Excelでの予算管理方法は?課題やシステム移行のメリットも解説
Excelでの予算管理方法
企業において予算管理は経営状態を把握し、目標達成に何が必要なのかを判断するための重要な指標の一つです。予算管理には、システムを使ったり、Excelで予算管理表を作ったりといった方法があります。中でも、誰にでも使えて導入費用が抑えられるExcelは多くの企業で利用されています。
予算管理の手順
①予算編成
予算編成には、以下の2つの方法があります。
- トップダウン・・・経営計画など経営層の意向に基づいて予算をブレイクダウンしていく方法
- ボトムアップ・・・現場からの声で予算を積み上げていく方法
それぞれメリット・デメリットがあるため、両方を組み合わせて予算編成を行うことが望ましいでしょう。メリット・デメリットや、予算の詳しい種類・編成フローについては、下記の記事をご覧ください。
予算は経営計画を元に編成します。一般的には、「売上」、「売上原価」、「製造原価」、「販管費」といった損益予算は管轄部門が作成し、「資金予算」や「資本予算」など社内全体に関わる予算は管理部門が作成します。 まずは、売上や利益など、年間や月間で達成したい目標を定め、予算管理表に具体的な数字に落とし込んでいきましょう。昨年度の実績がある場合は、それらを反映した予算編成を行うといいでしょう。
②実績との比較・分析
実績と予算を比較する「予実管理」を行います。週次、月次などのタイミングでそれぞれを比較することで、計画通りに事業が進んでいるかや、どの程度ズレが発生しているのかが分かるようになります。また、ズレが生じているのが「売上高」なのか「原価」なのかなどが明確になり、原因分析にも役立ちます。
③改善案の策定
予算と実績に大きな乖離が見られた場合、どのように対策をしていくかを検討し実行します。対策案は具体的であることが重要です。 このPDCAを繰り返すことで、予算と実績のズレを修正し、年間の目標達成までのギャップを埋めていくことが可能になります。
Excelで予実管理表を作成する
Excelで予算管理をする際は、予算だけでなく実績と比較可能な「予実管理表」を作成するのがおすすめです。もしも売上が上がったとしても、その他の費用が増加していては思うような利益は望めません。予実管理表を作り、それぞれを数値化することで業績を把握することができるようになるのです。
予実管理表の作成方法は以下の通りです。
- 縦軸に必要な項目を入力。自社の業態に合わせて項目は調整します。
- 横軸に月ごとの予算・実績・差額などを入力。昨年の実績や対比、予算の達成率などを入れることで、より細かな分析が可能になります。
- 各セルに数値や計算式を入力。
主な計算式は以下になります。
- 売上総利益(粗利)=売上高-売上原価
- 営業利益=売上総利益‐販売費
- 経常利益=営業利益+営業外収益‐営業外費用
- 差額=実績‐予算
- 達成率=実績/予算×100
- 昨年対比=実績/昨年実績×100
予実管理表は事業に合わせて使いやすいように作成する必要がありますが、あまりに複雑化すると数式や数字の入力ミスにもつながりかねないため、できるだけシンプルなものにすることがポイントです。
また、予実管理では月ごとや週ごとだけでなく、累計の数値も入力することが重要です。これにより、年間を通した事業の損益状況がわかります。
予算管理業務のよくある課題
経営管理に欠かせない予算管理業務ですが、上手く活用できていないという企業も少なくありません。具体的にどのような課題があるのかをみていきましょう。下記のような4つの課題が挙げられます。
1. PDCAを回す仕組みが構築されていない
予算管理では、経営戦略とともに策定した予算計画通りに事業が進展しているかを確認し、PDCAサイクルを回し続けることが重要です。しかしPDCAの仕組みがない企業は、予算編成(Plan)と予実管理(Do)に終始してしまい、分析(Check)改善提案(Action)まで実行できないため、環境の変化に対して適切な経営判断ができない場合もあります。
2. 効率的・迅速な予算編成や予実分析が難しい
自社だけでなく、グループ各社も併せた予算編成や分析をするためには、各社から情報を収集し、全社的な数字として再度処理する必要があります。各社の予算管理方法はシステムやExcel対応などバラバラな場合もあり、予算編成や分析処理に手間がかかります。そうした人的コストがかかるだけでなく、最新の情報把握が難しくなることで、経営判断の遅れにつながる恐れがあります。
3. 事業拡大や組織変更に対するスピーディーな対応ができない
事業規模の拡大や組織改編に対応する場合、新たな予算項目の策定、マスタデータやKPIの再設定など、予算管理に新たな必要な業務が発生します。フォーマットの改修が煩雑だったり、部署ごとに個別の管理ファイルが存在したりといった柔軟性のない予算管理方法では、そうした変化に迅速に対応できない場合があります。
4. IFRS導入に伴う予算管理方針・プロセスの統一化が困難
国際的な会計基準であるIFRS(国際財務報告基準)の導入を検討している場合、これまでの会計方針や予算管理ルールに変更が生じ、それに伴い予算管理プロセスやシステムをグループで共通化・統一する必要があります。IFRS導入により経営判断のスピードアップを図ることが可能となるだけでなく、ガバナンス強化や情報の見える化など、グループ経営の意思決定の高度化や経営基盤の強化も実現することが可能ですが、こうした一連の作業には多くの負担がかかることが予想されます。
Excelで行う予算管理の限界
上記のように複雑で課題が多い予算管理業務。Excelで予算管理業務を行っている企業では、企業が成長するにつれてさらなる課題に悩まされているのが現状です。予算管理業務には複数の部門が関わり、かつ大量のデータを扱う必要があります。Excelが原因で業務効率が下がってしまっている可能性や正確性が担保できない予算管理の危うさについてみていきましょう。
1. 現場の業務負担が大きい
Excelの場合は部門や事業ごとに管理ファイルが存在することもあるため、適切なファイル管理ができない場合があります。さらに管理プロセスに変更が生じた場合、各Excelフォーマットを改修する必要があり、多くの労力を消費してしまいます。また、ファイルのバージョンアップなど変更内容が上手く反映されていなかったり、どれが最新バージョンなのか分からなかったりと業務効率を下げる問題が発生することもあるでしょう。
2. 予算編成がスムーズにできない
予算編成では部門ごとに予算を策定し、予算編成部門へ提出するのが一般的です。部門ごとに提出のタイミングがバラバラであり、各部門の進捗状況を把握することが難しく、スムーズな予算編成が困難となる場合もあります。予算案の収集および不備の確認等で時間を要するため、来期の予算編成を何ヶ月も前から始めている企業も少なくありません。
3. 転記ミスや関数の間違いが発生しやすいなど手戻りが多い
各部門から収集した予算情報を統合して集計用ファイルを作成する際に、転記ミスや集計ミスが発生することがあります。また集計用ファイルの関数やマクロの数式自体が誤っている場合もあります。集計プロセスで誤りが発生すると前工程に戻ってやり直す必要があり、予算編成が遅れてしまうこともあるでしょう。
4. リアルタイムな情報を取得できない
各部門から予算資料を受領する際、部門ごとに提出のタイミングが異なったり、集計に時間がかかってしまったりするため、古い情報になってしまう場合もあります。経営判断をする上でリアルタイムな情報は必須となるため、致命的な問題と言えます。
5. 分析の自由度が低い
Excelは表計算ソフトとして使い勝手が良く、データ分析も可能なツールです。しかし、部門別や昨対比別など、見たい切り口で分析するにはマクロを組む必要があるほか、予算シミュレーションを行ったりすることはできないため、さまざまな角度からの分析を必要とする予算管理にはあまり適していません。
予算管理をシステムで行う4つのメリット
予算管理システムを導入すると、予算編成にかかる作業を効率化できるだけでなく、予算目標に対して適切なKPI設定が実現することにつながります。予算管理をシステムで行うメリットを「現場」「経営層」の2つの視点に分けてみていきましょう。
現場のメリット
1. 予算編成にかかる人的コストの削減
多くの予算管理システムは会計システムなどの他システムと連携し、予算編成のために必要なデータを集約できます。科目ごとの各種数値を可視化することで、各部門の予算案を集計した総合予算をスピーディーに把握できるので、予算編成にかかる作業を効率化できます。
2.情報共有を円滑にし、属人化を防げる
予算管理システムでは予算と進捗状況・実績が可視化されます。各部門の管理職社員が経営状況や予算情報を把握するために、直接データベースにアクセスできることで、全社的な情報共有が円滑になるでしょう。さらに予算案のフォーマットが統一されることで、Excelのマクロのメンテナンスも不要になります。「●●さんでないと、どのファイルが最新なのか分からない、データ集計できない」といった属人化を未然に防ぎます。
経営層のメリット
3.PDCAサイクルを構築し、分析がしやすくなる
経営層にとって予算管理で重要なことは、計画通りに事業が進捗しているかを把握することです。原材料費や為替の変動など、さまざまな外部・内部環境に応じて、目標の達成に向けた業務改善の実施やKPIの見直し、予算の再編成を実行できる体制を構築し、PDCAのサイクルを回し続けることが重要です。システム導入によって、このPDCAサイクルを回しやすくなるほか、アウトプット機能を活用することで、集計の手間なくグラフやレポートとしてデータを確認できます。
4. 予算編成の迅速化
各部門のデータの転記・加工が不要となり、予算管理が迅速化されることで、予算編成を期中に複数回行えます。Excel管理では、なかなか難しい四半期予算や月次予算の策定が可能となるでしょう。これにより季節性や景気変動などの変化に柔軟に対応した数値目標をタイムリーに設定することができます。
予算管理システムの選び方
では、予算管理システムを導入する際にはどのようなポイントを重視すれば良いのでしょうか?
予算管理システムの選び方について詳しくみていきましょう。
1. コストパフォーマンスに見合っているか
予算管理システムの導入に伴うコストには購入費・初期設定・カスタマイズ費用などがあります。サービス利用契約の内容も提供企業や製品によりさまざまです。全社の予算管理なのか、連結決算の早期化のために利用するのか、部門やプロジェクトの予算管理に活用するのかといった目的や利用する想定の業務範囲に合わせてサービスを選ぶことも重要です。
複数企業・製品の業務効率化・経営改善効果を比較した上で、機能や導入形態、料金体系などが自社に適した予算管理システムを選定しましょう。
2. 現行の予算管理からスムーズに移行できるか
現在、予算管理をExcelで行っている企業は、システムへの移行がスムーズにできる製品を選択する必要があります。予算管理システムの中には、Excelに近い操作性で使用できる製品やExcelファイルのインポート機能を持つ製品などがあります。導入コストを考慮し、移行がスムーズにできる製品を選びましょう。
また、予算管理システムではタイムリーな会計情報の取り込みが必要となります。そのため会計システムや販売管理システム、給与計算システムなど予算編成をする上で重要な情報源となる業務システムを既に導入している場合、導入を検討している予算管理システムがそれらと連携可能か必ず確認しましょう。
3. KPI設定や予算シミュレーションに対応できるか
経営戦略や景気変動などの状況に合わせて、適切なKPIを設定する必要があります。予算管理システムを選定する際は、売上高や利益成長率などのKPI設定が自由にカスタマイズできるか、詳細にモニタリングできるかを確認しましょう。
また、複数予算のシミュレーションが可能かも重要なポイントです。予算編成や期中での予算組み直しの際、経営に影響する内部・外部要因を整理し、複数のケース別に予算シミュレーションを行うことで、経営リスクを回避することが可能となります。
4. 各種会計基準に対応可能か
前述したように会計基準の違いにより、予算の記載内容や各数値の計上方法が異なります。上場を検討している企業では、日本会計基準や米国会計基準、IFRSなど複数の会計基準に準拠した予算策定が可能かも確認しておきましょう。
5. ベンダー・コンサルタントのサポートは十分か
Excelでの予算管理から新たに予算管理システムを導入する場合、要件定義、場合によってはシステム開発が必要になります。適用範囲が広く複雑な要件の場合、導入経験豊富なソフトウェアベンダーおよびコンサルタントを選ぶことが肝要です。その際は、どのような方法・手順を用いて開発を行い、どこまで導入・運用保守サポートをしてくれるか事前に確認をしましょう。
まとめ
適切な予算管理業務には、PDCAを回す仕組みの構築が必要不可欠です。企業の成長に合わせてExcel管理から脱却し、予算管理システムを導入することは、そうした仕組みづくりの一環です。さらに予算管理部門の業務効率化、スピーディーな経営判断の促進は、企業経営を行う上でも、さまざまな効果が期待できるといえるでしょう。一方で、最適な予算管理システムの選定基準は、自社が解決すべき課題で変わってきます。予算管理業務を取り巻く課題を整理することは、自社に適した予算管理システムを選ぶための第一歩となるでしょう。
また予算管理が適切に行える企業となることは、金融機関をはじめとするステークホルダーからの信頼獲得にも繋がります。経営基盤を支え、さらなる成長へと向かうステップのひとつとして自社に合った予算管理システムの導入をぜひ検討してみてください。