予算管理の基礎知識。業務フローから、身に付けておきたいスキルまで
予算管理とは
予算管理とは、月次単位で策定された予算の計画と実績を把握して分析することです。予算は、会社の利益目標を達成するための計画です。そのため、確実に実行されているか管理し、上手くいっていない場合はどこに課題があるのかを分析しなければなりません。企業の経営状況を正しく把握する上でも重要な管理指標のひとつと言えます。
ここからは、さらに詳しく予算管理について解説していきます。
会社における予算とは
予算は企業の経営計画をもとに作られ、「損益予算」「資金予算」「資本予算」の3種類に大別できます。
損益予算は、
- 売上高予算(製品・サービスを売り上げた際の収入の目標値)
- 製造予算(商品の仕入れや原材料費など、製品やサービスを生産する際にかかる費用の予算)
- 費用予算(販管費や家賃といった、企業活動において必要な費用の予算)
を合わせたものです。
企業としての損金と益金がまとまっているので、これを元に損益計算書の見積もりを作ることができます。
名称 | 損益予算 | ||
---|---|---|---|
売上高予算 | 製造予算 | 費用予算 | |
説明 | 製品・サービスを売り上げた際の収入の目標値 | 製品・サービスを生産する際にかかる費用の予算 | 企業活動において必要な費用の予算 |
具体例 | 売上 | 仕入費、原材料費 | 販管費、家賃 |
資金予算は、現金収支や借入返済など資金繰りに関する予算を指します。
資本予算は、設備調達や資金調達についての計画。現時点だけでなく将来的な収益に影響を及ぼすものです。
これらをすべて合わせたものを「総合予算」と呼びます。
経営管理・予実管理との違い
経営管理とは、事業活動において企業が立てた目標を達成するために、社内リソースの調整やモニタリング、総括を行うことです。予算管理を含む、人事管理・労務管理・生産管理・販売管理・財務管理といった、人・物・お金の管理を行うことが経営管理だと言えます。
また、予実管理は会社の事業やプロジェクト別の予算と実績を管理することです。 予算管理の手法の一つが予実管理にあたります。
経営管理、予実管理について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
予算管理を行う4つの目的
予算管理は、計画して実績との差を把握するためだけに行うものではありません。主に次の4つの目的で管理されています。
①会社の目標をブレイクダウンする
会社の経営戦略や経営方針を策定しても、それだけでは目標を達成できません。ゴールまでの道筋を明確にしなければ、いつどのような行動をすべきか分からないからです。しかし経営計画を予算として数値化できれば、部門や担当者ごとに達成すべき目標としてブレイクダウンできます。
②業務計画を作成する
業務計画は経営方針に沿って作成すべきもの。しかし抽象的な目標や方針では、実際の業務イメージが湧きません。予算が部門や担当者ごとにブレイクダウンできれば、従業員それぞれの具体的な業務計画を作成することができます。
③計画と実績を比較分析する
予算が計画通りに実行されているか、目標は達成されているかなど、予算とその実績を比較することが、予算管理の重要な目的です。予算管理が行われていれば、目標に対する進捗状況を判断できます。また、計画通りに進んでいない場合は、原因を分析して次のアクションを検討するといったPDCAサイクルを回すことができます。
④経営指針を判断する
予算の達成状況や進捗、達成を阻む要因を突き止めることで、会社としての経営計画を見直す必要があるか判断することもできます。阻害要因が内部にある場合は、予算の管理方法や目標の修正を行います。外部要因で達成できないようであれば、そもそもの経営計画を見直すことも必要となるでしょう。
予算の作成方法と具体的な予算管理フロー
予算を作る際は、トップダウンとボトムアップの2つの方法があります。
- トップダウン・・・経営計画など経営層の意向に基づいて予算をブレイクダウンしていく方法
- ボトムアップ・・・現場からの声で予算を積み上げていく方法
トップダウンの方法だけで予算を作ると、目標を高く掲げるあまり、現場にとって現実的ではない目標になってしまいかねません。逆にボトムアップだけでは、経営方針に沿わない予算になってしまう恐れがあります。どちらか一方だけで実行可能かつ意義のある計画を作ることは困難ですので、一般的には両方を組み合わせた予算編成方法が取られています。
予算管理業務は、経営層、予算編成部門、各部門それぞれを行き来しながら進められ、主に次の図のような流れになっています。
まずは経営計画に基づいた予算方針の発案から始まります。その後、予算編成部門で具体的な方針を作成し、その方針に基づいて各部門の予算案を作成。各部門の予算案を予算編成部門で取りまとめて総合案を作り、経営層の承認が下りたら各部門で予算を実行するという流れになっています。
予算目標を立てるときに注意すべき3つのポイント
予算管理において重要なのは、実現可能な目標を立てることです。現実的でない目標は、絵に描いた餅になりかねない上、従業員のやる気を損ねたり経営にほころびが生じたりする恐れがあります。では、適切な目標を立てるために何に注意すべきなのか見ていきましょう。
①目標値の算出根拠を明確にする
「なぜこの予算目標となっているのか」を明確に説明できることが重要です。トップダウンで予算を作成する際には、各部門の目標値によって経営計画が達成可能であるか確認しましょう。経営層からの指示には強制力があるため、現場に負担がかかる無理な目標ではないか確認することも必要です。
ボトムアップの場合は、人員や設備の状況を考慮して現実的な見積もりで予算を積み上げていきます。目標設定が低すぎたり、逆に過剰な金額を積み上げていたりしないよう注意しましょう。
②外部要因や季節性を考慮する
昨年度との対比で目標を立てる際は、その年に発生した外部要因がないか確認しておきましょう。もし外部要因があれば、その要因が影響した金額を差し引いて目標設定しなければなりません。これから起こりうる外部要因が予測できている場合は、それも目標値に反映させておきましょう。
また、季節によって売上や原価が上下する事業の場合、各月で一律の目標を立てるのは困難です。季節性があると分かっているならば、あらかじめその影響も織り込んだ実現可能な目標を設定します。
③目標の粒度に留意する
細かすぎる予算目標を立てると、管理も細かく行わなければならず、工数がかかりすぎてしまう恐れがあります。予算管理は企業の経営において重要なものですが、だからといって工数をかけすぎてしまうのは望ましくありません。適切な工数に収めるためには、どこまでの粒度で管理するかをあらかじめ設定しておくことが大切です。
粒度の細かい目標だと視野が狭くなってしまい、「会社の利益を上げる」という本来の目的を見失ってしまう恐れもあります。漠然とした目標だけではゴールにたどり着くことができませんが、細分化しすぎることによるデメリットも理解しておきましょう。
予算管理担当者が身に付けておくべき知識・スキル
予算編成部門で予算管理を担当する場合、いくつかの知識やスキルが必要になってきます。業務をスムーズに遂行するために身に付けておきたい知識とスキルをお伝えします。
会計の知識
予算編成部門では、策定した総合予算を元に、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表の予算を作ることになります。財務諸表や予算報告書を読むために、一定以上の会計知識が必要です。予算を作成したり現場から提出された予算を精査したりする際には、原価や利益、人件費などに関する基本的な考え方を身に付けておく必要もあります。
表計算ソフトや専用のシステムを利用して予算管理を行っている企業も多いため、予算管理システムやExcelでの管理方法にも精通しているとなお良いでしょう。
俯瞰力
予算管理の最終目標は、会社の経営計画を達成することです。そのためには、計画との差分を分析して要因を洗い出し、次の計画にフィードバックしなければなりません。差分の要因を洗い出して逐一分析する細かさも必要となりますが、視野が狭まっては正しい判断ができなくなる恐れがあります。予算管理においては、全体を見渡して総合的に判断する能力が重要なのです。
コミュニケーション力
予算編成部門は、経営層と各部門の間で予算管理の調整を行う部署です。各部門が作成した予算に修正指示を出したり、部署間で金額を調整する場面も出てきます。対立関係が生まれると交渉に工数がかかってしまうため、調整をスムーズに進めるための交渉力やコミュニケーション力が必要となります。
実現可能かつスピーディーな予算管理を
予算管理は、経営計画に基づいて作成した予算と各部門の実績値を比較し、進捗や阻害要因を分析する業務です。企業の経営戦略においても、予算計画の達成が重要な要素のひとつとなります。予算の達成には、各部門の予算が実現可能なものかどうかを判断した上で全体の予算計画を立案することがポイントです。
予算管理業務は、経営層をはじめとした多くの部門と折衝しながら進めていきます。しかし、関係者すべての要望を受け入れることはできないので、調整に難航してしまうことも考えられるでしょう。本来であれば各部門の業務時間を確保することが重要であるはずが、予算策定や管理に工数をかけてしまっては本末転倒です。予算策定や管理に時間をかけないような配慮も必要だと言えます。
管理業務の工数を削減するためには、予算管理システムなどITツールの利用もおすすめです。「会社の利益目標達成」という目的を常に頭に入れて、実現可能でスピーディーな予算管理を行ないましょう。