したいと考えると思いますが、上場後の将来的な人員配置や人材育成を見据えて、立ち上げる必要があります。管理部門を中心とした組織的能力の拡大は企業成長の余力につながることを十分に認識して対応する必要があります。

チームIPOの結成により、IPOに向けた準備が開始されることになります。

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この記事の筆者

株式会社サクセスサポート 代表取締役

堀之内 泰治

1957年鹿児島県生まれ。同志社大学卒。1999年日興證券㈱退職、IPOコンサルティング開業。独立後、14社のIPO・POの成功をサポート。前職の証券会社の公開引受部の時代を含め、約20年間IPOの世界に身を置いてきました。この間、IPOを準備されている企業の経営者や実務の担当者の様々な悩みや喜びの場面に立ち会ってきました。本コラムでは、これまでの経験をもとにIPO実務を中心に書いて参りたいと思います。「たかがIPO されどIPO」です。明日の時代を背負っていく企業のIPOに立ち会って、少しでもお役に立てることができればと思います。また、皆様のご意見や悩み、ご質問等を反映できるコラムになれば幸いです。

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