IPO審査については、実際に審査を経験した方でないと具体的な内容を知る機会は少ないと思います。審査の内容を把握しておけば、審査に対して十分かつ効率的な準備を行うことができます。
また、「審査」というと身構える気持ちになるかもしれませんが、実際は「企業内容の説明」を行うことが中心となります。したがって、審査担当者に如何に企業の内容を理解してもらうかということが重要なポイントとなります。
IPO審査の概要
IPO審査は、証券会社の審査と取引所の審査に区分されます。IPOの準備が進んできた段階で、証券会社の審査がスタートして審査が終了した段階で、取引所への「上場申請」がなされます。申請を受けて取引所の審査が開始され、全ての審査が終了した時点で取引所から「上場承認」がなされます。
(1)証券会社の審査
証券会社の審査は、中間審査(事前審査、前倒審査と言う場合もあります。)と最終審査に区分されます。
1. 中間審査
IPOの準備が順調に進んでいると証券会社が判断した場合に審査が開始されます。一般的には、直前期(上場期の1期前)の中間時点がひとつの開始時期の目処となります。
審査の主目的は、IPO準備がどの程度進んでいるかを把握すること、改善事項の有無と改善対応、スケジュール等の確認を行うことです。事前に把握しておくことで、最終審査までの改善事項として指摘します。
2. 最終審査
直前期の決算が確定した時点(上場申請期2ヶ月経過後くらい)で、業績のトレンドや当期業績に問題がないと証券会社が判断した場合、最終審査の開始時期が提示されます。
この時点で、改善事項が未改善であった場合や、業績が不透明な場合、あるいは下期偏重の場合は開始時期が遅れることになります。
最終審査では、上場会社としての体制整備が十分であるか、業績に問題が無いか等が確認されます。また、経営者面談、監査役面談、会計士面談がなされます。
最終審査終了後、証券会社内部の審査がなされ、新規上場の推薦を行う決定を行います。
(2)取引所の審査
企業からの「上場申請」を受けて、取引所審査が開始されます。審査の内容は、証券会社の最終審査とほぼ同様のパターンで実施されますが、証券会社の審査と比較して短期間で実施されることや、改善事項が発生した場合は改善期間がほとんど確保できないため、上場延期(申請の取下げ)となることに留意する必要があります。
IPO審査の具体的手続
一般的に、以下の手順で行われます。
(1)証券会社の審査
1. 中間審査の手続
- Ⅰの部、Ⅱの部、規程集、議事録、審査関連資料を提出(1ヶ月程度読み込み)
- 質問事項提示(概ね、数百問の質問)
- 回答書作成
(約1~2週間程度で回答案作成⇒内容を確認、修正⇒添付資料を準備:約1ヶ月) - ヒアリング実施(回答提出数日後、数回に分けて実施)
- ヒアリング後、追加質問があれば、追加回答実施
- 事業所実査(実施時期、実施場所は提案可能)
- 改善事項の指摘
審査の特徴
以下については、証券会社も取引所も同様です。
- 質問は、過去の事項、沿革等を含めて、多岐にわたってなされます。
- 質問に対する回答書の内容を確認します。
⇒各回答に相違点や矛盾点がないか確認します。 - 各回答及び添付資料間の不整合等がないか確認します。
→例えば、規程と回答、添付資料。利益計画間の関連(損益計画と人員計画、設備投資計画)。 - 具体的な事例や使用帳票による説明が求められます。
→「○○について、実際に使用している帳票により、具体的に説明してください。」という質問が多くなされます。
2. 最終審査の手続
- 利益計画、予算管理、Ⅰの部、指摘事項の改善状況について質問事項提示(百問程度)
- 回答書作成(約1週間程度で回答案作成⇒内容を確認、修正⇒添付資料を準備:約2週間)
- ヒアリング実施(提出数日後、数回に分けて実施)
- ヒアリング後追加質問があれば、追加回答実施
- 経営者面談、監査役面談、会計士面談
- 合否判断⇒上場申請時期検討
(2)取引所の審査手続
上記のように、審査の段階が進むにつれて、審査対応期間がどんどん短くなる傾向があります。証券会社と取引所の審査で重複する質問もあるため、回答を転用できる場合もありますが、回答書の作成や資料の準備に関して、時間的制約もあり、担当者の方には大きな負担がかかります。上場審査への対応を踏まえて、チームIPOを結成しておく必要があります。
審査における経営者の方の直接的な出番は、最終局面での「経営者面談」となります。審査の過程において、経営方針に関する事項や審査上の課題として取り上げられた事項については、十分に把握しておく必要があります。